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4章 ブラインド編

第20話  分断

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関東上空

「なんだって、いっつもこんな展開に!?」

 拠点に戻っていたサップは緊急事態発生に急がされて頭を熱くさせていた。
セレストクライを操縦してフリードリッヒの救助に向かわされて、
操縦する手にもアンドロイドには似つかわしくなく熱が入る。
久しぶりの代役でまさか自分がまた操縦するなんて思っていなかった。
数年ぶりの運転だけあって慣れずにオートモードに切り替えて目的地へ急ぎ、
関東CNの上空を横切る様に飛びながら機体が音も出さずに
移動しているものの、そこばかり気を取られているばかり。
あいも変わらずステルスモードに切り替えるのを忘れていた。
空の番者がそう見逃すはずがないのだ。

グオオオオオオォォ

「追跡している敵機確認、天主機よ!
 あんた、姿が丸見えの状態にしてない!?」
「んおあっ!?」

当然の事ながら見つかってしまうのも素人ならではの失態。
どこで待ち伏せていたのか、旧世代の機体が追跡していた。


中部上空

 異変に気が付いたエイコウもすぐに救援しようと向かう。
だが、スピードがセレストクライや敵機と違ってあまり速度を上げられずに、
防御の役割が主の仕様なので時間を要する。

「「こんなとこで・・・チクショオオオ!」」
「逃げて下さい!」

通信の言葉から相当危険な事態なのが分かる。
頭部から発した誘導ビーコンに掛かるセレストクライ。
一度見つかったら、もうステルス機能は効果がない。
ミゾレから天主機の仕様がどんなものか伝えてくる。

「「相手は以前と同類のタイプみたい、1機としては十分対処できるけど
  でも、サップだからまともな回避もろくにこなせられないわ」」
「そうですね、あの人から先に助けた方が良さそうです」

飛行型は光線を放つ特徴なのは知りえて自分でもすでに倒すのは可能。
しかし、セレストクライとサップの腕前を足しても不安要素の塊で
フリードリッヒと違ってまともに訓練していない。
向こうは表面が水分装甲を持って銃弾などの物理攻撃には強い。
ただ、エネルギーについては蒸発するから撃墜される点もあるのだ。

ガシャン ウィィン

「「敵機、頭部が変形!」」
「サップさん、避けて下さい!」

レーザー照射で焼き切ろうとするつもりで狙いを定め始める。
再び頭部から光輪が発生し、めがけて光線を放たれた。

ヴビュウウゥゥ       ガクン

「「おわわわわ、ごあああああああああん!!」」
「サップさああああん!」

ズズズズズズ

進路方向も確認できずに機動力を取られて推進力を失い、
サップは蒼の飛行体ごと山岳地帯に滑り落ちてしまった。
何かを擦り、引きずる音と彼の叫び声と共に通信が切れてゆく。


10分後 アオモリCN 黒神山地

 サップはいつのまにか東北の方にまで飛び続けて山岳地帯の中にいる。
内部の重力制御で損傷が小さいものの、通常の人間なら衝突死を起こす中、
俺は怪我なく一命を取り留めた。


「こちらサップ・・・人造人間のおかげか無事だ。
 俺、今どこにいる?」
「「墜落したのは東北、アオモリの森林地帯。
  敵機の反応はまだないわ、機体はどうなったの?」」
「セレストクライも動かねえ・・・こっちに来てくれ」

大破はしていないものの、洞窟の様な中に突っ込んですぐ出られそうにない。
言語作動状態のまま起動スタンバイにしておいて、
いざとなったらやぶれかぶれでも動ける準備にはしておく。
ただ、事態だけに悠長にここで長居しているといずれ見つかるだろう。
エイコウも一度捕まると救出が困難になると脱出を勧めた。

「「CNの者がそちらにやって来るかもしれません。
  すぐに向かいますので、そのエリアで見つからずに滞在して下さい」」
「あいよ」

自分だけは難なく洞窟からは出られた。
だが、入口から先は生い茂る緑の連続で森林に囲まれた光景そのもの。
しかも、すぐ足元が高所だと気付いてすんなりと降りられない。

「んだよ、崖があるじゃねーか。
 どっか、広い場所で合流しようぜ」

東北一帯は自然が多く、中部の山林と近いくらいでかい山ばかりなのは
すごく有名。周囲の連中にはまだ発見されていないようで、
天の追っ手でここもいつ見つかるか分からないと自分は
その山から下りると思った方が確実にやり過ごせそうだと決める。
真下の崖から抜け出すためにそそくさと手先の器用さで縄梯子を造り、
崖の下へ下りようとした。
その縄を下におろそうと一部先まで伸ばした直後だ。

ツルッ

「うごあああああああああ!」

ゴンッ

誤って足を滑らせて落下、自分は頭を打ってしまった。


サドガCN拠点 指令室

「あんた、どうしたの!?」
「大丈夫ですか、サップさん!?」

 何やら図太い叫び声と鈍い音が耳に入って異常を察知した2人。
通信越しでも衝撃音を拾って事故を思わせる様子が起きた。
応答を確認しようと聞いた時である。
























「イワテに到着したのはセレストクライで不時着したんだ。
 ええと、天主機に光線をくらって追跡されて飛行中にフリードリッヒを
 助けにいくためにアジトから出発してplこいじゅhgytfdr」


「・・・・・・?」
「・・・・・・?」

彼の供述を聞いた2人の耳がおかしくなったのかと一瞬思った。
通信妨害、音の不具合が悪いわけではない。
おかしいのはサップの発言。
何から何まで結果から過程を辿る様な逆行を口にするのだ。

「あんた、どうしたの!? ちゃんと話してよ!」
「「どこはここ・・・誰は俺?」」

倒置法と言いたげな奇妙な言葉を話し始めた。
応答にも答えず、まともに会話する場すらも失っている。
そしてフラフラと何処いずこへ歩き去って行ってしまった。

「いきなり訳の分からない事言って・・・なんなの?」
「とりあえず行ってきます」


格納庫

ブシュウウウ

 コックピットからゴールドペインに乗り込み、上空へ飛び立った。
手順もすっかりとこなれて格納庫に誰もいないから身体も邪魔がない。
今まで機内にいた兵達はもういない。
残ったのは自分達のみ、物騒ながらもささやかな賑やかさすら見えずに
言いようのない虚しさがあるような気がする。

(会長もいなくなり、パスカル博士もいなくなり、アリシアチーフも
 責任者達が次々といなくなってゆく。
 部隊の補充も当初よりできなくなっている)

年功序列という言葉を習ったけど、人事異動もこんなに急速だとは
イメージできていなかった。元から秘密結社みたいな集まり。
精鋭もほんのささいな出来事であっけなく失うとは存在意義も
どことなく完全なものにはできないと痛感させられる。


1か月後 上空

 それからしばらくしてフリードリッヒを救出して飛び立つ。
彼は驚く事に誰1人にも発見されずに山林で身を潜めていた。
ただ、チーフのポッドは結局発見できなかったそうで、
シグナルサインが途中で切れて探しようなくなったと言う。

「そうですか・・・おそらく、完全に破損してしまった」
「思えば無謀な作戦だ、元人間の一部を送り込んだところで
 CPU制御など克服できるはずもない」

高度10000mの衝撃はポッドそのものでも壊れないはず。
ただ、脳の形状は保障できない。実験もろくにできるわけもないから、
中身の安否まで精査してこなかった。
フリードリッヒの文句が耳に刺さる。

「「ううっ、AUROは精神と同規格の域に達しているはず。
  プログラムコードに干渉できるなら可能だと。
  心もAIと会話が可能だと・・・思ったんです」」

しかし、そんな考慮も現実を前に細分化された障害で失敗を迎える。
チーフの最後のパーツすら消失させてしまい、ミゾレに合わせる顔もない。
彼女との通信もずっと切ったままで怒られるどころか相当な恨みを
もたれる不安感がいっぱいで話す勇気も湧いてこなかった。
若造1人のアイデアなんかでプロフェッショナルの創造物に挑むなど、
確かに無謀と言われるだろう。

「だからといってここで止まるわけにもいきません。
 まだ助けを求めている人もいますし、必ずどこかに穴があるはずです」
「フン、一寸先は闇。双方も行く末など見えぬから駆け引きが生じる。
 我々の身にまとうスーツの様に」

年齢など関係ない、才能をもっていれば絶対にこなせるはず。
次はサップを探しに行こうとしたものの、GPSも切れているようで
おいそれとすぐに発見できなさそうな状況になる。
この人と違って市民街に紛れていそうな性格だから、
そこら辺から先に見回ろうとしたものの、着陸できそうになかった。

「サップさん、ステルスモードにしていなかったそうです。
 人手不足だとこんなに混乱が生じるなんて」
「歯車と同じ事だ、噛み合わせが悪ければ機動も鈍く劣化する。
 欠けるというものは常に 窮地きゅうちに立つものだろう?」
「正そうという気概なら誰だってできます、事実的解決がこんなので。
 どうして、どうして歯車はこんなにすぐ外れてしまうのか?」
「執念の差だ」
「未だにアリシアチーフのとった行動は理解できない部分があります。
 こんな僕達をかばうだけじゃなく、
 何かもっと大きな目的があるような・・・」
「それが何なのか分からん以上、闘争を続けるだけだ。
 もう限界か?」
「いえ、どんな理由があるにしろ、
 戦争を終わらせるためにすぐに取り直しましょう」
「・・・どうやらそうもいかないようだ」

フリードリッヒの言葉の先に新たな障害がはばかる。
全長60mはある細長い物体が目前を横切っていた。

「あれは・・・蛇?」
「新型のお出ましだ」

ブシャアアアアアアアアア

汎用型の胴体部分だけが連なって結合したようなヘビ型に見える
物体が宙をうねる様に追跡してきたのだ。


サドガCN拠点 医務室

 (俺も・・・いかないと)

 メディカルポッドから開放して出てきたアポロンは
ふらついた足になりながらも、部屋から出る。
回復も万全にないまま体を無理強いさせて任務を続行しようと
目が覚めてからすぐに外に出ようとした。
確か、今は寝てから1か月くらい経っているはずで他の皆は
色々と仕事をしているはずだからおいそれとゆっくりしていられない。
いつもと違ってすごく静かな様子だけは分かる。
起きた時は母が目の前にいるけど、今日はいない。
頭をぶつけるな、よく言われていた言葉を支える。
きちんと把握しているわけではないけど、きっと只事じゃないと
自分も出動して加勢しに行こうとクリムゾンアンガーに乗ろうとした。


格納庫

(やっぱり、2機がない。2人はずっと現場に出続けてるんだ。
 まだ・・・まだ天主機に残存勢力がいたって)

 自分の役割なんて教えられなくても覚えている。
空だか海だか覚えていないけど、この時代でも敵機が残る話は知っている。
円盤からはもう敵が出られないはずだから地上を洗ってCNを止めようと
どこかで戦っているはずだ。
繰り返す出撃で体と頭が同じ挙動ばかりしか覚えないように、
ボットの如く動こうといつもの機体に乗りかかる。
もう何回もやってるから発動くらいなんてことはない。


「クリムゾンアンガーが起動している!?」

ミゾレは格納庫から保管していたはずの出撃表示を見て驚く。
格納庫のモニターに気が付いたのはアポロンが発進する寸前、
止めようにもすでに遅かった。


関東 上空

 ゴールドペインを追跡してきた未知の物体と対峙たいじした2人は
先手を打ってきた相手の攻撃方法に非常なものを感じている。
天主機が飛ばしてきた液体らしきもの。
ミサイルとも機銃でもない、異質な攻撃に目を疑った。

「何だ・・・あれは?」
「中部地方から謎の機体が襲来。
 これは・・・ただの硫酸じゃない!?」

エイコウがモニターで出現位置を確認して天主機の類ではなく、
地上から放たれた物体だと推測。しかし、CNの製造物だとはとても思えず
軍事用としても戦略性はおろか目的用途すらも検討のつかない姿だ。
液体は球状となり、高速移動する2機に向かって誘導するかに
ホーミング性能をもっている様にまとわりついてくる。
発射してくるのも火薬じゃないので、金の装甲でも避けられるか
レバーを手にする向きどころも不安定になりかけてゆく。


3分経たずに、交戦中の2人を発見したアポロンは金色の機体を見て
加勢しに戦闘開始にとりかかる。

「いた・・・援護するぞ!」
「「アポロンさん!?」」

クリムゾンアンガーの姿を目に驚くエイコウも関心している猶予はない。
見慣れない細長い型に攻め手を緩めようとするもこらえ、
握っていたレバーに力を入れて傾けようとしたその時であった。

ブシャアアア

ヘビ型の管は頭か尾か分からない先から再び酸を発射。
ミサイルの類でもない仕様に、何やらありえない事が起きそうな気がした。
予想は的中する。
エンジン部にまで浸食しかけてきたのだ。

「液体みたいなものが、何だこれ!?」
「「濃塩酸と濃硝酸・・・の様な物質みたいです!
  金属反応に異常シグナルが・・・・・・溶解させるつもりだ!」」

グンッ

うっかり停止してしまったアポロンは次々と酸がへばりついて
機体が傾き、機体から警告音が鳴る。
関東上空周辺でメーターが飛行限界値を迎えてしまう。
何が起きているのかすらろくに分からない、相手が相手だけに
得体の知れない形をしているから攻略法の手段も探りようがないのだ。

ジュッ

「ぐっ!?」

一滴、腕に垂れてきた。
クリムゾンアンガーから離脱しなければ、巻き添えを受けるのは当然。
その後は誰しもが想像できる落下。
ケロイド状と変わるよりも、下に落ちる方を選ぶしかないのが
生き延びるための最善としてそうする大抵の判断だ。

「すまない、2人共・・・俺は、こうするしか」

ウィィン

服が焼けただれて居ても立っても居られなくなり緊急脱出。
20mくらいか、そんな高さから無我夢中で下へ落ちていった。

「くそおっ、うあああぁぁぁぁぁぁ!」
「「アポロン!」」
「「アポロンさんっ!?」」

ザブーン

アポロンは川に落ちて流されていく。
姿は彼らの視界から次第に遠ざかって見えなくなっていた。
GPS、解除。今になって発覚させられたのは水分などが身にまとって
受信機能が阻害されたのだと推測。
後はせいぜい短距離体内通信くらいしかやりとりできずに、
AUROで文字変換を近場の者へ送るだけ。
物体はターゲットをこちらに切り換えて再び追跡し始める。
フリードリッヒは目前の相手だけを最優先するよう指示した。

「奴を案じている猶予などない、対策すべきはあの物体だ」
「はい」

言い分も決して返せないまでに合理、ゴールドペインも無敵ではなく
金すら溶かされる懸念をもつ中でアポロンの所へ向かえそうにない。
自分らしく相手の分析を優先しなければ今の場すら保てそうにないのだ。

「・・・・・・」

エイコウはヘビ型の管を観て不審に思う。
偵察型、戦闘型のどちらでもなさそうなタイプに疑問をもった。
空中で酸を飛ばすなど、効率的な戦法には思えないのだ。
どこかで未完成のまま起動させたのか定かではないが、
口部のまりのない箇所かしょに弱点を見出して考察した。

 (酸性は電気を通す、見た感じだと射出部分の制御装置すら
 まともに製造されていない。未完成品が飛び出てきたようだ)

酸の射出口から接触させ、内部破裂できないか即時に検討する。
デタラメな外装なだけに欠点もそこかしこにあるから突くのも容易だ。

「エレクトロン砲、発射!」

バリバリバリ ゴギュゴゴ ウネウネウネ

命中、内部へ感電してショートする。
空中戦での反撃はいつも瞬間決着の連続。
生理的にも嫌悪する様なうねりを見せながら落下していった。

「よくやった」
 (アポロンさん・・・)

自分達だけは独自の対処でロストから回避に成功。
追撃は免れたが、先の酸でゴールドペインにも不具合が発生。
ステルスモードに支障をきたし、周辺に姿をさらしてしまう。
トウキョウCNのレーダーにかかり、見つかってしまった。

「アポロンさん、すみません。
 任務遂行のために機体を優先させてもらいます。
 高度維持不可能、緊急回避でオートモードに変更します!」

ステルスモードが解除されてしまった上、
アポロンにまで手を回す余裕もない。衝撃から守ろうと身体を維持させて
関東の大きな湾へ降下していく。


トウキョウCN トウキョウ湾

ドボオオオオン

 機体はトウキョウ湾に落ちた。
ゴールドペインが沈む寸前、エイコウが素早くパネルをタップし
機体だけを低空飛行させて現在地点から遠ざけた。

「緊急脱出ボートを用意します!」

移動手段を失った2人はもうサド島に戻れない。
ミゾレに連絡する時間もなく、先の水分を浴びてもう通信もできなくなる。
エイコウはトウキョウを次の根城にすると言う。
丸腰で現地のCN、トウキョウに身を置く事になった。

「僕は、ここトウキョウをいくらか熟知しています。
 CNの戸籍情報を改ざんして、一度滞在しましょう。
 クリムゾンアンガーは操縦権限がないので仕方ないですが、
 どうにかここのどこかに隠しておくしかありません」
「本当に大丈夫なんだろうな? ゴールドペインは?」
「ゴールドペインは外装が目立ちやすいので、
 金属反応の多い山岳地帯に隠蔽いんぺいさせておきました。
 ここも万が一見つかってしまった場合、全機奪取されてしまえば
 僕らは二度と天に挑む事ができなくなります。
 ですが、場所まで詳細に入力していませんでした。
 非常事態だったので・・・」
「・・・・・・」

自動飛行モードに切り替え、第11族元素に近い物質へ隠して
おこうと機転を利かせた。
こんな人の多い場所に置いておくわけにはいかない。
自分達の関わるものを極力知られないよう采配する。
サップとセレストクライの捜索もこれにて一旦打ち切りにするのみ、
今後について2人はトウキョウ内部に潜伏する予定に変更した。

「ここがトウキョウ、CN制定から100年経ちましたが
 一番外観が変わった様に思えます」
「ふん、籠城を意識した形状だ。
 ここは元、列島の中心だったらしいが保守的構築なだけはある。」

ブレイントラストの幹部もまだ生存し続けてここに居るのか?
いや、自分達ですらこうして活動を続けているくらいだから、
アンドロイドバイオニクスで動いているに違いないだろう。
トウキョウを根城にしている保証はない。ただ、ブレイントラストの
本拠地があった場所であり、もしかしたら位置付けの高そうな組織に
身を置いていそうな予感もありそうな気がした。

「そうですね、科学者は意識が高い。
 ひょっとしたらCNの重役を務めていても不思議じゃありません」

周囲には生体反応の他に人型の機体も無数にいる。
ミシェルも執念をもってここにこだわっていた理由もおそらくは
関係者がいたからだと思いたい。
それにここは人口も多く、身を潜めるのも打って付けで
少しでも人に紛れて計画を進められそうな線も案じた。
当然、ビークルも数えきれないくらい無数にある。
足やポジションを手中に収めれば実働部隊の再編制も可能かもしれない。
では、実際何から始めれば良いだろうか?
計画すらほとんど立てていなかった矢先でこうなってしまう。
そんな時、フリードリッヒは何かを言い出した。

「このまま2人で往生するのも不利だ」
「と、言いますと?」
「お前は上に上がれ、俺は下からいく」
「上に?」

エイコウは上に、フリードリッヒは下へそれぞれ別行動をとれと言う。
上の意味はCNの上層階、下は下層階を指す。
共に行動するのは共犯者とみなされて攻撃される危険性があると
体内通信で会話する後、別行動をとり始めた。

「もうここの奴らが来ている、お前はお前の裁量でやっていけ」
「フリードさん!?」

シュッ

10m以上のジャンプ力で跳び上がり、どこかへ行ってしまう。
効率を考えれば確かに襲われて共倒れになるよりは良い、
2人でもここの者達を全員倒す事なんて無理に等しいものだから。
じっくりと話し合わずに今後の動向を決めたのもかつてのミーティングで
非常事態の手段をそれぞれそうするようにしていた。
後は自力だけで身を守るしかない、あの人と違って近接戦闘もできずに
直に攻撃されたらそこで終わり。

(僕がここでできる事・・・もう、あれしかないな)

あれとはエンジニアリング、AURO技術で世界を斡旋あっせん
理由はある程度の立場に成れなければいつまで経っても脱出できないから。
人をまとめる位に立てなければ世界を変えるなど不可能に等しい。

自分がAUROにこだわる理由。
それはエネルギーとインフォーメーションの融和で存在をどこまで進化、
世界への影響と成り立ちを及ぼすのか見たかったからだ。
何故なら、人間が元から動物でありながら知性を得ている存在だ。
ただエネルギーを動力に動いているだけでなく脳で情報を保有。
サヘラントロプス誕生より高度に発達したAUROと近しいハイブリッドで
様々な物を創造して空間に多くの存在を留まらせてきた。
個人的見解だが、空間と脳は等しく近い関係にあるのではないか?
副素場電磁の縮閉線とシナプス電位は質は異なっても+-の道は類似。
宇宙と電気の配置関連が万物に内包する構成なのは判明しつつある。
そして、母国の宗教観念と混ざり、こうした思想をもつようになった。
雷神に憧れ、目指し、高位次元を求める意識はいつまでも消えていない。
言葉で表しにくいが、合成に合成が加われば次はどう発達するのか?
オーディン会長に言った事は嘘ではないものの、本音としてなら
これが一番の気持ちで解釈しにくいものなんて話せるわけがない。

まあ、こんな所で動機を振り返るなんてナンセンス。
境地に立たされるとつい意外な事が頭によぎるものだ。
ブレイントラストの者がいれば必ずアプローチしにくる、
ブラインドだと絶対に気付かれてはならない。
上で情報を吸収してから処遇すれば天主殻の弱点も得られるはず。
本名も偽名を使ってやり過ごす方が得策。
後はひたすらロストされないように祈るしかなかった。
予想通りすぐにトウキョウ兵に姿を捉えられて見つかり、
一切抵抗をとらずに身柄を拘束される。
片方からは無数に悲鳴が上がっていたのは言うまでもない。

「敵影補足、いたぞ!」

もう片方の対処を任されていたという事は残りはこちらに来る。
10人の兵と部隊長らしき者が次々と迫って包囲。
長身の女がハンドガンを突き付けながら、自分に身元を問い詰めた。

「トウキョウCN、安全理事局のベルティナだ。
 貴様、どこのCNだ? 名は何という?」










「・・・アーゲイルだ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――
ブラインド編はこれで終了です。
暗躍していた者達の謎、伏線も明らかになり物語も佳境を迎えます。
それでは次章へと移ります。
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