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4章 ブラインド編

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サド島 2日後

 廃墟と変わりかけた設備の中、クロマキー合成と通電検査を
張り直し、みすぼらしくも終わり次第に整えていく。
意外なアクシデントが発生したものの、攻略作戦を再開した。
パスカルは今すぐに自身が拠点へ移動するのを勧めなかった。
一度見つかっているので、今移動すれば危険である。
サド島へ戻る前にどうにかして天主殻を廃止したかったのだ。

「何、ここに戻るつもりはないだと?」
「「ああ、改造したとはいえ定期的にサド島への通いは良くない。
  それに・・・娘達と顔を合わせるのも、もう」」

セントラルトライアドと違ってこれは天主殻の機体で、
当然向こうと機能連携しているはずだから度々の帰還を繰り返せば
足取りをたどられて地上にいるブレイントラストに見つけられる。
足して、こんな姿となった状態で2人の子どもと会えない。
機械化した外観を受け入れてもらえそうにないだろう。

「やっぱり、それでも戻るのはどうしても無理?」
「「駄目だ、先の件で天主殻が活発に動き回り始めた。
  このボディパーツも、当然ユニットシステムで
  異常事態と判断されているだろう」」

ミゾレの念押しすら危険と言い張る彼の状態がそうだから変化は濃く、
機械乗っ取りなど大胆な行動をとれば、一気に状況は危うくなる。
突然の身体入れ替わりに組織の風景が一部ガラリと変わり、
観ていたサップはいつもの思考の機転ズレが働いたのか、
トンチを利かせて攻め手を皆に言いきかせた。

「これはあちらのボディ、シンプルにお仲間のブツだ。
 んなら、こいつを利用すれば今周りにいる奴らも操れるんじゃねーか!?」

つまり、残存勢力もパスカルに統率させようという腹だ。
そこへエイコウが来て望みありと味方機の増産を期待すると言う。

「戻れないとなると・・・そうですね、遠征隊の様な役回りとか。
 外側からのハッキングが無理で、内側からの脆弱性がある
 ネットワークならば・・・可能かも」
「遠征?」
「今、地上にいる天主機と同系統ならば神経回路を乗っ取る事も
 できるかもしれません。パスカルさんはアリシアさんと異なり、
 意思表示ができる。」
「まあ、当たって試せはあんたの得意で実際成功した時もあったし。
 天主殻の前に地上の問題を洗うのも一手ね」

時を急がせる現状からも、いつまでもここで籠城ろうじょうするわけにはいかない。
まずはセレファイス内部の情報を入手する動きにしようと彼は提案する。
パスカルの装甲に紛れて天主機のハッキング作戦を立てた。

「そうね、これならもっとビークルも増えて対抗できる。
 奴らの技術も応用できて攻めての手段も見込めるわ」
野郎共ブレイントラストも血眼になってこっちを探しているに
 違いねえ。見つかる前にこっちからけしかけて終わらせようぜ!」

他に方法もなく、実際に行動できるのは彼のみ。
目立たない様、穏便おんびんな単独突入しようと
辺りの風景を察してカタパルト射出からでなく、
周辺の天主機に紛れる様に向かって行った。


上空

 パスカル機は何も障害物無き澄み渡る青の中にいる。
もう肌触りすら感じない硬い体を上昇させて宙を横切ってゆく。

「「これが人でなくなった感覚か、まだ私は人の認識をもっている。
  いや、代替ですらも精神は何にでも適応しきれるのか」」

有機物からも離れた状態は人間の時とあまり違和感をもたず。
AUROと心は単なる情報の垣根も超えた存在なのかと感慨。
常日頃から金属と向き合ってきた成れの果てとして恐怖も感じなかった。

私がこの道を歩んでいたのはAUROから辿る無機物との関わり。
クリソマロンシンク、ある海域調査で発見された硫化鉄をまとう貝の
性質との出会いによって結晶の探究へ進む。
内容はライトインフォーメーションコーティング、金属質の延性より
生物への情報処理や脳の発達を管理する技術。
クラウディオの光触媒とはまた異なる医学のために創造を試みてきた。
量子CPUが発展した今において人体に情報をまとわせて病気の早期発見、
簡易的治癒などそんな生き物から応用できるのではと仮設を築く。
元は妻の海業との接点が始まりだったものの、光学と一生物の可能性は
そこから道をアール・ヴォイドから見出してゆく。
さらに子宝に恵まれたのも否定はしない。
私には2人の娘がいる、セレーネとヘスティアは無事に側に残り、
巻き込まれずに一緒に過ごす事はできた。
しかし、天主殻の襲撃で妻は死亡。
そこまでの器用さといった才能までは与えられていなかったのか、
亡き妻の境遇だけに自身と子どもの両立が思うようにいかなかった。

「ヘスティア、またわたしのオモチャをかってにいじったー!」
「おねえちゃんこそあたしのものをかってにピンクにしてたじゃん!」

キャー キャー キー キー

姉妹喧嘩もろくに止められず、子育てだけは思うようにできずに
物事を教える工夫は人並み以下だった。
自身、探究心に日々を精一杯費やして相手をするのも大変で
両立などという親としての義務的役割はどんな者でもする必要がある。
基本的に多く面倒みるのは母のはずが、不在で重さも二重となる。
ただ、2人の性格は私達に似たのか、共通点らしきものが気付く。
セレーネは物好き、ヘスティアは試し好きの傾向をもつようで
それぞれの個性をもつようになっていたのが分かる。
そう教えたつもりもないのに類似したのは何故か?
その時、私は内心ある可能性を秘めて考えた。
大切な家族などの一大事を早急に察知していつでもすぐに知る事ができて、
身体の無事を見守れる機能を形成できたとしたら?
そう、あのアポロンにも適用しているメディカルポッドを用いて
クリソマロンシンクを注射していた。
かけがえのない娘達に技術の一部を与えていたわけだから。
これは誰にも伝えていない、ブラインドメンバー全てが知らない
私だけの秘匿された事実であった。

回想から青い景色に戻る。
姿が親とは言えない形に代わろうと精神は変わらずここに在る。
パスカルが高度9000mまで上昇、天主殻付近まで進んで一度滞空。
全列島に向けて同類の機体がどこにあるか検索をかけた。

「「センサー照射、まだ数十機が地上の中で潜んでいる」」
「で、様子はどうなんだ?」
「「一度に大量の機体を回収するのは困難で少しずつ集めるしかないな。
  それに少々奇妙な点もある、天主殻の滞空位置もおかしい」」
「どういう意味?」

ミゾレは彼の視点が上に変わって不思議がる。
常に上空15000mに位置するはずの円盤の高度が下がっていて、
いつもより低下している状態が確認された。

「「理解できんが、メンテナンス作業の可能性もあるかもしれない。
  内部に不具合でも生じたのか、あるいは」」
「一体何のために?」

だからとはいえ、落ちる様子もなくまた上昇し始める。
とにかく脅威となりそうな機体だけを先に乗っ取る方が良策と判断して、
上はさておいて下を見続けた。

「「まずはイシカワ内に潜んでいる物からハッキングを――」」










ガキンッ メリメリ バキッ ゴシャッ

失敗、突然上空から飛来してきたトビトカゲ型に襲われる。
異変と判断した天はパスカルを攻撃、破壊されてしまった。



パスカル ロスト



「パスカルゥゥゥ!?」

砕かれた破片が空気抵抗で転回する。
彼からの応答は一切ない。
CPU部もまるごと破壊されて、精神も存在も失ってしまった。

「レーダーに反応なかったのかよォ!?」
「下ばかり向けていて円盤上部にいたのまで発見できなかったの。
 残骸は落下していない、おそらく飛行型に・・・」
「チクショウゥ!」

こうしてまた同じ日々が繰り返されていく。
ブレイントラストによる新個人情報保護の包囲網でここの情報も
見つかる寸前にあり、ブラインドも次第に被害が出始めてきた。


数時間後 ロビー

 重苦しい雰囲気で現実を受け止めるのも苦しい。
次第に追いつめられるメンバー達は改めて状況を再確認し直してゆく。

「武装のリソースも20%に低下、このままじゃ」
「このままでは攻め手が見つかんねえぞ、どうする?」
「パスカルの子供達にも、本当の事を話してないの。
 何て伝えれば・・・」
「・・・・・・」

セレーネとヘスティアにパスカルの死を伝えていない。
今、下手に話そうなら後追いされる恐れもあっておいそれと打ち明けできず。
元からブラインドに加えるつもりもなかったので一から教育なんて
していられる余裕もない。ただ、遺言的な方針だけは前に聞いているが。
サップは子どもというキーワードに琴線が触れた。
正確には親等という個体と機体を重ねて思い描く想像で、
メンバー達に伝えようとしたのだ。

「みんな・・・ここは1つ相談があるんだ・・・。
 史上最大の相談かつ作戦がな」
「史上最大?」

ロビー










「ブラインドメンバー、及び親族全員アンドロイドに!?」
「俺なりに一生懸命考えたアイデアなんだ。
 ここは1つ飲んでくれないか?」

サップは関係者を全員アンドロイドに成ろうと打ち出した。

「僕達が全員機械化に・・・本気ですか?」
「別にチーフみたいにバラバラになれってわけじゃねーだろ・・・あ、いや」
「・・・・・・」
「もう少し考えてから発言して下さい」

いつもの言葉を選ばない男に人諸法度じんしょはっとするエイコウ。
個人的な主張が強いフリードリッヒも特に反論せず、了承した。


数日前

「あの子達をトウキョウに移籍させる?」
「「ああ、2人をできるだけ人口の多い所で過ごさせる。
  ここにいさせるのは得策ではない」」

 ミゾレはパスカルからセレーネとヘスティアをトウキョウCNに
実は前もって決断してブラインドからできるだけ外したいと願っていた。
生体センサーにかからなければ、人間の中に混ぜても気付かれにくく、
レントゲン撮影でも通常の肉体として認識される。
彼も父親として娘達を安全な場所に置いておきたいと、
手を打ってどうにか隔離させたいと思っていたのだ。

「何故トウキョウに?」
「「生まれた所がそこだった、突然サド島に引っ越すのを嫌がっていた
  あの子達にせめてもの余生を地元に戻してやりたい。
  私はあくまでも娘達の気持ちを・・・」」
「・・・・・・そう」

籍を移すのはCN登録詐称などいくらでも容易いからすぐにできる。
本当ならブラインドメンバーに入れたかったのもあるけど実親の意向だ。
ミゾレも2人の移籍に反対する意識はみじんもなく理解。
任務に私情交じりは禁止と入社時に教わっても、
簡単には消えないのが人というもの。
私もこれ以上悲しみを増やさないよう、改めて胸に決める。
それぞれの選択、生き残る方法を模索するべく人という存在を
苦渋くじゅうの末にメンバー達、全ての二親等にあたる者全員が
アンドロイドへと代わるのを余儀なくされた。
そして関係者は全員集まり、交互にポッドへ入れ替わりながら
人体を分離させていく。

プシュウウウ

ミゾレとエイコウの2人が監査、アンドロイドに異常なく
精神移植させる手順をこなす。
素体はパスカルが前もってソックリな型を用意していたのも
同じ手段をいざとなれば講じるつもりだったそうだ。
ポッドから出てきたメンバーとセレーネ、ヘスティア。
その体を身に持った感想はやはり素っ気ないものだ。

「・・・あんまり変わってないね」
「ただ、頭は冴えている感覚がします。
 身体的にも、以前より強靭さを増した感じが」

ヘスティアの繊細な感想にセレーネは戸惑いを見せる。
私は厳しく彼女達に忠告する。

「いい? 絶対にアンドロイドになったのは知られちゃダメよ?
 上にバレたら一発でスクラップにされるからね!」
「は、はい」
「これで、みんな機械になっちまったのも運命だろうよ。
 それも天主殻なんてモンができたんだからな」
「最初にそうなると言いだしたのはアンタじゃない、
 今さら引き下がるなんてできないわよ?」
「あ、いや、なんか勝手に思った事を言っただけだ」

サップの奇妙な発言もそこそこにさせ、次からは本格的な
作戦を展開する案をお互いに出し合っていく。
2人ともこれでお別れ、少人数となる。
次こそは上手くいく、そう願いながら積みこんで進んでいく一同であった。

「「あたしも・・・覚悟を決めたわ。どこまでも、とことんやってやる・・・」」

これで人を超えた能力を手にするブラインドの面々。
安易な死も許されない半永久の生存駆動を遂げた。
うつむいていたミゾレはゆっくりと頭を上げる。
冷たい視線ながらも、強い執念を感じずにはいられない。
女は後ろに張り付き、追跡する生き物。
いつまでもどこまでも阻害し続けてやる。
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