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4章 ブレイントラスト編
第6話 昴光の翼1
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ブレイントラスト ロビー
ウィーン
「ほうっ」
所長が一息つきながら所長室から出てくる。
自身の仕事を終えて、ロビー内に顔を出してきた。
また査問会に行って予算案を色々と受諾させられていただろう、
部下ながらに労いの言葉を送った。
「お疲れ様です」
「「ああ・・・」」
声の大きさですでに気苦労がうかがえる。
ここ最近になって頻繁に外出する様子で理解した。
「やはり、本当にお疲れの様子が見えます。
少々、休暇をとられた方が良いのでは?」
「いや、大した話ではない。
世界へ向き過ぎた反動でよく起こる出来事があっただけにすぎん。
人種間による、ちょっとしたトラブルだ」
「何かあったんですか?」
「ここブレイントラストは様々な人種が来ているだろう?
一員による異国人同士の言葉の壁も生まれてしまってな。
全ての研究者が達者に外国語を話せるわけではない。
ここの国の研究者も不平を言うようになってくる。
まるで私が売国奴と言わんばかりだ」
研究内容に人種差別などまったく適用されていない。
当然、あらゆる国から雇用する所長の方針ゆえに言語問題という
壁が後から押し寄せてくるだろう。
聞いた話では、ブレイントラストの先代もこの国の者ではない。
そういった関連で、この国にやってくる科学者も自分達だけ
務めていないのだ。
「前所長はここの国の者ではなかったらしいですが?」
「そうだな、オーディン博士も某国出身だ。
私も色々世話になったもので、九州にいた頃はたまたま思いついた
哺乳類のアミノ酸の論文を書いて仮説留まりながら雑誌に掲載されて、
博士の目に留まったのが始まりだったな。
結局、その案は断念したが」
「所長も、失敗経験があるのですね。
反重力とはまったく異なる線も辿っていたとは」
「もちろんだ、人生とは失敗の連続から得られるもの。
プロフェッショナルエラーとて決して避けられぬ。
最後に残ったのが“空”についてだよ」
ピピッ
1匹の鳥が飛んできた、文鳥だ。
所長が懐から取り出したスティックで、鳥がその上に乗る。
空を“そら”と言わないのが気になったが、この鳥が空の
代表格の象徴として飼っているのだろう。実に所長らしい。
「手慣れたものですね」
「これは私が直に飼っている。
最も空と接する動物が鳥だと勝手に思っているよ」
「鳥は動物の中でも知能が高いと聞きます。
おせじではありませんが、所長と波が合ったのかも」
「おせじでも私にとっては嬉しいぞ。
鳥との調和の波か・・・ふふっ」
コウシは文鳥を眺めつつ思想にふける。
生物の分類では少ないとされる種類の物において、
人身では決して飛ぶ事ができないゆえに反重力との接点を
よく指摘される時もあった。
自分が鳥にこだわる理由は別に空域の生息者だけではない。
かつて、その動物にまつわる思いをしたのも一因だろう。
私の生まれは九州、幼少期はほぼ都会暮らしの缶詰め生活。
当時は自然と接する経験など他の子と比較してもかなり少ない。
6才までは動物と接する機会もさほどなかったが、
親が動物嫌いでそれに関する事を一切教えてくれず、
記述された本やネットですら見せてもらえなかった。
沖縄にいる友人の父親が狩猟をやっているという話を聞き、
鳥を見せてくれるというので、彼の家に行った。
初めての鳥を拝見できるというものだから、
子どもながら期待を隠さずにはいられずに、
わくわくしながら箱を開けて見せてもらった。
しかし、箱の中に入っていたのは想像とはなれた異物。
上半身と下半身が逆に捻じれた鳥だった。
「・・・・・・」
最初はそんな骨格をもつ動物だと思っていた。
後に図鑑で正しい姿を観ても、脳内でどこかねじ曲がり
下半身の正確なイメージがもてずにいる。
さらに、後の事件が私の未来を決めるとは想定の内にも含まれていなかった。
それからというものの、生活はいつもと等しく、
青年時代は特にこれといって変わらぬ生活ぶりだった。
学業の傍ら、絵を描いていた。
元々、私は画家になりたかったからだ。
もちろん選考すら通らなかった。
知識と感覚は等しくなく、思い描いた抽象を指にうまく
伝わらないギャップに悩まされる。
少なくとも絵の才能には恵まれていなかったようだ。
ぼくがえがいたみらいのせかい
アーケード街で何かのコンクールで張られた絵があった。
子どもの絵で、未来の世界を描いた空想だ。
空を飛ぶ乗り物、銀色の服を着た宇宙服の様な光景が描かれていた。
選ばれたものが展示されたのか、
幼稚ながらも子どもの脳内で精一杯思い描いたのだろう。
しかし、一部では“子どもらしくなど程度の低いもの。”
そういう目でみる大人達も少なくはない。
あのライト兄弟すら、自転車に翼を付けて飛ぼうとした光景が
さぞ滑稽に見えて嘲笑されていたのだから。
例え大人になろうと、子供心をもつ事は恥ではない。
私が描く、ある絵はどうしても歪な描き方をしてしまう。
子供心だからという理由付けで色眼鏡をしていたが、
あの第一印象とはそれだけ衝撃が強かったのだろう。
私は鳥の上半身と下半身をどうしても逆に描いてしまうのだ。
だが、絵というものは“正しいものを描く”事ではない。
人にとって想像したものを描くものである。
当時の所長だったオーディン博士に私の資質を素直に打ち明けた。
そして認めてもらったのだ。
1つの成就を果たした後、年月を重ねて反重力研究は成功し、
そのまま所長にまで昇進できたのだからな。
「おめでとう、やはり私の見込み通りだ。
AURO粒子を見つけた時と同じ気持ちになれたようだ」
「粒子誕生の瞬間ですか?」
「ああ、空間内部に張り巡らす螺旋ばかり見ればなおさらだ。
突然、ポンと発見する感覚かな。
電気力線、磁力線などを見続けているとそんな感じがするよ」
「突然の閃きみたいなものですね、分かります」
「私も年だからな、後継ぎができてなによりだ。
これで私も・・・」」
「はい?」
「いやいや、気にせんでくれ」
濁した前所長の言動が気になったが、私自身も、同感だ。
後継者を残してまっとうできれば良い。
このままブレイントラストで安泰を迎えるのかと思っていた。
しかし、世界は理論収量出来るほど単純にはいかない。
そんな人生の転機はすぐ間近で起きたのだ。
鹿児島 山岳地帯
休暇を利用し、ツアーで山登りに行った。
快晴だが、暑さにより最近は春の気候も感じにくくなり、
夏と冬しかない様な両極端な季節に変わっていく。
続けて山林を通る中、私は木々を見て感じた。
葉っぱは枝の先につく、それは複雑に分かれている様子が
まるでプログラムコードの様だった。よほど疲れていたんだろう。
他の客からどんどん引き放されていく。
なんとか追いつこうと、急ぎ足で足元もろくに見ず、
うっかり頭が下へ垂れてしまい。
ガラガラガラ
崖の下へと落ちてしまった。両足が麻痺して動けない。
骨折した感覚はないが、打撲をしてまともに歩ける余裕がなく
周囲も人はほとんどいない孤立した状況にあった。
(私はここで終わるのか・・・)
九州の山は中部に劣らず広大な高さで箇所によっては発見されにくい。
初老近くで消耗しようなら死亡する事は十分にありえる。
重力を理解できた直後に重力に作用されて被害をこうむるとは。
そんな時だ。
目の前に鳥がいた。私をジッと見つめている。
よく見たら、足になにか紙が付いていた。この子は文鳥だ。
(この子は遭難者探索鳥、ここにいる事を知らせられれば)
紙を取り外し、ここの詳細を書いて救助されるのを願った。
再び鳥の足に紙を括り付ける、そして飛び立った。
その瞬間、私は空を見上げた。大地から空へ視界を上昇した
瞬間の光景が私には空間を上部へ押し上げる天使に観えたのだ。
太陽を背に翼の隙間から一瞬見えた光の翼。
我を忘れて空を見上げたそのときだった。
大きな地震が発生し、崖の上部が不安定にぐらつき崩れ始める。
鳥の上部から大きな岩が降って来たのだ。
グシャッ
光を覆いつくす程の大岩が影も落としてくる。
鳥は押しつぶされてしまった。わずか隙間から観えた亡骸が、
あの時箱に入っていた状態と同じモノを再び見せつけられる。
「「ああああ・・・」」
ゴゴゴゴゴゴゴ
悲しむ余裕すらもなく地上はひび割れ、うねっている。
山岳の立体的な地形がさらに隆起を促していく。
それはまるで大地という空間が歪んでいる様な光景。
私はそこで動けずにひたすら揺らされているのみだった。
「大丈夫ですか!?」
「「・・・ああ」」
その後、地元の救助隊が駆けつけて私は助けられた。
退院するまでは絵を描き続けたが、やはり足を綺麗に描けなかった。
足は地につけて歩くもの。事故により、外観と価値観がどちらもねじ曲がり、
不運にも、描く力もなくなっていた。
ブレイントラスト 上層階
反意で振り切り、研究に没頭した末に反重力の開発に成功。
時はすっかりと職業地位の影響力が肥大化していた。
対比に肉体と頭脳の労働バランスも歪みが生まれていく。
格差を完全に切り離す策を国が行おうとしていたが、
前触れもなく唐突に終わってしまう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「政府は火星移住計画の中止を発表しました。
宇宙航空研究開発機構及び、国会によって審議の結果、
宇宙への資源の必要性を感じないと判断。
予算割り当ての見直しを求められて
オリンピックへの予算案が国会による議決の過半数を超えて――」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「な・・・」」
国は空への夢を棄てた。
人口を火星に分断させて労働均衡する計画を打ち止めたのだ。
中止どころか研究機関の縮小を推し進める方針を定めていく。
上ではなく、下への貢献。
食物連鎖の三角形の頂点が細く切られた感覚を味わわされた感じだ。
歴史的貢献をした自分の扱いがまるで無かったかのように。
理由は何だったのか、査問会を通して聞いてみた。
国立研究開発法人
査問会はここの直属で、研究費用の管理をする機関。
政府よりブレイントラストの運用を見張る組織で、私は下の立場と言えども
宇宙開発事業団の取り止めに抗議せずにはいられなかった。
「AUROで全てを賄うので宇宙探索は不必要と?」
「そうだ、確かに生成に時間を要するもほぼ全ての物質を製造できる。
わざわざ宇宙にまで出向くメリットがない。
危険性も非常に高く、設置費用も増すばかりだ」
「しかし、人口問題など解決できる可能性も――」
「人口の件に関しては肉体的貢献を見込んでの事。
オリンピックなどのスポーツ事業の方が巡りが良いのだろう」
「なんと・・・」
「とても夢のある計画だと私も思っていたが、政府の決定は覆せん。
君が管轄する生物管理所も精一杯だ。
アニマルプラネットを実現させる道は残念かもしれんが・・・。
理解してくれたまえ、コウシ君」
「・・・・・・」
上司もオーディン博士の生み出した技術で打ち止めすると決定。
AUROの半永久機関は人の手間をも省略させる余り、
頭脳よりも肉体への密度を高めさせてゆく。
私の反重力は重要事項として世に出さないよう緘口令を受け、
政府独占に技術提供しないよう命令。
“立場は保証してやるから今後の新技術に備えろ”と、
動物達の身と引き換えに黒幕の内から停滞させられる。
知識の繁栄は世界から少しずつ薄れさせていった。
ブレイントラスト 所長室
数百mもの高さを窓越に、研究室から外を見て世の移りをふけりつつ
不意に存在理由を思っていく。
時代に沿った能力主義、職業差別も当然になりつつ変わり、
分かたれた3つの世界の頂点に自分は上り詰めた側に成るも、
皮肉にも対となって下層階級から敵対関係として立ってしまう。
上層階に住むようになってから、益々地上を恐れるようになる。
下を見ると度々起こる暴動やストライキを眺めていると、
人の群勢がまるごと地上が蠢いている様に見えてしまう。
「給料が安すぎて税金が払いきれませーん!」
「金持ちばっかヒイキしてんじゃねーよ!」
「ぼくたちにお仕事を与えておくれーっ!」
仕事にありつけられない者達による訴えに目を細める。
下層階の活力は何故、これ程に団結力をもてるのだろうか。
体力レートを割いているだけの分類で、仰々しくも集まる様は
人間界における重力そのもの。
あの時の大地のウネリがまだ私の脳裏に焼き付いている。
「「ううん、地上が曲がる地上が曲がる地上が曲がる。
怖いコワイこわいぃいぃいぃいぃっ」」
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
揺れる、ブレる、振動する。
有機物と無機物が無数に混ざり、判別もできなくなるくらい
いくらでも言葉で例えられそうな残像が目を通して脳内に伝わってゆく。
生きているのか、動いているのか、生命線が次第に分からなくなり、
人の集団が背景の金属と同化してゆく。
「んんんんっ!」
プツン
脳内の何かが弾けた。
いや、分断したのだ。
残像を切り取った果ての答えは分断。
脅威が下部からやって来るのならば隔離するのみ。
そのための反重力がある。
しかし、重力はただの圧力ではない、空間歪曲。
見えぬ亡霊に引きずられる様な内側から生まれる力。
ただの物理的な力で解決できない。
だからこそ、スピリチュアルな天使こそ亡霊に干渉できる次元に
及ぶべき世界を生み出すべきなのだ。
とはいえ、現実に天使や亡霊などいるはずがない。
事例は目の錯覚や一種の催眠状態で経験したものばかりだと、
現代の科学で証明されている。
あの凄惨を見せられたらなおさらだ。
原理主義者である我々科学者はあくまでも現実枠より求める存在。
だから実在する生物、鳥から解を求めるべきだと悟ったのだ。
鳥取 地下研究所
中つ国地方のエリアにある鳥取に足を運んできた。
ここに来たのは別に地名で選んだ訳ではない。
今日は沖縄へ地質調査をしにいく予定で、ブレイントラストの視察となる
共同である科学者Kと合同作業をしに来たのだ。
「こここコウシ博士!?」
「やあ、元気かね?」
彼も重力研究をしている者の1人で、かつて自分と共同していた。
そんな彼がここに残り続けているのは理由があったが、
自分はどうしても東京に連れていきたいのだ。
「やはりブレイントラストには来てくれないのか?」
「「申し訳ないですが、それだけは・・・」」
もう何度頼んでも、返事は同じだ。
自分のしつこさはある意味、オーディン博士に及ぶかもしれない。
仕事前に個人的な干渉が続くのもやましく
Kに気の毒なので今日はそこで止めておく。
今回の仕事は前に起きた地震の影響を調べに共に沖縄へ行く予定だ。
再び訪れるあの地へ向かわなければならない。
心中では少し躊躇いがあり、気が引ける。
あの事件は彼に話す気が起きなかった。
沖縄
民間機ではない反重力を搭載した専用のフライヤーで乗り、
颯爽と沖縄の空港に着いた。
住民が物珍しさで眺めている間をぬって、すぐに仕事に取り掛かる。
「では、地層へ向かおう」
「はい」
あの地震は琉球全土にわたる珍しいもので、沖縄でも予想なく
対策できずに被害にあった人達も何人かいた。
Kと九州に直接関連はなく、地質学に携わる者として同行。
確かな頭脳と腕前をもつ彼と状況を調べにゆく。
「相変わらず暑いですね」
「常夏の国だからな。
さすがに位置的に春と夏しかないだけはある」
今回調査する場所は海沿いにある断層地帯で、
現地へはフライヤーで降りる許可が出されず、多少の窪地まで
歩いていく事にした。高文明でも手間がかかる事はある。
コンパクトな機材で済むのは時代さながらで有り難いが。
「この時代でも遠出しないとまともに調べられないんですね」
「現地へ赴かなければ見つからぬものもある。
重力振子からの計測結果はつかめそうかね?」
「・・・まだなんとも」
自信のなさそうな返事だ。彼の専攻する重力振子の元となる
非線形解析は地震の分野から求めるのは難行のようである。
それでも、彼の非凡な感性と理論を信じて今に至る。
答えを急がせず、大きな結果を待つのみだ。
道中歩いていると葬儀が行なわれていた。
不運な事に、ストライキ発生中に暴動事件が起こり10人近くの
死傷者が出た当時に来てしまう。職にあぶれた者達の行き場のなさが
近しい者へ飛ばして衝突を生み出す。
頭脳、知識の必要性も理解できない人間の居場所が特に影響する
今時代は身体能力の価値が日増しに低下してゆくのも皮肉だ。
オリンピックに出場できるのもほんの一握り。
イベント的事業ばかり注目するばかりでそこに将来性がどこまで
響きわたれるのか定かでなく私も黙視するのみ。
同じ九州人として供えの1つでもしようとしたが、
実はある物を所持していたのだ。
「今回も供えをしますか?」
「ああ」
沖縄には海底基地が設けられているので有名だが、
もう1つ特徴的な場所がある。それは同じく海底にある墓地。
現地の古き習慣で、海と共に生きて共に死にゆく設備であった。
私は何度も海底墓地に出向いては不器用ながら作ってきた
鳥のフレームを供えてきた。
意味は葬送の籠目、死者を送る鳥として見ている。
常世に鳥を用いる接点は特に無く非科学的であるが、
海や空を眺めているとなんとなく見えてくる気がする。
根拠は無いがそんな気がする。
本州から最も離れた離島ならではの発想かもしれない。
綺麗な景色ばかりの国だが、特徴的なものはそこだけではない。
現地人意外では見慣れぬな光景を観見ることになる。
住民が葬儀を行っていて、Kは仕様に気付いた。
「棺を海中へ?」
「そうだ、ここは水葬をする習慣があってな。
海底墓地へ送る儀式を行っている」
他地方にとっては実に奇妙な葬送で、火葬とは異なる。
海の民で、あらゆる生命は海中から誕生した由縁結びとしてか、
大昔からそうした葬式を施していた。
いつの日か沖縄も人口数が増して家賃などの生活費を抑えようと
多く訪れて住み始めていたが、反して文化思想も薄れてゆく。
テクノロジーの波はどこに行こうと隅々まで付いてくるというのに、
自然への価値も理解できない者は技術も同様だろう。
そんな結果、成れの果てがこうして表れている。
しばらく様子を見ていると近くで親族らしき子どもが献花をしていた。
「このおじさんはよくご飯を食べさせてもらったから3本。
この子とよく遊んだから6本。
お姉ちゃんに勉強を教えてくれたから5本」
同じ数ずつでなく、それぞれ異なる数を供えている。
少年が側にいた自分に気付き、残る1本の花を差し出してきた。
「ん、私にくれるのか?」
「ここに置いて」
9つの棺に1本ずつ供えるのが普通だが、どういう訳か
少年は言う通りに数えて追加して置けと言う。
その置き方を見ている内に、法則を見いだした。
「これは魔方陣か」
「そうだよ、三方陣」
それは三方陣とよばれる供え方だった、1~9までの数。
数学では和が15になる陣形だ。
和を以て貴しとなす、同調の事だった。
等しく供えないのかと言いたいが、まだ子どもだ。
こんな所で野暮な説教などしたくない。
この意味に当てはまるとは予測すらしておらず、
オキナワ独自の習慣を学ばされた気分である。
「縦横斜め全て合計15になる様な供え方か。大したもんだ」
「算数だけは得意なんだ、この町は勉強できる人が少ないから」
「子どもながら、なんとも感心だ。将来に活かせるように願っているよ」
殊勝な心掛けをもつ子だ。
大人になったら再会すると言いつつ別れて仕事に戻る。
ちょっとしたほのぼのしいイベントだ。
次世代へ独創的な者が現れるのを期待しながら、
自分に継ぐ新たなる科学者の卵、意志が生まれる事を。
その願いが叶う事はなかった
ウィーン
「ほうっ」
所長が一息つきながら所長室から出てくる。
自身の仕事を終えて、ロビー内に顔を出してきた。
また査問会に行って予算案を色々と受諾させられていただろう、
部下ながらに労いの言葉を送った。
「お疲れ様です」
「「ああ・・・」」
声の大きさですでに気苦労がうかがえる。
ここ最近になって頻繁に外出する様子で理解した。
「やはり、本当にお疲れの様子が見えます。
少々、休暇をとられた方が良いのでは?」
「いや、大した話ではない。
世界へ向き過ぎた反動でよく起こる出来事があっただけにすぎん。
人種間による、ちょっとしたトラブルだ」
「何かあったんですか?」
「ここブレイントラストは様々な人種が来ているだろう?
一員による異国人同士の言葉の壁も生まれてしまってな。
全ての研究者が達者に外国語を話せるわけではない。
ここの国の研究者も不平を言うようになってくる。
まるで私が売国奴と言わんばかりだ」
研究内容に人種差別などまったく適用されていない。
当然、あらゆる国から雇用する所長の方針ゆえに言語問題という
壁が後から押し寄せてくるだろう。
聞いた話では、ブレイントラストの先代もこの国の者ではない。
そういった関連で、この国にやってくる科学者も自分達だけ
務めていないのだ。
「前所長はここの国の者ではなかったらしいですが?」
「そうだな、オーディン博士も某国出身だ。
私も色々世話になったもので、九州にいた頃はたまたま思いついた
哺乳類のアミノ酸の論文を書いて仮説留まりながら雑誌に掲載されて、
博士の目に留まったのが始まりだったな。
結局、その案は断念したが」
「所長も、失敗経験があるのですね。
反重力とはまったく異なる線も辿っていたとは」
「もちろんだ、人生とは失敗の連続から得られるもの。
プロフェッショナルエラーとて決して避けられぬ。
最後に残ったのが“空”についてだよ」
ピピッ
1匹の鳥が飛んできた、文鳥だ。
所長が懐から取り出したスティックで、鳥がその上に乗る。
空を“そら”と言わないのが気になったが、この鳥が空の
代表格の象徴として飼っているのだろう。実に所長らしい。
「手慣れたものですね」
「これは私が直に飼っている。
最も空と接する動物が鳥だと勝手に思っているよ」
「鳥は動物の中でも知能が高いと聞きます。
おせじではありませんが、所長と波が合ったのかも」
「おせじでも私にとっては嬉しいぞ。
鳥との調和の波か・・・ふふっ」
コウシは文鳥を眺めつつ思想にふける。
生物の分類では少ないとされる種類の物において、
人身では決して飛ぶ事ができないゆえに反重力との接点を
よく指摘される時もあった。
自分が鳥にこだわる理由は別に空域の生息者だけではない。
かつて、その動物にまつわる思いをしたのも一因だろう。
私の生まれは九州、幼少期はほぼ都会暮らしの缶詰め生活。
当時は自然と接する経験など他の子と比較してもかなり少ない。
6才までは動物と接する機会もさほどなかったが、
親が動物嫌いでそれに関する事を一切教えてくれず、
記述された本やネットですら見せてもらえなかった。
沖縄にいる友人の父親が狩猟をやっているという話を聞き、
鳥を見せてくれるというので、彼の家に行った。
初めての鳥を拝見できるというものだから、
子どもながら期待を隠さずにはいられずに、
わくわくしながら箱を開けて見せてもらった。
しかし、箱の中に入っていたのは想像とはなれた異物。
上半身と下半身が逆に捻じれた鳥だった。
「・・・・・・」
最初はそんな骨格をもつ動物だと思っていた。
後に図鑑で正しい姿を観ても、脳内でどこかねじ曲がり
下半身の正確なイメージがもてずにいる。
さらに、後の事件が私の未来を決めるとは想定の内にも含まれていなかった。
それからというものの、生活はいつもと等しく、
青年時代は特にこれといって変わらぬ生活ぶりだった。
学業の傍ら、絵を描いていた。
元々、私は画家になりたかったからだ。
もちろん選考すら通らなかった。
知識と感覚は等しくなく、思い描いた抽象を指にうまく
伝わらないギャップに悩まされる。
少なくとも絵の才能には恵まれていなかったようだ。
ぼくがえがいたみらいのせかい
アーケード街で何かのコンクールで張られた絵があった。
子どもの絵で、未来の世界を描いた空想だ。
空を飛ぶ乗り物、銀色の服を着た宇宙服の様な光景が描かれていた。
選ばれたものが展示されたのか、
幼稚ながらも子どもの脳内で精一杯思い描いたのだろう。
しかし、一部では“子どもらしくなど程度の低いもの。”
そういう目でみる大人達も少なくはない。
あのライト兄弟すら、自転車に翼を付けて飛ぼうとした光景が
さぞ滑稽に見えて嘲笑されていたのだから。
例え大人になろうと、子供心をもつ事は恥ではない。
私が描く、ある絵はどうしても歪な描き方をしてしまう。
子供心だからという理由付けで色眼鏡をしていたが、
あの第一印象とはそれだけ衝撃が強かったのだろう。
私は鳥の上半身と下半身をどうしても逆に描いてしまうのだ。
だが、絵というものは“正しいものを描く”事ではない。
人にとって想像したものを描くものである。
当時の所長だったオーディン博士に私の資質を素直に打ち明けた。
そして認めてもらったのだ。
1つの成就を果たした後、年月を重ねて反重力研究は成功し、
そのまま所長にまで昇進できたのだからな。
「おめでとう、やはり私の見込み通りだ。
AURO粒子を見つけた時と同じ気持ちになれたようだ」
「粒子誕生の瞬間ですか?」
「ああ、空間内部に張り巡らす螺旋ばかり見ればなおさらだ。
突然、ポンと発見する感覚かな。
電気力線、磁力線などを見続けているとそんな感じがするよ」
「突然の閃きみたいなものですね、分かります」
「私も年だからな、後継ぎができてなによりだ。
これで私も・・・」」
「はい?」
「いやいや、気にせんでくれ」
濁した前所長の言動が気になったが、私自身も、同感だ。
後継者を残してまっとうできれば良い。
このままブレイントラストで安泰を迎えるのかと思っていた。
しかし、世界は理論収量出来るほど単純にはいかない。
そんな人生の転機はすぐ間近で起きたのだ。
鹿児島 山岳地帯
休暇を利用し、ツアーで山登りに行った。
快晴だが、暑さにより最近は春の気候も感じにくくなり、
夏と冬しかない様な両極端な季節に変わっていく。
続けて山林を通る中、私は木々を見て感じた。
葉っぱは枝の先につく、それは複雑に分かれている様子が
まるでプログラムコードの様だった。よほど疲れていたんだろう。
他の客からどんどん引き放されていく。
なんとか追いつこうと、急ぎ足で足元もろくに見ず、
うっかり頭が下へ垂れてしまい。
ガラガラガラ
崖の下へと落ちてしまった。両足が麻痺して動けない。
骨折した感覚はないが、打撲をしてまともに歩ける余裕がなく
周囲も人はほとんどいない孤立した状況にあった。
(私はここで終わるのか・・・)
九州の山は中部に劣らず広大な高さで箇所によっては発見されにくい。
初老近くで消耗しようなら死亡する事は十分にありえる。
重力を理解できた直後に重力に作用されて被害をこうむるとは。
そんな時だ。
目の前に鳥がいた。私をジッと見つめている。
よく見たら、足になにか紙が付いていた。この子は文鳥だ。
(この子は遭難者探索鳥、ここにいる事を知らせられれば)
紙を取り外し、ここの詳細を書いて救助されるのを願った。
再び鳥の足に紙を括り付ける、そして飛び立った。
その瞬間、私は空を見上げた。大地から空へ視界を上昇した
瞬間の光景が私には空間を上部へ押し上げる天使に観えたのだ。
太陽を背に翼の隙間から一瞬見えた光の翼。
我を忘れて空を見上げたそのときだった。
大きな地震が発生し、崖の上部が不安定にぐらつき崩れ始める。
鳥の上部から大きな岩が降って来たのだ。
グシャッ
光を覆いつくす程の大岩が影も落としてくる。
鳥は押しつぶされてしまった。わずか隙間から観えた亡骸が、
あの時箱に入っていた状態と同じモノを再び見せつけられる。
「「ああああ・・・」」
ゴゴゴゴゴゴゴ
悲しむ余裕すらもなく地上はひび割れ、うねっている。
山岳の立体的な地形がさらに隆起を促していく。
それはまるで大地という空間が歪んでいる様な光景。
私はそこで動けずにひたすら揺らされているのみだった。
「大丈夫ですか!?」
「「・・・ああ」」
その後、地元の救助隊が駆けつけて私は助けられた。
退院するまでは絵を描き続けたが、やはり足を綺麗に描けなかった。
足は地につけて歩くもの。事故により、外観と価値観がどちらもねじ曲がり、
不運にも、描く力もなくなっていた。
ブレイントラスト 上層階
反意で振り切り、研究に没頭した末に反重力の開発に成功。
時はすっかりと職業地位の影響力が肥大化していた。
対比に肉体と頭脳の労働バランスも歪みが生まれていく。
格差を完全に切り離す策を国が行おうとしていたが、
前触れもなく唐突に終わってしまう。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「政府は火星移住計画の中止を発表しました。
宇宙航空研究開発機構及び、国会によって審議の結果、
宇宙への資源の必要性を感じないと判断。
予算割り当ての見直しを求められて
オリンピックへの予算案が国会による議決の過半数を超えて――」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「な・・・」」
国は空への夢を棄てた。
人口を火星に分断させて労働均衡する計画を打ち止めたのだ。
中止どころか研究機関の縮小を推し進める方針を定めていく。
上ではなく、下への貢献。
食物連鎖の三角形の頂点が細く切られた感覚を味わわされた感じだ。
歴史的貢献をした自分の扱いがまるで無かったかのように。
理由は何だったのか、査問会を通して聞いてみた。
国立研究開発法人
査問会はここの直属で、研究費用の管理をする機関。
政府よりブレイントラストの運用を見張る組織で、私は下の立場と言えども
宇宙開発事業団の取り止めに抗議せずにはいられなかった。
「AUROで全てを賄うので宇宙探索は不必要と?」
「そうだ、確かに生成に時間を要するもほぼ全ての物質を製造できる。
わざわざ宇宙にまで出向くメリットがない。
危険性も非常に高く、設置費用も増すばかりだ」
「しかし、人口問題など解決できる可能性も――」
「人口の件に関しては肉体的貢献を見込んでの事。
オリンピックなどのスポーツ事業の方が巡りが良いのだろう」
「なんと・・・」
「とても夢のある計画だと私も思っていたが、政府の決定は覆せん。
君が管轄する生物管理所も精一杯だ。
アニマルプラネットを実現させる道は残念かもしれんが・・・。
理解してくれたまえ、コウシ君」
「・・・・・・」
上司もオーディン博士の生み出した技術で打ち止めすると決定。
AUROの半永久機関は人の手間をも省略させる余り、
頭脳よりも肉体への密度を高めさせてゆく。
私の反重力は重要事項として世に出さないよう緘口令を受け、
政府独占に技術提供しないよう命令。
“立場は保証してやるから今後の新技術に備えろ”と、
動物達の身と引き換えに黒幕の内から停滞させられる。
知識の繁栄は世界から少しずつ薄れさせていった。
ブレイントラスト 所長室
数百mもの高さを窓越に、研究室から外を見て世の移りをふけりつつ
不意に存在理由を思っていく。
時代に沿った能力主義、職業差別も当然になりつつ変わり、
分かたれた3つの世界の頂点に自分は上り詰めた側に成るも、
皮肉にも対となって下層階級から敵対関係として立ってしまう。
上層階に住むようになってから、益々地上を恐れるようになる。
下を見ると度々起こる暴動やストライキを眺めていると、
人の群勢がまるごと地上が蠢いている様に見えてしまう。
「給料が安すぎて税金が払いきれませーん!」
「金持ちばっかヒイキしてんじゃねーよ!」
「ぼくたちにお仕事を与えておくれーっ!」
仕事にありつけられない者達による訴えに目を細める。
下層階の活力は何故、これ程に団結力をもてるのだろうか。
体力レートを割いているだけの分類で、仰々しくも集まる様は
人間界における重力そのもの。
あの時の大地のウネリがまだ私の脳裏に焼き付いている。
「「ううん、地上が曲がる地上が曲がる地上が曲がる。
怖いコワイこわいぃいぃいぃいぃっ」」
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
地上歪曲地上歪曲地上歪曲
揺れる、ブレる、振動する。
有機物と無機物が無数に混ざり、判別もできなくなるくらい
いくらでも言葉で例えられそうな残像が目を通して脳内に伝わってゆく。
生きているのか、動いているのか、生命線が次第に分からなくなり、
人の集団が背景の金属と同化してゆく。
「んんんんっ!」
プツン
脳内の何かが弾けた。
いや、分断したのだ。
残像を切り取った果ての答えは分断。
脅威が下部からやって来るのならば隔離するのみ。
そのための反重力がある。
しかし、重力はただの圧力ではない、空間歪曲。
見えぬ亡霊に引きずられる様な内側から生まれる力。
ただの物理的な力で解決できない。
だからこそ、スピリチュアルな天使こそ亡霊に干渉できる次元に
及ぶべき世界を生み出すべきなのだ。
とはいえ、現実に天使や亡霊などいるはずがない。
事例は目の錯覚や一種の催眠状態で経験したものばかりだと、
現代の科学で証明されている。
あの凄惨を見せられたらなおさらだ。
原理主義者である我々科学者はあくまでも現実枠より求める存在。
だから実在する生物、鳥から解を求めるべきだと悟ったのだ。
鳥取 地下研究所
中つ国地方のエリアにある鳥取に足を運んできた。
ここに来たのは別に地名で選んだ訳ではない。
今日は沖縄へ地質調査をしにいく予定で、ブレイントラストの視察となる
共同である科学者Kと合同作業をしに来たのだ。
「こここコウシ博士!?」
「やあ、元気かね?」
彼も重力研究をしている者の1人で、かつて自分と共同していた。
そんな彼がここに残り続けているのは理由があったが、
自分はどうしても東京に連れていきたいのだ。
「やはりブレイントラストには来てくれないのか?」
「「申し訳ないですが、それだけは・・・」」
もう何度頼んでも、返事は同じだ。
自分のしつこさはある意味、オーディン博士に及ぶかもしれない。
仕事前に個人的な干渉が続くのもやましく
Kに気の毒なので今日はそこで止めておく。
今回の仕事は前に起きた地震の影響を調べに共に沖縄へ行く予定だ。
再び訪れるあの地へ向かわなければならない。
心中では少し躊躇いがあり、気が引ける。
あの事件は彼に話す気が起きなかった。
沖縄
民間機ではない反重力を搭載した専用のフライヤーで乗り、
颯爽と沖縄の空港に着いた。
住民が物珍しさで眺めている間をぬって、すぐに仕事に取り掛かる。
「では、地層へ向かおう」
「はい」
あの地震は琉球全土にわたる珍しいもので、沖縄でも予想なく
対策できずに被害にあった人達も何人かいた。
Kと九州に直接関連はなく、地質学に携わる者として同行。
確かな頭脳と腕前をもつ彼と状況を調べにゆく。
「相変わらず暑いですね」
「常夏の国だからな。
さすがに位置的に春と夏しかないだけはある」
今回調査する場所は海沿いにある断層地帯で、
現地へはフライヤーで降りる許可が出されず、多少の窪地まで
歩いていく事にした。高文明でも手間がかかる事はある。
コンパクトな機材で済むのは時代さながらで有り難いが。
「この時代でも遠出しないとまともに調べられないんですね」
「現地へ赴かなければ見つからぬものもある。
重力振子からの計測結果はつかめそうかね?」
「・・・まだなんとも」
自信のなさそうな返事だ。彼の専攻する重力振子の元となる
非線形解析は地震の分野から求めるのは難行のようである。
それでも、彼の非凡な感性と理論を信じて今に至る。
答えを急がせず、大きな結果を待つのみだ。
道中歩いていると葬儀が行なわれていた。
不運な事に、ストライキ発生中に暴動事件が起こり10人近くの
死傷者が出た当時に来てしまう。職にあぶれた者達の行き場のなさが
近しい者へ飛ばして衝突を生み出す。
頭脳、知識の必要性も理解できない人間の居場所が特に影響する
今時代は身体能力の価値が日増しに低下してゆくのも皮肉だ。
オリンピックに出場できるのもほんの一握り。
イベント的事業ばかり注目するばかりでそこに将来性がどこまで
響きわたれるのか定かでなく私も黙視するのみ。
同じ九州人として供えの1つでもしようとしたが、
実はある物を所持していたのだ。
「今回も供えをしますか?」
「ああ」
沖縄には海底基地が設けられているので有名だが、
もう1つ特徴的な場所がある。それは同じく海底にある墓地。
現地の古き習慣で、海と共に生きて共に死にゆく設備であった。
私は何度も海底墓地に出向いては不器用ながら作ってきた
鳥のフレームを供えてきた。
意味は葬送の籠目、死者を送る鳥として見ている。
常世に鳥を用いる接点は特に無く非科学的であるが、
海や空を眺めているとなんとなく見えてくる気がする。
根拠は無いがそんな気がする。
本州から最も離れた離島ならではの発想かもしれない。
綺麗な景色ばかりの国だが、特徴的なものはそこだけではない。
現地人意外では見慣れぬな光景を観見ることになる。
住民が葬儀を行っていて、Kは仕様に気付いた。
「棺を海中へ?」
「そうだ、ここは水葬をする習慣があってな。
海底墓地へ送る儀式を行っている」
他地方にとっては実に奇妙な葬送で、火葬とは異なる。
海の民で、あらゆる生命は海中から誕生した由縁結びとしてか、
大昔からそうした葬式を施していた。
いつの日か沖縄も人口数が増して家賃などの生活費を抑えようと
多く訪れて住み始めていたが、反して文化思想も薄れてゆく。
テクノロジーの波はどこに行こうと隅々まで付いてくるというのに、
自然への価値も理解できない者は技術も同様だろう。
そんな結果、成れの果てがこうして表れている。
しばらく様子を見ていると近くで親族らしき子どもが献花をしていた。
「このおじさんはよくご飯を食べさせてもらったから3本。
この子とよく遊んだから6本。
お姉ちゃんに勉強を教えてくれたから5本」
同じ数ずつでなく、それぞれ異なる数を供えている。
少年が側にいた自分に気付き、残る1本の花を差し出してきた。
「ん、私にくれるのか?」
「ここに置いて」
9つの棺に1本ずつ供えるのが普通だが、どういう訳か
少年は言う通りに数えて追加して置けと言う。
その置き方を見ている内に、法則を見いだした。
「これは魔方陣か」
「そうだよ、三方陣」
それは三方陣とよばれる供え方だった、1~9までの数。
数学では和が15になる陣形だ。
和を以て貴しとなす、同調の事だった。
等しく供えないのかと言いたいが、まだ子どもだ。
こんな所で野暮な説教などしたくない。
この意味に当てはまるとは予測すらしておらず、
オキナワ独自の習慣を学ばされた気分である。
「縦横斜め全て合計15になる様な供え方か。大したもんだ」
「算数だけは得意なんだ、この町は勉強できる人が少ないから」
「子どもながら、なんとも感心だ。将来に活かせるように願っているよ」
殊勝な心掛けをもつ子だ。
大人になったら再会すると言いつつ別れて仕事に戻る。
ちょっとしたほのぼのしいイベントだ。
次世代へ独創的な者が現れるのを期待しながら、
自分に継ぐ新たなる科学者の卵、意志が生まれる事を。
その願いが叶う事はなかった
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