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4章 ブレイントラスト編

第1話  クロノシンメトリー

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球体は存在する者において安定する普遍的自然環境である
重力により珠度に形作られた生息圏は身体を支え
有機物と無機物の狭間で生存の過程を置く
同様に条件下で寿命終焉まで迎える保証もなく、
収縮されし自由は見えぬ虚構の羅列に境界を薄弱させ
地球上の何処に存在しようと不変で
また不変であるが故に避けられぬ永劫も生じるのである










100年前 東京

 空港に飛行機が1機到着した。
遠くの国からやって来た便のようで旧世代の型により長旅、
乗客はやれやれという姿勢で降りてくる。
機内からさらに2人の科学者が出てきた。
対してその1人は軽そうな口調で、もう1人の男に語り掛けた。

「ずいぶんとかかっちゃいましたね」
「ああ、そうだな」

アイザックが元上司に疲れを案じてそう話す。
もちろん、目的はここで終わりではない。
今日から技術の粋が結集するこの世界で自身の道を探求、
故郷を離れて遥か遠くから足を運んできた。
ゲートで係官にこの国に来た事情を聞かれた。

「えー、あなたのお名前は? この国に来た理由は?」
「クロノス・ラングフォードです。
 仕事で長期滞在のため、来国しました」


クロノス 大脳生理学者 30歳


西暦XXXX年。
時代は超高文明を極めつつ、進化を遂げていた。
この国は革新的な技術の連続を生み出し、
世界を導く栄華をも極めようとしていたのである。
だが、それによる弊害もまた現れてきた。
人事の流動に無情まで格差も大きく影響は広がり、
報われぬ下層階級による犯罪が横行していく。

 自分とアイザックは空港からバスを経由して近場で降りる。
景色の光は太陽のそれと同様、母国と異なる特徴と混ざる。
列島の中心地であるここはまさに独特な印象だ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「16K画質、240fpsはリアルをそのまま目の前に。
  世界最高峰の品質、プレイスイッチ5再入荷!」」
「「伴侶もいない貴方にとってアンドロイドを一家一台に!
  輝く未来へのオートソリューション、絶賛予約中!」」
「「食事は大便を購入するのと等しい。
  超促成栽培で育成した成分により瞬間摂取、エナジーゲン」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――

ビルディングに設置された巨大なモニターでCMが放送。
科学をメインとした放送ばかりのコンテンツは時代の反映を目にする。
自国と比較して、効率化を追求する様な商品が表示されていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
「「わたしはぁ、この国のためにぃ、んほっ、おえっ!
  幸福への希求を隔てなくあたた、ききゅきゅ!
  誠意を尽くしてぇおわおわいお”お”ん!」」
―――――――――――――――――――――――――――――――――

別のエリアでは国会の中継が放送されている。
この国の総理大臣が泣きながら弁明している。
打って変わり、対応に迫られて取り乱しているようだ。

「あの人がここの代表か、面目めんぼくない顔してますね」
「・・・・・・」

ここの国は他大陸の国とはほぼ干渉しない独立宣言を出してから
数年経つが、貿易収支の懸念がほとんどなく孤立化もものともせず。
いまだに1つの国として成り立っている事が大きく感心させられる。
食料問題も多階層施設の農業工場増築を繰り返し大量生産をしているので
機能の極み、まさに十全十美じゅうぜんじゅうびな生活ぶりだ。

「しかし、空港は開きっぱなしなんですね」

アイザックが自分の心を読んだかのように言い出した。
彼の言う通り、この国の空港の出入りはまだ自由なのだ。

「誘致のために人材の出入りは許可されているのだろう。
 逆に優秀な者が出てゆく技術の空洞化も起こりえるはずだが」
「入る事があっても、出ていくケースは少ないですね。
 野心家達も刺激されて集まっています、我々みたいに」
「設備と待遇、報酬も私達の国とは破格の差だ。
 こうして我々も行き来しているのだしな、桁違いに」

自分達2人もその一部だから、取り込まれる立場に違いはない。
今日からここの国で仕事をする事になった。
有名な研究組織に配属されるから光栄には思うが、
そんな小さな自尊心など取るに足らない。

理由はもう1つあった。
この国では人類初の反重力技術に成功した人物が同じ組織の責任者で、
セミナーが今日行われるからだ。
会場はまだ開いてなく、講演時刻まで先がある。
どこかで時間をつぶそうかと思いきや、
アイザックがある所へ行きたいと誘い出した。
25歳と、まだ好奇心旺盛な年頃か。
他に寄る当てもなく、無意味に時間を浪費させないよう、
街の近辺巡りをしてみる事にした。


春葉原 中層階

 中層階の街に来た。一見、人の手で描かれた漫画絵とよばれる
アニメーション的な表現の看板ばかりが乱立している街だ。
キャラクター物とよばれる画像がひっきりなしに並べられている。
特徴的に瞳がずいぶんと大きく、顔面からはみ出さんばかりの大きさで
街をいろどっている感じだ。

「ここの国は変わった表現を好むのだな」
「こういった作品って、世界観とかキャラとかを前面に
 出してるから魅力があって面白いようですよ。 
 まあ、それを“リアルじゃない、まともじゃない”と
 馬鹿にしている人達も一定数いますがね」
「服装など外見がここでも、肌は私達と同じ色。
 我々の国の文化も取り入れているようだ。
 表現が複雑に入り混じっている様にも見えるな。
 コンプレックスがあるのか、相容れずに文化も隔離するものなのだろう」

この時代は多種多様の人種ばかりで埋め尽くされた世界だが、
昔ながらの文化は未だに消えずに残り続けていたのだ。
入国しやすさも相まって、人口数もうなぎ上りを保っていた。
黒髪の長い女性が路上で広告を配り、歌っている。
意図的でありがちなパフォーマンスに群がる来客達。
作品の内容そっちのけで、異性のみ関心を示す様に観える。
場にはハエの如く求める様にふさわしくない者達もいた。

「カバーサイドデスティニー、体当たりが全てじゃないよぉ~♪
 君の軍師に光あれ~、オ~キューティーインテリアァ~♪」
「ハイ、ハイ、ハイ、えぇ~うえっしょい!」
「「あぁぁ、SSR出ない、もう30万も使ってるんだけどなぁ~。
  あぁぁ、また出なかった、また確率イジってるのかなぁ」」
「おー、姉ちゃんカワイイね!遊びに行かない?」
「こ、これはお仕事ですのでごめんニャ」
「・・・・・・」

これが文化といえるのか定かではない。
あまりにも軽く、すぐに廃れて流れてゆきそうなイマジネーションから
生み出されたとすぐに推測できた。
ベンチに座っている者達は皆スマートフォンを眺めている。
情報と女像の交じる欲求の具現化な釣り手口だとすぐに理解。
イベントという仮の名目で歪んだコミュニケーションに思えて
目障りな現象も存在しているが、そんな事を気にしてられない。

「ウワサで聞いてた通りの花畑感だわ」
「時間の無駄だぞ?」
「そ、そうですね、もう行きましょうか」

とにかくメディアコンテクストカルチャーの一端は理解。
そろそろセミナーが始まる時間がやってくる。
直に観たいと言っていたアイザックの物好きさも程々に、
肝心の目的地へ自分達は会場へと向かった。


某区画 セミナー会場

 入場時にはすでに講演が始まっていた。
そこの台頭で小太りの男が重力技術について説明している。

「過去のコンデンサー実験により、空間内部に+-の性質が
 存在している事が分かっていた。
 我々は2つの位相であるフェイスプラス、フェイスマイナスと仮定し、
 常温核融合により電磁波で開かれた膜状の縮閉線エボリュートを
 クルチャトフ(K)力場と呼称している。
 それが原因で物質が引き寄せられる理由はAURO粒子に含む
 情報伝達物質より初めて確認された負の力場、
 フェイスマイナスから発生する。重力はエネルギーではなく
 ゆらぎ、物質のもつ波動性が絶えず往復する粒子の陰電気が
 K場と連動しているのだ」

「重力が弱いのに遠くまで届くのは密度の高い星の
 中心部の空間の-が外側の+と連鎖して遠くまで及び、
 質量の比例に応じて強く、より遠隔して及ぶ。
 中心部は-なので外側のフェイスプラスは距離に反比例して
 範囲内は向心力として中心へ向かっていくのは既知だ。
 K場も同様の作用をもち、陰電気の膜状内で質量が遠距離作用する理由も、
 やはり絶えず繰り返す+-の極端な歪みの波が引き付けているからである。
 これは星間の作用だけでなく、我々生物の大脳に含む
 シナプス電位と共有リンクする性質もあるのが最近の研究で判明した」

「抽出物を密閉、制御するために白金プラチナを使用しており、
 高圧縮されて密閉された容器の中に粒子を入れ、
 上下に分割した円盤型のマグネットにAURO放射線を
 360°にわたり一定の周期で照射し続ける。
 理由は重力がフェイスマイナスへ円心同士で直線に
 繋ぐ向心力が働くからだ。そこを一度断ち切るため、
 磁性から誘導起電力を引き起こし、放射線を同波長する。
 この時点で容器の中心部はすでに重力が効いていない。
 磁気浮上と異なるのは電離作用で歪曲状態にあった
 空間がK場のノンフェイス状態に変位しているゆえ。
 後はクルチャトフの定理に基づき、磁力を質量の系統で
 マグネットの前後を回転させれば反重力として発生する。
 位相への電気的な性質をもつAURO粒子だからこそ、
 空間内部にまで張り巡らす事ができるのだ」

「近代まで空間内部は極細世界で監視もとどいていなかった。
 しかし、磁力も重力も質が異なるだけで仕組みは同じもの。
 今までは原子を激しく衝突させなければ、
 核の中心部へ干渉する事すらできなかったが、
 K場の産物である柔軟な性質と情報をもつAURO粒子が
 決め手になれたのだ。
 先代オーディン・クルチャトフ氏が残した功績、私に多大なる影響も
 無関係でなく、人類のために限りなく追及すべし科学の
 道標を与えてくれた事に感謝する」

パチパチパチパチ

来場者の拍手と共に講演は終了する。
組織の代表者らしく、レベルの高い丁寧な説明だった。
聞いた限りの話では、素材の出資の点だけが気になる。
相当な量も必要不可欠であろうが。

「ただ1つ感じた疑問点は、技術提供のルート
 資金が如何いかにして管理されているかだ」
「確かに、ここは世界各国から来てる連中も多いですからね。
 技術漏れを防ごうと目を光らせて
 相当キッチリ歯止めかけしてるんでしょう」
「だろうな、詳しくは行けば分かるかもしれん。
 丁度良い時間となった、行こう」

その成り行きは本人と会ってから判明するだろう。
ここで考察しても特に意味はないので、
所長に会いに新たなる職場へと足を運んだ。


ブレイントラスト 所長室

「着いた、ここだな」

 都会の中で大きくそびえる建造物のビル。
ブレイントラスト、組織名で世界中から招集された選りすぐりの
研究者達が務めている組織だ。

2人は所長室に辿り着き、中に入ると所長が話をしている。
誰かと電話で相談をしているようだ。

「では要請は受けてもらえないのですか?」
「「早急には無理だ、動物達を上層階へ移すにも
  無駄に時間と資金がかかってしまう。
  検討がつき次第、連絡しよう」」
「そうですか、分かりました」
「「動物を守りたい君の気持ちは分かるがね、
  捻出ねんしゅつすべき費用の現実もまた理解してくれたまえ」」
「はい、要人が来たようです・・・それでは」

所長は電話を切り、こちらを見て迎え入れてくれた。

「すまない、突然の電話が入ってな。よく来てくれた」
「クロノス・ラングフォードです。
 こちらは元助手のアイザック・ガレアーノです」
「お招きありがとうございまっす!」
「まずは長旅、お疲れ様だな。
 私が所長、コウシ・カンナギだ。
 そしてようこそ、ブレイントラストへ」
「お招き有難うございます、コウシ所長。
 助手のアイザックまで御一緒させてもらえるとは」
「講義聞きましたよ、カンドーしました」

自分は大脳生理学を専攻する精神の研究、
アイザックは情報工学を専攻で研究している元部下でもあり、
自国の成果を見込まれてこの国に呼ばれたのだ。

「君達の論文、読ませてもらったよ。
 妄想性障害パラノイアの副次行動作用、昆虫の精密伝達経路。
 中々興味深いものだ。是非ここで深めてほしい」
「ありがとうございます」
「この国もすごく文明開化しましたよね。
 AUROというあらゆる用途のあるエネルギーを生み出せたなんて、
 物理的な改革です。我々の国でも焦り交えて話題になってますよ」
「まあ、そこは先代のおかげであるな。
 反重力も全て個人で開発する事はできなかった。
 私自身も彼の後手として成果を上げたものだ」

AURO、この国を変えた最も影響力ある要素。
電気と情報をもつこの粒子の抽出に成功、それを知りたいと
多くの科学者が訪れて世界を促進させていった。
コウシもまた、この物質の応用で反重力を生み出したのだ。

「私の上げた功績も彼の力が大半だが、
 人生観を変えた彼の創造力が始まりとなったのだからな」
「西洋の概念がいねんを根底からくつがえすレベルですからね。
 粒子加速以外でも核融合方法があったとは」
「質量をぶつけ合う事は戦争とほぼ変わらん。
 周波という波動の“語り”で物質の内側を解いていくのだ・・・」
「波・・・ですか?」
「無論、海の波とは少し質が異なるが。
 外側から来る波ではなく、内側から来る波だ。
 粒子から生まれる波動でな」
「波動力学の応用さに関心を寄せていますよ。
 それに、精神についても語ってましたよね?」
「精神は情報とほぼ等しいと仮定付けている。
 空間も人も、元は同じつくりかもしれぬな。
 単純かつ繊細な仕組みがある宇宙の二元論は終わりがないので、
 凝縮化された世界の奥地は数え切れぬ事象ばかりだ、実に興味深い」
「そうですね、反重力はエネルギーそのものではない力の固体の様な存在。
 核融合のエネルギーを別種へ固形変換する新施設も必要でしょう」
「うむ、技術は不調なく素材があればどこであろうと製造はできる。
 まあ色々な問題があってな」

これほどの技術ならば各地ですぐに展開できるだろうが、
反重力技術が周辺地域では活性して見られていない。
どういう訳か、一部地域で開かれる学会発表のみで
すぐに工場なども各地で展開せず、限られた箇所だけだ。

「技術展開に何か不具合でもあるのですか?」
「・・・・・・ああ、広域的な連携に少々手間取ってな。
 東京以外に設備はほとんどない」
「では、その工房はここにしかないのですか?」
「ああ、他の一部は中つ国地方に携えてきたくらいだ。
 私は東京出身ではなく関西地方からで、過疎化回復のために
 技術投資を考えてきた。しかし、政府から反重力の繁栄を制限されて
 そこから逃れようと知人に預けた物くらいだ。
 まあ、基礎的な技術だけだがね・・・」
「技術を国から差し押さえっすか?」
「何故、中つ国に技術提供を?」
「一種の情が湧いてしまったのだろうな。
 向こうは今、人口数が著しく減少している。
 私の技術で地域の活性化を願ってそうしたのだ」
「活性化・・・」

反重力で更なる活動をすぐに拡大できず、制限をかけられて
関西のどこかで一端の行為だけ起こそうとしたようだ。
人口数の少ない場所という訳はよく理解できないが、
所長にとって何かしら理由があるのだろう。
深入りは無礼過ぎかと、話しを止めて切り上げようと
退出しようとしたそのときである。

「実はここでも同様に計画を実施しようとしている。
 現在、私は人の住む場、居住区をより高度へ移す事を考えている。
 簡潔に話せば、特定の法人達をより安全な場所に住まわせる計画。
 仕切り直しで1つムーブメントを起こしたくてな」
「人口数の多いこのエリアでさらに活性化ですか?」
「活性・・・というよりは分割だ。
 技術先鋭化した反動で生じた人事の解消法をどうにかしたくてな。
 私は国と関わるある施策を考慮している」
「政策、あるいは居住区に関する問題があるのですか?」
「ああ、中つ国とは事情が異なる。
 ブレイントラスト上で1つ頼みがあるのだが・・・」
「はい?」




















「この世界を完全に分離する計画の参加者が必要だ」
「・・・・・・分離、ですか?」

突然、コウシ所長の口から異様な言葉を耳にする。
国というワードで研究機関から越えた勧誘をしてきた。
しかも、世界を分け隔てると言う。一体どういう意味だろうか、
私はさらに詳細を聞いた。

「今、この国は未曾有みぞうの事態に立たされている。
 下層階からの犯罪が横行しているのだ」
「治安が悪化しているからですか?」
「そうだ、相次いで中層階の住人達が犯罪の被害に遭っている。
 このままでは、いずれ上層階にまで及んでしまうだろう」
「セキュリティーが万全になっていないのでは?
 強固なら絶対やって来れないでしょう?」
「それもイタチゴッコにすぎん。
 住民票コードの偽造、又貸しによる不法滞在で
 奴らは巧妙な手口で突破してくるからな。
 人間の世界には“絶対”というものはない。
 人間が真の意味でまともかどうかは人間側では証明できるとは限らない」
「来国時に観ましたが、総理大臣は対応に苦しいそうですね」
「今の総理はただの形骸けいがいだ。司法がまともに機能してなく、
 国が関わる裁判所も賄賂わいろが横行しているからな」
「司法もズブズブだとは、人類平等の名が泣きますわ」
「真の意味で人は同じ価値観を共有するのは不可能だ。
 そういった“平等という名の重力”が私を苦しめる」

確かにコウシ所長の言い分には一理ある。
突然の所長からの誘いが判断を迷わせた。

「すみません、その返答はもう少しお待ち頂けますか?」
「そうか・・・分かった。
 ではさっそく配属先へ行っててくれないか?
 私も後から行く」

クロノスが一礼をして所長室から出る。
次は配属先の部署へ行かなければならずに、アイザックがぼやく。

「所長の説法で時間食っちゃいましたよ。あの人、話長すぎでしょ!」
「話に乗った我々も我々だ。やむをえん、早く私達の部署へ行かねばな」

2人はエレベーターに乗る。
職場には他にも何人か研究者達がいるらしい。
待っているのかその時間に間に合うかどうか、ふと壁にあった
時計が目に止まった。そのとき、禍々しい記憶が
フラッシュバックして過去を思い出してしまう。


クロノス 10才

 私は泣きながらうつむいている。
鉄格子の付いた牢に入れられていた。
その中には机が1つだけあり、自分1人座らされて
高等数学のテキストを解かされていた。

「今日は設問5まで10分以内で解くように」
「はい」

難解な微分積分だ、早く解かなければムチが飛んでくる。
思考と判断速度向上のためと、こうして問題を解かされていた。

「終了、全問正解まで10分29秒でした」
「遅いッ!」         ビシッ
「うぐっ」

確かに10分以内に解いたはずだったのに、過ぎていたとは。
時計を気にし過ぎたのか、見間違えるはずがないのに。

「次は設問10まで9分以内で解くように。
 1問じたいは簡単だ、迅速にこなせ」
「終了、全問正解まで9分35秒でした」
「遅いぞッ!」         ビシッ
「はうっ」

これをほぼ毎日2時間続けている。
食事とトイレも事前に全て済ませ、個人の自由もなく知識の湖を
泳がされているかの様な教育を受けさせられていた。










チーン

「ハッ!?」

エレベーターの到着音で我に返った。
幼少期の記憶がよみがえってきたのだ。
一時の沈黙が終わり、見回して一息つく。

「ふうっ」
「博士・・・またアレを見ちゃいましたか?」

壁に掛かったアナログ時計を見直してみた。
アイザックの質問で恥をかかないよう意識を整え直す。
やはり前と変わっていない。
秒針を見続けていても途中で止まっている様に見えてしまう。

「「・・・そうだな」」



―――――――――――――――――――――――――――――――――
いよいよ4章に突入しました。
世界の成り立ち、言わば天主殻創世編で今回は過去の話。
最後の1人となる黒幕側のストーリーとなります。
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