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4章 ブレイントラスト編
第10話 転移する上位者
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クロノス自室
(例の答えを聞いてからか・・・)
ベッドで寝ながら所長の言葉を浮かべている。
隔離政策という上層階の誘い、失った身体の代行をどこかで実行する
所長のプロジェクトの誘いの答えを未だに決めかねていた。
生物達の楽園、研究の推移を結集させて起こそうとする何かに
いつまでも決意表明の1つも見出せない。
一体何をするつもりなのか、消失した生物をクリエイトソート構築で
復元しようというからくりの真意が理解できないのだ。
所長も所長で何かを隠している節があり、概要を最初から打ち明けていれば
答えもすんなりと示せるが、最終目標が何かしらの理由で隠れている。
肝心な部分が機密事項として明かしてもらえずにその上で参加しろと
催促されるのだから脳内部の整理感も覚束なくて当然。
今まで起きた事故や事件で計画の頓挫より、
新たに始めようという何かについて未だに引っ掛かりを覚える。
(私は・・・何をためらっている?)
答えを先送りにし続けてきた自身すらも何故か乗り気になれず、
所長にハッキリとYes,Noを言っていない。
いや、ためらっているのは単なる納得に応じた話ではないから。
生物について追究しに来たのは御門違いで、あくまでも脳内の分野。
何やら少し事情がおかしなところがあると今になって思い始めた。
当初はシンプルに自身の研究のために来国してきた。
そこに初めての出会い頭で隔離政策の話をもちだされて、
得意分野すら分からずに彼の都合が交えて含まれてゆく。
仮に参加しても、今の研究を継続させてもらえるのか不明。
何度かうかがっても“可能かもしれない”の連続ばかりに、
私の都合と計画にかみ合わせが一致しにくいゆえ、
こうして何も言えずに時間だけが過ぎてゆく。
ダニエルとアリシアはそれぞれの研究を行っていて、
私もしばらく顔を合わせる機会もなく身を置いている。
ブレイントラスト、本当に複雑な事情が漂う奇妙な組織。
それがここに居るべき自分の道なのか、専攻として大脳生理学を
究めにきたはずが、ここまで話が飛躍するとは一分もない。
自らを推進すべき方針など、どこ吹く風だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「この印籠が目に入らぬかぁ!?」」
「「ハハーッ!」」
「「カッカッカ!」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ピッ
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「この国の歴史では、かつて全ての囚人を看る
全展望監視システムという画期的な――」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
気晴らしにTVを付けて観るも、集団性を意識させる様なものばかり。
俗世なのか、予算が足りないのか、個とは無縁な
今の自分と相反する感性を見せられているようだ。
大衆とは平均、意識が高い内容や生真面目なものは受け入れにくく、
お約束的な展開や締めくくりにこだわる、つまり分かりやすくだ。
ただ、全ての番組がそうとも限らない。一部のチャンネルは科学や歴史に
触れているものもあるので明晰な者でもモニターを意識できる。
どこもかしこも満足感が得られずに胴体をモゾモゾすると、
何をしてるんだろうとリアクションもなく隣で寝そべっている
人間の仕草に興味をもっていそうなお供の視線に気付いた。
ジ~ッ
「ん、眠れないのか?」
レオは添い寝しつつも、こちらを見ている。
TVの様子など分かるはずもなく、関心事はいつも身近にいるものだろう。
身近に観るとライオンの眼は鋭くて怖い。
だが、動物の目はクリクリしてて大きいものだ。
数年前にアイザックが言っていた独特な表現がそうか、
“瞳に吸い込まれる”というが、今は“キャラ性”を好む
この国の人の気持ちがよく理解できるような気がする。
この子はただの動物ではなく猛獣、危険性物に指定された存在なのに
私も恐怖心を感じずに襲われる不安の一つもなく一緒にいる。
最初に跳びかかられた時に驚いた時からまったく襲撃を受ける気配もなく、
我が子と同然なまでに違和感すらもたずに生活。
丸く、大きいものは人の心を癒す効果があるのか。
この子はライオン、特権もなければ一緒に暮らせる事すらないはず。
(しかし、異種との共存はいつまで経とうと解決できない。
文化の隔離、どうあがいても交わらぬ)
かつて自分が言った言葉を思い出していた。
この国の多様な文化があるにもかかわらず、社会に定められた範囲で
激しい陣取りが見えなくとも交わらずに平衡を保つ。
大した目的がなくともただ、なんとなくの状態のまま存在して
メディアを利用したり、アピールしたり表現だけは行う。
でも、お互いに資源は意味なくただ淡々と消費し合っている。
その果てはどうなってしまうのだろうか。
はたまた交われずに終わってしまうのか。
アリシアの言っていた資源摩擦の言葉が今になって重要視を誘うくらい、
砂漠化する規模へ変わる様な影響より印象濃く思えてくる。
いつも深く思慮し続ければ哲学の範囲に入ってしまう。
脳内で考えていずれ終わり、外部への影響も干渉もなし。
こうやっていつも眠れなくなるのは追求者の性でもあるが、
就寝も生物の習慣。ある意味逆行状態であまり良くない事だ。
そんな1人と1匹が寝そべっていると。
ギシッ
「「ぐっ!?」」
急に脚が軋む、運動も十分まともに行っていたわけではなかったが、
最近の業務も急いでいたせいでランニングを怠っていた。
この子も唖然としている、一瞬何が起きたのか不思議そうな顔。
ライオンですら人間の異常行動に関心をもたれるのも滑稽だろう。
しかし、医者に診てもらった方が良いかもしれない。
運動していた時もたまにこういった現象があって、
同じ箇所ばかり痛くなるのも通常と考えてもありえない。
念のため、時間に都合のある明日に病院へ行く事にした。
翌日 ブレイントラスト附属病院
「骨軟化症の恐れがあります、重症には至っておりませんが
いずれ歩けなくなる程の痛みや歩行不能状態に陥る恐れが出ると」
医師から告げられた言葉は軋みの根本がまさにあるものだった。
私に再び身体への負担がのしかかり、下部より活動の妨げが発生。
いつ起きたのか、痛みだけで発覚したそれは新たな問題となる。
「私は何故そのような症状に?」
「発症は分かりません、生まれつきでなければ慢性的からもたらされて
ありえるならば、運動不足から引き起こされたとしか」
入院する程度ではないようで何回か通院する必要があるとの事。
私もまったく自覚症状が分からなかっただけに、
ここまで起こるなど想定しきれていなかった。
神経症の完治が終わったら今度は脚、いつも巡るのは病気も同じか。
私は病との縁を切る事ができない関係のようだ。
古宿 中層階街路
今日は買い出しのために街に出る、帰宅してから気が付いて
もう一度外出し直して灰色と銀色の間を巡って歩く。
病院もそうだが食材も切らして購入しなければならなかった。
再び歩きだしてから気付いたが、少し体の挙動が悪くなった気がする。
いつもメンバー達と外食ばかりしていて生活リズムも少々無理が生じたか、
自炊する機会もろくになかったので、栄養が偏らぬよう自分で作る事にした。
レオの豪勢なエサもすぐに無くなりがちに猛獣専用のエサですら
周囲のスーパーにあるはずもなく自身で工夫して料理してきた。
ずっとついてきたがる性格も変わらず、一緒に食料を買いに街に繰り出す。
(入口はこの裏だったか)
店の入り口は裏側の道にあるようだ。すぐに行こうとするも、
さすがにこの子を店内に入れて行けず、外で待つ様に言いきかせ、
できるだけ目立たない所を選んで横の路地に足を踏み入れた。
(この国は建物の隙間な道ばかりだな)
大陸そのものが狭いので仕方がない。それを解決するために
エリア区切りは保ちつつ縦長の形状にする手段を選んだのだから。
都会とはあくまでも交流する密集地の現状なのだと思いげに
歩いて店内に入る直前、後ろから声をかけられた。
「おい」
「お前達は・・・?」
この間逮捕された男の仲間達だ。
報復に来たのか、2人は自分に因縁をつけてきた。
「テメーだろ、俺らの仲間チクった奴はよ?」
「当然の報いだ、動物達を手にかけた代償は受けるべきだろう」
「テメーに、んなこと関係ねぇだろ?
店で仲間捕まえたこと自慢げに語っていやがって」
「私は生物管理所の一関係者だが?
では、君は何の道理で、何の関係で襲撃した?」
「お国の上が悪ィんだ、俺らシカトして金も仕事も回さねェ。
命もねえボットばっか相手して生身のモンにゃお払い箱だ!」
「それで無関係なものを相手にしたのか?
生身が生身を襲い、命を奪う行為が自己主張か?」
「だから、ちっとシュチョーしてやった。
もうちょっと底辺のおれらにおめぐみしてくれ~ってな。
まあ、マジで生き物をヤルつもりはなかったんだけどなぁ~。
俺たちゃ、ただ花火したかったんだよォ?」
「火遊びであんな惨事を引き起こしたのか。
お前達の人間性が知れているな」
「んだとコノヤロウ!」
ガスッ
「ぐっ!?」
男もつかみかかって殴りつけてくる。
その騒ぎを聞きつけた住民達もやって来ていた。
「「誰か・・・」」
これら2人を止めてくれるだろう。
だが、その期待とはまったく異なる行為を始めた住民達だった。
「おい、ケンカしてるぞー!」
「ちょ、マジかよ!? スマホスマホ♪」
「イヒヒ」
ジーッ
「!?」
市民達は携帯機で撮影し始める。
その様をネットで公開する気か、じっくりと光景を眺めていた。
観客に成り切っているのか、観察を楽しんでいるかの様に観ているのみ。
(なんだ、なんなのだ彼らは・・・?)
あたかもイベントの1つとばかり、下品な声をあげて笑い続ける。
善悪の概念などまったくもたずに円陣を囲う様にまとわりつく。
囃し立てる様子も気にせず、目前の相手のみ殴りつける。
そして、直に手を出してくる2人は容赦なく余りある物を見せる。
「テメーも道連れにしてやるよ!」
男は懐から銃を取り出して、こちらに突きつけた。
金属の筒が真っ直ぐに向けられている。
ここで終わるのか、そう覚悟した時だ。
「ガルルルル!」
ガヴッ ムシャ
「レオッ!?」
レオが駆けつけてきて、自分を守ろうと飛びかかった。
1人の暴漢に喰らい付き、市民達は現れた猛獣に怯えて逃げ出す。
「ラララライオンだあああああああああああ!!!」
「ひいいいいぃぃぃ!」
「放せよテメーこの野郎ぉ!」
ガスッ ゴスッ
人の腕力などものともせずにレオが男1人に喰いついた。
もう1人の男はレオを鉄パイプで何度も殴打した。
そして、内出血を起こしてついにグッタリと床に倒れて横たわってしまう。
カシャン
「!?」
男が落とした一丁の銃、黒い塊が瞬時に視界に留まる。
レオも立ち上がって動けずに1人の動きを止めてそこで終わってしまう。
次をどうすべきか、まだ残る1人の凶暴さはそこに残り続ける。
自分はとっさにそれを拾いそして男に向かって構えた。
意識する猶予もなく不意に叫びながらそれに向かって引き金を引く。
「う"あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
ズドンズドンズドンズドンズドン
薬莢が飛び散る、消炎の臭いが辺りに立ち込めてきた。
銃を放った、ただ、レオを助けるために、今を生き抜くために。
もう何発撃ったかなど覚えていなかった。
私が手にしたのは母国でも嫌と言うまで目にしてきた物。
使い方など理解済みで、無我夢中だったが支離滅裂な状態だ。
「「わたしがうった・・・わたしがやった」」
2の塊は静まり、ピクリとも動かなくなる。
鉛玉の連続により、人とは言えない状態で惨状へと変わっていた。
だが、大切な家族が危篤な状態で自身の心配などしていられない。
「レオ・・・起きてくれ・・・レオォォ!」
カシャン
銃を放り捨てて横たわる子のそばに駆け寄る。
下手に動かそうものなら悪化させてしまうだろう、
先の争乱で携帯も壊されていて、わざわざ戻るわけにもいかずに
命の喪失の確認ができない様子を見放したくない。
だからといってここに居続けようと処置は救命の1つもできずに、
自力で運べられるわけもないのでただうろたえるしかできなかった。
「ここにいたのね、あんた大丈夫なの!?」
近場にいたアメリアが駆けつけてきた。
彼女もたまたま付近で買い物をしていて私の姿を見たようだ。
レオはもう虫の息、今から動物病院に連れて行っても間に合う保証がない。
彼女を観た自分の中に偶像という思念が脳内を巡り始めた。
まだ助かる方法はある、アンドロイドバイオニクスで別の素体に移せば
肉体を捨てても意識だけは死なせずにこの世界に留まらせられる。
あの暴動で助かった命を絶対にこんな所で終わらせるわけにはいかない。
悩む猶予すらなく、私はレオを精神移植させる決意を固めた。
この子の存在を簡単に消えさせたくはない。
「アメリア君、すぐに精神移植できるか!?」
「すぐに連れて行くわ、待ってて!」
間のやりとりに多くの言葉は交わしていない。
彼女にこの子を託そうと祈願する。他に方法がなかった。
先に救急車が来てレオは別ルートでの看護のために運ばれてゆく。
その後、警察もやって来て自分は逮捕された。
警察署 留置所
連行され、付近にあった留置所の部屋の中でうつむいていた。
意気消失しかけている。当たりは暗く、見えるのは牢屋だけ。
鉄格子と空間のコントラスト、白、灰色、黒と飾り気のない色ばかりに
人生で幾度も観てきた光景。
当然、人を罰する設備で色合いなんて考慮されずに造られている。
何度こんなものを何度も見続けさせるのか。
チュー チュー
「・・・・・・」
ネズミが数匹、食べ物を物色している。
衛生管理の悪い場所、文明の発達とは真逆の所は外と異なる薄暗さで
あたかもならず者に相応しく未来を閉ざされた有様。
いや、発達などする必要すらないから旧時代の外観だろう。
利益追求の点のみ見栄えを良くさせようとするのも当然の行いか、
公然の目に入らない世界は発展途上国と変わらない。
あまり大きな音も聴こえていないのにとても耳障りに思えて、
私は地面に落ちていた何かの破片を投げつける。
そして、そいつらの逃走を荒んだ眼で見ている自分がいた。
(結局はコイツらと同じ存在なのか)
ニンゲンなどネズミの時からなんら進化していない。
集団で喰い尽し、身が危うくなればすぐに散らすかの如く
逃走する狡猾さは害以外のなにものでもない。
自国にいた時、ストレスでついアイザックに漏らしてしまった
失言がまざまざと経験させられるとは思いもよらなかった。
上層で生活していた者が突然下層に落とされて目に入る側が変化。
頭が痛い、人の命を奪った感覚が生温い嫌悪感と同時に
背筋に冷たい緊張感が体内を行き来している。
ああするしかなかった、他に方法なんてなかった。
あの状況を克服する術は手元にあった銃を引くしかなかったのだ。
「「私は・・・同属を消した失格者なのか・・・私が」」
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
「ここにいたのか、大丈夫かね?」
「「所長・・・」」
言い様のない惑いの中、コウシ所長が来てくれた。
いつの間にか鉄格子の前にいて、歩いてきた音すら拾えず。
自分の身柄は保釈してくれるようだ。
檻越しに彼は事情を話してくれる。
「今回は緊急避難という事で懲役はない様だ。
弁護が通じて、正当防衛が認められた」
「レオは・・・あの子は無事なんですか!?」
「大丈夫だ。今、アメリア君が実施している。
途中報告までだが、AUROへの移入も問題ないそうだ」
レオの安否を確認して、最も不安な点だけは和らげられる。
周囲のサポートに守られて最悪のケースだけは回避、
数分後に看守が来て金属の扉が開かれて解放された。
自身が保釈されても心配事はほとんど向こうだけ思い続けてゆく。
あの子は新たな体に生まれ変わろうとする。
上層階の恩恵をここに1つ受けた縁に感謝する。
そのかたわら、下層階の現実を身をもって味わった光景に
湿り気の漂う雰囲気を重ねて改めて所長は自分に諭した。
「もはや、ただの教育では人間を制御する事は無理だ。
幼少時に打ち付けられたシナプスの形は二度と変えられん。
これで分かっただろう?」
「「・・・・・・・・・はい」」
ブレイントラスト 生体工学研究室
戻った私はすぐにアメリアのいる研究室へ行く。
走ってはならない廊下もつい速度を上げたくなるくらいに、
脚の軋みもよそに早歩きで現場へ急ぎたくなって向かってゆく。
研究室前のランプが赤から緑になっている、中での手術はすでに終わって
大きな音もなくひっそりとしていた。中で何が行われていたのか不明、
AUROの仕様の末までは推測できる事すら不可。
ここから先は関係者以外立ち入り禁止、専門という境界の間を側に
同じ組織のルールを守らなければならない。
到着して間もなく扉が開き、彼女が先に出てくる。
「アメリア君、レオは!?」
「移植成功、うまくいったわ、ほら」
「「レオ・・・」」
レオはゆっくりとこちらにやって来る。
眼は蒼く、全身真っ白なボディに穢れがないと思う程に
さらに前よりも一回り大きくなっていた。
ここまで大きな種類はいないはず、外見の相まってどこかで観た
神々しい姿に目が潤いをもたらしている。
アメリアはサイズや色の都合まで悠長に設計している時間もなく、
以前と等しい身体まで合わせていられなかったと言う。
「体長4mと前より大きくなっちゃったわね、
コウシ所長が事前に用意してもらったのがこれしかなくて」
「「ああ、レオ。たくましい体を持てて良かった・・・」」
仮初のボディといえど、生きているのは変わらない。
有機物が無機物に成ろうと、目前にいるのは間違いなくレオそのものだ。
感謝の極みに、お礼を尽くしても無像に尽くしきれない。
感涙しそうになるも、こんな所で周囲に見せるわけにもいかず。
最初の対象者はアメリア、まずは彼女に顔を向けて発言した。
「君がこの組織に所属したことに心から感謝する。
今は・・・こんなありふれた事しか言えない・・・ありがとう!」
「あたしに宿っていた悩み、表情の提案をしてくれたお返しよ。
いや、そうでなくてもちゃんと助けるつもりだったけど」
「まだ、目の前にいるこの子の姿が幻ではと思ってしまう。
現実、事実なのだな・・・もはや形と心は以前までの常識を超えて。
こんな私達のために・・・やはり何かを」
「別のお礼ね・・・じゃあ、今度こそデートでもしてもらおうかしら♪」
「構わない、エスコートスキルもないが君が望む所があるなら。
私の能力が及ぶならば、下調べでも何でもして・・・ああ、そうだ。
こちらから、もっと出来る限り恩返しをさせてもらおう」
「あははは、あんたらしい。でも、今は問題あるから無理よ。
またいつか、事が治まってからで・・・期待しているわ」
とても周囲に触れたような内容ではないものの、私もつい昂まりの
勢いでつい省みずに声を大きくしがちに身内話を放ってしまう。
そんな痴情はともかく、最悪ケースを回避できて事は治める。
こうして、レオは身体を入れ替えて一命を取り留めた。
様々な方面から知識を紡ぎ、ありえない不可能を可能にする。
これぞ科学の骨頂で最大の脅威すら解決を図る。
新たに転移した動物が今ここに誕生したのだ。
有機物が無機物へと遂げた外観の動きは実際の生物とほとんど変わらず。
未知との遭遇と言いたくなろうと、私にとっては“再会”で、
フレームと色彩が変化した以外に何も問題など生じない。
まさに別次元からの来訪者と例えたくなるが、今回で終わらずに
この子が上位者として君臨する日はそれ程に遠くなかった。
(例の答えを聞いてからか・・・)
ベッドで寝ながら所長の言葉を浮かべている。
隔離政策という上層階の誘い、失った身体の代行をどこかで実行する
所長のプロジェクトの誘いの答えを未だに決めかねていた。
生物達の楽園、研究の推移を結集させて起こそうとする何かに
いつまでも決意表明の1つも見出せない。
一体何をするつもりなのか、消失した生物をクリエイトソート構築で
復元しようというからくりの真意が理解できないのだ。
所長も所長で何かを隠している節があり、概要を最初から打ち明けていれば
答えもすんなりと示せるが、最終目標が何かしらの理由で隠れている。
肝心な部分が機密事項として明かしてもらえずにその上で参加しろと
催促されるのだから脳内部の整理感も覚束なくて当然。
今まで起きた事故や事件で計画の頓挫より、
新たに始めようという何かについて未だに引っ掛かりを覚える。
(私は・・・何をためらっている?)
答えを先送りにし続けてきた自身すらも何故か乗り気になれず、
所長にハッキリとYes,Noを言っていない。
いや、ためらっているのは単なる納得に応じた話ではないから。
生物について追究しに来たのは御門違いで、あくまでも脳内の分野。
何やら少し事情がおかしなところがあると今になって思い始めた。
当初はシンプルに自身の研究のために来国してきた。
そこに初めての出会い頭で隔離政策の話をもちだされて、
得意分野すら分からずに彼の都合が交えて含まれてゆく。
仮に参加しても、今の研究を継続させてもらえるのか不明。
何度かうかがっても“可能かもしれない”の連続ばかりに、
私の都合と計画にかみ合わせが一致しにくいゆえ、
こうして何も言えずに時間だけが過ぎてゆく。
ダニエルとアリシアはそれぞれの研究を行っていて、
私もしばらく顔を合わせる機会もなく身を置いている。
ブレイントラスト、本当に複雑な事情が漂う奇妙な組織。
それがここに居るべき自分の道なのか、専攻として大脳生理学を
究めにきたはずが、ここまで話が飛躍するとは一分もない。
自らを推進すべき方針など、どこ吹く風だ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「この印籠が目に入らぬかぁ!?」」
「「ハハーッ!」」
「「カッカッカ!」」
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ピッ
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「「この国の歴史では、かつて全ての囚人を看る
全展望監視システムという画期的な――」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
気晴らしにTVを付けて観るも、集団性を意識させる様なものばかり。
俗世なのか、予算が足りないのか、個とは無縁な
今の自分と相反する感性を見せられているようだ。
大衆とは平均、意識が高い内容や生真面目なものは受け入れにくく、
お約束的な展開や締めくくりにこだわる、つまり分かりやすくだ。
ただ、全ての番組がそうとも限らない。一部のチャンネルは科学や歴史に
触れているものもあるので明晰な者でもモニターを意識できる。
どこもかしこも満足感が得られずに胴体をモゾモゾすると、
何をしてるんだろうとリアクションもなく隣で寝そべっている
人間の仕草に興味をもっていそうなお供の視線に気付いた。
ジ~ッ
「ん、眠れないのか?」
レオは添い寝しつつも、こちらを見ている。
TVの様子など分かるはずもなく、関心事はいつも身近にいるものだろう。
身近に観るとライオンの眼は鋭くて怖い。
だが、動物の目はクリクリしてて大きいものだ。
数年前にアイザックが言っていた独特な表現がそうか、
“瞳に吸い込まれる”というが、今は“キャラ性”を好む
この国の人の気持ちがよく理解できるような気がする。
この子はただの動物ではなく猛獣、危険性物に指定された存在なのに
私も恐怖心を感じずに襲われる不安の一つもなく一緒にいる。
最初に跳びかかられた時に驚いた時からまったく襲撃を受ける気配もなく、
我が子と同然なまでに違和感すらもたずに生活。
丸く、大きいものは人の心を癒す効果があるのか。
この子はライオン、特権もなければ一緒に暮らせる事すらないはず。
(しかし、異種との共存はいつまで経とうと解決できない。
文化の隔離、どうあがいても交わらぬ)
かつて自分が言った言葉を思い出していた。
この国の多様な文化があるにもかかわらず、社会に定められた範囲で
激しい陣取りが見えなくとも交わらずに平衡を保つ。
大した目的がなくともただ、なんとなくの状態のまま存在して
メディアを利用したり、アピールしたり表現だけは行う。
でも、お互いに資源は意味なくただ淡々と消費し合っている。
その果てはどうなってしまうのだろうか。
はたまた交われずに終わってしまうのか。
アリシアの言っていた資源摩擦の言葉が今になって重要視を誘うくらい、
砂漠化する規模へ変わる様な影響より印象濃く思えてくる。
いつも深く思慮し続ければ哲学の範囲に入ってしまう。
脳内で考えていずれ終わり、外部への影響も干渉もなし。
こうやっていつも眠れなくなるのは追求者の性でもあるが、
就寝も生物の習慣。ある意味逆行状態であまり良くない事だ。
そんな1人と1匹が寝そべっていると。
ギシッ
「「ぐっ!?」」
急に脚が軋む、運動も十分まともに行っていたわけではなかったが、
最近の業務も急いでいたせいでランニングを怠っていた。
この子も唖然としている、一瞬何が起きたのか不思議そうな顔。
ライオンですら人間の異常行動に関心をもたれるのも滑稽だろう。
しかし、医者に診てもらった方が良いかもしれない。
運動していた時もたまにこういった現象があって、
同じ箇所ばかり痛くなるのも通常と考えてもありえない。
念のため、時間に都合のある明日に病院へ行く事にした。
翌日 ブレイントラスト附属病院
「骨軟化症の恐れがあります、重症には至っておりませんが
いずれ歩けなくなる程の痛みや歩行不能状態に陥る恐れが出ると」
医師から告げられた言葉は軋みの根本がまさにあるものだった。
私に再び身体への負担がのしかかり、下部より活動の妨げが発生。
いつ起きたのか、痛みだけで発覚したそれは新たな問題となる。
「私は何故そのような症状に?」
「発症は分かりません、生まれつきでなければ慢性的からもたらされて
ありえるならば、運動不足から引き起こされたとしか」
入院する程度ではないようで何回か通院する必要があるとの事。
私もまったく自覚症状が分からなかっただけに、
ここまで起こるなど想定しきれていなかった。
神経症の完治が終わったら今度は脚、いつも巡るのは病気も同じか。
私は病との縁を切る事ができない関係のようだ。
古宿 中層階街路
今日は買い出しのために街に出る、帰宅してから気が付いて
もう一度外出し直して灰色と銀色の間を巡って歩く。
病院もそうだが食材も切らして購入しなければならなかった。
再び歩きだしてから気付いたが、少し体の挙動が悪くなった気がする。
いつもメンバー達と外食ばかりしていて生活リズムも少々無理が生じたか、
自炊する機会もろくになかったので、栄養が偏らぬよう自分で作る事にした。
レオの豪勢なエサもすぐに無くなりがちに猛獣専用のエサですら
周囲のスーパーにあるはずもなく自身で工夫して料理してきた。
ずっとついてきたがる性格も変わらず、一緒に食料を買いに街に繰り出す。
(入口はこの裏だったか)
店の入り口は裏側の道にあるようだ。すぐに行こうとするも、
さすがにこの子を店内に入れて行けず、外で待つ様に言いきかせ、
できるだけ目立たない所を選んで横の路地に足を踏み入れた。
(この国は建物の隙間な道ばかりだな)
大陸そのものが狭いので仕方がない。それを解決するために
エリア区切りは保ちつつ縦長の形状にする手段を選んだのだから。
都会とはあくまでも交流する密集地の現状なのだと思いげに
歩いて店内に入る直前、後ろから声をかけられた。
「おい」
「お前達は・・・?」
この間逮捕された男の仲間達だ。
報復に来たのか、2人は自分に因縁をつけてきた。
「テメーだろ、俺らの仲間チクった奴はよ?」
「当然の報いだ、動物達を手にかけた代償は受けるべきだろう」
「テメーに、んなこと関係ねぇだろ?
店で仲間捕まえたこと自慢げに語っていやがって」
「私は生物管理所の一関係者だが?
では、君は何の道理で、何の関係で襲撃した?」
「お国の上が悪ィんだ、俺らシカトして金も仕事も回さねェ。
命もねえボットばっか相手して生身のモンにゃお払い箱だ!」
「それで無関係なものを相手にしたのか?
生身が生身を襲い、命を奪う行為が自己主張か?」
「だから、ちっとシュチョーしてやった。
もうちょっと底辺のおれらにおめぐみしてくれ~ってな。
まあ、マジで生き物をヤルつもりはなかったんだけどなぁ~。
俺たちゃ、ただ花火したかったんだよォ?」
「火遊びであんな惨事を引き起こしたのか。
お前達の人間性が知れているな」
「んだとコノヤロウ!」
ガスッ
「ぐっ!?」
男もつかみかかって殴りつけてくる。
その騒ぎを聞きつけた住民達もやって来ていた。
「「誰か・・・」」
これら2人を止めてくれるだろう。
だが、その期待とはまったく異なる行為を始めた住民達だった。
「おい、ケンカしてるぞー!」
「ちょ、マジかよ!? スマホスマホ♪」
「イヒヒ」
ジーッ
「!?」
市民達は携帯機で撮影し始める。
その様をネットで公開する気か、じっくりと光景を眺めていた。
観客に成り切っているのか、観察を楽しんでいるかの様に観ているのみ。
(なんだ、なんなのだ彼らは・・・?)
あたかもイベントの1つとばかり、下品な声をあげて笑い続ける。
善悪の概念などまったくもたずに円陣を囲う様にまとわりつく。
囃し立てる様子も気にせず、目前の相手のみ殴りつける。
そして、直に手を出してくる2人は容赦なく余りある物を見せる。
「テメーも道連れにしてやるよ!」
男は懐から銃を取り出して、こちらに突きつけた。
金属の筒が真っ直ぐに向けられている。
ここで終わるのか、そう覚悟した時だ。
「ガルルルル!」
ガヴッ ムシャ
「レオッ!?」
レオが駆けつけてきて、自分を守ろうと飛びかかった。
1人の暴漢に喰らい付き、市民達は現れた猛獣に怯えて逃げ出す。
「ラララライオンだあああああああああああ!!!」
「ひいいいいぃぃぃ!」
「放せよテメーこの野郎ぉ!」
ガスッ ゴスッ
人の腕力などものともせずにレオが男1人に喰いついた。
もう1人の男はレオを鉄パイプで何度も殴打した。
そして、内出血を起こしてついにグッタリと床に倒れて横たわってしまう。
カシャン
「!?」
男が落とした一丁の銃、黒い塊が瞬時に視界に留まる。
レオも立ち上がって動けずに1人の動きを止めてそこで終わってしまう。
次をどうすべきか、まだ残る1人の凶暴さはそこに残り続ける。
自分はとっさにそれを拾いそして男に向かって構えた。
意識する猶予もなく不意に叫びながらそれに向かって引き金を引く。
「う"あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
ズドンズドンズドンズドンズドン
薬莢が飛び散る、消炎の臭いが辺りに立ち込めてきた。
銃を放った、ただ、レオを助けるために、今を生き抜くために。
もう何発撃ったかなど覚えていなかった。
私が手にしたのは母国でも嫌と言うまで目にしてきた物。
使い方など理解済みで、無我夢中だったが支離滅裂な状態だ。
「「わたしがうった・・・わたしがやった」」
2の塊は静まり、ピクリとも動かなくなる。
鉛玉の連続により、人とは言えない状態で惨状へと変わっていた。
だが、大切な家族が危篤な状態で自身の心配などしていられない。
「レオ・・・起きてくれ・・・レオォォ!」
カシャン
銃を放り捨てて横たわる子のそばに駆け寄る。
下手に動かそうものなら悪化させてしまうだろう、
先の争乱で携帯も壊されていて、わざわざ戻るわけにもいかずに
命の喪失の確認ができない様子を見放したくない。
だからといってここに居続けようと処置は救命の1つもできずに、
自力で運べられるわけもないのでただうろたえるしかできなかった。
「ここにいたのね、あんた大丈夫なの!?」
近場にいたアメリアが駆けつけてきた。
彼女もたまたま付近で買い物をしていて私の姿を見たようだ。
レオはもう虫の息、今から動物病院に連れて行っても間に合う保証がない。
彼女を観た自分の中に偶像という思念が脳内を巡り始めた。
まだ助かる方法はある、アンドロイドバイオニクスで別の素体に移せば
肉体を捨てても意識だけは死なせずにこの世界に留まらせられる。
あの暴動で助かった命を絶対にこんな所で終わらせるわけにはいかない。
悩む猶予すらなく、私はレオを精神移植させる決意を固めた。
この子の存在を簡単に消えさせたくはない。
「アメリア君、すぐに精神移植できるか!?」
「すぐに連れて行くわ、待ってて!」
間のやりとりに多くの言葉は交わしていない。
彼女にこの子を託そうと祈願する。他に方法がなかった。
先に救急車が来てレオは別ルートでの看護のために運ばれてゆく。
その後、警察もやって来て自分は逮捕された。
警察署 留置所
連行され、付近にあった留置所の部屋の中でうつむいていた。
意気消失しかけている。当たりは暗く、見えるのは牢屋だけ。
鉄格子と空間のコントラスト、白、灰色、黒と飾り気のない色ばかりに
人生で幾度も観てきた光景。
当然、人を罰する設備で色合いなんて考慮されずに造られている。
何度こんなものを何度も見続けさせるのか。
チュー チュー
「・・・・・・」
ネズミが数匹、食べ物を物色している。
衛生管理の悪い場所、文明の発達とは真逆の所は外と異なる薄暗さで
あたかもならず者に相応しく未来を閉ざされた有様。
いや、発達などする必要すらないから旧時代の外観だろう。
利益追求の点のみ見栄えを良くさせようとするのも当然の行いか、
公然の目に入らない世界は発展途上国と変わらない。
あまり大きな音も聴こえていないのにとても耳障りに思えて、
私は地面に落ちていた何かの破片を投げつける。
そして、そいつらの逃走を荒んだ眼で見ている自分がいた。
(結局はコイツらと同じ存在なのか)
ニンゲンなどネズミの時からなんら進化していない。
集団で喰い尽し、身が危うくなればすぐに散らすかの如く
逃走する狡猾さは害以外のなにものでもない。
自国にいた時、ストレスでついアイザックに漏らしてしまった
失言がまざまざと経験させられるとは思いもよらなかった。
上層で生活していた者が突然下層に落とされて目に入る側が変化。
頭が痛い、人の命を奪った感覚が生温い嫌悪感と同時に
背筋に冷たい緊張感が体内を行き来している。
ああするしかなかった、他に方法なんてなかった。
あの状況を克服する術は手元にあった銃を引くしかなかったのだ。
「「私は・・・同属を消した失格者なのか・・・私が」」
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
生物失格生物失格生物失格
「ここにいたのか、大丈夫かね?」
「「所長・・・」」
言い様のない惑いの中、コウシ所長が来てくれた。
いつの間にか鉄格子の前にいて、歩いてきた音すら拾えず。
自分の身柄は保釈してくれるようだ。
檻越しに彼は事情を話してくれる。
「今回は緊急避難という事で懲役はない様だ。
弁護が通じて、正当防衛が認められた」
「レオは・・・あの子は無事なんですか!?」
「大丈夫だ。今、アメリア君が実施している。
途中報告までだが、AUROへの移入も問題ないそうだ」
レオの安否を確認して、最も不安な点だけは和らげられる。
周囲のサポートに守られて最悪のケースだけは回避、
数分後に看守が来て金属の扉が開かれて解放された。
自身が保釈されても心配事はほとんど向こうだけ思い続けてゆく。
あの子は新たな体に生まれ変わろうとする。
上層階の恩恵をここに1つ受けた縁に感謝する。
そのかたわら、下層階の現実を身をもって味わった光景に
湿り気の漂う雰囲気を重ねて改めて所長は自分に諭した。
「もはや、ただの教育では人間を制御する事は無理だ。
幼少時に打ち付けられたシナプスの形は二度と変えられん。
これで分かっただろう?」
「「・・・・・・・・・はい」」
ブレイントラスト 生体工学研究室
戻った私はすぐにアメリアのいる研究室へ行く。
走ってはならない廊下もつい速度を上げたくなるくらいに、
脚の軋みもよそに早歩きで現場へ急ぎたくなって向かってゆく。
研究室前のランプが赤から緑になっている、中での手術はすでに終わって
大きな音もなくひっそりとしていた。中で何が行われていたのか不明、
AUROの仕様の末までは推測できる事すら不可。
ここから先は関係者以外立ち入り禁止、専門という境界の間を側に
同じ組織のルールを守らなければならない。
到着して間もなく扉が開き、彼女が先に出てくる。
「アメリア君、レオは!?」
「移植成功、うまくいったわ、ほら」
「「レオ・・・」」
レオはゆっくりとこちらにやって来る。
眼は蒼く、全身真っ白なボディに穢れがないと思う程に
さらに前よりも一回り大きくなっていた。
ここまで大きな種類はいないはず、外見の相まってどこかで観た
神々しい姿に目が潤いをもたらしている。
アメリアはサイズや色の都合まで悠長に設計している時間もなく、
以前と等しい身体まで合わせていられなかったと言う。
「体長4mと前より大きくなっちゃったわね、
コウシ所長が事前に用意してもらったのがこれしかなくて」
「「ああ、レオ。たくましい体を持てて良かった・・・」」
仮初のボディといえど、生きているのは変わらない。
有機物が無機物に成ろうと、目前にいるのは間違いなくレオそのものだ。
感謝の極みに、お礼を尽くしても無像に尽くしきれない。
感涙しそうになるも、こんな所で周囲に見せるわけにもいかず。
最初の対象者はアメリア、まずは彼女に顔を向けて発言した。
「君がこの組織に所属したことに心から感謝する。
今は・・・こんなありふれた事しか言えない・・・ありがとう!」
「あたしに宿っていた悩み、表情の提案をしてくれたお返しよ。
いや、そうでなくてもちゃんと助けるつもりだったけど」
「まだ、目の前にいるこの子の姿が幻ではと思ってしまう。
現実、事実なのだな・・・もはや形と心は以前までの常識を超えて。
こんな私達のために・・・やはり何かを」
「別のお礼ね・・・じゃあ、今度こそデートでもしてもらおうかしら♪」
「構わない、エスコートスキルもないが君が望む所があるなら。
私の能力が及ぶならば、下調べでも何でもして・・・ああ、そうだ。
こちらから、もっと出来る限り恩返しをさせてもらおう」
「あははは、あんたらしい。でも、今は問題あるから無理よ。
またいつか、事が治まってからで・・・期待しているわ」
とても周囲に触れたような内容ではないものの、私もつい昂まりの
勢いでつい省みずに声を大きくしがちに身内話を放ってしまう。
そんな痴情はともかく、最悪ケースを回避できて事は治める。
こうして、レオは身体を入れ替えて一命を取り留めた。
様々な方面から知識を紡ぎ、ありえない不可能を可能にする。
これぞ科学の骨頂で最大の脅威すら解決を図る。
新たに転移した動物が今ここに誕生したのだ。
有機物が無機物へと遂げた外観の動きは実際の生物とほとんど変わらず。
未知との遭遇と言いたくなろうと、私にとっては“再会”で、
フレームと色彩が変化した以外に何も問題など生じない。
まさに別次元からの来訪者と例えたくなるが、今回で終わらずに
この子が上位者として君臨する日はそれ程に遠くなかった。
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