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第17話 元旦の風1
しおりを挟むねえ、母さんと父さんはどこ?
もういないの、遠い国に行っちゃったのよ
そうなんだ、ぼくはこれからどうなるの?
大丈夫よ、今日から私があなたの面倒をみてあげる
学校にも行かせてあげるから安心しなさい
ところで、あなたはだれ?
私は―――――
2012年1月1日
今日起きたのは午後1時過ぎ。
昨日の疲れもあって寝てしまっていた。
子どもの頃の思い出が初夢だなんて、印象も良いとこ。
それに、部屋の中には異界生命体もいる。
新年の日替わりを祝う余裕なんてない。
コイツを元に戻すために今日は厘香の家に行く。
どのみち午前は来客が多くて入りづらいからおあつらえ。
1階に下りて顔を洗い、台所に行く。
姉の料理に出迎えられながら新年の挨拶を交わされる。
「明けましておめでとう!
お雑煮できてるわよ」
「お、おめでとう・・・か」
新年を迎えためでたさはおそらく今年が一番薄い。
AC事件もそうだけど、悪魔と出会った後の年越しなんて
まともに祝えるのは邪教の類くらいだろう。
オレンジ色のスープ、姉オリジナルの雑煮を食べる。
黄昏のメニューとしても出されているこの料理は
ピリ辛風味で、若者に人気だ。
どこかで流用したのではなく、自己で作ったらしい。
この味でせめてもの薄さを口に濃くさせる。
そして、食事を終えたら厘香の家。
大晦日の行事はキャンセルされたが、初詣はやるという。
ここにいるのは2人だけじゃない。
お参りの2次目的であるネコニンゲンがいるのだ。
「「お、おはようっす」」
「明けましておめでとう、食事の用意ができてるわよ。
郷君も食べる?」
「「いや、いいっす・・・腹減ってないっすし」」
新年の祝いどころじゃない。
自分の運命も危ない橋を渡るような瀬戸際だが、
もし、郷が元に戻らなければ珍獣と暮らす店だなんて
妙評判を植え付ける家になってしまう。
少しは聞いていたけど、コイツの家庭事情は気薄で
悪魔化したと知られれば追い出される。
人と魔物が一家で共にする異様な光景。
確かにそんな暮らしは望ましくないから、
友人の頼りとして正倉院家に行く。
朝食を済まし、温かく黒い外着に着替えて
2人と1体は車に乗って家を出た。
「厘香が待っているから行こう、着いたらしゃべるなよ」
「お、おう」
数十分の時を送って正倉院神社に着く。
ちなみに郷は着重ねを施してきた。
ペット用の衣類を着せて動物っぽく見えるようにし、
騒がれないよう工夫。たまに変な目で観られるだけで、
大きく疑われずに境内に入れた。
いつも背広を着た強面の人達も一重を着て
慎ましい態度で接客などに備えている。
武家といえども、神社の関係者のような立ち振る舞いで
迎えなければ人は来てくれない。
防衛省の末端として政治家などの護衛を任されたりする
現代の忍びみたいな印象だ。
厘香を見つけ、目立たないように声をかけた。
「厘香」
「こっちよ」
さすがにこの状況で新年の挨拶をする余裕がない。
悪魔を連れた友人と気付かれようものなら、
彼女達も巻き添えにされて悪評の的となる。
あくまでも犬の散歩としてみなされる感じで
市民の群れの隙間をぬう様に関係者専用内に入り、
お堂の一部屋に連れていかれた。
「じゃあ、まず塩を四方に置くね」
縦横2mの白いテープで枠を作り、郷を中に入れる。
電話で言ってた退魔法でこれから元の体に戻すという。
半信半疑でヒョウらしくなくうなだれるこいつは
指示通りに従った。
「こんなんでマジ戻れるのかよ~?」
「念じてみて、戻るって」
「ンオオッ、モドレもどれ戻れ!!」
スウッ
「戻れたああああああああああああおあああああ!」
「早いな!?」
郷はあっさりと普通の人間に戻れた。
儀式の意味があるのかと突っ込みたくなるものの、
ただ、変身の仕方が分からなかっただけで
川上みたいな頭の悪そうな者でもできたから、
こいつでも十分のようだ。
「おお、神よぉ~!」
(相変わらず単純な奴だ)
ペット用衣類をまとって素っ裸になると思ったけど、
元々着ていた物は変身前と同じ。
あたかも悪魔が装甲のように身を包む状態のようだ。
両腕を上げて神を讃えるようなポーズをする。
「ありがとな、九死に一生を得た気分だったわ!
やっぱ、持つべきものは友達だよ! おおう!」
これで郷に関する問題は解決。
埼王に入院している友人は追って見舞いにいくと言う。
後の話によると首都高速道路は無事に制限解除され、
一般も行き来できるようになった。
道路上に現れた悪魔の出処は分からなかったが、
少なくとも昼間の交通は安全に行き来できるだろう。
いつまでも悪魔に右往左往されるわけにはいかない。
とにかく今日の治療(?)は終わる。
厘香達のおかげで意外と早く終われたので、
目的は達成してここで解散するつもりだったが、
向かいのお堂が騒がしくなる。
まだ事はここで終わりを迎えずに、自分達界隈と接する
モノ達が時と場所を選ばずに迎える。
お祭りの賑やかさとは真逆の騒がしさであった。
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