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4章 ブレイントラスト編
昴光の翼2
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数日後
地層の現地観測も目処が立って終了する。
データもそこそこ取れてKも満足気のようだ。
今日は中つ国へ戻る日、再び空港へ向かうが、
航空管制から離陸許可が来る前に時間がある。
そういえば、この季節にはリュウキュウアカショウビンがいて
ちょっとしたバードウォッチングしようと思い
いつもの道を歩いて散歩していると、予想もできない事態と出くわした。
(また葬儀をしているのか?)
つい最近まで行われていたはず、しかも同じ場所。
これといった大きな事件もなく、ニュースでも特に知らされていなかった。
だが、表示された名前を見て私は愕然とする。
無礼ながら焼香の最中に棺へ向かって中を見てしまう。
棺の中は少年だった。
そこだけ小さな棺で、隙間が空くように置かれていた。
周りの住民達のひそひそ話が聴こえる。
「「義理の父親に因縁をつけられて虐待されてたんだって」」
「「あの家庭はなんか普通っぽくなかったしね」」
「「再婚がてら邪魔になったんでしょ。
可哀そうに、どさくさ紛れの事故死狙いなのね」」
「・・・・・・」
その少年の棺には花は添えられていなかった。
まるで雑に入れられたかの様な寝かせ方、供養が足りなそうに。
ふと側に書いてあった名前を見て驚愕する。
(この名前は・・・あのポスターの!?)
この子は街で見かけた未来図を描いていた子どもだった。
絵に表現した将来の望みはあっけなく消えてしまう。
知識が弱く、行動は強い。知識が強く、行動は弱い。
反する異生物の習性をこんな所で感じさせるとは思いもよらなかった。
(人・・・間とは何だ?)
棺の隙間から見える少年がそう感じさせる。
間を観た時、空間の存在意義を思い返されてしまった。
年甲斐もなく涙が出そうになる余韻すらない。
私がもっと早く気付いていれば、危害の無い
救いの手を差し伸べられたのかもしれなかったのに。
「「新たにやるべき事が増えたようだな・・・」」
望むべきはもはや関係の軽減ではなく断絶
選択された者による外界の干渉無き世界
物理を究める根拠はここに在る
ここで初めて鳥の真の意味も理解した。
鳥類は空を飛ぶ事で離脱と隔離が可能だ。
不運な光景を目にしようと、優秀な人の力ならば
地上の脅威から逃れられる。
今までも組織の先に立って築いてきたはずだ。
だから、自らの信念と実情を大らかに表さず
この地域の人達に黙って、私は私なりの弔いをしてきた。
何年も何年も。少しでも犠牲者が浮かばれるよう、
この鳥に天まで運んでもらえるように。
「鳥は平和の象徴だ。
神話でいう天の使い、望むべくは歪な地上からへの隔離。
浄化世界へ羽ばたく翼をもつべきなのだと」
フレームを置きたかったが持ち合わせておらず、周囲の目も
あるので買ってきた花を棺に置き、静かにその場を去る。
予想外な展開でこんな暗い顔をKに観られるのも億劫だ。
気を取り直す様に空港に向かって中つ国地方へ戻った。
鳥取 地下研究所
「では私もトウキョウへ帰ろう。
結果は個人メールで通信してくれてもかまわんぞ」
「お疲れ様でした、気を付けて」
地殻構造のデータもある程度に収集を終えて、
学会への発表まで備えるのは彼の仕事。
支度も終えて研究所の外に出る寸前、別れの挨拶がてらで
もう一度確認するかのように再びKに諭した。
「K君」
「はい?」
「君の才能は我々の元で発揮するべきだ。
私はいつでも待っているよ」
「・・・・・・はい」
最後に念を推してそう話したが、期待は薄い。
おそらくこちら側には来ないだろう、態度で分かる。
外に出る途中、備品が置かれている部屋に目がついた。
誰もいない。予めフライヤーに乗せていた数十機の
反重力エンジンをケースに敷き詰めて置く。
自棄を含みがちな恨みもないプレゼント攻撃だ。
後は寄り道もせずにすぐ東京へ戻っていった。
それからはいつもと変わらぬ普遍的な毎日が続く。
部下の育成と共に発展を貢献し続けている。
変わったのは、とある1機を追加する計画を立てた事だ。
「暴徒鎮圧・・・ライオットギア計画?」
「そうだ、政府もあてにならん状況で我々の軍事産業を
今こそ拓くべき時なのだ」
アール・ヴォイド社と新規のロボットを製造する計画を
共に共同開発する事にした。
警備ロボットという名目で法に抵触しにくい防衛手段を構築するべく、
どの範囲まで影響を伸ばせるのか無機物との密着はここから始まる。
このメーカーとは縁が深く、等しい理念をもってくれたようで
私の立場としても細かな部分など支えられている。
兵器設計も彼らからノウハウを学び、装備庁の情報も少しずつ吸収。
ふとした経緯で個人的にアクアマリン構想を入手。
腐食に耐性をもつアルミニウム、ベリリウム、ケイ素の金属性を
防衛機能に備えた艇を造った。
「画面の機体を製造したのも、この理由だったのですね。
青白く包まれた装甲で、反重力機能も備えている。
アメノクラミズチと書いてありますが?」
「うむ、海の守り神として製造したのだ。
海難救助、資源回収。様々な用途で用いられるが、
一番の用途は武力介入だ。自然災害よりも、
何より人災こそ質の悪いものはなかろう」
「潜水艇として製造したのですね。
材料的に生産可能ですか?」
「ちなみに、ネーミングしたのはアメリア君でな」
細長い筐体の先に球体の動力部が取り付けられたそれは、
あの棺をモチーフにした形状であるのは一目瞭然だ。
当然、人生の流れでこの様なデザインを構築したのだろうが、
この場合における所長の精神状況は被害妄想。
災害より思いを寄せていた生物の死からダメージを受けたと
回避の専念で反重力へ構想を向かわせたとみえる。
そういった経緯でこの機体がこんな型となったのかまでは定かでなく、
形容しがたい規格の様に適切な心理が思い浮かばなかった。
隣で観ていたアイザックは空気も読まずに、|完璧(主観)なる
西洋の感性から悪趣味と言わんばかりの感想を口に出す。
「それにしては、ちょっとデザインが不気味っぽいというか。
捕縛用の鎖ヘビが・・・なんというか」
「「やめておくんだ」」
自分が小声で注意する。
失礼に当たるのもそうだが、センスはどうしても人によるもので
後々に障る事を極力慎むようにさせた。
だが、コウシは逃さず部下の印象を聞いてしまっていた。
がっかりした顔で眼鏡を外してうなだれる。
(やはり、私はデザイナーには向いていないんだな。とほほ)
数時間後 所長室
就業時間、従業員が次々と部屋に戻る内にコウシは
個室に戻る前に生物情報を閲覧していた。
その1種である鳥類について調べる。
生息範囲、分布を観て大いに感慨した。
「「鳥類は672種か・・・やはり抑えられているな」」
その数値を観た私は納得する。
全生物の中において最も絶滅数が少なく、他の種類が日増しに
減少している中、鳥類だけは異常に少ないのだ。
「天空こそ選ばれしものの生存圏。
叡知ある生物が須らく目指すべき場所なのだ」
鳥にとって空は天敵が少ないのであろうその事実が彼の羨望を
湧き立てていったのは、広大すぎる上層世界に障害が少ない
自由さがあるからだ。空という領域でも重力がある。
地上のどの生物にもかかるそれを退ける力がある翼をもつ
生物を目にした時より、すでに昔から自身の居場所を探す
理由に気付いていたのかもしれない。
領域が聖域に変わって崇めていた自分がすでにいたのだろう。
地層の現地観測も目処が立って終了する。
データもそこそこ取れてKも満足気のようだ。
今日は中つ国へ戻る日、再び空港へ向かうが、
航空管制から離陸許可が来る前に時間がある。
そういえば、この季節にはリュウキュウアカショウビンがいて
ちょっとしたバードウォッチングしようと思い
いつもの道を歩いて散歩していると、予想もできない事態と出くわした。
(また葬儀をしているのか?)
つい最近まで行われていたはず、しかも同じ場所。
これといった大きな事件もなく、ニュースでも特に知らされていなかった。
だが、表示された名前を見て私は愕然とする。
無礼ながら焼香の最中に棺へ向かって中を見てしまう。
棺の中は少年だった。
そこだけ小さな棺で、隙間が空くように置かれていた。
周りの住民達のひそひそ話が聴こえる。
「「義理の父親に因縁をつけられて虐待されてたんだって」」
「「あの家庭はなんか普通っぽくなかったしね」」
「「再婚がてら邪魔になったんでしょ。
可哀そうに、どさくさ紛れの事故死狙いなのね」」
「・・・・・・」
その少年の棺には花は添えられていなかった。
まるで雑に入れられたかの様な寝かせ方、供養が足りなそうに。
ふと側に書いてあった名前を見て驚愕する。
(この名前は・・・あのポスターの!?)
この子は街で見かけた未来図を描いていた子どもだった。
絵に表現した将来の望みはあっけなく消えてしまう。
知識が弱く、行動は強い。知識が強く、行動は弱い。
反する異生物の習性をこんな所で感じさせるとは思いもよらなかった。
(人・・・間とは何だ?)
棺の隙間から見える少年がそう感じさせる。
間を観た時、空間の存在意義を思い返されてしまった。
年甲斐もなく涙が出そうになる余韻すらない。
私がもっと早く気付いていれば、危害の無い
救いの手を差し伸べられたのかもしれなかったのに。
「「新たにやるべき事が増えたようだな・・・」」
望むべきはもはや関係の軽減ではなく断絶
選択された者による外界の干渉無き世界
物理を究める根拠はここに在る
ここで初めて鳥の真の意味も理解した。
鳥類は空を飛ぶ事で離脱と隔離が可能だ。
不運な光景を目にしようと、優秀な人の力ならば
地上の脅威から逃れられる。
今までも組織の先に立って築いてきたはずだ。
だから、自らの信念と実情を大らかに表さず
この地域の人達に黙って、私は私なりの弔いをしてきた。
何年も何年も。少しでも犠牲者が浮かばれるよう、
この鳥に天まで運んでもらえるように。
「鳥は平和の象徴だ。
神話でいう天の使い、望むべくは歪な地上からへの隔離。
浄化世界へ羽ばたく翼をもつべきなのだと」
フレームを置きたかったが持ち合わせておらず、周囲の目も
あるので買ってきた花を棺に置き、静かにその場を去る。
予想外な展開でこんな暗い顔をKに観られるのも億劫だ。
気を取り直す様に空港に向かって中つ国地方へ戻った。
鳥取 地下研究所
「では私もトウキョウへ帰ろう。
結果は個人メールで通信してくれてもかまわんぞ」
「お疲れ様でした、気を付けて」
地殻構造のデータもある程度に収集を終えて、
学会への発表まで備えるのは彼の仕事。
支度も終えて研究所の外に出る寸前、別れの挨拶がてらで
もう一度確認するかのように再びKに諭した。
「K君」
「はい?」
「君の才能は我々の元で発揮するべきだ。
私はいつでも待っているよ」
「・・・・・・はい」
最後に念を推してそう話したが、期待は薄い。
おそらくこちら側には来ないだろう、態度で分かる。
外に出る途中、備品が置かれている部屋に目がついた。
誰もいない。予めフライヤーに乗せていた数十機の
反重力エンジンをケースに敷き詰めて置く。
自棄を含みがちな恨みもないプレゼント攻撃だ。
後は寄り道もせずにすぐ東京へ戻っていった。
それからはいつもと変わらぬ普遍的な毎日が続く。
部下の育成と共に発展を貢献し続けている。
変わったのは、とある1機を追加する計画を立てた事だ。
「暴徒鎮圧・・・ライオットギア計画?」
「そうだ、政府もあてにならん状況で我々の軍事産業を
今こそ拓くべき時なのだ」
アール・ヴォイド社と新規のロボットを製造する計画を
共に共同開発する事にした。
警備ロボットという名目で法に抵触しにくい防衛手段を構築するべく、
どの範囲まで影響を伸ばせるのか無機物との密着はここから始まる。
このメーカーとは縁が深く、等しい理念をもってくれたようで
私の立場としても細かな部分など支えられている。
兵器設計も彼らからノウハウを学び、装備庁の情報も少しずつ吸収。
ふとした経緯で個人的にアクアマリン構想を入手。
腐食に耐性をもつアルミニウム、ベリリウム、ケイ素の金属性を
防衛機能に備えた艇を造った。
「画面の機体を製造したのも、この理由だったのですね。
青白く包まれた装甲で、反重力機能も備えている。
アメノクラミズチと書いてありますが?」
「うむ、海の守り神として製造したのだ。
海難救助、資源回収。様々な用途で用いられるが、
一番の用途は武力介入だ。自然災害よりも、
何より人災こそ質の悪いものはなかろう」
「潜水艇として製造したのですね。
材料的に生産可能ですか?」
「ちなみに、ネーミングしたのはアメリア君でな」
細長い筐体の先に球体の動力部が取り付けられたそれは、
あの棺をモチーフにした形状であるのは一目瞭然だ。
当然、人生の流れでこの様なデザインを構築したのだろうが、
この場合における所長の精神状況は被害妄想。
災害より思いを寄せていた生物の死からダメージを受けたと
回避の専念で反重力へ構想を向かわせたとみえる。
そういった経緯でこの機体がこんな型となったのかまでは定かでなく、
形容しがたい規格の様に適切な心理が思い浮かばなかった。
隣で観ていたアイザックは空気も読まずに、|完璧(主観)なる
西洋の感性から悪趣味と言わんばかりの感想を口に出す。
「それにしては、ちょっとデザインが不気味っぽいというか。
捕縛用の鎖ヘビが・・・なんというか」
「「やめておくんだ」」
自分が小声で注意する。
失礼に当たるのもそうだが、センスはどうしても人によるもので
後々に障る事を極力慎むようにさせた。
だが、コウシは逃さず部下の印象を聞いてしまっていた。
がっかりした顔で眼鏡を外してうなだれる。
(やはり、私はデザイナーには向いていないんだな。とほほ)
数時間後 所長室
就業時間、従業員が次々と部屋に戻る内にコウシは
個室に戻る前に生物情報を閲覧していた。
その1種である鳥類について調べる。
生息範囲、分布を観て大いに感慨した。
「「鳥類は672種か・・・やはり抑えられているな」」
その数値を観た私は納得する。
全生物の中において最も絶滅数が少なく、他の種類が日増しに
減少している中、鳥類だけは異常に少ないのだ。
「天空こそ選ばれしものの生存圏。
叡知ある生物が須らく目指すべき場所なのだ」
鳥にとって空は天敵が少ないのであろうその事実が彼の羨望を
湧き立てていったのは、広大すぎる上層世界に障害が少ない
自由さがあるからだ。空という領域でも重力がある。
地上のどの生物にもかかるそれを退ける力がある翼をもつ
生物を目にした時より、すでに昔から自身の居場所を探す
理由に気付いていたのかもしれない。
領域が聖域に変わって崇めていた自分がすでにいたのだろう。
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