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3章 東西都市国家大戦編

第60話  全貌

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 レッドが本拠地とされる建造物のエレベーターに乗っている。
味方にかばってもらい、たった1人で乗り込んできた。
とはいえ、単独で潜入するのも強引すぎる気もする。
先の出来事といい、ある意味幸運だったともいえるが。

(ずいぶん長いエレベーターだな)

電力不足で馬力が弱まっているのか、異様に上昇が遅い。
まるでエレベーターがためらっているかに思える遅さだ。
ここから先は最頂部、CN法の根幹システムがあるという。
今まで世界を制御していた根源へ向かうので、
おのずと気分も高まってくる反面、不安感もしみでてくる。
仮に突き止めたところで何かが明らかになるのだろうか。
自身の事すら分からないのに、先で何が起こるか理解など
当然ながらまだ見通しが立たないまま、ただ上り詰めていく。


   トウキョウCN統制論理機関タワー 最上階

 ようやく終点までたどり着いた。
敵らしいものは特に見当たらずに綺麗な絨毯じゅうたんが敷かれて
様式美な様で先に見えるのは1本の通路のみ。
さらに奥にはドアがあり、入口まで足を運ぶ。

キィィ

ここだけはスライド式ではなく、手動による扉だ。
中は少しだけ暗く、雰囲気がまるで下階と違って静かで
紅の垂れ幕で囲われたフロアに入る。
ゆっくりと足を踏みしめると、しがれた声をかけられた。

「フフフ、よくここまで来られたな・・・若者よ」

部屋奥に深緑の背広姿の初老の男が立っている。
両手を支えた下には長刀を床に突き立てていた。










「あんたは?」
「トウキョウCN総司令官、イヌカイと申す」

通称No1、トウキョウの頂点に君臨する者。
最上階のメインフロアに総司令官が待ち構えていた。

「あんたが・・・トウキョウのTOP」
「いかにも」

トウキョウの指導者が静かに悠然ゆうぜんと名乗りをあげて立っている。
戦争をいた始まりはここからだったのか。
本当にここでCN法を発令させていたのか。
聞きたいことは山ほどあったが、身近な事から聞いてみる。

「何故、クリフをさらっていった?
 どうして俺達は互いに戦争をしなければならない?
 なんでトウキョウにCN法の根源があるんだ!?」
「文字通り、法の源はトウキョウで生まれたからだ。
 私は天主殻と密接に関係する伝導者である所以ゆえん
「じゃあ、あの上空に浮いてる設備を造ったのもあんたらなのか?
 罪のない人達を戦争に駆り立てて争わせる様に仕向けて!?」
「それは愚問ぐもん、ヒトは誰でも罪を内包している存在。
 例外は一辺たりとも無し」
「なに!?」
「誰かが生きるために誰かが死ぬ。
 限られた糧分配は自然において避けようのない現象。
 共に歩み求めても、限られた資源の前にはお互いに鬼と成り蛇と化す。
 必要最低限の摂理において、選択は選別へと変わるべく個を選出させ
 戦争をも式典として定め、不合格者を消化するのが常道である。
 自然界に倫理りんりなどといううつろな天秤はないのだ」

静かに淡々と話す総司令官の男。
CN法の根源について老人らしい口調で語り始めた。
いかにも合理的な内容で組織に足らなければ命すらも不要と述べて、
話し方はNo1としての貫禄がある。
しかし、自分にはそんな話がうつろに思えて仕方ない。

「命の消費がいつまでも続けば、人なんてすぐにいなくなるぞ?
 嫌がおうに身の削り合いさせて、存在も法もないだろう!?」
「戦争は世の常、統制と闘争は共に成立している。
 CN法第2条、敵と味方を共に必要条件とする1対1法は
 ニのまたを満たすものとなる。
 平和は人口過多による腐敗の恐れ。
 腐食ふしょくを削り落とす為の闘争で均衡が保たれ、
 生存権を下に我々は在り続けるべきである。
 存在の要約は全てとして成り立たせ、
 CN法に収束させるのだ」

+の発展だけでなく、-の排除を両極端に振り分ける人を管理する事で
存在バランスを保たせるのがCN法の基本とするらしい。
どこまでも横暴さがついて回り、同族殺しを迫らせるのだ。

「あくまでも、身を削るやり方は変えないのか。
 味方のために敵をつくる・・・なんていうルールは
 どうあっても動かせないのか?」
「動かぬ」

ならば、今対面するこの1対1も戦争に携わる方によるらしい。
自分のやるべき道に変わりはない、
この男を倒して停止コードを入力するだけだ。

「そうか、ならば自分にも手段がある。
 ここであんたを止めてCN体制を解除させるためにな!」
「フフフ、1:1法はこの場においても生じておるな。
 その意気や良し。ならば、一手立ち合おうか」

ここで小さな武術決戦を行うようだ。
そう言いつつ男は長刀を取り出した。
身長と同じくらいの長刀、そんな得物を振ろうとしている。
まさかと距離を置いて、彼が両手で構えた時。

シュンッ

「!?」

とっさでかわせたが、レッドの横髪が一寸切れた。
脚のモーションが予備動作をキャンセルする様なものに思える。
老人の動きではない。

 (なんて迅速な太刀筋だ・・・)

脚どころか腕振りも人間とは思えない速さだ。
フットワークによる瞬発力も、わずか0.6秒内から繰り出される。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

自分と相手の足がピタリと止まり、剣先に視線を向きなおす。
腕、手首の動きをしっかりと見て、反撃の隙をうかがう。
ほんのわずかな強い振り方があるのが分かったが、
スピードが桁違いなものだ。

「太刀の振り方、足の立ち回りが普通じゃない。
 どこで、そんな技量を身に付けたんだか・・・」
「その言葉、そっくり君に返そう」

自分のグルカバーンはマチェットで相手よりも短い。
老人の得物の長さは脅威なものの、リーチは余分な偶力をも
生み出している。長刀を振る遠心の無駄な速さを利用して
わずかな隙を見出して懐を狙い定める。

パシッ

だが弾かれる、刃の部分ではなく自分の腕にまで潜り込まれ姿勢が揺らぐ。
このまま倒されれば床に着いた瞬間追い打ちをかけられて終わる。
大げさなモーションは危険な行為、転倒すると思わせて向きの勢いを
利用して側転。

「大振りだな」
「くっ!」

細長い刃からは逃れたものの、位置取りはまたやり直しだ。
スローモーションに捉えても小さな型取りで隙間を塞ぎにくる。
トウキョウの重鎮達は皆こんな実力ばかりなのか、
メンバー達の安否も気になるがそんな場合じゃない。
それらの1人を自分がここで制圧しなければ進まないのだ。
この男は微動すら読み取る素質をもっている。
つまり、ブレのフェイントなどが一切通用しないから極力静止して
高速と停止をもっと活かして長刃の一部を抑えようとした。

(グルカバーンの噴出の勢いで一度判定手前で――!)

ブオオッ  ピタッ

と見せかけて止まる、今突き出す腕を先に出せば弾かれるはずだから
リーチ前の勢いによる隙をわざと見せて変化をうかがう。
相手も剣先が自分の中心を向いたまま、必ず振りかぶった手や腕の
どこかを仕留めにくるはずだ、すると。

ブンッ

 (ここだ!)

打点が見つかった、低姿勢をとられて思わず手首を引っ込めた
イヌカイも気付いたらしく、レッドのモーションキャンセリングを
駆使した動きを見て悠々ゆうゆうと特徴を語る。

「ワタシと似た動きをしているが、君はもしや・・・」

剣先からどうにか制するチャンスを見つけようと粘る。
少しでも刀を腰から下へ下げた瞬間を狙って見定めた。

「うおおお!」

ガキィン                       カラン

イヌカイの長刀を弾いて床にはたき落とした。

「・・・・・・」

強振りのわずかな瞬間を見定め、どうにか太刀筋をとらえた。
レッドが総司令官イヌカイに勝利する。
一応の決着だ。

「勝負あった、コードを入力させてもらう!」
「コード?」
「CN法解除コードだ、天主殻と連携する全エリアのシステムを止める!」
「・・・・・・」
「?」

男は一瞬動きを止め、ピクリとも動かなくなる。
約30秒経過した後に発言する。

「解除か・・・良かろう。端末はあれだ」
「あ、ああ」

なんと、イヌカイは承諾してくれた。
あまりの素直さに何が起きたのか分からなかったが、
地上で続く交戦を終わらせるのにのんびりする猶予はない。
一刻も早く入力をするべく部屋の奥にある端末へと向かう。


「これが端末か!」

同じ背丈くらいの小さな1つのモニターとキーボード装置があった。
上空の円盤からトウキョウへ配信、情報統制させていたのか、
全情報が記載されているのか内容が気になったものの、
総司令官に言われた通りにコードを入力しようとした。

「「最高暗号機密資格、クリア。
  パスワード、及びコード入力して下さい」」

端末画面の中に無数の数字とアルファベットが表示される。
レイチェル司令から教わったコードを書き込み、
指揮系統の命令情報を阻止しようとしたが。

カタカタカタ  ブブーッ

「「タイムアウト、もう一度入力して下さい」」
「ええっ、きちんと入力したはずだ!?」

しかし、認証は通れなかった。
他では画面端に虹彩認識という項目がある。
ここで赤い目といつも言われてきた自分に、接点があるのではと推測。
よくよく省みても、自分は常人ではない。
もしかすると、トウキョウの関係者だったのか?
天主殻とどこか繋がりがあるのか出生に疑いが浮かぶも、
とにかく成功させなければならない。
遅く観える力はあくまでも“動いている物体”だけだ。
ならば来場した自分こそが対応できると思い、試そうとした。

「「虹彩認証継続中」」

レンズらしき機器に目を合わせる。
確証はない、それでも方法は何であろうと尽くすしかない。
100%まで伸びるゲージが端までたどり着くのを祈った。


ピッ

「「認証完了」」
「うまくいったか!」

成功したようだ。
スルスルとコードが画面を覆いつくし流れ、障害も起きずに
情報処理が行われていく。
残りは結果を見守るのみ、事の成り行きを見続ける。
そして最後の一行が書き込まれた時、最後のワードが大きく
表示と音声で同時に発したのだ。




















「「プロテクト解除、A.D00年停止より再開。
  天裁コード継続実行」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
                天裁
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

モニターに映し出されたその二文字は自分の目を大きく見開かせた。
天裁と表示されたその意味の一辺は理解を超えている。

「てんさいコード?」


ゴゴゴゴズボオオオオオオオオッ

遥か上空から無数の光が発散しているのが見える。
天主殻から無数の物体が舞い降りてきた。
発動機、今まで見た事もないライオットギアの群れだ。

「なんだこれは・・・俺はきちんと入力をしたぞ!?」

訳が分からぬまま、状況がのみ込めない。
メンバー達に確認をしようと、通信機に手をかけたところを
反対に、ちょうど1通の無線連絡がから届いた。

ピピッ


























































































































レイチェル「「ありがとうございました、レッドさん」」

突然の連絡の相手は総司令官レイチェルだった。
彼女は奇妙な言葉を口にし、自分へ賛美の言葉を発した。

「総司令・・・これは一体?」
「「実に久しい光。
  ようやく私達の100年越しの悲願を叶えてくれました。
  心よりお礼を申し上げます」」
「司令、だからこの現状はなんだ?」
「「私達はニンゲンに制裁を下すことが叶わず、
  長年にわたり不明ふみょうみちにさまよい続けていました。
  閉ざされていたプロテクトコードが解除できなかったのです」」
「人間に・・・制裁を?
 何を言ってるのか、意味が分からない」
「「セレファイスのゲートが開かず、マザーコードの一部を内蔵する
  セントラルトライアドを糧に探してきましたが
  どれ程のセンサーを駆使しても一機すらも見つからず、
  長年の時を無意味に過ごしてしまい、
  私達自身の目標すらも見失いかける寸前だったのです」
「・・・・・・」
「「私達も向こうに戻れずにあなた方下界と交じり、暮らしを送り
  そんな膠着こうちゃく状態じょうたいの打破を模索していた。
  そこで見つけたのがあなたです」」
「俺が?」
「「先日の検査であなたの体内にマザーコードと類似した
  ミラーコードが入力されているのが判明しました。
  どういった経緯かは不明ですが、
  ソリッドワイヤーの中に含まれていたカルシウムイオンと、
  あなたの細胞内にあるタンパク質構造と似た遺伝が結合されていました。
  伝手を辿ったそれが一機と共通したものだったのです」」
「俺の、遺伝子・・・グンマの備品に・・・機体・・・なんでだ?」

セントラルトライアドという1つの中に自分の体内と共通したコードが
書き込んであると彼女は言った。天主殻の扉は元から閉ざされていて
開くきっかけは、何故か自分の中にあるプログラムの何かが
決め手になったのだ。

「「私の上司が三機に内蔵していたセレファイスの
  マザーコードの一部を手に入れられたのです。
  しかし、入力しても解除はできなかった。
  遺伝子検査がかけられていたのか、私達の者では開けられなかった。
  そこで、“あなたが直接入力したら?”。
  私は賭けてあなたを誘導したのです」」
「俺は・・・一体何者なんだ?
 そして・・・あんたは?」
「「ともあれ、思惑通り事が上手く運びました。
  身をていした本物の私達も浮かばれます」」
「あんたはスパイだったのか!?」
「「ふふふ、聞こえの悪い言葉ですが、あなたにとって
  相反する立場と思われるのも無理はありません。
  そうですね、その続きは・・・・
  ならば、に伝えてもらいましょうか」」
「なに!?」


ドスッ

「がっ!?」

後ろから不意を突かれて刺された、長身の男が槍でレッドの胴体を貫いた。










「へっへへー」

刺したのはアイザックだった。
自分は倒れ込んでしまい、貫かれた部分を観て驚愕する。

ブシュウウウ ビリビリビリ

「「な・・・んだ・・・俺の・・・体!?」」
「なるほどな、聞くからにどうりで強ぇと思えば
 お前もだったとはな。
 おっと、上司もここに来るんだったわ」

男は白衣に着替え直して身なりを整え直す。
今までの飄々ひょうひょうな行動に対して、急に真面目そうな格好に変える。
側でずっとたたずんでいるイヌカイは先程から何も話さず、
微動だにすらしない。奥からまた誰かが来て発言する。

「あら、このポンコツもう壊れたのかしら?」
「「な!?」」

ガシャン ドサッ

イヌカイが音を立てて倒れていく。
彼もアンドロイド型の発動機だったのだ。
そして、側に居たのはトウキョウCN副司令官、No3のアメリアだ。

「ふーん、アンタがあの高慢こうまん知己ちきの息子の1人か。
 よくも長い年月かけてはばんでくれたわねぇ」
「「グギギ、お、お前達は何者なんだ?」」
「まあ正確に言うなら、これは囮役といった方が良いかもしれないわね」

問いを無視して勝手な持論を述べる彼女。
そこへさらに2人やって来た。

「ふう、ようやく会えたな。
 こうして集うのも、およそ100年くらいかな」
「所長も、ずいぶんと早く御到着なされましたね」
「君が製造したビークルのおかげだ。
 環形虫類かんけいちゅうるいの質量圧縮による収縮技術。
 一目に触れられずに外に出られたのだから。
 まったく良い同志達に恵まれたものだ」
「ええ、体を輪状に折り畳むことで虚空間に潜り込む技術です。
 あの子達の賜物ですわ」

コウシとレイチェルが難解な言葉で身内話。
4人は独自の会話をする。
自分にとって、内容は1つもつかめないものばかり。
少なくとも、この世界の度を超えた話だという事だけ。
再会したような身内のやりとりを勝手に進める後、
禍々まがまがしくこちらを凝視して、言葉を発した。

「こいつ、どうする?」
「延々とあたしらの邪魔をしてくれたもの。
 始末しましょ」

男が自分に再び槍を向ける。

「俺達はな・・・成すべき所業ってモンがあんだよ。
 いい加減、永眠してろ!」
「チクショオオオ!!」

片手で持つ槍の先で自分に突き刺さそうとしたその時だ。

「あばよ・・・・・ん?」
「!?」


ブウウウウン

レッドの体は光に包まれて消えてしまった。
レイチェルが仕様を把握していたようで、消えた現象を語る。

「電子殻によるワームホールに逃げられたようです。
 彼女の差し金によるものでしょうか」
「片割れもまだドロイド化で活動しているようだ。
 うむ、まあ良い。我々のやるべき事を優先する」

4人は天主殻を見上げ、何かを起動させると光が差し込んできた。
体を宙に浮かせて上昇する。

「ようやく、苦労の末に扉が開かれた。まずは、彼の元に戻るとしよう」
「あの人は一応まとめ役なんだから、
 しっかり顔を見ておかないとダメね」
「主任はまだ生きてっかなぁ?」
「中枢部には生体反応があります。
 無事、生存確定で心配は無用のようですね」

上空を優雅に舞い上がる4つのそれらとは対称的に、
地上は火の粉や煙、そして銃声音と金属音にまみれている。
無数の人と機械の乱雑ばかりのそれらが激しく光る光景は広がり続け、
彼らは構わず冷たくもえつに眺めていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
3章はこれで終了です。
ついに黒幕の4人が判明して物語も終盤近くに向かいます。
ペースも起承転結の転まできました。
しかし、この作品はもうしばらく続くので
最後まで朗読してもらえたら辛いです。
それでは4章へと移ります、次は過去編です!
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