Crystal of Latir

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第19話  アンチヒーロー1

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2012年1月4日

「少々お待ちおおォォ!」

 公園の隅で男が携帯で話をする。
中年サラリーマン、藤和宏ふじわひろしがひきつった顔で
契約先の相手に商談を打ち切られそうになっていた。
晃京から出られない中で納期が遅れていた反動で
苦難に立たされる。電話しながら頭を下げ、
どうにか経営継続をさせようと弁解をした。

「交通規制が31日にようやく、きましておめでと、
 いや、正常化するまで待ってください!
 高速道路の規制緩和が、てんや、わんや、
 もうすこし後まで、もう、はぶじゅ――!?」

プツン ツーツー

切られてしまった。
会社からもクビ宣告確定で行き場を失い、
ベンチに座ってもたれかかる。

「「もう終わりか・・・何もかもが」」

両手で顔面を覆い、将来への望みが縮んでゆく。
数十年働き続けても結果なくてはすぐに足切り。
個人の努力などみじんも通用できなかった。
人生こんなものかと茫然自失ぼうぜんじしつになっていた時だ。

(何か光った?)

茂みの中から小さな光があった。
黄色くきらめく空き缶の反射光に思えず。
意味は分からずとも吸い寄せられるように、
何も考えずに無意識に後を追っていった。


晃京内 TV局

 都内にあるTV局のスタッフ数人が会議室で
番組の企画をどうするか打ち立てる話し合いをしている。
連日、ニュースでは都庁と悪魔の話ばかり取り上げて
バラエティ番組もろくに制作できずにいた。

「来月の企画、どうします?」
「都内は警戒態勢で報道番ばかり優先させられる。
 娯楽番が下げられて出られっこない」
「これからどうなるんだか・・・」

面白い番組を作らなければ立場も飯も無し。
あらゆる制限がかけられて躊躇ちゅうちょする。
ベレー帽をかぶったプロデューサーが入室してきた。

「いかんな、都内封鎖くらいで尻込みしちゃ。
 視聴者も今の番組が続けばそっぽを向かれる。
 もっと前のめりでなければ数字取れないよ?」
「ですが、上層も防衛省から娯楽関係の放送を
 自粛じしゅくするよう社長も歯止めをかけられていますし」

去年に起きた災害も同様、放送解禁にしびれをもち
立て続けに放送の自由を防がれる。
会社の重役すら放送権を抑えられつつあるのに、
下の一派がどうにかできる事ではなかった。
しかし、プロデューサーは良い案があると言う。

「ならニュースに近しい放送形態を作れば良い。
 ドキュメンタリー番組から人の気を引くものを
 主張しながら面白さへすり替えるんだ」
「都民は悪魔なんて何とも思ってないですよ。
 人の噂にしか気を回さないですし」
「知らんのか?
 最近、ここ晃京内で未知の現象が起きてるのを」
「それって、都庁では?」
「いや、奇妙な現象はそこだけじゃない。
 一般人の中に紛れて活動している者達がいる。
 宝石の力で暗躍する連中がいるんだ」
「謎の力をもつ結晶の人・・・ですか?」

高速道路や寺院、あらゆる各地で謎の力をもつ
者が悪魔を討伐しているという。
真意はどことプロデューサー自ら出歩いていたら、
らしき人物を街中で偶然見つけたという。
若者と喧嘩していたスーツを着た男と接触した。

「で、丁度良いところに人材を確保できた、彼だ」

プロフィール写真をスタッフに提示。
甘谷区、ポチ公前で見かけてオファーしたという。
しかし、手回しはこれだけに限らず、
当人だけでなく別の人材にも目を付けていた。
オカルトが求められない時代において
現実的な人を絡めた番組ならどうか。
付け足して手品じみた超能力を表現すべく、
超常現象スペシャルとして放送する企画だった。

「悪魔の様な力を手にした人間・・・。
 人なら同族ゆえの印象を植え付けられる」
「クイズ番組よりも気をきつけられる。
 これは面白い企画になりそうだ!」
「私の企画にハズレなし!
 人称と印象を交えてこそエンターテインメントだ!
 ハハハハハ八ハハ!」


 場は変わり、翌日。
自宅にいた聖夜は昴峰学園に呼ばれた。
炊き出しをするも女子生徒しか・・来なく、
避難民を迎える準備の手伝いをしろという。

「と、思ったら掃除か・・・」
「そうよ、清掃って言っても来ないでしょ?」

甘かった。
カロリーナは巧みな話術でフェイントをかけ、
年末にできなかった大掃除をしろと招集。
教室の机を移動させるために生徒の助力で呼ぶ。
とりあえず言われた通りにしようと、
両手で机を運ぶかたわらで
彼女の近況の話題に触れた。

「あーそうそう、AC関連」
「ん、なんだ?」
「街中に所有者らしいのが現れたわ」
「どこだ?」
「ポチ公前のとこで変な噂を聞いて」
「何の話?」
「全身タイツのおっさんがタバコのポイ捨てしてた
 若い連中を次々と倒して回ってたって」
「良い話じゃないか」
「アンタ、主語に違和感もってないの?
 変なオヤジがただのオヤジなわけないっての!」

結晶という結論に行き着く話を理解しろと迫る。
カロリーナは夜間でも人気の多い繫華街にも
脚を伸ばしている。
その折りで、甘谷区で異様な格好をした者が
徘徊して世直し行為・・・の様な事をしているという。
格闘技でもやっている男ならまだしも、
細身の体型で凄まじい速度で動き回り、
警察ですら捕縛できなかったらしい。

「他の地方にはほとんど姿を見せずに、
 発生場所からして晃京在中だって事が分かる。
 つまりー?」
「ACを手に入れた一般人がいる。
 そこへ俺達が回収に行くと」
「っていう流れだって、すぐ分かるでしょ!」

お騒がせ人だけに、何かしら結晶を手に入れて
イキり始めた可能性が大きい。
悪魔ではなく人なので、自衛隊も銃器を使用できずに
警察の逮捕くらいしか当てにできなかった。
ただでさえ珍妙な格好しているから、
れっきとした組織関連の者ではないのは確か。
川上のようにどこかで拾った流れで力を奮い始めた
シンプルな線として捉える。
どんな理由であっても、もちろん組織の者として
むやみな結晶の所有は認めない。
科警研の方針はどうなのか伺うと、
すでに対応を聞かされていた。

「あと、マーガレット主任から連絡がきて
 回収した物はそのまま所持してろってさ」
「今回は何も造ってくれないのか?」
「今は科警研にいないのよ。
 アメリカへ1週間海外出張だって。
 あの人が帰ってきてから任務を始めても良いけど、
 当てにし過ぎてもメンツ立たないじゃない?」

主任は不在でAC的捜索を行っていなかった。
指示される前によく動くカロリーナだけに、
自分達だけでカタを付けると推す。

「あんまり大人を頼りにしても良くないわよ。
 最終的に実力を発揮するのは若人わこうど
 あたしらティーンなんだから」
「そうだな、分かった」

作業は終わり、2人で都心部へ向かう直前、
女性に声をかけられる。

「あなたが神来杜聖夜君?」
「そうですけど」

新堂と名乗る者から自分に番組出演を依頼。
TV局の職員で、企画を立てていると言う。

「放送を計画しているんですよ。
 番組“今時の高校生はこんなにはやい”ていう
 タイトルで、学生を対象としたスポーツ物の
 内容で今の状況を快活にしたいんです。
 そこで、君に是非とも出演してほしいんです」
「はあ」

何がはやいんだか、返って不躾ぶしつけさをあおるテーマだ。
自分はスポーツ経験はあるものの、
アスリートに勝る程の腕前をもっているわけでもない。
晃京には不謹慎ふきんしんな誘いがごまんとある。
怪しげな勧誘なんじゃないかと断ろうとした矢先、
局員の女性はカロリーナの方に視線を向けた。

「となりの子、カロリーナちゃんでしょ?
 読者モデルの子」
「へ?」

なんと、彼女は雑誌のモデルとして掲載された
経験をもっていた。
芸能デビューでもするのかと聞くも、
本人はそんなつもりもない。
あたかも、カロリーナの伝手つて辿たどってきたような
感じでここに来たようにも思えた。
出演だといっても、とりわけ演技が得意でもなく
人に見せられるような技なんてもっていない。

「でも、こいつはともかく、俺は素人ですよ?」
「そうとも言えないんじゃないかな?
 君は他人にはない特別な才能をもっている。」
「!?」

自分達の事を知られていた。
きっと、同じ能力をもったAC所有者もいるかもしれない。
カロリーナと顔を合わせて意味を裏付けする。

「「カロリーナ?」」
「「・・・良いんじゃない?
  噂の男も来るかもしれないし」」

思えば、今まで人前で能力を発動した時もある。
緊急とはいえ、やたらと気安い行動をとりがちだ。
ただでさえ噂が広まりやすい晃京だから、
多数の目撃にも気を配る必要もあった。
しかし、逆転した発想で似た者同士の出会いも考える。
同じく、他の所有者も目を付けられていたとしたら?
もしかしたら、例の男も現場に現れるのかもしれない。
やたらと探し回っても疲れるだけだろう、
ノーヒントだらけの今に、捜索の手間が省けた。
というわけで、自分達は出演を承諾しょうだく
午後7時にTV局に向かった。
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