246 / 280
4章 ブレイントラスト編
第8話 資源摩擦
しおりを挟む
3年後
あれから3年の歳月が流れた。
世界は外観そのものを然程変えずに着々と技術の粋のみ進められ、
人の流通と同時に叡知も大事を起こさず静かに流れてゆく。
内の1人である私も行っている研究職なのは変わらず、
立場もほとんど変わらずにメンバーとそれぞれながらも等しく究める。
このブレイントラストに身を置いてからは、
自国にない独自のセンスが身に付いている。
とはいえ、完璧という文字にいつまでも到達しきれない。
自分の実力、センスが磨かれて前進する手ごたえの実感は湧くが、
それでも何か物足りない自分がそこにいる。
(答えが未だ見つからない)
パラノイアの論文も書き上げていくが実質的でなく、
世間に影響を及ぼす程のあまり大きな成果とはいえない。
実生活は不便なく、すっかりこの国の雰囲気に慣れているもの、
住む世界という空気の感触にどことなく隔たりがある感じがする。
それに伴う問題もまたすぐ身近にあるのだが。
「博士、相変わらず大きなお供を連れてますね!」
「この子がどうしてもついてくるのでな。
悪気があるわけではないんだ」
「まるで親子みたいですね、微笑ましいです」
「アンタにとっちゃ、そう観えるのね。
あたしは犬の散歩かと思ったわよ」
アイザック、レイチェル、アメリアの印象を字で表すとこの通り。
メンバー達のそれぞれの印象をひっきりなしに教えられる。
レオはいつも自分と同伴するようになった。
部屋に置いておこうにも聞かず、どこにいてもついてきて
周りの研究者も度肝を抜かれた様に驚き、避けて通る者も少なからずいたが、
所長は止めようとしない。
そうまでして動物好きが高まる理由があるのか定かではない。
当然、突然襲い掛かったりしないよう電流発生首輪を装着させて
トラブルも起こさないよう人気の少ない上層階周辺に居る。
今のところ一度もスイッチは押した事がない。
好んでそんな事もしたくないし、被害も確かに起こすわけにもいかない。
生活圏、もとい生存圏があたかも限定的に縮まるかの様に、
気が付けば足を運ぶ場所もどこかしこそこら辺のみになってゆく。
ブレイントラスト ロビー
「「第3研修期限も迫っている、論文もまだ全部書けていない。
あと1週間以内に成果を上げなければぁ・・・」」
「「わたしにはまだ可能性があるぅ、特殊性こそ未来への貢献んんん。
テキストにある画一的記述をなぞるだけでは今後への発展経路たる
発見できないぃぃ。独創、ドクソウがもっと必要だ。
確定原理は物理と抽象の狭間にこそ未踏の存在がぁぁ」」
「「うぅ~ん、ドロイドはセルロースに反応しているのは確かなんだけど、
炭素や水素に反応する理由が分かんないや。
紙といった有機物に反応しているみたいだけど、
コードに書いてないものまでなんで応答してるんだか・・・」」
「「空間は無ではなく+-の集合体だァ。
偉大なるオーディン博士の思し召しは神の啓示そのもの、
宇宙への切り口を入れたチャンスを与えてもらったああぁぁ。
AURO粒子以外の物質も必ず存在するはず。
複素場電磁理論のどこかに・・・エアオオォォ」」
ブツブツ
次々とすれ違う研究者達の小言を耳に歩く。
昼食を済ませて戻った通路で多くの悩みと課題が混ざる。
一般の部である彼らは誰しも追い詰められた様な顔をしながら、
自身の今後を案じて気狂いを含めた小言を呟いていた。
成果を上げなければ解雇される。
それぞれの課題に勤しんで達成までの道のりの辛さがこうして分かる。
規定を成さなければ今後の保障が無くなるので無理もない。
月150万の高額報酬といえども見合った成果を要求されるので、
まさに一日たりとも妥協を許されぬ職務を活動し続けてゆく。
使命は同じく、大脳生理学の追究も果たさなければならない。
私は特待生とされてここにいる、これといった結果を出していないものの
期限も提示されておらずに自由気ままと身を置いてもらっていた。
(パラノイア、人に内在する精神状態を長年にわたって研究。
私の内より生じた現象も1つであったが、今はもう消去している。
今後の課題は再び見つけられるだろうか)
母国で始めた妄想性の追究の成果はすでにいくつか提出してきたが、
研究課題の内容も次第に減少の一途となってゆく。
レオとの出会いから自身の神経症状も無くなり、
時計の針が遅れる現象はもう失せてしまっている。
別にあの子のせいではなく、脳内の歪みを矯正してもらった
きっかけだったので良かっただけに過ぎなかった。
自身すら失った神経現象も、もはや題材にする動機もない。
メンバー達も次々と成果を上げ、私の方はこれといった大きなものもない。
大抵、成果というのは形を成した物の提示。
しかし、私の追究は精神に対する内容で現物は手前に生まれず。
求める拠り所をどう活かすべきか、また今後の課題にもなっていた。
ブレイントラスト上層階 テラス
昼食を終えて、休憩にと再びレオをここで一時を過ごす。
ほとんど人も通らないここは1人と1匹にとって過ごしやすく、
目に付きにくい側面なのでお誂え向きと言える所。
廊下のワイドウィンドウから外を観ながら東京の銀色群生を目に入れる。
一般的な感性で言うなら、単なる摩天楼シティ。
文明発達の推移が最もよく表れるエリアは東京であろう。
時折光明が外から見えるのが近代の象徴たる光景か。
放熱性アスファルトを地に、居住区を3階層に分別した機能的な仕様は
徹底された無駄を削いだ世界。
中層階より主に知識業が盛んに台頭して住んでいる。
製造業、メディア関連を中心とした価値ある職業は政府にとって
大きな財源の元へ換わる。そこは大昔から変わらず、目立つ事業だから
収入も多く得られて今の成り立ちを構築できたのだろう。
下層階は日照権をも剥奪された世界、低所得や肉体労働者の集う
朝昼でもライトを付けられて自然の感覚すら鈍る所の模様。
生物管理所すら襲った輩の根城、巣窟でもある。
ここ、上層階はブルーカード所有者で一部の職をもつ者だけが居住できる
セキュリティーが機能するはずが、所々で牽制を受けている。
推測ながら金権を握った何者かがくぐり抜けて侵入した線もありえると。
どういう訳か、アイザックがそのような事を言っていた。
何者かに殴打された事が数年前に遭ったようで危険な区域に行った
可能性もあるだろう。物好きな性格も相変わらずだ。
その他は衣食住を隙間なく整えられた様。
調べでは昔は農業生産が追い付かずに他国からの輸入頼りだったようで、
食料品を取り入れなければ生活もままならなかったそうだ。
超促成栽培技術が成功してから貿易形態も変革、生きるための全てをも
手に入れた今において独立形態とばかり成していった。
まるで連鎖反応の遅い核融合の様な自生産と消費がひとまとめになり、
太陽と同等の存在と思える様な規模に立たせてゆく。
最初に来国した時もそんな事を考えていた。
そこからどう変化、進化を遂げてゆくのか感慨深くなる。
ここに来てだいぶ経つが、別の点について気掛かりな事実も。
1つ気付いた事はここの国自体が優れているのではないようだ。
下層階の様がある点で理解できるが、教育制度が母国と比較しても
進まずに劣っている部分も後になってふつふつと気付いた。
まず、偏差値ナビより分布を確認しても優秀な箇所はほんの数%。
平均値とされる40~50が最も大きいのは共通ながら、
10~30と60~80が小さめなのが普通だが、
低い方の割合が年々増加しつつある。
勉強嫌いがいるのはいつでも同様なものの、時代が進むにつれて
知識否定派が増してゆく傾向によって効果が表れていない。
市民の全てがモラルを意識した慎ましい者とはいえず、
やはりどこの世界であろうと時代に追従できない者が生じる。
ブレイントラストも含めたここ、国の中枢部が洗練を図り続けて
上層階が異様なまでに合理的な配慮をする世界だったのだ。
(私は強制的学習でここに居るようなものだ。
あんな体験を“おかげさま”ととらえて良いのか・・・)
人差し指で額を支える。
そんな一部の優秀な者達がクリエイトしたものへ肖り、
事業の一環として街に配置されて扱われてゆく。
下部の者達が利用している事が利用されている節も感じたのは、
無数に従う者が多いゆえに発展、富裕層が生じたのか。
やはりこれ程までに優れた設備、研究者達が共に優秀なのは
自国でもそうそう見なかった。悪く言えば引き抜きなのだろうが、
所長の目利きがそれだけ優れているのだろう。
まるで鷹の目の様だ、見据えた将来とは何なのか。
そんな所長が再び研究者達を就任させると言う。
ブレイントラスト 特待生室
「また研究者が来るのですか?」
「そうだ、来週新たにに2人ここに就任してくる。
かなりの実績で見込みのある者達だ」
「2人・・・ですか?」
「ああ、1人は電子工学の研究者でかなり素晴らしい構想をもつ。
もう1人は、あのアールヴォイド社の令嬢だ」
「アールヴォイド社、確か東京の近場にある企業」
その日の夜、コウシ所長が新たな研究者を雇用すると報告。
アール・ヴォイド、東京から西部にあるメーカーが存在して
そこの役員2人がブレイントラストへ就任すると言う。
こことも製造関連でよく連携し、部品交配などを行って互いに
サポートし合っている組織らしい。
理由は所長と縁のある人物らしく、何か接点をもつ
人物網による手腕振りを発揮するのが分かる。
相当優秀な者なのだろう。技術の推移を変化させられる
どんな人物が来るのかと遠からず期待して待っていた。
1週間後 ブレイントラスト ロビー
「ダニエル・イゼルファーです」
「アリシア・イゼルファーと申します。所長、お久しぶりです」
「よく来てくれたな、感謝する」
例の2人がやって来た。1人は栗色髪の生えた男ともう1人は
ウェーブブロンドヘアの髪の長い女性だ。
しかも、アリシアは社の会長の娘だというから、これはまたすごい顔ぶれだ。
ラストネームが共通しているからすでに既婚者なのはすでに気付くも、
企業の重役がわざわざ移籍するというのも稀。
短期契約の線もうかがえるが、コウシ所長は2人の研究内容が
今までの者達をも凌ぐレベルだと述べて称賛。
かなりの実績と言うだけあり、鳴り物入りで来たのだろう。
わざわざ私も同行で紹介してもらったので、
挨拶がてら少しでも彼らの情報を知ろうとした。
「私はクロノス・ラングフォード、大脳生理学を専攻している。
コウシ所長の招待を受けてここに来た。
君がアール・ヴォイド社の?」
「はい、ダニエル補佐役としてこちらに参りました。
私は以前、パーツ依託部門の責任者として務めております」
「彼女の御父上も電子工学の研究者をやっていまして、
私も微力ながら追従するように新しく追究を行っていて、
色々とお世話になっております」
「では君が電子工学を研究しているのか。
主に何を研究しているのだ?」
「電子殻による空位制御の研究です。
元は炭素を基から始めたもので、あらゆる原子と結合可能かつ
非金属ながら万能な性質を秘めて着手しています。
そこより、私は“金の砂”と呼称しています」
「金の砂、電子殻の研究か・・・それはすごいな」
「現在、ここで問題となっている暴動問題の解決方法の1つとなりうる
技術でダニエル君が候補に挙がってな。
あのセントラルトライアド計画とは別枠の完全防御対策を
我々の所で培ってもらおうと招待したのだ」
といった理由でコウシ所長が雇用を決めたと言う。
3機の鎮圧用と異なる計画で、不可侵域に着目した技術を成そうと
電子から構築するらしい。
金の砂という名称は仮名のようで、電子技術の外観で名付けられたものか、
防御策としてどう取り組むのかよく理解できていない。
銃やミサイルの様な直接エネルギーにものを云わせる事でもなく、
金属性をもった盾や壁などを構築する類だと想像するが。
「電子は化学変化、イオンなど状態変化として成立する存在だ。
浅い見識ながら凝結を分解する核力解放が可能となった
近代に入ってから粒子加速も必要なくなったので、
自由操作もできると聞いていた」
「ええ、同様に人体に負担をかける物質を極力減少させるムーブメントも
こぞって議論に挙がり、環境の見直しも求められています。
カーボンニュートラルを基とした技術はこの国にとって
元から非常に盛んになっています。そこをAUROより加工、
発展できる可能性を信じて来国したわけです」
彼は炭素による共有結合を利用した人間の生活圏の安定を求めている。
カーボンニュートラル、炭素中立性は人にとって安全性や利便性を
高める上で候補となる要素。元はエネルギー基本計画として始まり、
CO2の排出と吸収を均衡化させる内容であった。
AUROの発明より懸念は解消され、目標が終わる事なく向上化して
抗菌加工、不壊、無毒さなど居住空間に配置させて安住の地を実現。
また、外界からの脅威にも対応して銃も刃も効かない世界に
変えられるよう切磋琢磨してきたという。
金の砂の意味はよく飲み込めないものの、共有結合による電子操作で
より強硬な性質のものを製造したいのだろう。
ただ、2人は向こうで問題が起きたのでここに来た事を幸運に思い、
計画も添えて新天地を求めてきたようだ。
「本来ならば、母国で完成させたかったのですが予算低減で
縮小させられてしまい、コウシ所長に招待を受けて来国しました」
「なるほど、私やアイザックと同じ経験か。
物量にものをいわせてきた反動で崩壊しかけている向こうを見限り、
しかもコンパクト化、細分化が得意なこの国・・・確かに」
「それに関してはブレイントラストのお力添えもあります。
列島に移住する際に機密事項を捉えられる前にどうにか逃れました。
もうすぐ完成するので、こちらの組織で仕上げにかかろうと来たんです」
「では、もう目処が立っているのか?」
「ええ、現段階では完全にいきませんが、
近いうちには必ず完成するでしょう。ですが・・・」
「特待生ならば費用向上も見込めるが、一般への異動かね?」
「そうですね、私も特待生制度に大きな魅力を感じております。
ただ、研究が成果を上げてからでよろしいでしょうか?」
「何か問題でもあるのかね?」
「今は節約、として一般の部に留まらせて頂きます」
「?」
「ああ、構わんよ。ここもある程度の設備は整っている。
病室もあるから、是非使うと良い」
「そ、そうですか。喜んで使わせていただきます」
ずいぶんと立場をわきまえた感じで特待生への待遇を拒否した。
ただ、完全否定ではなく研究成果を上げてからの異動を望んでいる。
事前に2人で相談していたのか、仲良く段取り良さそうな返答に
所長も警戒心もなさそうな顔で承諾。
彼女の側については何か目標はあるのか?
他に何かしら聞こうかと、ここの印象をたずねてみた。
大脳生理学からみたお得意接待用語、“印象”だ。
アリシアに別の感想をうかがう。
「君はこの国をどう思っている?」
「はい?」
「ああ、すまない。少々うかがってみたくてな」
「ふふっ、そうですね・・・個人的な観点でよろしければ。
非常に多彩な文化が存在していますね」
「文化?」
「ただ、その間の溝もまた深くできてしまっている節も感じます。
交われずに資源摩擦だけを起こしてしまっているようで・・・」
「ははは、君もまた変わった言葉を使う者だな」
「私もこの国の文化でカルチャーショックを受けて
語弊が出てきてしまっていますかも。
後は・・・そうですね、動物の安全圏などでしょうか」
「!?」
「どうなさいました?」
「いや、大丈夫だ、私としたことがつい驚いてしまった。
生物の安全圏とは・・・これまた意外だな」
コウシ所長が動揺した様な挙動が見えた気がする。
理由は私でもすぐに分かった、知っている者なら誰でも忘れられない
忌々しい黒や赤の濁る命が散開された罪なきものの光景。
生物管理所が荒らされた件については2人は知らないだろう。
所長が話していたのなら別だが、3年前の件をわざわざ話すのもどうか。
私にとっても今ここで話題に挙げるべき事ではないと口を閉ざす。
アリシアは続きを語った。
「彼と思想は似ていますが、私は生き物が棲みえる世界の見直しを
今一度改めるテーマをどうにか構想を起こしています。
現在において急激な環境変化により多くの種が滅んでしまいました。
これは私達にも無関係でなく、共に大地へ足を着けるモノ達全てにおいて
重要視すべき課題だと思っています」
「絶滅から回避するための計画、という意味でなのか?」
「はい、文明開化は化学変化と共に形成されてゆくもの。
人にとって適応しうる変化も他生物にとっては毒になりえる時も。
炭素は生物の基本、バランスを保つ無毒性を負担なく環境内に敷く
身体形成は平等あっての中立なのですから」
「そ、そういう見解もあるのか・・・」
「良いのではないか、ハハハハハ」
「あ~、彼女も非常に動物好きで向こうでも飼えない生物ロボットを
所有していたくらいですから、あまり追及されても少々」
「別に良いぞ、一分野となるカルシウムも中立性への仮定となる。
酸素を中心に自然界と文明界の融合はある意味究極課題。
生物へのこだわりは我々も同様・・・同義だ。
クロノス君もライオンを飼っているのだから」
「え!?」
「しょ、所長?」
「ふふふ、まだ私の目に狂いはなかったようだ。
それは置いといてずいぶんと話も長引いてしまったな、
改めてよく来てくれた、私もできる限りの援助をしよう。
共にこの国をさらに発展させようか」
「はい、微力ながら貢献させて頂きます」
「・・・・・・」
自分とコウシ所長はダニエルと握手する。
2人は手続きを行うために受付窓口まで歩いていった。
というやりとりが続いてファーストコンタクトは終了。
確かにどことなく独創的な感性をもつ2人に興味が深まる気がする。
個性的かつ向上心のある者がやって来たのだ。
きっと、彼らも大いなる予想を超えた結果を生み出すだろう。
自分達はさらなる期待に胸を躍らせた。
「これはまた頼もしい者が来てくれましたね」
「まばたく優秀な者達を招くのも本当に一苦労する。
最近になって私の眼もより大きくなった感覚だ」
「あらゆる大学院、専門学校を閲覧していらっしゃるそうですね。
先行特権とばかり理学に長けた者を探しておられるようで」
「君も最近になってから言うようになったな。
大元は私・・・というより、先代の影響が大きいわけだ」
「す、すみません・・・」
「まあ良い、確かに高額報酬なのは否定しておらん。
資金で釣っていると揶揄されてでも大いなる課題をこなさなければ。
私の管轄する所すら手に掛けられたのだ。
もうあまり時間がなく、タイムリミットも近づいているだろう。
お金は命に替えられんのだぞ?」
「おっしゃる通り、現実的解決策はまだ整っていません。
保護とは防御、悪しき者から衝撃を防ぐ。言葉では簡単ですが。
輩も少しばかりの知恵をもつ人間。
あらゆる生物が安らぐ世界・・・そうですね」
「「ふふふ・・・まあ・・・今度こそ願いの叶う事になれば」」
所長のこの言葉のみ小さくなった。
組織のTOPである願いの叶う事の意味はそう小さくもない。
思考が疲労を起こす度に欲しがる糖分の消耗も、
シナプス電位のエネルギーを無数に分散して答えどうしを繋ぐ。
知識結集より幸福への追求を果たす根本が次第に見えてきたようだ。
今までのメンバー達の経緯、そして私も唐突に関わったレオとの出会い。
人と生物との関わりがここに収束してゆく気がする。
そういった優秀な者達ばかり集ってくるブレイントラスト。
技術の進展は重く、早く進められない足取りでもどうにか前に向かう。
これが大きな転機を迎えるとは誰1人として予測もできず。
いや、ある1人の策略によって転機は訪れようとしていた。
あれから3年の歳月が流れた。
世界は外観そのものを然程変えずに着々と技術の粋のみ進められ、
人の流通と同時に叡知も大事を起こさず静かに流れてゆく。
内の1人である私も行っている研究職なのは変わらず、
立場もほとんど変わらずにメンバーとそれぞれながらも等しく究める。
このブレイントラストに身を置いてからは、
自国にない独自のセンスが身に付いている。
とはいえ、完璧という文字にいつまでも到達しきれない。
自分の実力、センスが磨かれて前進する手ごたえの実感は湧くが、
それでも何か物足りない自分がそこにいる。
(答えが未だ見つからない)
パラノイアの論文も書き上げていくが実質的でなく、
世間に影響を及ぼす程のあまり大きな成果とはいえない。
実生活は不便なく、すっかりこの国の雰囲気に慣れているもの、
住む世界という空気の感触にどことなく隔たりがある感じがする。
それに伴う問題もまたすぐ身近にあるのだが。
「博士、相変わらず大きなお供を連れてますね!」
「この子がどうしてもついてくるのでな。
悪気があるわけではないんだ」
「まるで親子みたいですね、微笑ましいです」
「アンタにとっちゃ、そう観えるのね。
あたしは犬の散歩かと思ったわよ」
アイザック、レイチェル、アメリアの印象を字で表すとこの通り。
メンバー達のそれぞれの印象をひっきりなしに教えられる。
レオはいつも自分と同伴するようになった。
部屋に置いておこうにも聞かず、どこにいてもついてきて
周りの研究者も度肝を抜かれた様に驚き、避けて通る者も少なからずいたが、
所長は止めようとしない。
そうまでして動物好きが高まる理由があるのか定かではない。
当然、突然襲い掛かったりしないよう電流発生首輪を装着させて
トラブルも起こさないよう人気の少ない上層階周辺に居る。
今のところ一度もスイッチは押した事がない。
好んでそんな事もしたくないし、被害も確かに起こすわけにもいかない。
生活圏、もとい生存圏があたかも限定的に縮まるかの様に、
気が付けば足を運ぶ場所もどこかしこそこら辺のみになってゆく。
ブレイントラスト ロビー
「「第3研修期限も迫っている、論文もまだ全部書けていない。
あと1週間以内に成果を上げなければぁ・・・」」
「「わたしにはまだ可能性があるぅ、特殊性こそ未来への貢献んんん。
テキストにある画一的記述をなぞるだけでは今後への発展経路たる
発見できないぃぃ。独創、ドクソウがもっと必要だ。
確定原理は物理と抽象の狭間にこそ未踏の存在がぁぁ」」
「「うぅ~ん、ドロイドはセルロースに反応しているのは確かなんだけど、
炭素や水素に反応する理由が分かんないや。
紙といった有機物に反応しているみたいだけど、
コードに書いてないものまでなんで応答してるんだか・・・」」
「「空間は無ではなく+-の集合体だァ。
偉大なるオーディン博士の思し召しは神の啓示そのもの、
宇宙への切り口を入れたチャンスを与えてもらったああぁぁ。
AURO粒子以外の物質も必ず存在するはず。
複素場電磁理論のどこかに・・・エアオオォォ」」
ブツブツ
次々とすれ違う研究者達の小言を耳に歩く。
昼食を済ませて戻った通路で多くの悩みと課題が混ざる。
一般の部である彼らは誰しも追い詰められた様な顔をしながら、
自身の今後を案じて気狂いを含めた小言を呟いていた。
成果を上げなければ解雇される。
それぞれの課題に勤しんで達成までの道のりの辛さがこうして分かる。
規定を成さなければ今後の保障が無くなるので無理もない。
月150万の高額報酬といえども見合った成果を要求されるので、
まさに一日たりとも妥協を許されぬ職務を活動し続けてゆく。
使命は同じく、大脳生理学の追究も果たさなければならない。
私は特待生とされてここにいる、これといった結果を出していないものの
期限も提示されておらずに自由気ままと身を置いてもらっていた。
(パラノイア、人に内在する精神状態を長年にわたって研究。
私の内より生じた現象も1つであったが、今はもう消去している。
今後の課題は再び見つけられるだろうか)
母国で始めた妄想性の追究の成果はすでにいくつか提出してきたが、
研究課題の内容も次第に減少の一途となってゆく。
レオとの出会いから自身の神経症状も無くなり、
時計の針が遅れる現象はもう失せてしまっている。
別にあの子のせいではなく、脳内の歪みを矯正してもらった
きっかけだったので良かっただけに過ぎなかった。
自身すら失った神経現象も、もはや題材にする動機もない。
メンバー達も次々と成果を上げ、私の方はこれといった大きなものもない。
大抵、成果というのは形を成した物の提示。
しかし、私の追究は精神に対する内容で現物は手前に生まれず。
求める拠り所をどう活かすべきか、また今後の課題にもなっていた。
ブレイントラスト上層階 テラス
昼食を終えて、休憩にと再びレオをここで一時を過ごす。
ほとんど人も通らないここは1人と1匹にとって過ごしやすく、
目に付きにくい側面なのでお誂え向きと言える所。
廊下のワイドウィンドウから外を観ながら東京の銀色群生を目に入れる。
一般的な感性で言うなら、単なる摩天楼シティ。
文明発達の推移が最もよく表れるエリアは東京であろう。
時折光明が外から見えるのが近代の象徴たる光景か。
放熱性アスファルトを地に、居住区を3階層に分別した機能的な仕様は
徹底された無駄を削いだ世界。
中層階より主に知識業が盛んに台頭して住んでいる。
製造業、メディア関連を中心とした価値ある職業は政府にとって
大きな財源の元へ換わる。そこは大昔から変わらず、目立つ事業だから
収入も多く得られて今の成り立ちを構築できたのだろう。
下層階は日照権をも剥奪された世界、低所得や肉体労働者の集う
朝昼でもライトを付けられて自然の感覚すら鈍る所の模様。
生物管理所すら襲った輩の根城、巣窟でもある。
ここ、上層階はブルーカード所有者で一部の職をもつ者だけが居住できる
セキュリティーが機能するはずが、所々で牽制を受けている。
推測ながら金権を握った何者かがくぐり抜けて侵入した線もありえると。
どういう訳か、アイザックがそのような事を言っていた。
何者かに殴打された事が数年前に遭ったようで危険な区域に行った
可能性もあるだろう。物好きな性格も相変わらずだ。
その他は衣食住を隙間なく整えられた様。
調べでは昔は農業生産が追い付かずに他国からの輸入頼りだったようで、
食料品を取り入れなければ生活もままならなかったそうだ。
超促成栽培技術が成功してから貿易形態も変革、生きるための全てをも
手に入れた今において独立形態とばかり成していった。
まるで連鎖反応の遅い核融合の様な自生産と消費がひとまとめになり、
太陽と同等の存在と思える様な規模に立たせてゆく。
最初に来国した時もそんな事を考えていた。
そこからどう変化、進化を遂げてゆくのか感慨深くなる。
ここに来てだいぶ経つが、別の点について気掛かりな事実も。
1つ気付いた事はここの国自体が優れているのではないようだ。
下層階の様がある点で理解できるが、教育制度が母国と比較しても
進まずに劣っている部分も後になってふつふつと気付いた。
まず、偏差値ナビより分布を確認しても優秀な箇所はほんの数%。
平均値とされる40~50が最も大きいのは共通ながら、
10~30と60~80が小さめなのが普通だが、
低い方の割合が年々増加しつつある。
勉強嫌いがいるのはいつでも同様なものの、時代が進むにつれて
知識否定派が増してゆく傾向によって効果が表れていない。
市民の全てがモラルを意識した慎ましい者とはいえず、
やはりどこの世界であろうと時代に追従できない者が生じる。
ブレイントラストも含めたここ、国の中枢部が洗練を図り続けて
上層階が異様なまでに合理的な配慮をする世界だったのだ。
(私は強制的学習でここに居るようなものだ。
あんな体験を“おかげさま”ととらえて良いのか・・・)
人差し指で額を支える。
そんな一部の優秀な者達がクリエイトしたものへ肖り、
事業の一環として街に配置されて扱われてゆく。
下部の者達が利用している事が利用されている節も感じたのは、
無数に従う者が多いゆえに発展、富裕層が生じたのか。
やはりこれ程までに優れた設備、研究者達が共に優秀なのは
自国でもそうそう見なかった。悪く言えば引き抜きなのだろうが、
所長の目利きがそれだけ優れているのだろう。
まるで鷹の目の様だ、見据えた将来とは何なのか。
そんな所長が再び研究者達を就任させると言う。
ブレイントラスト 特待生室
「また研究者が来るのですか?」
「そうだ、来週新たにに2人ここに就任してくる。
かなりの実績で見込みのある者達だ」
「2人・・・ですか?」
「ああ、1人は電子工学の研究者でかなり素晴らしい構想をもつ。
もう1人は、あのアールヴォイド社の令嬢だ」
「アールヴォイド社、確か東京の近場にある企業」
その日の夜、コウシ所長が新たな研究者を雇用すると報告。
アール・ヴォイド、東京から西部にあるメーカーが存在して
そこの役員2人がブレイントラストへ就任すると言う。
こことも製造関連でよく連携し、部品交配などを行って互いに
サポートし合っている組織らしい。
理由は所長と縁のある人物らしく、何か接点をもつ
人物網による手腕振りを発揮するのが分かる。
相当優秀な者なのだろう。技術の推移を変化させられる
どんな人物が来るのかと遠からず期待して待っていた。
1週間後 ブレイントラスト ロビー
「ダニエル・イゼルファーです」
「アリシア・イゼルファーと申します。所長、お久しぶりです」
「よく来てくれたな、感謝する」
例の2人がやって来た。1人は栗色髪の生えた男ともう1人は
ウェーブブロンドヘアの髪の長い女性だ。
しかも、アリシアは社の会長の娘だというから、これはまたすごい顔ぶれだ。
ラストネームが共通しているからすでに既婚者なのはすでに気付くも、
企業の重役がわざわざ移籍するというのも稀。
短期契約の線もうかがえるが、コウシ所長は2人の研究内容が
今までの者達をも凌ぐレベルだと述べて称賛。
かなりの実績と言うだけあり、鳴り物入りで来たのだろう。
わざわざ私も同行で紹介してもらったので、
挨拶がてら少しでも彼らの情報を知ろうとした。
「私はクロノス・ラングフォード、大脳生理学を専攻している。
コウシ所長の招待を受けてここに来た。
君がアール・ヴォイド社の?」
「はい、ダニエル補佐役としてこちらに参りました。
私は以前、パーツ依託部門の責任者として務めております」
「彼女の御父上も電子工学の研究者をやっていまして、
私も微力ながら追従するように新しく追究を行っていて、
色々とお世話になっております」
「では君が電子工学を研究しているのか。
主に何を研究しているのだ?」
「電子殻による空位制御の研究です。
元は炭素を基から始めたもので、あらゆる原子と結合可能かつ
非金属ながら万能な性質を秘めて着手しています。
そこより、私は“金の砂”と呼称しています」
「金の砂、電子殻の研究か・・・それはすごいな」
「現在、ここで問題となっている暴動問題の解決方法の1つとなりうる
技術でダニエル君が候補に挙がってな。
あのセントラルトライアド計画とは別枠の完全防御対策を
我々の所で培ってもらおうと招待したのだ」
といった理由でコウシ所長が雇用を決めたと言う。
3機の鎮圧用と異なる計画で、不可侵域に着目した技術を成そうと
電子から構築するらしい。
金の砂という名称は仮名のようで、電子技術の外観で名付けられたものか、
防御策としてどう取り組むのかよく理解できていない。
銃やミサイルの様な直接エネルギーにものを云わせる事でもなく、
金属性をもった盾や壁などを構築する類だと想像するが。
「電子は化学変化、イオンなど状態変化として成立する存在だ。
浅い見識ながら凝結を分解する核力解放が可能となった
近代に入ってから粒子加速も必要なくなったので、
自由操作もできると聞いていた」
「ええ、同様に人体に負担をかける物質を極力減少させるムーブメントも
こぞって議論に挙がり、環境の見直しも求められています。
カーボンニュートラルを基とした技術はこの国にとって
元から非常に盛んになっています。そこをAUROより加工、
発展できる可能性を信じて来国したわけです」
彼は炭素による共有結合を利用した人間の生活圏の安定を求めている。
カーボンニュートラル、炭素中立性は人にとって安全性や利便性を
高める上で候補となる要素。元はエネルギー基本計画として始まり、
CO2の排出と吸収を均衡化させる内容であった。
AUROの発明より懸念は解消され、目標が終わる事なく向上化して
抗菌加工、不壊、無毒さなど居住空間に配置させて安住の地を実現。
また、外界からの脅威にも対応して銃も刃も効かない世界に
変えられるよう切磋琢磨してきたという。
金の砂の意味はよく飲み込めないものの、共有結合による電子操作で
より強硬な性質のものを製造したいのだろう。
ただ、2人は向こうで問題が起きたのでここに来た事を幸運に思い、
計画も添えて新天地を求めてきたようだ。
「本来ならば、母国で完成させたかったのですが予算低減で
縮小させられてしまい、コウシ所長に招待を受けて来国しました」
「なるほど、私やアイザックと同じ経験か。
物量にものをいわせてきた反動で崩壊しかけている向こうを見限り、
しかもコンパクト化、細分化が得意なこの国・・・確かに」
「それに関してはブレイントラストのお力添えもあります。
列島に移住する際に機密事項を捉えられる前にどうにか逃れました。
もうすぐ完成するので、こちらの組織で仕上げにかかろうと来たんです」
「では、もう目処が立っているのか?」
「ええ、現段階では完全にいきませんが、
近いうちには必ず完成するでしょう。ですが・・・」
「特待生ならば費用向上も見込めるが、一般への異動かね?」
「そうですね、私も特待生制度に大きな魅力を感じております。
ただ、研究が成果を上げてからでよろしいでしょうか?」
「何か問題でもあるのかね?」
「今は節約、として一般の部に留まらせて頂きます」
「?」
「ああ、構わんよ。ここもある程度の設備は整っている。
病室もあるから、是非使うと良い」
「そ、そうですか。喜んで使わせていただきます」
ずいぶんと立場をわきまえた感じで特待生への待遇を拒否した。
ただ、完全否定ではなく研究成果を上げてからの異動を望んでいる。
事前に2人で相談していたのか、仲良く段取り良さそうな返答に
所長も警戒心もなさそうな顔で承諾。
彼女の側については何か目標はあるのか?
他に何かしら聞こうかと、ここの印象をたずねてみた。
大脳生理学からみたお得意接待用語、“印象”だ。
アリシアに別の感想をうかがう。
「君はこの国をどう思っている?」
「はい?」
「ああ、すまない。少々うかがってみたくてな」
「ふふっ、そうですね・・・個人的な観点でよろしければ。
非常に多彩な文化が存在していますね」
「文化?」
「ただ、その間の溝もまた深くできてしまっている節も感じます。
交われずに資源摩擦だけを起こしてしまっているようで・・・」
「ははは、君もまた変わった言葉を使う者だな」
「私もこの国の文化でカルチャーショックを受けて
語弊が出てきてしまっていますかも。
後は・・・そうですね、動物の安全圏などでしょうか」
「!?」
「どうなさいました?」
「いや、大丈夫だ、私としたことがつい驚いてしまった。
生物の安全圏とは・・・これまた意外だな」
コウシ所長が動揺した様な挙動が見えた気がする。
理由は私でもすぐに分かった、知っている者なら誰でも忘れられない
忌々しい黒や赤の濁る命が散開された罪なきものの光景。
生物管理所が荒らされた件については2人は知らないだろう。
所長が話していたのなら別だが、3年前の件をわざわざ話すのもどうか。
私にとっても今ここで話題に挙げるべき事ではないと口を閉ざす。
アリシアは続きを語った。
「彼と思想は似ていますが、私は生き物が棲みえる世界の見直しを
今一度改めるテーマをどうにか構想を起こしています。
現在において急激な環境変化により多くの種が滅んでしまいました。
これは私達にも無関係でなく、共に大地へ足を着けるモノ達全てにおいて
重要視すべき課題だと思っています」
「絶滅から回避するための計画、という意味でなのか?」
「はい、文明開化は化学変化と共に形成されてゆくもの。
人にとって適応しうる変化も他生物にとっては毒になりえる時も。
炭素は生物の基本、バランスを保つ無毒性を負担なく環境内に敷く
身体形成は平等あっての中立なのですから」
「そ、そういう見解もあるのか・・・」
「良いのではないか、ハハハハハ」
「あ~、彼女も非常に動物好きで向こうでも飼えない生物ロボットを
所有していたくらいですから、あまり追及されても少々」
「別に良いぞ、一分野となるカルシウムも中立性への仮定となる。
酸素を中心に自然界と文明界の融合はある意味究極課題。
生物へのこだわりは我々も同様・・・同義だ。
クロノス君もライオンを飼っているのだから」
「え!?」
「しょ、所長?」
「ふふふ、まだ私の目に狂いはなかったようだ。
それは置いといてずいぶんと話も長引いてしまったな、
改めてよく来てくれた、私もできる限りの援助をしよう。
共にこの国をさらに発展させようか」
「はい、微力ながら貢献させて頂きます」
「・・・・・・」
自分とコウシ所長はダニエルと握手する。
2人は手続きを行うために受付窓口まで歩いていった。
というやりとりが続いてファーストコンタクトは終了。
確かにどことなく独創的な感性をもつ2人に興味が深まる気がする。
個性的かつ向上心のある者がやって来たのだ。
きっと、彼らも大いなる予想を超えた結果を生み出すだろう。
自分達はさらなる期待に胸を躍らせた。
「これはまた頼もしい者が来てくれましたね」
「まばたく優秀な者達を招くのも本当に一苦労する。
最近になって私の眼もより大きくなった感覚だ」
「あらゆる大学院、専門学校を閲覧していらっしゃるそうですね。
先行特権とばかり理学に長けた者を探しておられるようで」
「君も最近になってから言うようになったな。
大元は私・・・というより、先代の影響が大きいわけだ」
「す、すみません・・・」
「まあ良い、確かに高額報酬なのは否定しておらん。
資金で釣っていると揶揄されてでも大いなる課題をこなさなければ。
私の管轄する所すら手に掛けられたのだ。
もうあまり時間がなく、タイムリミットも近づいているだろう。
お金は命に替えられんのだぞ?」
「おっしゃる通り、現実的解決策はまだ整っていません。
保護とは防御、悪しき者から衝撃を防ぐ。言葉では簡単ですが。
輩も少しばかりの知恵をもつ人間。
あらゆる生物が安らぐ世界・・・そうですね」
「「ふふふ・・・まあ・・・今度こそ願いの叶う事になれば」」
所長のこの言葉のみ小さくなった。
組織のTOPである願いの叶う事の意味はそう小さくもない。
思考が疲労を起こす度に欲しがる糖分の消耗も、
シナプス電位のエネルギーを無数に分散して答えどうしを繋ぐ。
知識結集より幸福への追求を果たす根本が次第に見えてきたようだ。
今までのメンバー達の経緯、そして私も唐突に関わったレオとの出会い。
人と生物との関わりがここに収束してゆく気がする。
そういった優秀な者達ばかり集ってくるブレイントラスト。
技術の進展は重く、早く進められない足取りでもどうにか前に向かう。
これが大きな転機を迎えるとは誰1人として予測もできず。
いや、ある1人の策略によって転機は訪れようとしていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる