Condense Nation

文字の大きさ
上 下
262 / 280
4章 ブラインド編

第4話  蟻から黒豹へ

しおりを挟む
ルヴァの手作り朝食のメニューは、「永遠の死の国の森のきのこのキッシュ」に「ルヴァの気紛れクレーム・ブリュレ苦しみの炉風」と「恋人たちのブリオッシュ~三種のコフィチュールを添えて~」っていう、料理自体は旨そうだし罪はないが聞いただけで胸やけと胃もたれがしそうな名前のものだった。
言っとくけど名前付けたの俺じゃないからな、ルヴァが自分でそう説明したんだからな。
せめて名前くらい統一感が欲しかった。ブリオッシュもうちょっと頑張れよ。
正直、徹夜明けの早朝にルヴァのキャラはきついです。
俺とエリアスは徹夜でセックスして疲れてるんだよ。
ユリゼンじゃなくても君の理性が限界きそう。

そして何故か卵をふんだんに使っていて窯で焼く料理ばかりだ。
ゾアの世界図でロスは卵型で描かれているから卵料理ばかりでもおかしくないんだが、それらがルヴァの死体を焼いたのと同じ階下の炉で焼かれたのでないことを祈りつつ、どこで焼かれたのか訊くに訊けないでいる。
だって、硝子のドームの真ん中の六分儀セキスタントの軸の部分が煙突になってたみたいで、今見たら煙が出てるんだよ。
夜は煙なんか出てなかったのに。

朝食はどれもすっごく旨いし、知らないままの方がいいかも知れない。

「ルヴァ、お前がナナセを呼びつけた目的は何だ」

朝食を食べながら早速エリアスが切り出した。
俺を呼んだのは正確にはルヴァじゃなくてルヴァの燃え滓の方で、ここにいるのは自分が焼かれた炉に固執している地縛霊みたいなもんなんじゃないのか。知らんけど。
でも時々宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーの出張サービスもしてるみたいだから地縛霊ともちょっと違うか。

「おっと。単刀直入だね。まあ隠すことでもないから教えてあげるよ。簡潔に言うと『この世界の均衡を取り戻すため』かな」

この世界の均衡を取り戻すって言うけど、「黎明と黄昏」がこの世界に具体的にどのように作用するのかはまだ分からない。
それにもしかして、俺に「魔導書を編纂せよ」って課題を出したあしながおじさんもグルだったってことか?
そういえばあの獣人領の舞踏会にはあしながおじさんも来ていたはずだし、ルヴァも宮廷吟遊詩人ミンネゼンガーとして参加していた。

「最初から俺に魔導書グリモワールを編纂させるために呼んだってこと?」
「そうなるね。ヴェイラがその杖を渡してくれたから、君の心に直接話しかけられるようになったよ」

ていうか、この杖アンテナだったのかよ。
あの声が聞こえ始めたのって、そういえばこの杖貰ってからだったな。

「そんな遠回しなことをせずに舞踏会で会った時に直接言えばよかっただろう」

エリアスは最早食事どころではなく苛々しながら正しい突っ込みを入れる。
既に血管がブチギレそうだ。

「それでは駄目なんだよ。誰かに教えられて正解を書き写したような魔導書じゃ意味がないんだ。太古の昔、闇と契約を交わした一族の末裔たるナナセくんが自分自身の力で正解に辿り着いた末に編み上げた魔導書でなくちゃ意味がない。僕は君たちに付かず離れず見守りながら、最低限の手助けしか出来なかったのさ」

確かに「黎明と黄昏」は追い詰められた末の産物だ。
決して他の方法では編み出すことはできなかったし、ましてや教えられて出来るものでないだろう。
それは誰よりも俺が一番良く知っている。
訳知り顔でいいように誘導されていた事実は腹立たしいし悔しいが、説明されればいちいち納得してしまう理由がそこにあった。

だがルヴァの回答を受けて更にエリアスが問う。

「そもそもお前はゾアなのに世界の均衡くらい自分でどうにか出来なかったのか?」
「本当にそう思うよね。僕は良くも悪くも神でも悪魔でもない『愛の化身』だからね。役割を超越した力はないんだよ。ゾアは人ほど自由ではないってことさ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

処理中です...