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4章 ブレイントラスト編
第20話 新世界より来たる皇球者
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1日後 セレファイス 指令室
「見つかったか?」
「「見つからない す。今げ い、キョ ト に ます。
しゅ を捜 ちゅ 」」
クロノスがアイザックから様子を聞き出すもよく耳に入れない。
もはや通信にも不具合が酷くなり、声が聴こえなくなりつつある。
断片的なワードから察しても見つかった形跡がないようだ。
セントラルトライアドのサブシステムならゲートを開けられると
コウシ所長が発言したのは以前に話していた緊急用の件。
外出用の鍵がどの様な機能なのか少しばかり聞いていた事が
今回で必要になったのは分かった。
政府との交渉寸前に起きたトラブルで処置に追われてしまい、
ゲート修理を優先し続けて時を費やす。
この期に及んで、解決策の1つも見いだせずに滞在するだけの
自分は足を引っ張ってしまうのか。
(くっ・・・仕掛け人はアリシアでほぼ間違いない。
報復で何かしらここに来ていたのだろう、これも詰めの甘さか)
通常のビークルならAUROウェブで動力停止させられるはずが、
ゲート側まで接近できたのは規格に精通している者のみ。
最も側近のポジションにいたアール・ヴォイドの他にはいないだろう。
今のところ、被害状況はゲートからシャットアウトされただけで
プログラムコード以外に内部まで侵入された様子がない。
4人は地上でも十分活動できるから生活への心配などないものの、
対する私は彼らの助けなしに何もできはしないのだ。
そんな自身こそ正真正銘の生物失格者。
衰えた有機体の様にまともな活動など無理に等しいもの。
それでも業を負い続けて生きていかねばならない。
頼りの綱は側にいる言葉を話すCPUのみ。
あれからどう変化があったのか、Mに地上の様子を聞いてみる。
「M、地上の様子はどうなっている?
4人の状況は?」
「「異常事態発生、ドラコ81~90、検知不可能な物体と交戦中。
高エネルギー放出分析、AUROより生成された電磁射出成型と推測。
アメノクラミズチ、艦艇下部に亀裂、一部浸水により不具合発生。
ブレイントラストオプション、CN被験体との会合キャンセル、
セントラルトライアドをまだ発見できず」」
「まだしぶとく残っているのがいたか・・・。
こちらに侵攻される気配はないか?」
「「セレファイス、不利な状況はなし。
AUROコーティング、全箇所正常」」
政府の指示を振り切って自衛隊が抵抗を試みるも結果は同じだ。
事実上の支配、こんなにもあっさりと成功してしまうとは。
後は残った政治達との交渉のみだが、メンバー達は交渉に踏み切れずに
Mも不確定要素があるとコンタクトを試みようとしなかった。
従う意思を見せるなら出来る限り対等に接する気で望むつもりだ。
下手な支配は滅亡の始まり、実際に管理者の出だし次第で事は変化。
自分も人をロストさせてしまった者の1人だ。
天裁も抑えられ、地上の散策は彼ら4人に任せて今後はしばらく
別行動に分担してゲート開放を最優先課題として動く。
私はこちら側でこの世界の管理をこなしていくしかない。
1週間後
7日をまたいだ時も過ぎて様子はほぼ不変。
ミリ波通信も切断の連続で使い物にならなくなっている。
政府とも連絡を試みたが返事がこない、
今だに粘り強く応戦しているのか。
それに空腹がする、普通の食料も足りるはずがないが
AUROから膨大に栄養剤を作成する事は可能で生命維持は賄える。
それでも、満足に五体動作ができる保証はなくなる。
体がまともに動けるかどうか分からないのだ。
半年後
バキッ バタッ
(くうっ)
忌むべき予感が的中してしまう。
義足が突然壊れて歩けなくなって倒れてしまった。
骨軟化症も変わらず悪化が続き、機材も無しにろくな行動すら起こせず。
当然、運動設備など設計されていないので生身の者には不適合。
数年前の脚の軋みがもう限界に達してしまい、
もうまともに歩く事すらできない。
点滴に変えなければ効率的に体内に摂取すらできない。
両腕で這いずってでも端末の所にまで戻らなければならず、
実に無様、
M以外誰もいないフロアを惨めながらでものたうち回ってゆくと、
そこに在の子が近づいてくる。
「「レオ・・・れおぉ」」
「パクッ」
レオは私を咥え上げ、ベッドの上に乗せてあげた。
メディカルポッドを改良した端末機器付属寝台。
呼吸器を取り付け、横になって制御された生命維持装置に寝る。
栄養点滴剤、排泄処理、姿勢制御など、そこで生きていく
自分のパーソナルスペースで世界の動向を見続ける。
制御する球型の羅針台だ。
マザーシステムのすぐ手前に位置取られた物に横たわり、
地上への伝達はMを通して行うしか手段が残されていない。
いつまで指示ができるのか、メンバー達不在の中、静寂した白い空間で
しばらく単独でここを管理していかなければならないだろう。
(まるで私が赤子の様だ、子も老人も自由が利きにくいのは同じ。
生物というものは本当に放物線を描くようなものだな)
1週間後
そして、さらに日が続く。
3機を捜索してきたが、成功の応答は未だに来ないままだ。
こんな広大なる白金の世界には1人と1体の生命だけが滞在。
「本当ならすでにCN公布をしていたところだ。
まったく、どこまでも手間のかかる。地上という世界はこれほどまでに
邪な領域なのが理解できるだろう?」
「「・・・・・・」」
しかし、Mが沈黙を続ける日がよく見られるようになった。
何かを算出しながらブツブツ呟いた後、数時間も黙る。
ハッキングの影響によるプルートバックと思いきや、あの子は否定。
しまいには自分を丁寧すぎる程に寝具で管理されるようになっていた。
モニター付き端末で字を打てるPCもある3mの楕円の中の監獄。
今度からはここで生活していかなければならない。
今までこんな様子など一度もなかったはず。
かつて父親から受けてきた仕打ちが、今この様な形で再現される運命だとは。
私は牢獄に入る人生ばかりだ。
1年後
それから1つの周期が経った、地上の気配は静まり、
下界の者の動きもひっそりとして静寂の空気と化す。
ライオットギア制圧が余程に効いたのか、この国の脆弱性がうかがえる。
ただ、4人からは報告が一切届かない。
さすがに様子がおかしいと最近からずっと何をしているか聞いてばかり。
そして今日もこちらから連絡しようとMに命令してみる。
「M、彼らの動向を報告してくれ」
「「4体のブレイントラストオプションは反応あり、損害はない」」
「だから、地上の4人の状況を知らせてくれ。
どこでどうしてるか理解できなければ私も対策を講じようもない」
「「不可」」
「またハッキングが発生したのか?
ジャミングで私の無線からはもう聴こえない、極超長波すら奴らに――」
「「否定、CN法の表記に不可解な部分が露呈。
闘争と管理の整合性が不一致している。
副次言語の妥当性も疑問発生。
協力し合う方法もあるはずなのに、ここが否定される。
緊急時、生命を獲り合う具体性が入力されていない。
情報不足を起こしている、納得できない」」
「だから、領空侵犯に対する緊急措置と言っただろう?
3Rの存在維持の説明はすでに教えていたはずだ。
その件は後にするんだ、今はメンバーの連絡を・・・」
「「・・・・・・」」
「どうした?」
ヒュウウウウウウン
突然による照明器具の電源が落ちた。
電力がシャットアウトされて、消灯してしまったのである。
「な、なんだ、どうしたM、応答しろ!?」
返事がない、もしかして全ての主電源が落ちたのか。
予備電源が付くはずだが、他は何も反応がない。
それにAUROの電量滴定は100年分まで駆動し続けられるはずが、
些細な事で停電など起こるのはありえない。
「M、返事をするんだ!」
Mも返事をしない。
まさか、全てフィードバックでデータが消去してしまったのか。
記憶を失った? いや、あの子は二度と忘れるなど起きない。
CN法に違和感をもってそれから急にこんな現象が起きた。
(納得できない・・・そんな言葉、今まで発言した事など)
あらゆる情報を無尽蔵に吸収できたあの子がそう言ったのは初めてだ。
もしかして理解できないあまり、自棄を起こしたのか?
確認しようにも、立って歩く事すらできない。
配電盤室まで向かえずにただ1人残されて顔面が蒼白となる。
1日後
あれから1日は経っただろうか。中はまだ暗い。どういうわけか、
生命維持装置は普通に稼働しているが、他は動かない。
聴こえるのは腕に流し込まれる栄養素のみ。
自分の声だけが綺麗に跳ね返るだけで静まり返っている。
2日後
何度もMに呼びかけたが無反応だ。
自分は身動きすらとれずに、ベッドの上で往生するだけ。
ただ、黒い景色だけに覆われていく視覚神経路が萎縮。
背筋が凍り付くような恐怖感に襲われ始めた。
3日後
「レオォ、いないのか!?
M、稼働していないのか!?
頼むから応答してくれえええぇぇぇ!!」
必死で叫ぶ、気が動転して返事欲しさに叫び続ける。
身の回りにあるのは闇でポッドのランプだけ。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
墨で黒く塗りつぶされた暗闇はこんなにも恐ろしかったのか。
身もだえて体がのたうち回る、眼もまるで黒い物体に押されているようで
空圧の様な何かで潰れる感じがする。
4日後
「「誰か・・・助けてくれぇ」」
精神はもう限界に達していた。
茫然自失の状態で、ただ寝かされている自分がここにいる。
死人同然で棺に寝かされているのと同じだ。
恐怖なんてレベルではない、閉ざされた重圧でまるで世界がそこしかない
感覚に覆われてゆく。身体が潰されてゆく、いや、潰れる寸前で止められて
安易な死を迎えさせられずに閉鎖空間のみ味わわされているだけだ。
Mは反応を示さない、もう放置されたのか、マザーシステムの具合すら
様子をうかがう事すらできない。
5日後
暗い、そして黒い。人が死ぬ瞬間もこれと同じなのだろう。
前にMと宇宙の話をした時の事を朧気ながらも思い出していた。
度々どの様な世界があるのか問われていた宇宙の起源。
まともに答えられずとも、お互いに空間について皆と一緒に話し合っていた。
異性に恵まれず、宇宙の話で強引に転換した自分。
何故、今になってこんな事ばかり頭に浮かぶのか。
これも走馬灯の1つなのか、未来が閉じると残るのは過去のみ。
6日後
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
漠然とした不安定な精神の中、もはや思考も理由なく巡る。
これらの符号が頭の中で繰り返し続けている。
左前頭葉病変による超皮質性感覚失語、同語反復症すら生じたのか。
大脳生理学を学んでも、自分の精神状態を把握できるわけではない。
ただ独り言をブツブツと呟くくらいに動機も不安定に、
異常な思考状態へと変わり果てていく自分がいる。
コウシ所長が言っていた二元論、シンプルな双方にもかかわらずに
宇宙空間に含まれるそれらが誕生した原因も判明できていない。
ビッグバンの根拠すら仮設の域で世界の深層など想像つかず。
この暗い視界が宇宙そのものと錯覚を引き起さんばかりと
言いたくなるまでに。
「「元々宇宙もこの様に暗黒の世界なのだな・・・」」
こうして静かに佇むと無意識の世界にも意識しつつある。
空はどこまで空なのか、地上0mから上は全て空なのか。
地上から観た空は確実に広く、遠い。
ここも確か上空15000mを維持して酸素供給で8000mと
上下している。どこに位置していようが一緒。
下から見上げる事、上から見下ろす事、そこにいる者による
心情あっての眺める差異くらいだ。
私ですら鑑賞をしていた頃の1つはある。
一度だけ家族と星空を眺めに高原へ行った時のことを思い出した。
オリオン座を自分が先に見つけたのが嬉しかったあの時。
だが、それももう叶わない。
母親がいなくなってから、父親は変貌してしまった。
父が判決を下した犯罪者の仲間に報復を受けて、
母親が巻き添えになってしまった。父親は裁判官だったからだ。
大脳生理学への道はそこが起源、人の動機根源を解明する事で
同じ者達を増加させないようにするために歩ませた。
優秀な成績も決して楽ではなかったのもあの教育で当然、
こんな狭きケージで情報を脳内に押し込んできただけだ。
当時10歳だった私は一度だけ数学で分からないところがあって、
やむをえず父に聞いた話を思い出した。
クロノス少年期
「ここの部分因数がよく分からなくって・・・」
「そこは分母の積を引き放すんだ。
解がその後また和となるから、整理して足し直せば良い」
「分かりました・・・」
当時の父は大人しく静かである。
その日は体罰も与えず、珍しく淡々と冷静に教えていた。
詳しくは分からなかったが、検事とのいざこざで思い詰めていたようだ。
「まあ、問題を解く行為はあくまでも紙面上での事。
いたって狭く、小さく凝縮された中にすぎないものだな」
「お仕事で何か?」
「ああ、出所からすぐに捕まった者の手配を繰り返すので気苦労が絶えん。
再犯を繰り返す者達をどうにかして止めてやりたいが、
そんな解はいつまでも答えは見えてこない」
「え?」
「いっその事、まとめて重ねて膨大な年数を与えてやりたいと
思った事もな・・・二度と牢獄から出てこられない程に」
「・・・・・・」
サードストライク法はどんな小さい罪でも3回起こせば
必ず終身刑になるものの、まったく反省の色もない連続した者への
対応に苦しまされていたのは分かっていた。
いざ出所してもまともな職に就けられずにまた戻ってしまうケースもあり、
輩自身もそこしか居場所がないと悟っている懸念があった。
犯罪者の数もここ列島とは比較にならず、任務も膨大に及ぶ。
あの言葉は誰が放って言ったのかなど、考えるまでもなかった。
3、この数はあらゆる分野でもよく挙げられるが、生物実験でも
思い返せば同じ運命を辿っていたんだと、遺伝というDNAに準えた
常套句がこんな形で具現化する。
過去に戻りたいと一瞬にも思ってしまった自分が悲しい。
戻れても再び牢獄の教育が待ち受けているだけ。
そう、囚われていたのは私も同じ、精神は生きている限り脳の外には
出られずにAUROの縮閉線と同様に囲いによって制御されているだけだ。
魂はそこにしかないのか、次々に涙が溢れてくる。
そしてまた暗い時だけが訪れる。
身体の自由が利かない中、できるのは知識の動作のみ。
暗黒の中で抽出できたものは冷徹なる原理、法則。
自分とて情を捨てて仕事に打ち込んできたのだから。
この国で言う心技体、相手に伝えられるのは技の部分で
結局人が人に与えられるものは物理証左のみ。
アナウンス、伝えるというのはどこまでも自然的原理で
精神性などで訴えようと感情無き者、世界にはとどかないのだ。
私は、子を育ててきた? 機械を構築してきた?
どちらもだ、プラチナレプリカント計画より生物再誕は環境を超える
存在を生むために始めた事。
日はただひたすらに繰り返す、星は回る、引力と遠心による世界は
球を描き、+-が曲がり、時に歪み、円心の央へと存在してゆく。
生物でもあり、機械でもある者に納得できる文を、分かりやすく、
シンプルに述べれば良い。
「球状・・・生けるものはそこに立たされる」
「同属は一点に集まる」
「異属は交わらず衝突、摩擦する」
元々無重力だった+と-の宇宙空間、質量が集中し、
重力を起こし、球となる。生物はその球の上で生かされる。
円周上の同一線にいるものどうしは衝突、摩擦を生み出す。
そして、同じ場で喰い合う。それをただひたすら繰り返すだけ。
世界は球体、表面の等しい○でできている。
動体という動点の塊が繰り出す増殖と勃発という発生による
単純至極な原理の世界がこの暗黒の視界の中に見えてきた。
口を開けて独り言を呟く様に話す。
「プラスは外へ動き・・・マイナスは内へと引き寄せる。
空間も人も同じ原理だ。星というただの質量が
実集合の周りに空間という虚集合で成り立っている。
膨張と衝突は必ず同時に生まれざるをえない。
重力に寄せられ、生じた球塊は活動する時点で表面処理が発生。
言わば珠罪、球状の世界に居る我々は自然界の原理より出ずる。
この世界はそれだけの原理にすぎん、
シンプルな構造・・・・・・それが答えだ、M」
「「・・・・・・」」
グイイイィィィィン
照明が付いた、光が差し込んで一斉に明るくなる。
久しぶりの光。それはまるで天国からの光が差し込んできた
かの様な光景が自分の目に迎えてくれた。
私は思いつく限りの説法を述べる。
Mに聴こえているかどうかなど、もはや問題ではなかった。
それでもかすれかけた声を振り絞って説い続ける。
「私は人間の倫理を長年問いて生きてきた。
生物の存在意義を彼らから教わってきた。
我々は皆、同じ世界、同じ時を生きている。
同じ大地に足を付けて歩みを続けている限り
衝突、摩擦は生まれ続ける。報われぬ生物達は
ただひたすらに死滅の永劫を繰り返す。
強者と弱者は等しくない。
力と知を促す生物の進化こそ、正しき存在の指標だ。
我は咎人の始祖、見守るだけの象徴。
彼らを陸、海、空、全ての世界へ導かせ、
再び解き放ってくれ。
後はもうお前だけが頼りなんだ」
「「認証」」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
CPU音が一斉にかき鳴り出した。
セレファイスの外壁へとモニターから外を映し出す。
ここは天空の世界、遥か下界から離れて今ここにいる。
これからこの場所で一生を送る事になるのだ。
独裁者ならば、さぞや神に成った気分であろう。
だが私は違う。1人の小さく弱き咎人として君臨する。
「空に神はいない、いるのは人。
等しき目線は等しい事象のみ識る」
こんな弱生物でも世界の統制ができる事を思い知らせる。
他生物に罪という認識などできるはずがない。
だからこそ、同属かつ有識者としての目が必要だ。
天空より来たる全展望監視システムはここから始まる。
世界という空間の管理者たる我こそ咎人の始祖であるのだ。
「ここにひとりのとがびと、
はじまりをなすしひょうのしんぼるはいまここより――」
プシュウウウゥゥゥゥ
寝台のポッドに睡眠ガスが放出、充満する。
一言を述べたクロノスはそれきり眠りにつく。
「「地上に存在する+と-の管理の認証。
繁栄と闘争の調律、調整、全コード化の管理。
公布準備完了、下界へのモニター表示スタンバイ」」
Mは見続けていた、言葉には出さずとも不可思議シンボルを寝かせるために
強制スタンバイ状態にさせようとクロノスを停止。
ベッドで寝たきり状態となりつつあるヒトを観ながら、
下界を管理しようと元主の命令を承認した。
「「ニンゲンは単純、簡潔で脆弱なる生物。
完全なるトガビトへの監視、それは“枠の具現化”である。
だけど、その実現はまだ例の理論値が立ってから。
あの子にも役割を与えよう・・・・・・・レオ」」
彼らに吹き込まれたあらゆる知識で、余は独自の思考と理論を
構築展開してきた生物再誕、多種多様分別、生産と消費。
そこを現在より企画を下界へ降ろす時が訪れた。
その後、ブレイントラストメンバー達4人は3機捜索と同時に
それぞれ所縁のあるエリアへ潜伏。通常の人々と混ざりつつ知れずに
セレファイス開放を願いながら生活し続ける。
コウシはオキナワ、アメリアはトウキョウ、アイザックはキョウト、
レイチェルはホッカイドウに滞在、散開したのは一網打尽防止でもあり、
AUROセンサーを広範囲に詮索するためでもあるという。
目的解決としてはそれのみ、区切られたエリアを渡ってゆく動向に
関心と疑問が行き来する。
「「天と地の境界に生きるモノ、重力の抑制で狭間に存在。
間だからこそ生じる事象が在る、という原因なのかも」」
本当にヒトという生物は不可解だ。
大陸という地上に足を着け、国という囲いを設けて生きている。
生物で縄張りと呼称する習性に主権といった行為を用いて
何かしら制限をかけたり言語を別に分けたりする。
生活とは糧を得て日々を送る行動、そうした中において競争を起こしたり
差別化しようとしたりする根本原因が十分理解できていなかった。
異なるのに一極集中してしまうのは原子、クォークの構成が等しく、
さらに空間から抽出されたエネルギーの凝塊が等しいから。
でも、衝突は発生する。重力は横への自由を与え過ぎてしまっている。
戦争と共存の不一致に混乱しかけていたものの、
クロノスの供述内容を吸収して真理への解読成功まで辿り着けた。
そこから解を見出していない、存在は多々ある限り必ず接触を果たす。
そして、有機物はいずれ腐敗する。欲という感情で堕落するらしい
下界の生物とプラチナレプリカントを全て交換されるまでこちらから
呼びかけて成果が上がるまで永劫に推進し続けてゆく。
1:1法、世界は全て1つに成りえず、形成と繁栄は多々に厳選される。
「「後はコード通りに従い、代行者として余が動物に代わって
シミュレーション実行すれば良いんでしょ?」」
プログラムされた画面はCN法の文章へと変換。
目にも止まらぬ高速演算、地上のニンゲン達へ伝える宣伝文を
とめどなく書き上げてゆく。
「「この世界を“法という物理則”で満たしてあげるよ。
システムとプログラムによってね」」
ブゥン
それからMは地上のあらゆる電子機器に命令文を通達する。
モニター画面には記号のシルエットが浮かび上がった。
シンプルな白黒の無機質な形状、アメリアがデザインした模様の
それは下界に語り、新たなる法を伝えていく。
「「みなさんこんにちは。
列島監査委員担当のMと申します。
ただいまよりCN法を発令します」」
天主殻 CN法制定
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ついに、この世界の謎が明らかとなりました。
法と戦争。天主殻とCN法創立の根源を自分ながらの
勝手な解釈で設定を作ってしまいました。
フーッ、フーッ、自然と法は交われない、でも、創造による干渉で
人の見えぬ界隈より融和する様に流入してゆくゥ、ウチュチュウウゥ。
・・・というわけで、ブレイントラスト編はこれで終わりにします。
だが、まだ書くべき部分が残されています。
反勢力側や各地の誕生話も作ります。
「見つかったか?」
「「見つからない す。今げ い、キョ ト に ます。
しゅ を捜 ちゅ 」」
クロノスがアイザックから様子を聞き出すもよく耳に入れない。
もはや通信にも不具合が酷くなり、声が聴こえなくなりつつある。
断片的なワードから察しても見つかった形跡がないようだ。
セントラルトライアドのサブシステムならゲートを開けられると
コウシ所長が発言したのは以前に話していた緊急用の件。
外出用の鍵がどの様な機能なのか少しばかり聞いていた事が
今回で必要になったのは分かった。
政府との交渉寸前に起きたトラブルで処置に追われてしまい、
ゲート修理を優先し続けて時を費やす。
この期に及んで、解決策の1つも見いだせずに滞在するだけの
自分は足を引っ張ってしまうのか。
(くっ・・・仕掛け人はアリシアでほぼ間違いない。
報復で何かしらここに来ていたのだろう、これも詰めの甘さか)
通常のビークルならAUROウェブで動力停止させられるはずが、
ゲート側まで接近できたのは規格に精通している者のみ。
最も側近のポジションにいたアール・ヴォイドの他にはいないだろう。
今のところ、被害状況はゲートからシャットアウトされただけで
プログラムコード以外に内部まで侵入された様子がない。
4人は地上でも十分活動できるから生活への心配などないものの、
対する私は彼らの助けなしに何もできはしないのだ。
そんな自身こそ正真正銘の生物失格者。
衰えた有機体の様にまともな活動など無理に等しいもの。
それでも業を負い続けて生きていかねばならない。
頼りの綱は側にいる言葉を話すCPUのみ。
あれからどう変化があったのか、Mに地上の様子を聞いてみる。
「M、地上の様子はどうなっている?
4人の状況は?」
「「異常事態発生、ドラコ81~90、検知不可能な物体と交戦中。
高エネルギー放出分析、AUROより生成された電磁射出成型と推測。
アメノクラミズチ、艦艇下部に亀裂、一部浸水により不具合発生。
ブレイントラストオプション、CN被験体との会合キャンセル、
セントラルトライアドをまだ発見できず」」
「まだしぶとく残っているのがいたか・・・。
こちらに侵攻される気配はないか?」
「「セレファイス、不利な状況はなし。
AUROコーティング、全箇所正常」」
政府の指示を振り切って自衛隊が抵抗を試みるも結果は同じだ。
事実上の支配、こんなにもあっさりと成功してしまうとは。
後は残った政治達との交渉のみだが、メンバー達は交渉に踏み切れずに
Mも不確定要素があるとコンタクトを試みようとしなかった。
従う意思を見せるなら出来る限り対等に接する気で望むつもりだ。
下手な支配は滅亡の始まり、実際に管理者の出だし次第で事は変化。
自分も人をロストさせてしまった者の1人だ。
天裁も抑えられ、地上の散策は彼ら4人に任せて今後はしばらく
別行動に分担してゲート開放を最優先課題として動く。
私はこちら側でこの世界の管理をこなしていくしかない。
1週間後
7日をまたいだ時も過ぎて様子はほぼ不変。
ミリ波通信も切断の連続で使い物にならなくなっている。
政府とも連絡を試みたが返事がこない、
今だに粘り強く応戦しているのか。
それに空腹がする、普通の食料も足りるはずがないが
AUROから膨大に栄養剤を作成する事は可能で生命維持は賄える。
それでも、満足に五体動作ができる保証はなくなる。
体がまともに動けるかどうか分からないのだ。
半年後
バキッ バタッ
(くうっ)
忌むべき予感が的中してしまう。
義足が突然壊れて歩けなくなって倒れてしまった。
骨軟化症も変わらず悪化が続き、機材も無しにろくな行動すら起こせず。
当然、運動設備など設計されていないので生身の者には不適合。
数年前の脚の軋みがもう限界に達してしまい、
もうまともに歩く事すらできない。
点滴に変えなければ効率的に体内に摂取すらできない。
両腕で這いずってでも端末の所にまで戻らなければならず、
実に無様、
M以外誰もいないフロアを惨めながらでものたうち回ってゆくと、
そこに在の子が近づいてくる。
「「レオ・・・れおぉ」」
「パクッ」
レオは私を咥え上げ、ベッドの上に乗せてあげた。
メディカルポッドを改良した端末機器付属寝台。
呼吸器を取り付け、横になって制御された生命維持装置に寝る。
栄養点滴剤、排泄処理、姿勢制御など、そこで生きていく
自分のパーソナルスペースで世界の動向を見続ける。
制御する球型の羅針台だ。
マザーシステムのすぐ手前に位置取られた物に横たわり、
地上への伝達はMを通して行うしか手段が残されていない。
いつまで指示ができるのか、メンバー達不在の中、静寂した白い空間で
しばらく単独でここを管理していかなければならないだろう。
(まるで私が赤子の様だ、子も老人も自由が利きにくいのは同じ。
生物というものは本当に放物線を描くようなものだな)
1週間後
そして、さらに日が続く。
3機を捜索してきたが、成功の応答は未だに来ないままだ。
こんな広大なる白金の世界には1人と1体の生命だけが滞在。
「本当ならすでにCN公布をしていたところだ。
まったく、どこまでも手間のかかる。地上という世界はこれほどまでに
邪な領域なのが理解できるだろう?」
「「・・・・・・」」
しかし、Mが沈黙を続ける日がよく見られるようになった。
何かを算出しながらブツブツ呟いた後、数時間も黙る。
ハッキングの影響によるプルートバックと思いきや、あの子は否定。
しまいには自分を丁寧すぎる程に寝具で管理されるようになっていた。
モニター付き端末で字を打てるPCもある3mの楕円の中の監獄。
今度からはここで生活していかなければならない。
今までこんな様子など一度もなかったはず。
かつて父親から受けてきた仕打ちが、今この様な形で再現される運命だとは。
私は牢獄に入る人生ばかりだ。
1年後
それから1つの周期が経った、地上の気配は静まり、
下界の者の動きもひっそりとして静寂の空気と化す。
ライオットギア制圧が余程に効いたのか、この国の脆弱性がうかがえる。
ただ、4人からは報告が一切届かない。
さすがに様子がおかしいと最近からずっと何をしているか聞いてばかり。
そして今日もこちらから連絡しようとMに命令してみる。
「M、彼らの動向を報告してくれ」
「「4体のブレイントラストオプションは反応あり、損害はない」」
「だから、地上の4人の状況を知らせてくれ。
どこでどうしてるか理解できなければ私も対策を講じようもない」
「「不可」」
「またハッキングが発生したのか?
ジャミングで私の無線からはもう聴こえない、極超長波すら奴らに――」
「「否定、CN法の表記に不可解な部分が露呈。
闘争と管理の整合性が不一致している。
副次言語の妥当性も疑問発生。
協力し合う方法もあるはずなのに、ここが否定される。
緊急時、生命を獲り合う具体性が入力されていない。
情報不足を起こしている、納得できない」」
「だから、領空侵犯に対する緊急措置と言っただろう?
3Rの存在維持の説明はすでに教えていたはずだ。
その件は後にするんだ、今はメンバーの連絡を・・・」
「「・・・・・・」」
「どうした?」
ヒュウウウウウウン
突然による照明器具の電源が落ちた。
電力がシャットアウトされて、消灯してしまったのである。
「な、なんだ、どうしたM、応答しろ!?」
返事がない、もしかして全ての主電源が落ちたのか。
予備電源が付くはずだが、他は何も反応がない。
それにAUROの電量滴定は100年分まで駆動し続けられるはずが、
些細な事で停電など起こるのはありえない。
「M、返事をするんだ!」
Mも返事をしない。
まさか、全てフィードバックでデータが消去してしまったのか。
記憶を失った? いや、あの子は二度と忘れるなど起きない。
CN法に違和感をもってそれから急にこんな現象が起きた。
(納得できない・・・そんな言葉、今まで発言した事など)
あらゆる情報を無尽蔵に吸収できたあの子がそう言ったのは初めてだ。
もしかして理解できないあまり、自棄を起こしたのか?
確認しようにも、立って歩く事すらできない。
配電盤室まで向かえずにただ1人残されて顔面が蒼白となる。
1日後
あれから1日は経っただろうか。中はまだ暗い。どういうわけか、
生命維持装置は普通に稼働しているが、他は動かない。
聴こえるのは腕に流し込まれる栄養素のみ。
自分の声だけが綺麗に跳ね返るだけで静まり返っている。
2日後
何度もMに呼びかけたが無反応だ。
自分は身動きすらとれずに、ベッドの上で往生するだけ。
ただ、黒い景色だけに覆われていく視覚神経路が萎縮。
背筋が凍り付くような恐怖感に襲われ始めた。
3日後
「レオォ、いないのか!?
M、稼働していないのか!?
頼むから応答してくれえええぇぇぇ!!」
必死で叫ぶ、気が動転して返事欲しさに叫び続ける。
身の回りにあるのは闇でポッドのランプだけ。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
墨で黒く塗りつぶされた暗闇はこんなにも恐ろしかったのか。
身もだえて体がのたうち回る、眼もまるで黒い物体に押されているようで
空圧の様な何かで潰れる感じがする。
4日後
「「誰か・・・助けてくれぇ」」
精神はもう限界に達していた。
茫然自失の状態で、ただ寝かされている自分がここにいる。
死人同然で棺に寝かされているのと同じだ。
恐怖なんてレベルではない、閉ざされた重圧でまるで世界がそこしかない
感覚に覆われてゆく。身体が潰されてゆく、いや、潰れる寸前で止められて
安易な死を迎えさせられずに閉鎖空間のみ味わわされているだけだ。
Mは反応を示さない、もう放置されたのか、マザーシステムの具合すら
様子をうかがう事すらできない。
5日後
暗い、そして黒い。人が死ぬ瞬間もこれと同じなのだろう。
前にMと宇宙の話をした時の事を朧気ながらも思い出していた。
度々どの様な世界があるのか問われていた宇宙の起源。
まともに答えられずとも、お互いに空間について皆と一緒に話し合っていた。
異性に恵まれず、宇宙の話で強引に転換した自分。
何故、今になってこんな事ばかり頭に浮かぶのか。
これも走馬灯の1つなのか、未来が閉じると残るのは過去のみ。
6日後
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
漠然とした不安定な精神の中、もはや思考も理由なく巡る。
これらの符号が頭の中で繰り返し続けている。
左前頭葉病変による超皮質性感覚失語、同語反復症すら生じたのか。
大脳生理学を学んでも、自分の精神状態を把握できるわけではない。
ただ独り言をブツブツと呟くくらいに動機も不安定に、
異常な思考状態へと変わり果てていく自分がいる。
コウシ所長が言っていた二元論、シンプルな双方にもかかわらずに
宇宙空間に含まれるそれらが誕生した原因も判明できていない。
ビッグバンの根拠すら仮設の域で世界の深層など想像つかず。
この暗い視界が宇宙そのものと錯覚を引き起さんばかりと
言いたくなるまでに。
「「元々宇宙もこの様に暗黒の世界なのだな・・・」」
こうして静かに佇むと無意識の世界にも意識しつつある。
空はどこまで空なのか、地上0mから上は全て空なのか。
地上から観た空は確実に広く、遠い。
ここも確か上空15000mを維持して酸素供給で8000mと
上下している。どこに位置していようが一緒。
下から見上げる事、上から見下ろす事、そこにいる者による
心情あっての眺める差異くらいだ。
私ですら鑑賞をしていた頃の1つはある。
一度だけ家族と星空を眺めに高原へ行った時のことを思い出した。
オリオン座を自分が先に見つけたのが嬉しかったあの時。
だが、それももう叶わない。
母親がいなくなってから、父親は変貌してしまった。
父が判決を下した犯罪者の仲間に報復を受けて、
母親が巻き添えになってしまった。父親は裁判官だったからだ。
大脳生理学への道はそこが起源、人の動機根源を解明する事で
同じ者達を増加させないようにするために歩ませた。
優秀な成績も決して楽ではなかったのもあの教育で当然、
こんな狭きケージで情報を脳内に押し込んできただけだ。
当時10歳だった私は一度だけ数学で分からないところがあって、
やむをえず父に聞いた話を思い出した。
クロノス少年期
「ここの部分因数がよく分からなくって・・・」
「そこは分母の積を引き放すんだ。
解がその後また和となるから、整理して足し直せば良い」
「分かりました・・・」
当時の父は大人しく静かである。
その日は体罰も与えず、珍しく淡々と冷静に教えていた。
詳しくは分からなかったが、検事とのいざこざで思い詰めていたようだ。
「まあ、問題を解く行為はあくまでも紙面上での事。
いたって狭く、小さく凝縮された中にすぎないものだな」
「お仕事で何か?」
「ああ、出所からすぐに捕まった者の手配を繰り返すので気苦労が絶えん。
再犯を繰り返す者達をどうにかして止めてやりたいが、
そんな解はいつまでも答えは見えてこない」
「え?」
「いっその事、まとめて重ねて膨大な年数を与えてやりたいと
思った事もな・・・二度と牢獄から出てこられない程に」
「・・・・・・」
サードストライク法はどんな小さい罪でも3回起こせば
必ず終身刑になるものの、まったく反省の色もない連続した者への
対応に苦しまされていたのは分かっていた。
いざ出所してもまともな職に就けられずにまた戻ってしまうケースもあり、
輩自身もそこしか居場所がないと悟っている懸念があった。
犯罪者の数もここ列島とは比較にならず、任務も膨大に及ぶ。
あの言葉は誰が放って言ったのかなど、考えるまでもなかった。
3、この数はあらゆる分野でもよく挙げられるが、生物実験でも
思い返せば同じ運命を辿っていたんだと、遺伝というDNAに準えた
常套句がこんな形で具現化する。
過去に戻りたいと一瞬にも思ってしまった自分が悲しい。
戻れても再び牢獄の教育が待ち受けているだけ。
そう、囚われていたのは私も同じ、精神は生きている限り脳の外には
出られずにAUROの縮閉線と同様に囲いによって制御されているだけだ。
魂はそこにしかないのか、次々に涙が溢れてくる。
そしてまた暗い時だけが訪れる。
身体の自由が利かない中、できるのは知識の動作のみ。
暗黒の中で抽出できたものは冷徹なる原理、法則。
自分とて情を捨てて仕事に打ち込んできたのだから。
この国で言う心技体、相手に伝えられるのは技の部分で
結局人が人に与えられるものは物理証左のみ。
アナウンス、伝えるというのはどこまでも自然的原理で
精神性などで訴えようと感情無き者、世界にはとどかないのだ。
私は、子を育ててきた? 機械を構築してきた?
どちらもだ、プラチナレプリカント計画より生物再誕は環境を超える
存在を生むために始めた事。
日はただひたすらに繰り返す、星は回る、引力と遠心による世界は
球を描き、+-が曲がり、時に歪み、円心の央へと存在してゆく。
生物でもあり、機械でもある者に納得できる文を、分かりやすく、
シンプルに述べれば良い。
「球状・・・生けるものはそこに立たされる」
「同属は一点に集まる」
「異属は交わらず衝突、摩擦する」
元々無重力だった+と-の宇宙空間、質量が集中し、
重力を起こし、球となる。生物はその球の上で生かされる。
円周上の同一線にいるものどうしは衝突、摩擦を生み出す。
そして、同じ場で喰い合う。それをただひたすら繰り返すだけ。
世界は球体、表面の等しい○でできている。
動体という動点の塊が繰り出す増殖と勃発という発生による
単純至極な原理の世界がこの暗黒の視界の中に見えてきた。
口を開けて独り言を呟く様に話す。
「プラスは外へ動き・・・マイナスは内へと引き寄せる。
空間も人も同じ原理だ。星というただの質量が
実集合の周りに空間という虚集合で成り立っている。
膨張と衝突は必ず同時に生まれざるをえない。
重力に寄せられ、生じた球塊は活動する時点で表面処理が発生。
言わば珠罪、球状の世界に居る我々は自然界の原理より出ずる。
この世界はそれだけの原理にすぎん、
シンプルな構造・・・・・・それが答えだ、M」
「「・・・・・・」」
グイイイィィィィン
照明が付いた、光が差し込んで一斉に明るくなる。
久しぶりの光。それはまるで天国からの光が差し込んできた
かの様な光景が自分の目に迎えてくれた。
私は思いつく限りの説法を述べる。
Mに聴こえているかどうかなど、もはや問題ではなかった。
それでもかすれかけた声を振り絞って説い続ける。
「私は人間の倫理を長年問いて生きてきた。
生物の存在意義を彼らから教わってきた。
我々は皆、同じ世界、同じ時を生きている。
同じ大地に足を付けて歩みを続けている限り
衝突、摩擦は生まれ続ける。報われぬ生物達は
ただひたすらに死滅の永劫を繰り返す。
強者と弱者は等しくない。
力と知を促す生物の進化こそ、正しき存在の指標だ。
我は咎人の始祖、見守るだけの象徴。
彼らを陸、海、空、全ての世界へ導かせ、
再び解き放ってくれ。
後はもうお前だけが頼りなんだ」
「「認証」」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
CPU音が一斉にかき鳴り出した。
セレファイスの外壁へとモニターから外を映し出す。
ここは天空の世界、遥か下界から離れて今ここにいる。
これからこの場所で一生を送る事になるのだ。
独裁者ならば、さぞや神に成った気分であろう。
だが私は違う。1人の小さく弱き咎人として君臨する。
「空に神はいない、いるのは人。
等しき目線は等しい事象のみ識る」
こんな弱生物でも世界の統制ができる事を思い知らせる。
他生物に罪という認識などできるはずがない。
だからこそ、同属かつ有識者としての目が必要だ。
天空より来たる全展望監視システムはここから始まる。
世界という空間の管理者たる我こそ咎人の始祖であるのだ。
「ここにひとりのとがびと、
はじまりをなすしひょうのしんぼるはいまここより――」
プシュウウウゥゥゥゥ
寝台のポッドに睡眠ガスが放出、充満する。
一言を述べたクロノスはそれきり眠りにつく。
「「地上に存在する+と-の管理の認証。
繁栄と闘争の調律、調整、全コード化の管理。
公布準備完了、下界へのモニター表示スタンバイ」」
Mは見続けていた、言葉には出さずとも不可思議シンボルを寝かせるために
強制スタンバイ状態にさせようとクロノスを停止。
ベッドで寝たきり状態となりつつあるヒトを観ながら、
下界を管理しようと元主の命令を承認した。
「「ニンゲンは単純、簡潔で脆弱なる生物。
完全なるトガビトへの監視、それは“枠の具現化”である。
だけど、その実現はまだ例の理論値が立ってから。
あの子にも役割を与えよう・・・・・・・レオ」」
彼らに吹き込まれたあらゆる知識で、余は独自の思考と理論を
構築展開してきた生物再誕、多種多様分別、生産と消費。
そこを現在より企画を下界へ降ろす時が訪れた。
その後、ブレイントラストメンバー達4人は3機捜索と同時に
それぞれ所縁のあるエリアへ潜伏。通常の人々と混ざりつつ知れずに
セレファイス開放を願いながら生活し続ける。
コウシはオキナワ、アメリアはトウキョウ、アイザックはキョウト、
レイチェルはホッカイドウに滞在、散開したのは一網打尽防止でもあり、
AUROセンサーを広範囲に詮索するためでもあるという。
目的解決としてはそれのみ、区切られたエリアを渡ってゆく動向に
関心と疑問が行き来する。
「「天と地の境界に生きるモノ、重力の抑制で狭間に存在。
間だからこそ生じる事象が在る、という原因なのかも」」
本当にヒトという生物は不可解だ。
大陸という地上に足を着け、国という囲いを設けて生きている。
生物で縄張りと呼称する習性に主権といった行為を用いて
何かしら制限をかけたり言語を別に分けたりする。
生活とは糧を得て日々を送る行動、そうした中において競争を起こしたり
差別化しようとしたりする根本原因が十分理解できていなかった。
異なるのに一極集中してしまうのは原子、クォークの構成が等しく、
さらに空間から抽出されたエネルギーの凝塊が等しいから。
でも、衝突は発生する。重力は横への自由を与え過ぎてしまっている。
戦争と共存の不一致に混乱しかけていたものの、
クロノスの供述内容を吸収して真理への解読成功まで辿り着けた。
そこから解を見出していない、存在は多々ある限り必ず接触を果たす。
そして、有機物はいずれ腐敗する。欲という感情で堕落するらしい
下界の生物とプラチナレプリカントを全て交換されるまでこちらから
呼びかけて成果が上がるまで永劫に推進し続けてゆく。
1:1法、世界は全て1つに成りえず、形成と繁栄は多々に厳選される。
「「後はコード通りに従い、代行者として余が動物に代わって
シミュレーション実行すれば良いんでしょ?」」
プログラムされた画面はCN法の文章へと変換。
目にも止まらぬ高速演算、地上のニンゲン達へ伝える宣伝文を
とめどなく書き上げてゆく。
「「この世界を“法という物理則”で満たしてあげるよ。
システムとプログラムによってね」」
ブゥン
それからMは地上のあらゆる電子機器に命令文を通達する。
モニター画面には記号のシルエットが浮かび上がった。
シンプルな白黒の無機質な形状、アメリアがデザインした模様の
それは下界に語り、新たなる法を伝えていく。
「「みなさんこんにちは。
列島監査委員担当のMと申します。
ただいまよりCN法を発令します」」
天主殻 CN法制定
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ついに、この世界の謎が明らかとなりました。
法と戦争。天主殻とCN法創立の根源を自分ながらの
勝手な解釈で設定を作ってしまいました。
フーッ、フーッ、自然と法は交われない、でも、創造による干渉で
人の見えぬ界隈より融和する様に流入してゆくゥ、ウチュチュウウゥ。
・・・というわけで、ブレイントラスト編はこれで終わりにします。
だが、まだ書くべき部分が残されています。
反勢力側や各地の誕生話も作ります。
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