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4章 ブラインド編
第6話 浮遊する赤砂塵
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A.D5年 サド島 ブラインド拠点
少し時をまたいでから報復者達の話は進む。
地上の人々は相変わらず活路に迷い続けていた。
突如、世界が閉ざされてから5年。生物型の威圧に打ち負かされ続けて、
自衛隊も未だに突破口を見出せずに閉口。
1つ弱みでも握られようものなら萎縮するのが有権者の欠点だ。
あっけなく天から支配されて舵もとれない腰巾着はともかく、
メンバーが気になった点はブレイントラストのシステム、出処である。
詳細はサップの叫び声より始まる。
「おい、ヤベエ事があったぞ!」
「あんた、東京へ何しに行ってたのよ?」
アール・ヴォイドは天主殻のネットワーク構築が
ただの規格ではないとすでに掴んでいた。
科学の中枢機能とよばれたブレイントラストですら
CPUの開発に着手する者などほとんど聞いた事がない。
それだけの機材を短期間で用意するのも不可能なはずで、
AUROからの生成も借りているが、まだ他にも原因がある。
どこかしらチップやサーバーを回収しているに違いないが、
ブレイントラストは名前を変えて機材の発注をしている事に
サップが発見していた。
「私達の関連組織にブレイントラストがいた!?」
「あいつら、名前を変えて必要な機材をちゃっかり注文していやがった!
届け先があそこのビルの隣にあるオフィスなんだよ!」
発覚したのは先日、下野動物園の名を語っていた組織へ送っていた
CPU基板の要求先がブレイントラストだと気付いた。
普段から飼育用ケースのオートボードを注文しにくる者達の件で、
あまりにも量が多いと疑ったサップが独自調査して現地に出向いたところ、
ペーパーカンパニーな事務所で繋がりがあるのを発見した。
ブラインドの事までは察知されていないようだが、
一歩間違えれば危うく全て身元が気取られてしまうところだ。
ミゾレがすぐ取り扱いを止めろと言う中、ある一捻り案もあると言う。
「業務停止できない?」
「基本構造が造られた今ではもう遅いだろう。
一度手に入れた情報は凄まじい早さで吸収される」
「落下、天に帰らずってか。
天主殻をぶっ壊す方法を見つけないとまずくね?」
「それもある、でもアールヴォイドの技術部に
攻略法を知っている人はいないの。
パスカルは軍事開発専門ではないし、会長も同様だから
こればかりは無理・・・」
ダーマが天主殻の装甲の素材を検査して解説。
「あれはただの白金ではない、無重力状態で配合された合金だ。
20Mt以上の衝撃にも耐えられるだろう」
「核ミサイルぶっぱでも効かねーってか」
「ただ、出入口周辺に高密度の電磁波も検出した。
対バイオウィルス対策で施されている。
その分、密閉すれば逆に開けるのは容易ではない。
よって、破壊より封鎖を優先する事を薦める」
「なるほど、その成分を調べればハッキングツールを作成してねじ込む」
目的は天主殻への到達とゲートの封鎖方法の2つが挙げられた。
ACの柔和かつスムーズな突破法に反対する者はいない。
その手段をどうすべきかが主題となるが、すでに行き先があると
アリシアが示しを与えている。
「奴らも用意周到に根回しをしていたのね。
ならば、そこの養分に毒を与えてあげましょう」
「で、どうやってシステムを乗っ取るんだ?」
「重力に詳しい者が中つ国にいたはず・・・。
鳥取に毒を促せそうな候補がいるから、彼に助力を仰ぎましょう」
「中つ国地方ですね」
鳥取を示した訳は重力合成に詳しい研究者がいるという。
世間では自衛隊によるルート制限が敷かれているが、
エリア境で検問封鎖されている場所は数える程で、
抜けられる道はいくつもある。現状に手間取る市民ばかりの今ならすぐに
障害なく現地に向かえるだろう。
簡易的な支度を済ませて2人は中つ国地方へと向かった。
鳥取砂丘
予想通り難なく中つ国地方に着いたサップとミゾレ。
今回は都合により、2人だけで行動。
当人と待ち合わせ場所付近まで来られた。
見るからに上下高さのうねりがある広大な砂浜が見えるが、
その場に相応しくない物体の集まりもあるようだ。
「うおっ、鉄屑だらけじゃねえか」
「不法投棄ね、処理しきれない機材はここで
捨てられるようになってたのよ」
ここの砂丘は機材の墓場とよばれ、故障や用済みの車、
PCなどの基盤が埋め尽くす程に捨てられていた。
この時代では製造と廃棄が激しく繰り返されており、
少しでも場があればそこへ捨てられる習慣があったらしい。
文明の新陳代謝による一角がここで相まみえていたのだ。
ただ、この場で見たものはそれだけではない。
ギロッ
労働者達が自分達睨み付ける。澱んだ目をしながら黙々と
作業を続けている作業員達が放置された廃材をかき集めて運んでいく。
再利用、加工するつもりだろう。
「な、なんだよコイツら?」
そのほとんどは地主や有権者の雇わればかりで、
現地人だけでなく海外から来た者達も多い。
労働環境調整法が効いていないのか、扱いに格差を感じる。
彼らに将来の夢や希望などあるのか定かではないが、
遠巻きで眺めていると場違いに柔らかそうな声をかけられた。
「あーいたいた、こっちだよ!」
場に似合わぬ白衣を着ている者が手を振っている。
今回の立会人がやって来た。
「あなたがケイトさん?
アールヴォイドの者だけど」
「僕がケイトさ、アリシアチーフから話しをうかがってるよ。こっちだ」
砂丘から少し離れた事務所まで案内される。
中に入りがてら早速、対ブレイントラストの話へと移った。
「一応、前連絡である程度は聞いたけど、具体的にどうしたいんだい?」
「天主殻まで行く方法と、ゲートを塞ぐ方法を探してるの」
「あんた、重力を克服する術を知ってるんだろ?」
「結論から言うと有る。
それに、入口を塞ぐだけならできるかもしれない」
彼の口からあっけなく答えがでる。
上空10000mに位置する扉封鎖は可能のようだ。
「そこまで知っているなんて、ずいぶんと詳しいじゃない?」
「コウシ所長から直に教わっていたからね。
セレファイスの概要は少しだけ知っている」
「セレファイスって、あの円盤の事?」
「そうだね、天主殻という名は多分政府かどこかで名付けられたと思う」
「マジか、こっちは大助かりだけどよ。
あんたはブレイントラストに行かなかったのか?」
「・・・僕は行かなかった。
現地調査の時とか人前で所長は外面は優しいけど、
内面はとてつもなく恐ろしい人だと分かっていたから」
「あいつに何かされたの?」
「いや、ないよ。ただ、あの人は常識の枠を超えた思想をもっている。
1つの物事に執着すると何も聞こえなくなる時があるんだ。
時々、倫理を逸脱するくらいの発言もあったよ。
まあ、そんな野心も凌ぐ追及心なのか、
伊達に反重力なんてすごい物を造るだけあるよ」
かつての同僚として語る。
あらゆる業界も同様だが、科学者の内面は特に複雑で難解な
部分が時折垣間見える事がある。
文明の混沌の最中から頂点に位置するコウシだけある。
「私達アールヴォイドは軍備拡張を行っているけど、
まともに空も飛べないの」
「移動手段に関しては可能だよ」
「マジか!?」
直に天主殻へ乗り込む術は問題ないとケイトは太鼓判を押した。
この設備にある動力源を三機に接続して向かえると言う。
「反重力エンジンを3機取り付けてあげるよ。
セントラルトライアドだっけ?」
「ええ、あれらもブレイントラストと共同製作していた機体なの。
できそう?」
「可能だよ」
彼はあっさりと承る。
反重力エンジンは内部は特有なものの、取り付けじたいは
ただの鉄柱でも付けられる程、安易に行える。
今回、最も大きな課題は天主殻の扉を攻略にかかっているのだ。
「後はあの円盤底にあるゲート封鎖方法だけど・・・そうだな。
あの方法で試してみよう」
「あの方法?」
「粉塵封鎖だよ、一度電圧間に障害を起こしてハッキングしようと思う。
電圧で密封する仕組みなら、非伝導体を混じれば
徐々に開かなくなるはずだよ」
「あのゲートにそんな機能が?」
「うん、あそこには何かを研究している節がある。
基本的に研究棟は潔癖なまでに建造される。
外からの毒ガスや細菌に耐性をもたせるように造られているのさ」
肝心の資源だが、それをこれから調達しようとケイトは画策。
採取エリアはここ中つ国地方の地にあると言う。
「その散布方法はどうすれば良いの?
粉塵の素材も何を使えば?」
「錆を使うんだ、非伝導体で多めに確保しやすくて
通常の赤錆には下地の保護作用はなく、腐食はいつまでも進行するんだ。
一方、緻密な酸化物被膜ができれば、
腐食に対する保護層として新たに機能する」
「電圧間に障害をもたせるってわけね」
「ここ身近で相応しく有効な物質がそれぐらいだし、
有り合わせといってはなんだけどね。
でも、1つ問題がある。ただの錆では大きな効果は見込めないよ」
「じゃあ、どうすんだ?」
「先で言った保護層に新たな仕組みをもたせる。
錆に含む酸素に別の物質を化合させて、ハッキングツールの一部に加える。
電圧間を防ぐだけでなく、制御するための加工錆でなければ
天主殻の放つ高電圧を攻略できない」
「別の物質?」
「調達可能として珪素が候補に挙がってる。
同じ様にシリコンウェーハに酸化膜があるから、
電子密度を緩急するように自由に操作して
イオンを打ち込んで不導体と半導体の混合物を作成したいんだ」
「イオンを媒介した電子操作での封鎖か。
2つの資源を確保できるの?」
「うん、幸い中つ国山地周辺にこれでもかとある。
元々、珪素そのものは地殻中に多く存在するし、
機材から砕けた物質が砂丘の成分と化学変化を引き起こし始めたんだ」
以前の調査でケイトが確認していた分布図を2人に見せる。
最近砂丘で多量に分布されている物質が蓄積していたのである。
自然と人工の産物による混沌が新たな存在を生み出していた。
「砂丘は元々、玄武岩や安山岩が細かくなって山からなだれ込んでできた。
鉄や磁鉄鉱が含まれるそれらは地上の砂鉄と混ざり、赤錆が生成したんだ。
時々、赤い砂嵐が発生するのもそれさ」
「あの世界終末みたいな目に悪そうな景色か」
「僕は地質学の研究で新たに形成されたそれを
かつてコウシ所長と共同で調べていたんだ」
「だからブレイントラストと接点があったのね」
「まあ・・・この大陸は最近不可思議な物ばかりで。
これを使えば上質な素材が見つけられる。
赤錆も従来のものとは違う、新たな可能性を秘めていると思う」
「でも、自然界の鉄は錆だけ存在しているのよね?
ただの錆と見分けつかなくて、どうやって探すの?」
AUROセンサーでも地域限定の性質まで登録されていない。
彼は脚立の付いた振り子の様な物を取り出した。
「これは確か・・・」
「可逆振子さ、地球上では高低差のある
計測地点の重力加速度を調べられるんだ」
「どうして、重力加速度を調べるの?」
「地下に埋もれている鉱石が密集している位置を予測するためさ。
重力っていうのは密度が強い程増していく。
鉱石はまさに質量収縮そのもの、逆に敏針な弱い密度をあさってみようか。
まだ公にはしてないけど、ここ山地地下には
金と同じ質量反応が多く見られたよ」
「マジかよ!?」
主に環太平洋造山帯付近の調査で使われていた。
その一部であるこの国も計測対象として目を付けられて、
天主殻侵攻前から関西の鉱脈スポット扱いだ。
それが、突然戦争の一部と化したのだから皮肉な話だ。
「いつの間にか変わってしまうものなのね・・・。
昔はラクダとか歩いていたのに」
「ここ鳥取砂丘は文明過多の弊害で不法投棄の的、
使われなくなった廃棄場と成り果ててしまった。
でも、制圧されてからは地上に堂々と設備を建てられない。
だから、新たに地下施設を設ける案が立てられたんだ」
「現場のおっさんばっかりなのはそれでか」
「敵性から目をくらますという点については良いかも。
理由は他にもあるようだけど」
「?」
何か言いかけたが、止める。
極秘事項に抵触する恐れか、2人も追及しなかった。
こうして、3人は現地調査、採取を開始。
労働者達を引き連れて赤錆を取りに向かって行く。
中つ国山地
「ここら辺を調べてみよう」
「うおっ、ここもガラクタの山かよ・・・」
現地に着き、時代の端に追われた散乱物。
人間によって生み出された赤錆はほとんど地層表面の浅い所で
生成されている。
「このウェイヴレングスで調べてみよう」
「色んなもん持ってんな・・・」
流石、ブレイントラストに招待されるだけある。
彼の手腕は懐から取り出した機械、ペンライトから細い光線を
地面に照らすと、みるみる色彩が変化していく。
「砂の色が変わりやがった!?」
「金属反応で色を変えただけさ」
「波長を調べる光線ね、磁力線や引力線から辿った
量子力学にも精通できるんじゃない?」
「うん、磁力と重力は質が違えど、原理は同じさ。
あの人の受け売りだけどね」
「今更だけど、人はなんでも創造できるのね・・・。
なんというか、物をかき分けする事は生物一かも」
同じ様なものから異なる質のものを探し当てる。
新たなる資質のために選別する科学のメスを入れる。
ミゾレは人間のもつ可能性を改めて感慨していた。
こうしてメンバー達は一段落をクリア。
振り子の反応を示した箇所を指示し、掘削機の音が一斉に鳴り響き、
一定量の赤錆と珪素を採取する事に成功した。
三機に反重力エンジンを装着する必要も兼ねて2人は帰還、
ケイトからの完成報告を待ちかねていた。
1週間後
「「完成したよ!」」
予想より早い報告にアール・ヴォイドは湧き立った。
従業員に気付かれずにプロと同等なる施しに大きく評価したくなる
手早く仕事をこなすケイトは生み出した備品を説明する。
「名付けてEMIR[電磁妨害錆]、略称でそうしておこう」
「まずは内部から一時的でもゲートを閉じておく。
方法論の1つだけど、ケーブルかなにかに仕掛けて
ハッキングかけられれば良いんだよね」
「チーフの狙いが分かったからこうするか。
ハッキングツールをブレイントラストに送り付けてやろうぜー!」
「どさくさ紛れにケーブルを送り付けて、
ハッキングする・・・決まりね!」
物も護衛付き直通で輸送してくれるので、
妨害がなければ心配なく届けてくれる。
また一歩と対抗策が生まれて砂上より舞い上がる攻略法に期待した。
「そっちに行きたいところだけど、機会が悪くて」
「接続関連なら私達でも十分だけど、あなたレベルの実力なら
天主殻を落とせる可能性が高くなるわ。
せっかくだから、アールヴォイドに来ない?」
「・・・それはできない」
「俺らは奴らと違って悪い事しねえって。
でも、あんたもいつか奴らに狙われるかもしんないぜ?」
「それについては大丈夫・・・僕はもうここにはいないんだから」
「どういう事?」
「責任者リストに自身の名前を表記していないんだ。
僕の名前は記載していないからいないのと等しい扱いさ」
「表記してない?」
彼はわざと自身を明かさずに身を置いて生活。
それどころか事務所の経営者の名義すら書かれていないと言う。
2人になら実情を知らせても良いと、真意を話し始めた。
「実はここの事務所、又貸しで建てられた所なんだ。
それも違法だけど、ここのリーダーに匿ってもらっていて。
偽名を使うと詐称で逆に公式の側に捕まってしまう。
製造物責任法を回避したくてそうした・・・」
「何やらかしたんだ?」
「僕は・・・ここで暗視ゴーグルの設計を任されてる。
夜間活動を有効活用する物を造る役目なんだ」
「スパイ活動かよ」
ケイトは光技術を独自に開発する事で身を置いていたらしい。
密入国と引き換えに地元を盛況させるよう命じられて在籍。
主な担当は微光暗視装置で、暗闇でも外観が明るく認識できる
二次元受光素子にはカンラン石を用いて光電子増倍管技術を
四国から盗用する立場で中つ国から守られていた。
時には独自に作成する物品もあると言う。
「まあ・・・色々あるんだけど、設備さえどうにかなれば
身の安全を保てるからこうしてる。
ウェイヴレングスも完成しそうだ」
「資源はどうやって?」
「個人的に造っている部品の調達が問題だけど、
大抵、砂丘の捨てられた機材を分解して取り出してる。
シリケート加工は得意だから、ここで行ってるんだ」
「鳥取の拠点じゃなく、こんな僻地でか?」
「暗視機器の製造がてら資源流通を管理している僕は
本拠点で行えないから、ここを設けてもらったんだ」
「何故、そこまで危うく手間のかかる事を?」
「・・・・・僕は戸籍を持っていなかったから」
「ええっ!?」
「実は戸籍は買ったもの・・・来国以前から秘密裏にやって来た。
僕は元々ここの人間じゃない。
技術情報を流す海外からの密入国者なんだ」
「マジかよ!?」
彼の出身は異国、科学技術を横流しするスパイだった。
高度成長、科学の粋が高域に達するこの世界から少しでも情報を
得るために忍びで来国しにくる。
しかし、生物型の囲いによって脱出ルートを断たれてしまう。
ここの地主に手当てを受けて暮らしていた。
漂流という異端者でありながら家も立場も恩恵を与えられて、
名義変更の変更で地元を騙す度胸などもてるはずもない。
製造物責任法を回避する理由だったが、
彼が中つ国地方に根付くのはそれだけではなかった。
「ここは今、山陽と対立している。
地域は地方ごとにまとまると思うやいなや、
すぐに中つ国地方は山陽の広島と岡山が結託。
山陰の山口と島根と鳥取に分かれて
天主殻ができてから急速に過激化してしまった」
「どうして南北に?」
「分からない、元から対立していた風習があったのかも。
すでに軍事開発も取り入れ、熾烈を極めるような訓練、
砂丘の直下で基地を建設する事業に関わってるんだ。
それに僕はもう所帯をもってしまっている。
すぐには中つ国地方を離れられない・・・」
「・・・・・・」
ケイトの立場はすでにエンジニアの一端を担っていた。
天主殻誕生以前から山陽と山陰側の問題はあったが、きっかけで
対立意識がさらに激化していた。彼にとってはそれだけでなく、
地元から出たくない気持ちが強く生まれていまい、
無意識にここ中つ国地方に根付いてしまったのかもしれない。
こうして、サップとミゾレは対抗策の目処がつき、
作戦展開に組み入れる術が1つ叶う。
目立たぬように入口ドアでケイトから動力源を渡された。
「これが反重力エンジンだよ、持っていって!」
「悪いな、いつかお礼はするからよ!
え、高級酒が良いって!?」
「いや、お酒は苦手で・・・」
「あなたのスキルも本当に惜しいくらいよ。
クドイけど、ここで事が収まってから
アールヴォイドに来ても良いじゃない?」
「気持ちはありがたいけど、まだどうしてもちょっと。
それでも、僕はこの地域を活性化させたいんだ。
過疎化しかけている中つ国地方の人口数も考えてる。
もう子どもが生まれるんだ」
「もう身籠ってたのか!? やる事はやってんな!」
「その子も同じ道に? 今度来たら名前も教えてね」
「名前ならもう決まってるよ。
こんな立場でも何かしらのジンクスくらいもってるつもりさ」
「はえーな、おい! 何でいうんだ?」
「半分はすでに決定してるから、これは先祖の仕来りみたいでね。
僕の子孫は全て“ケイ”の名を付けるようにって、
代々からそう決まってるんだ」
「あっそう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
荒廃した世界で見られる代表的物質、錆!
赤錆は本来、水中下で発生する仕組みです。
電子が酸化還元反応でイオン化するもので、
水中→砂中とイメージを置き替えて勝手に創作しちゃいました。
橄欖石も暗視技術とは無関係です。
少し時をまたいでから報復者達の話は進む。
地上の人々は相変わらず活路に迷い続けていた。
突如、世界が閉ざされてから5年。生物型の威圧に打ち負かされ続けて、
自衛隊も未だに突破口を見出せずに閉口。
1つ弱みでも握られようものなら萎縮するのが有権者の欠点だ。
あっけなく天から支配されて舵もとれない腰巾着はともかく、
メンバーが気になった点はブレイントラストのシステム、出処である。
詳細はサップの叫び声より始まる。
「おい、ヤベエ事があったぞ!」
「あんた、東京へ何しに行ってたのよ?」
アール・ヴォイドは天主殻のネットワーク構築が
ただの規格ではないとすでに掴んでいた。
科学の中枢機能とよばれたブレイントラストですら
CPUの開発に着手する者などほとんど聞いた事がない。
それだけの機材を短期間で用意するのも不可能なはずで、
AUROからの生成も借りているが、まだ他にも原因がある。
どこかしらチップやサーバーを回収しているに違いないが、
ブレイントラストは名前を変えて機材の発注をしている事に
サップが発見していた。
「私達の関連組織にブレイントラストがいた!?」
「あいつら、名前を変えて必要な機材をちゃっかり注文していやがった!
届け先があそこのビルの隣にあるオフィスなんだよ!」
発覚したのは先日、下野動物園の名を語っていた組織へ送っていた
CPU基板の要求先がブレイントラストだと気付いた。
普段から飼育用ケースのオートボードを注文しにくる者達の件で、
あまりにも量が多いと疑ったサップが独自調査して現地に出向いたところ、
ペーパーカンパニーな事務所で繋がりがあるのを発見した。
ブラインドの事までは察知されていないようだが、
一歩間違えれば危うく全て身元が気取られてしまうところだ。
ミゾレがすぐ取り扱いを止めろと言う中、ある一捻り案もあると言う。
「業務停止できない?」
「基本構造が造られた今ではもう遅いだろう。
一度手に入れた情報は凄まじい早さで吸収される」
「落下、天に帰らずってか。
天主殻をぶっ壊す方法を見つけないとまずくね?」
「それもある、でもアールヴォイドの技術部に
攻略法を知っている人はいないの。
パスカルは軍事開発専門ではないし、会長も同様だから
こればかりは無理・・・」
ダーマが天主殻の装甲の素材を検査して解説。
「あれはただの白金ではない、無重力状態で配合された合金だ。
20Mt以上の衝撃にも耐えられるだろう」
「核ミサイルぶっぱでも効かねーってか」
「ただ、出入口周辺に高密度の電磁波も検出した。
対バイオウィルス対策で施されている。
その分、密閉すれば逆に開けるのは容易ではない。
よって、破壊より封鎖を優先する事を薦める」
「なるほど、その成分を調べればハッキングツールを作成してねじ込む」
目的は天主殻への到達とゲートの封鎖方法の2つが挙げられた。
ACの柔和かつスムーズな突破法に反対する者はいない。
その手段をどうすべきかが主題となるが、すでに行き先があると
アリシアが示しを与えている。
「奴らも用意周到に根回しをしていたのね。
ならば、そこの養分に毒を与えてあげましょう」
「で、どうやってシステムを乗っ取るんだ?」
「重力に詳しい者が中つ国にいたはず・・・。
鳥取に毒を促せそうな候補がいるから、彼に助力を仰ぎましょう」
「中つ国地方ですね」
鳥取を示した訳は重力合成に詳しい研究者がいるという。
世間では自衛隊によるルート制限が敷かれているが、
エリア境で検問封鎖されている場所は数える程で、
抜けられる道はいくつもある。現状に手間取る市民ばかりの今ならすぐに
障害なく現地に向かえるだろう。
簡易的な支度を済ませて2人は中つ国地方へと向かった。
鳥取砂丘
予想通り難なく中つ国地方に着いたサップとミゾレ。
今回は都合により、2人だけで行動。
当人と待ち合わせ場所付近まで来られた。
見るからに上下高さのうねりがある広大な砂浜が見えるが、
その場に相応しくない物体の集まりもあるようだ。
「うおっ、鉄屑だらけじゃねえか」
「不法投棄ね、処理しきれない機材はここで
捨てられるようになってたのよ」
ここの砂丘は機材の墓場とよばれ、故障や用済みの車、
PCなどの基盤が埋め尽くす程に捨てられていた。
この時代では製造と廃棄が激しく繰り返されており、
少しでも場があればそこへ捨てられる習慣があったらしい。
文明の新陳代謝による一角がここで相まみえていたのだ。
ただ、この場で見たものはそれだけではない。
ギロッ
労働者達が自分達睨み付ける。澱んだ目をしながら黙々と
作業を続けている作業員達が放置された廃材をかき集めて運んでいく。
再利用、加工するつもりだろう。
「な、なんだよコイツら?」
そのほとんどは地主や有権者の雇わればかりで、
現地人だけでなく海外から来た者達も多い。
労働環境調整法が効いていないのか、扱いに格差を感じる。
彼らに将来の夢や希望などあるのか定かではないが、
遠巻きで眺めていると場違いに柔らかそうな声をかけられた。
「あーいたいた、こっちだよ!」
場に似合わぬ白衣を着ている者が手を振っている。
今回の立会人がやって来た。
「あなたがケイトさん?
アールヴォイドの者だけど」
「僕がケイトさ、アリシアチーフから話しをうかがってるよ。こっちだ」
砂丘から少し離れた事務所まで案内される。
中に入りがてら早速、対ブレイントラストの話へと移った。
「一応、前連絡である程度は聞いたけど、具体的にどうしたいんだい?」
「天主殻まで行く方法と、ゲートを塞ぐ方法を探してるの」
「あんた、重力を克服する術を知ってるんだろ?」
「結論から言うと有る。
それに、入口を塞ぐだけならできるかもしれない」
彼の口からあっけなく答えがでる。
上空10000mに位置する扉封鎖は可能のようだ。
「そこまで知っているなんて、ずいぶんと詳しいじゃない?」
「コウシ所長から直に教わっていたからね。
セレファイスの概要は少しだけ知っている」
「セレファイスって、あの円盤の事?」
「そうだね、天主殻という名は多分政府かどこかで名付けられたと思う」
「マジか、こっちは大助かりだけどよ。
あんたはブレイントラストに行かなかったのか?」
「・・・僕は行かなかった。
現地調査の時とか人前で所長は外面は優しいけど、
内面はとてつもなく恐ろしい人だと分かっていたから」
「あいつに何かされたの?」
「いや、ないよ。ただ、あの人は常識の枠を超えた思想をもっている。
1つの物事に執着すると何も聞こえなくなる時があるんだ。
時々、倫理を逸脱するくらいの発言もあったよ。
まあ、そんな野心も凌ぐ追及心なのか、
伊達に反重力なんてすごい物を造るだけあるよ」
かつての同僚として語る。
あらゆる業界も同様だが、科学者の内面は特に複雑で難解な
部分が時折垣間見える事がある。
文明の混沌の最中から頂点に位置するコウシだけある。
「私達アールヴォイドは軍備拡張を行っているけど、
まともに空も飛べないの」
「移動手段に関しては可能だよ」
「マジか!?」
直に天主殻へ乗り込む術は問題ないとケイトは太鼓判を押した。
この設備にある動力源を三機に接続して向かえると言う。
「反重力エンジンを3機取り付けてあげるよ。
セントラルトライアドだっけ?」
「ええ、あれらもブレイントラストと共同製作していた機体なの。
できそう?」
「可能だよ」
彼はあっさりと承る。
反重力エンジンは内部は特有なものの、取り付けじたいは
ただの鉄柱でも付けられる程、安易に行える。
今回、最も大きな課題は天主殻の扉を攻略にかかっているのだ。
「後はあの円盤底にあるゲート封鎖方法だけど・・・そうだな。
あの方法で試してみよう」
「あの方法?」
「粉塵封鎖だよ、一度電圧間に障害を起こしてハッキングしようと思う。
電圧で密封する仕組みなら、非伝導体を混じれば
徐々に開かなくなるはずだよ」
「あのゲートにそんな機能が?」
「うん、あそこには何かを研究している節がある。
基本的に研究棟は潔癖なまでに建造される。
外からの毒ガスや細菌に耐性をもたせるように造られているのさ」
肝心の資源だが、それをこれから調達しようとケイトは画策。
採取エリアはここ中つ国地方の地にあると言う。
「その散布方法はどうすれば良いの?
粉塵の素材も何を使えば?」
「錆を使うんだ、非伝導体で多めに確保しやすくて
通常の赤錆には下地の保護作用はなく、腐食はいつまでも進行するんだ。
一方、緻密な酸化物被膜ができれば、
腐食に対する保護層として新たに機能する」
「電圧間に障害をもたせるってわけね」
「ここ身近で相応しく有効な物質がそれぐらいだし、
有り合わせといってはなんだけどね。
でも、1つ問題がある。ただの錆では大きな効果は見込めないよ」
「じゃあ、どうすんだ?」
「先で言った保護層に新たな仕組みをもたせる。
錆に含む酸素に別の物質を化合させて、ハッキングツールの一部に加える。
電圧間を防ぐだけでなく、制御するための加工錆でなければ
天主殻の放つ高電圧を攻略できない」
「別の物質?」
「調達可能として珪素が候補に挙がってる。
同じ様にシリコンウェーハに酸化膜があるから、
電子密度を緩急するように自由に操作して
イオンを打ち込んで不導体と半導体の混合物を作成したいんだ」
「イオンを媒介した電子操作での封鎖か。
2つの資源を確保できるの?」
「うん、幸い中つ国山地周辺にこれでもかとある。
元々、珪素そのものは地殻中に多く存在するし、
機材から砕けた物質が砂丘の成分と化学変化を引き起こし始めたんだ」
以前の調査でケイトが確認していた分布図を2人に見せる。
最近砂丘で多量に分布されている物質が蓄積していたのである。
自然と人工の産物による混沌が新たな存在を生み出していた。
「砂丘は元々、玄武岩や安山岩が細かくなって山からなだれ込んでできた。
鉄や磁鉄鉱が含まれるそれらは地上の砂鉄と混ざり、赤錆が生成したんだ。
時々、赤い砂嵐が発生するのもそれさ」
「あの世界終末みたいな目に悪そうな景色か」
「僕は地質学の研究で新たに形成されたそれを
かつてコウシ所長と共同で調べていたんだ」
「だからブレイントラストと接点があったのね」
「まあ・・・この大陸は最近不可思議な物ばかりで。
これを使えば上質な素材が見つけられる。
赤錆も従来のものとは違う、新たな可能性を秘めていると思う」
「でも、自然界の鉄は錆だけ存在しているのよね?
ただの錆と見分けつかなくて、どうやって探すの?」
AUROセンサーでも地域限定の性質まで登録されていない。
彼は脚立の付いた振り子の様な物を取り出した。
「これは確か・・・」
「可逆振子さ、地球上では高低差のある
計測地点の重力加速度を調べられるんだ」
「どうして、重力加速度を調べるの?」
「地下に埋もれている鉱石が密集している位置を予測するためさ。
重力っていうのは密度が強い程増していく。
鉱石はまさに質量収縮そのもの、逆に敏針な弱い密度をあさってみようか。
まだ公にはしてないけど、ここ山地地下には
金と同じ質量反応が多く見られたよ」
「マジかよ!?」
主に環太平洋造山帯付近の調査で使われていた。
その一部であるこの国も計測対象として目を付けられて、
天主殻侵攻前から関西の鉱脈スポット扱いだ。
それが、突然戦争の一部と化したのだから皮肉な話だ。
「いつの間にか変わってしまうものなのね・・・。
昔はラクダとか歩いていたのに」
「ここ鳥取砂丘は文明過多の弊害で不法投棄の的、
使われなくなった廃棄場と成り果ててしまった。
でも、制圧されてからは地上に堂々と設備を建てられない。
だから、新たに地下施設を設ける案が立てられたんだ」
「現場のおっさんばっかりなのはそれでか」
「敵性から目をくらますという点については良いかも。
理由は他にもあるようだけど」
「?」
何か言いかけたが、止める。
極秘事項に抵触する恐れか、2人も追及しなかった。
こうして、3人は現地調査、採取を開始。
労働者達を引き連れて赤錆を取りに向かって行く。
中つ国山地
「ここら辺を調べてみよう」
「うおっ、ここもガラクタの山かよ・・・」
現地に着き、時代の端に追われた散乱物。
人間によって生み出された赤錆はほとんど地層表面の浅い所で
生成されている。
「このウェイヴレングスで調べてみよう」
「色んなもん持ってんな・・・」
流石、ブレイントラストに招待されるだけある。
彼の手腕は懐から取り出した機械、ペンライトから細い光線を
地面に照らすと、みるみる色彩が変化していく。
「砂の色が変わりやがった!?」
「金属反応で色を変えただけさ」
「波長を調べる光線ね、磁力線や引力線から辿った
量子力学にも精通できるんじゃない?」
「うん、磁力と重力は質が違えど、原理は同じさ。
あの人の受け売りだけどね」
「今更だけど、人はなんでも創造できるのね・・・。
なんというか、物をかき分けする事は生物一かも」
同じ様なものから異なる質のものを探し当てる。
新たなる資質のために選別する科学のメスを入れる。
ミゾレは人間のもつ可能性を改めて感慨していた。
こうしてメンバー達は一段落をクリア。
振り子の反応を示した箇所を指示し、掘削機の音が一斉に鳴り響き、
一定量の赤錆と珪素を採取する事に成功した。
三機に反重力エンジンを装着する必要も兼ねて2人は帰還、
ケイトからの完成報告を待ちかねていた。
1週間後
「「完成したよ!」」
予想より早い報告にアール・ヴォイドは湧き立った。
従業員に気付かれずにプロと同等なる施しに大きく評価したくなる
手早く仕事をこなすケイトは生み出した備品を説明する。
「名付けてEMIR[電磁妨害錆]、略称でそうしておこう」
「まずは内部から一時的でもゲートを閉じておく。
方法論の1つだけど、ケーブルかなにかに仕掛けて
ハッキングかけられれば良いんだよね」
「チーフの狙いが分かったからこうするか。
ハッキングツールをブレイントラストに送り付けてやろうぜー!」
「どさくさ紛れにケーブルを送り付けて、
ハッキングする・・・決まりね!」
物も護衛付き直通で輸送してくれるので、
妨害がなければ心配なく届けてくれる。
また一歩と対抗策が生まれて砂上より舞い上がる攻略法に期待した。
「そっちに行きたいところだけど、機会が悪くて」
「接続関連なら私達でも十分だけど、あなたレベルの実力なら
天主殻を落とせる可能性が高くなるわ。
せっかくだから、アールヴォイドに来ない?」
「・・・それはできない」
「俺らは奴らと違って悪い事しねえって。
でも、あんたもいつか奴らに狙われるかもしんないぜ?」
「それについては大丈夫・・・僕はもうここにはいないんだから」
「どういう事?」
「責任者リストに自身の名前を表記していないんだ。
僕の名前は記載していないからいないのと等しい扱いさ」
「表記してない?」
彼はわざと自身を明かさずに身を置いて生活。
それどころか事務所の経営者の名義すら書かれていないと言う。
2人になら実情を知らせても良いと、真意を話し始めた。
「実はここの事務所、又貸しで建てられた所なんだ。
それも違法だけど、ここのリーダーに匿ってもらっていて。
偽名を使うと詐称で逆に公式の側に捕まってしまう。
製造物責任法を回避したくてそうした・・・」
「何やらかしたんだ?」
「僕は・・・ここで暗視ゴーグルの設計を任されてる。
夜間活動を有効活用する物を造る役目なんだ」
「スパイ活動かよ」
ケイトは光技術を独自に開発する事で身を置いていたらしい。
密入国と引き換えに地元を盛況させるよう命じられて在籍。
主な担当は微光暗視装置で、暗闇でも外観が明るく認識できる
二次元受光素子にはカンラン石を用いて光電子増倍管技術を
四国から盗用する立場で中つ国から守られていた。
時には独自に作成する物品もあると言う。
「まあ・・・色々あるんだけど、設備さえどうにかなれば
身の安全を保てるからこうしてる。
ウェイヴレングスも完成しそうだ」
「資源はどうやって?」
「個人的に造っている部品の調達が問題だけど、
大抵、砂丘の捨てられた機材を分解して取り出してる。
シリケート加工は得意だから、ここで行ってるんだ」
「鳥取の拠点じゃなく、こんな僻地でか?」
「暗視機器の製造がてら資源流通を管理している僕は
本拠点で行えないから、ここを設けてもらったんだ」
「何故、そこまで危うく手間のかかる事を?」
「・・・・・僕は戸籍を持っていなかったから」
「ええっ!?」
「実は戸籍は買ったもの・・・来国以前から秘密裏にやって来た。
僕は元々ここの人間じゃない。
技術情報を流す海外からの密入国者なんだ」
「マジかよ!?」
彼の出身は異国、科学技術を横流しするスパイだった。
高度成長、科学の粋が高域に達するこの世界から少しでも情報を
得るために忍びで来国しにくる。
しかし、生物型の囲いによって脱出ルートを断たれてしまう。
ここの地主に手当てを受けて暮らしていた。
漂流という異端者でありながら家も立場も恩恵を与えられて、
名義変更の変更で地元を騙す度胸などもてるはずもない。
製造物責任法を回避する理由だったが、
彼が中つ国地方に根付くのはそれだけではなかった。
「ここは今、山陽と対立している。
地域は地方ごとにまとまると思うやいなや、
すぐに中つ国地方は山陽の広島と岡山が結託。
山陰の山口と島根と鳥取に分かれて
天主殻ができてから急速に過激化してしまった」
「どうして南北に?」
「分からない、元から対立していた風習があったのかも。
すでに軍事開発も取り入れ、熾烈を極めるような訓練、
砂丘の直下で基地を建設する事業に関わってるんだ。
それに僕はもう所帯をもってしまっている。
すぐには中つ国地方を離れられない・・・」
「・・・・・・」
ケイトの立場はすでにエンジニアの一端を担っていた。
天主殻誕生以前から山陽と山陰側の問題はあったが、きっかけで
対立意識がさらに激化していた。彼にとってはそれだけでなく、
地元から出たくない気持ちが強く生まれていまい、
無意識にここ中つ国地方に根付いてしまったのかもしれない。
こうして、サップとミゾレは対抗策の目処がつき、
作戦展開に組み入れる術が1つ叶う。
目立たぬように入口ドアでケイトから動力源を渡された。
「これが反重力エンジンだよ、持っていって!」
「悪いな、いつかお礼はするからよ!
え、高級酒が良いって!?」
「いや、お酒は苦手で・・・」
「あなたのスキルも本当に惜しいくらいよ。
クドイけど、ここで事が収まってから
アールヴォイドに来ても良いじゃない?」
「気持ちはありがたいけど、まだどうしてもちょっと。
それでも、僕はこの地域を活性化させたいんだ。
過疎化しかけている中つ国地方の人口数も考えてる。
もう子どもが生まれるんだ」
「もう身籠ってたのか!? やる事はやってんな!」
「その子も同じ道に? 今度来たら名前も教えてね」
「名前ならもう決まってるよ。
こんな立場でも何かしらのジンクスくらいもってるつもりさ」
「はえーな、おい! 何でいうんだ?」
「半分はすでに決定してるから、これは先祖の仕来りみたいでね。
僕の子孫は全て“ケイ”の名を付けるようにって、
代々からそう決まってるんだ」
「あっそう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
荒廃した世界で見られる代表的物質、錆!
赤錆は本来、水中下で発生する仕組みです。
電子が酸化還元反応でイオン化するもので、
水中→砂中とイメージを置き替えて勝手に創作しちゃいました。
橄欖石も暗視技術とは無関係です。
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