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4章 ブレイントラスト編

第2話  内に宿る病

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ブレイントラスト 配属部署

「あんた達もここの部署?」
「ええ、あなたも同じ所属ですか?」
「そうよ、そんな謙遜けんそんしないの。
 やっと男が入ってくれたんだから嬉しいわ!」
「あなた方に出会えて実に光栄です。
 こういったとこは大抵、華が足りなくって・・・」
「「おい」」
「すんません」

 自分達は2人の女性の研究者と出会う。
1人はレイチェルという名で、まだ若い。
もう1人はアメリアという名で、年配の女性だ。
この部署は上層階の所長室に隣接するチームで、
自国で功績を上げた者を主に採用している特待生部署だという。
研究設備は分野によって一般と共同だが、
あくまでも御目付的立場だという位置付けとしての席。
好待遇も彼女達と今日から同じ部屋、ルームメイトになる。
ここ自体は単なる顔合わせ場であるものの、
この国で言う所長御目付けとした部屋として設置された場所だ。
特待生制度は確かに優秀な学術を遂げた者という理由もあるが、
組織構成を安易に崩させないメンテナンスリングとして設立。
言わば、ブレイントラストの身内固めとして立てられたチームに思えた。

「デジタル時計も同じ現象が起こるの?」
「いや、アナログ時計だけのようだ。
 針だけが止まって見えてしまう」

先で起きた錯覚を話して感想を言われた。
出会い頭で自分の話題というのも恥ずかしいが、仕方ない。
大脳生理学研究者でありながら自身の錯覚を克服できないという、
内に宿る神経症を治すために来たのではない。
私は知識と大脳皮質の先鋭化を志して来国したわけだから。
既知あるレイチェルがたどたどしく説明する。

「瞬時の視覚誤認を引き起こすと聞いた事があります。
 視神経の影響を与える脳内の・・・え~と」
「アドレナリン受容体でしょ!
 アンタ、どこのアカデミー受けたのよ?」
「ひいっ、すみません」
「そ、そうだな」

彼女達の話通り、細い針が停止する様に見える錯覚現象で
誰にでもあり、認知されても回復方法はまだ判明していない。
私自身がその類の専門でも全て解決できるわけではなく、
自分で自分の手術ができないのと同様だ。
まだぬ領域も兼ねてここに来た理由でもある。
大脳生理学の研鑽けんさんを精進していこうと思っている。

「まあ、それぞれ母国で培ってきた持ち前を見込まれて
 ここにいるわけですよね。ここの所長はネットで全世界の科学情報誌から
 選抜して片っ端から招待してるし」
「超合理主義を最優先事項として発展させている類が
 国内から露出しているのは我々が到着してから理解できた」

前任責任者だったオーディン所長が引退後、コウシ所長が継いでも
目標は変わらずに科学の発展を進化させて世界を導く。
同様に様々なる由縁で2人も招かれてきたそうだ。
そんな話題もそこそこに、時間も昼なので食事をするが
アメリアがどこかへ行こうと勧めた。

「そうね、道のりは長いし、お互い研鑽していきましょ。
 そうそう、昼食はまだでしょ? どうせだから、食べに行かない?
 2人だけってのも味気なくて退屈で」
「俺も事前にちょっと調べてきたけど、めぼしいとこはあるっすよ。
 近くに良い店見つけたんで、そこ行きません?」
「そこにしよう」

4人で外食に行く事にした。所長は今日は不在。
最初のよしみは共に食事、それはどこの国でも同じであろう。
どこの国でもよくある行事だが、いざ出かけようとした時、
ロビー入口で誰かが鳴き声をあげて入ってくる。


「「ううう・・・・くそくそお」」
「あら、どうしてここに?」

 近くにいた母親の研究員の息子がロビーにやって来た。
その息子が暴漢に金品を巻き上げられたというのだ。
近辺で恐喝事件が発生したようだ。
アメリアが場所を聞いてだいぶ付近だと分かる。

「古宿エリアの中層階、まだ犯人はすぐ近くにいるわ」
「ここから出ない方が良い、警察に連絡しよう」

安全面を考慮して幸先さいさきなく中止となる。
1時間経った後、犯人は見つかり逮捕された。
警察がここへ報告に来て、自分は容疑者の詳細を知る。
捕まった男の名前を見て不可解な疑心がでた。

「これは・・・なんて読むんだ?」
「抹刃(マッハ)と読むそうです。
 仮名ではなく、れっきとした本名ですよ」

表記と読みが一致していない。
少なくとも、この国で使われている“漢字”はある程度学んできた。
が、書いてある文字と読みが全く異なっていたのだ。
母親が皆にお詫びをする。

「この程度で済んで幸いです、大変お騒がせしました」
「このていど・・・このテイドおおおおおおおう?」

息子は悔しさのあまりに泣き叫ぶ。
母親に向かって怒鳴り散らした。

「毎日座って数式を書いてばっかり。
 なんで、こんな勉強しなきゃならないんだよぉ!」
「あなたの将来を思ってそうさせてるのよ。
 まだ学生で、より良い仕事に就くために知識を蓄える時期なの」
「あんな奴らに身ぐるみはがされて、なにもかも取られたら
 元も子もなくなるだろぉ!!」
「あんな人達を相手にしちゃダメよ。
 頭を使って生きるのは大切な事なの。
 分かってちょうだい。良い子だから、ね?」
「だったら、核ミサイルでもなんでも造らせろおおおぉぉ!
 あいつらに撃ち込んで仕返ししてやるううぅ!!
 高エネルギーこそ絶対、知識者のみ兵器の携帯許可させろォ!!!
 おあ゛あ゛、ぶごごおぉうおえやんすぇぇ!!!!」
「・・・・・・」

涙ながらに物騒な言葉を叫ぶ息子は周りに抑えられる。
被害にあった息子は母親に連れられて帰宅していく。
とりあえず、この件は先の始終にて落着。
ビルから少し離れた建物の角に影が2つ映っていた事に
気付かないまま食事会を再開した。


数時間後 特待生室

 休憩の合間、自室に戻る前に電子辞書を手に取る。
先のネーミングセンスのギャップが気になっていた。
大した事情とは言えないものの、勉強不足か文化の性質を飲み切れず、
ニュアンスが崩れたアンバランスさを覚えてしまう。
名前というものは生涯に携わる事で母国でも丁重にみなされる事象だ。
あらゆる言語、発音が混じる表現に疑問を抱き、不審点があると思った。
ここの国は平仮名、片仮名、漢字など文字類が多い。
確かにバリエーションある語記体に、覚えるのも一苦労だ。
あの適当に付けている名前について、メンバー達に話してみた。

「当て字っていうんだって。
 本来の読み方ではなく、感情的な理由で意味にしちゃって」
「名前に気持ちを込めるのは分かるが、字と意味が乖離かいりしすぎだ。
 本来の読みからずれた意味すらよく分からないな」
「ここの国の民は自分の考えをきちんともたず、
 目立っている=優れていると思い込む者達も一定数いるようだ」
「アプローチのみで主張しているのですか?」
「そのようだ。成果や生きる意味も大した理由でなく、
 子どもには奇妙な名前をつける。
 少しでもそれを指摘すると憤怒ふんどする。
 そういった者達は決して省みることをしない」

所長が最近のネーミングセンス事情を説く。
いわゆる親側の教養がないのだ。
当人的に“勢いのありそうな意味”であれば良いと、
主張のためだけの名前ばかり増えているこの国の現状の片鱗へんりん
垣間かいま見えた気がする。
この世界の発展は一部の者が築いただけで、大半は肉体行動しか施せない
レールに敷かれて生きる民がほとんどであった。
そんな人口事情もおざなりなまま、話は収束してゆく。


0:00 特待生室

 今日は珍しく夜遅くまで研究をしてしまった。
ここはどこまで研究が進展したかレポートにまとめて提出。
そして、コウシ所長の承認で職務続行となる。
大脳辺縁系はまだ未知なるところが多く、手間取ってしまう。
もうメンバーが就寝したのかとドアを開くと、アルコールの匂いがする。
アイザックとアメリアは気休めで酒を飲んでいた。

「「ヒック、俺のスタイルはかんぺきだ~。
  みたくれインパクトはこのオレこのオレこのオレー!」」
「「おとこなんてチクショ~、ビジュアルはあたしが全て塗り替えてやる。
  あらやだもうこんな時間!? 24じ、25じ、おやじ!」」
 (職場で飲んでるのか・・・)

2人は酔いつぶれそうで机に鬱屈した様に泥酔している。
性格が合ったのか、仕事疲れの勢いに任せて無精な行動をするとは
特待生らしくない有り様。
よりにもよって職場で飲むなど所長がいない事を良い事に我を出す。
元上司として一括してやろうかと思った時、
レイチェルが茶を持ってきた。

「ウコン茶をどうぞ」
「わざわざ作ってくれたのか、すまないな」
「いえいえ、たまたま作り方を知っていただけなので。
 それに先程所長からお話を聞いて、明日は行く場所があるようです」
「明日?」

明日は休暇のはずだが、特別な仕事が残っているのだろうか。
続きを聞こうとした矢先、当の所長本人がルームへ入室して詳細を語った。

ウィーン

「皆、今日もご苦労だった。
 明日は皆で動物園に行くとしよう」

ガタッ

「しょ、所長!?」
「中層階にある所のですか?」
「うむ、休みがてら申し訳ない。
 スケジュール調整で都合良いのがが今週のみでな。
 まあ理由もあるのだが、詳しくは明日話すとしよう」

突然戻ってきたコウシ所長に驚く。
話によると、ブレイントラストの一角を見学しに同行させてもらう予定を
組んだようで、職務内容に関わりがなくも休憩の一部として決定したらしい。
2人をものともせずにアルコール臭を無視して通達。
明日は所長管轄の生物科管理所へ向かう事になった。


翌日 中層階 生物科管理所

 一同は中層階にある動物園に来た。
ここはブレイントラストが管理する区画の1つで、出資先は査問会に通じる
研究及び野生保護管理所として設立されたという。
また、研究者達の憩いの場としても有名な場所だ。

「所長の管轄するとこでもあるんですよね」
「この間の電話の件も、ここでしたか」
「そうだ、元は下野の園で世話していたが、時代の変化でこちらに移動。
 この子達を上層階へと移したいのだが、如何せんトラブル続きでな」

今でいう下層階のどこかで設けていたところを中層階に変更。
更に上層階まで引き上げたいらしく、途中で問題も起きたようだ。
そこへアメリアとレイチェルが事情を追加。

「下層階と違って上は土地が狭く、臭いや騒音対策もあって
 万全にしなければならないですよ」
「上層階に辿る程エリアが狭く、十分な施設を確保するのもままならず。
 上にプレートを拡張したら下から猛抗議が起きるようですね」
「・・・・・・」
「所長?」
「いや、なんでもない。では自由行動にしよう」

コウシは解散させる。
上の事情の話もそこそこに、皆それぞれ好きなコーナーに行ったようだ。
研究者達だけでなく、中層階の住民もそれなりに来ている。
一応、一般公開している施設で誰でも入れる模様。
円状のピザを外側からかじりつく若者もいるくらいな、
テーマパークな雰囲気をもつ一種のり所だ。
自分はこれといって観たい生物がないので、付き添いを優先。
3人を相手に1人ずつ見て回る事にした。


 (あれはアメリア君か)

 爬虫類コーナーにはアメリアがいた。
女性がまったく寄らなそうなコーナーにもかかわらずゆったりと観察。
碧色をした蛇を眺めている。
半ばウットリした目で細長い生物を見ているようだ。

「あのヘビ、綺麗な色をしてるわね~。あぁ~良いわぁ~」
「この国にはいない種のヘビだな?」
「エメラルドボアっていうのよ。
 無毒で、観賞用としてもってこいなヘビ。
 ソッチ系の愛好家達にも人気があるわ。
 あたしも1匹飼いたかったけど、禁止されてたから。あーキレイ」

女性がヘビ好きなのも意外だが、好奇心は男女問わずにこだわりが生じる。
知的障害の枠でもなく、美的感覚を生物に当てはめる傾向もあるだろう。


 昆虫類のコーナーにはアイザックがいた。
前から知っていたが、蝶のモデルにずいぶんとこだわっている。
彼の研究もこれらと関連をもち、昆虫と通信技術を追求する。
だから、ここにいるのは大いに理解していた。

「君の机には蝶のローチが置いてあったしな。
 確か青い蝶の物だったな?」
「モルフォ蝶も良いですが、外国産だけじゃなくこっちも良さそうな
 種類が少しいますね。鱗粉も環境ごとで表面に変えているみたいで、
 このオオムラサキアゲハもなかなかですよ」
「オオムラサキ?」
「この国にすんでいる蝶ですよ。
 ムラサキといっても全部紫色をしてるわけでもなく、
 他の色も混じってる模様をしてるんですよ!
 国蝶に認定されてるくらいですからね」

蝶は種類によって色が異なる。
もちろん解明されていないが、多くの人を魅了させてきた。
男が色彩を求めるのは珍しくもない。
しかし、感想を職務内容に当てはめているわけでもなく、
研究と外見に接点がないようで、ただの鑑賞として観ていただけのようだ。


 水生生物のコーナーにはレイチェルがいた。
実際、彼女の研究は淡水のある生物を研究している。
何か調査の一貫なのか関係する魚を観ているようで、
思い入れでもあるのかさり気なく聞いてみた。

「そういえば、君が淡水生物の研究を始めたキッカケは何なのだ?」
「旦那が海洋生物の研究をしていて、
 私もその後追いで水生生物の研究を始めたんです」
「同じ海洋生物の研究をしたのではないのか?」
「最初はそうするつもりだったのですが、レベルの差も生じて足りずに。
 出来れば旦那とはみたかったので。
 ええ・・・まあ、そういうことです」
「そ、そうか。この魚はなんていうんだ?」
「タイリクバラタナゴです。
 産卵期になるとお腹が虹色になるので素敵ですね」

離婚した旦那の後追いで始めたものの、入れ違いの間で変更したと言う。
海水から淡水へカテゴリーを変えたのも難易度の差があるのか。
彼女の話には聞くべからずな部分もあったが、
水生生物のこだわりを感じる事ができた。
それぞれの考えや思いなど100人100色あり、
生物よりも人間事情に偏りがちな会話ばかりになってしまう。
とはいえ、人というものは興味深い。
私にとって感想は奥の細道を辿るヒントに成りえるものだから。


最後は所長のいる所へ向かおうとしたところ、
彼にもう1人近づいてきた者が現れる。

「コウシ先生!」
「ん、どうしたんだね?」

1人の飼育員が慌ててやって来て相談をもちかけに来た。
聞けば飼育中のサルが逃げ出そうとしていると言うのだ。

「ヴォエーッ!」
「オエッホッホー!」
「これは!?」

キィィン

凄まじい声が耳をつんざく、ホエザルという動物が檻の中にいて
飼育員は聞き取りにくい中で説明をしている。

「普通はとても良い子ですが、時々隙を見て外に出ようとするんです」
「なんとも・・・大きな声量だ」

抱き上げて連れ戻していく。
他に異常はなく、この件は落ち着いた。
さすがにコウシ所長は鑑賞している暇もなく管理下の行動をとるのみ。
とりあえず皆の場所を一通り見て歩いてみたが、関心は留まる。
私自身、動物が別に苦手というわけでもない。
ただ、気を引くまでの縁がなかっただけだ。
理由は家庭の事情、ただそれだけで思い出したくもない。
その様を直に生で見ることができた今回はとても有意義な時間を過ごせた。
数時間後、個人による独自的な観察もそこそこに、
以降は皆と時間をくつろいだ。


翌日 ブレイントラスト 特待生室

 休憩時間になり、メンバー達は脳を落ち着かせる行動をとっていた。
それぞれの研究をこなし、同じ所属に戻り顔を合わせる。
出だし組ながら結果は直ぐに表れない。
そこを伸ばすために最先端の設備に囲まれたこの組織があるのだ。
暇つぶしなのか、アメリアが何かをしている。

「ディフォルメタイプなイラストが良いかも。
 あたしもすっかり、この国の影響を受けちゃってるわね。
 ふおおおおおおおっ」

なにやら絵を描いている。ロゴらしきの様なディティールだ。
彼女は人型の機械を誰かと製造する仕事で、それも一貫の1つか。
装飾、デコレートデザインも考慮しなければならないだろう。

「あなたは絵を描くのが上手なのだな」
「漫画的な絵ならそこそこ描けるわ。
 今日のおおとり君を配信してちょっとだけブックマもらってるし。
 あたしは昔からインドア派だったし・・・」
「確かに俺達の国はアウトドア派ばっかだったな。
 “なんとかマン”っていうタイトルばかりの一人称ヒーローとか、
 ムービー大好きリアルマッチョ派ばっかで。そういった男はどうすか?」
「あたしはノーサンキュー、うるさい奴嫌いだし」

自分とて異性に巡り合う機会はほとんどなかった。
知識のある男というものは好意をもたれにくいらしい。
活動的な男が好まれる。母性のどこかで“それ”が
反応しているのだから。大脳生理学の範疇はんちゅうにおいて含む部分は
はかとなく狭く寂しいものがある。

「ううむ、生物の求愛行動は確かに特徴があるからこそ起こせる性質が。
 哺乳類なら、雄猿が雌に対して行うモンキーダンスがその1つだろう」
「例えが優秀すぎますね」

これといった例が思い浮かばずに当たり障りのない話をする。
少なからず、知識者と運動者の扱いの差は活動主義の自国でも
どこかで不遇に感じてはいた。
オリンピックで金メダルを取ったスポーツマンは連日メディアで
取り上げられ、パレードも開かれて黄色い声援が送られる。
だが、知識者はノーベル賞は受けられるものの、知名度向上する
機会が小さく疎まれ、敬遠されてひっそりと忘れ去られていく。
文明の発達はそういった者達の恩恵が含まれているはずが、
いつも目立つ者の踏み台にされて世の中に終始。
この差は何のためにあるのだろうか。

「勉強だって楽じゃないのに何かを造ろうとしてもいつも横領。
 だから、いつまで経ってもスポットライトを浴びれやしない」
「身体的に分野、世界が違いますよ。思考は目に見えませんし。
 研究室で騒がれたらうっとおしいじゃないですか」
「繁栄の位に立てない者は生物失格・・・そう言われた時もあったわね」

アイザックが冗談を言う間に彼女の表情はくもりだす。
学者にとって生物失格という言葉はなによりの侮辱ぶじょく語だ。
知識者を冒涜ぼうとくするのが許しがたいのは同感だが、
そこまで深刻になる理由でもあるのか。
横で話を聞いていたレイチェルも落ち着かない顔をする。
適切な対応をとろうと説明をしてみる。

「子孫を残せないならば生物失格とみなされる。
 ならば“生物以外の存在を残せられれば”と別の道があるかもしれんな」
「私も子どもができない体質なので、よく分かりますね」
「あんたは旦那だんながいたからまだ良いでしょ!?」

バシッ

「「ううっ」」

アメリアはレイチェルにドキュメントを投げつける。
私は怒鳴り始めた彼女を制止して説得した。

「おいおい」
「やめるんだ、八つ当たりしても徳はしない」
「どうせ男と縁すらまったくないあたしよ!
 うあああああああああああん!!」
「落ち着くんだ、ここにいる者は皆同じでただ確率的に――」
「うっさい、悪かったわね!」

バサバサ

周囲へ当り散らす、ヒステリーを起こしてしまったようだ。
過去に何かがあったようだが、聞く耳をもたずに叫び声を上げて
コンプレックスを秘めていたものが噴き出してしまう。
どうにかなだめようとアイザックは説得を続けた。

「まあまあ、つがいがいない人なんてゴマンといますよ。
 ああそうだ、世の中には高齢者専門とかの人もいるらしく――」
「馬鹿馬鹿しい、そんな物好きなんて多くいるわけないし。
 年上好きを見せかけた、ただのヒモよ!
 アンタだって、どうせ眼中無しでしょ!?」
「いやいや、熟じ・・・貴婦人を怒らせる気なんて
 モートーございませんって」
「なに言ってんのよ!
 あんたの方が年上でしょーが!?」
「へ!?」
「あたしは今年で23よ、悪かったわね!」
「では、君のその容姿はまさか・・・」

ふと思った事をアメリアに伝えてしまう。
彼女は無言だが一瞬、眼を大きく見開き訴えた。










「あたしは・・・早老症にかかっているの」
「!?」
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