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3章 東西都市国家大戦編

第52話  人の上に人は在るべき1

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碧の星団新拠点

スパッ

 オオサカ兵と星団員がお互いの技を駆使し合う。
センは張り巡らされたワイヤートラップを残影で切断。
綺麗に斬られたのか、仕掛けた装置はまったく爆発しない。
接触で引っ張らなければ無反応なのだ。
触れさえしなければ、どうってことはない。

「こんなの引っ掛けにもならねーよ」

近江兵はブービートラップの対策を熟知している。
近接派は罠に引っかかりやすいと思われたか、
俺にとってはこけおどし以外の何もない戦法で、
もっとストレートに来いと言いたげな態度だ。

「空中戦法か? オオサカの火消し役と大して変わらねえぞ。
 星団のエリートも、やり口がチャチだな」
「曲芸にもってこいだろ?」

アーロンは挑発にのらず、ちゃらけた対応で応える。
しかし、センは男の戦法に疑問がないわけではない。
兵士という割には銃を所持しておらず、
奇妙なトラップ系の装備ばかりが観える。何より気になるのは、
この男は長時間も逆さまで宙吊り状態でいられる事だ。
先から数分も逆さま状態のままで、普通ならば頭に血が上り
意識を保てるはずがない。

「噂で聞いてたが、俺らはマジで狭すぎる世界を観てただけだ。
 碧の星団ってのは化け物の集いだとケイの言ってた通りだな」
「そんな言い方してたんか、あの弟君も人が悪いわ。
 まあ、だいたい合ってるけどな」
「あいつに兄がいたのか。で、お前は何者だ?」
「こんなとこで自己紹介しろってかい?
 俺らはムーンライトチルドレンだし。
 リアルネーム名乗るのもメンドイし」
「なんだそりゃ?」
「かつて、どこぞで発生した光沢病だ。
 全身が光りだす謎の奇病で、俺もその1人だった」
「じゃあ、お前もあそこの?」
「ああ、それともう1人」


「フンッ!」

ガゴンッ

「うおぁっ!?」

 近場の区画でライリーは大柄の男と戦闘を繰り広げていた。
男の持つ杭が1m突き出す兵器が近場の壁もろとも破壊する。
破片が飛び散るだけの威力でも、思わずよろめいてしまう。

 (それよりも、なんなんだアイツの体は?)

夕方になって薄暗くなり始めてから、なんとなく見えていた。
時おり淡く光りだす、男の体に視線を向けてしまう。
観られている事に気付いていたガイルは自らの事情を話しだした。

「この体の事か?
 心配ない、日射病の処置はもう済んでいる。
 唯一の弱点を補えた以上、我に隙は無し!」
「へ?」

より太陽光を浴びる上空にもかかわらず、
幹部2人は平然としてたたずんでいる。
正直、何を言ってるのかまったく分かりようもないが、
紫外線焼けを克服して昼間でも高度関係なく行動できるという。

「よく分かんねえけど、星団は怪人がいるとこかよ。
 じゃ、こんな人間ホタルに負けるわけにはいかねえな!」
「目標へ最接近ッ!」

ギャリッッ

次の発射タイミングを狙うガイル。
先の杭をライリーの胴体へブレずに見定める。
お互い隙をうかがう近距離同士の探り合いは続いていく。
俺は装備武器を振りかぶるタイミングを念入りに図り、
少しずつ近づいていった。

 (もってくれ、俺の漸萬)


増設区画

 奥から物音がしたのはエイジだった。
向こうも自分がいるとこちらに気付いている。
それでも視線を変えず、何気なく作業していたのだ。

「エイジッッ!」


ジョロジョロ

エイジは水を与えるじょうろを持っていた。
まるでケイがここに来るのが分かっていた様に慌てもせず、
叫んでも動じない。彼は植物に目を向けたまま話してきた。

「もうここまで来たのか、予想よりも早いな」
「何をしてるんだ?」
「花に水をやってるだけだ、別におかしくないだろ?
 まあ、メンバー達が今ここにいないから、俺が代わりにやってるんだ」
「・・・・・・」

とても敵兵が攻めてきた緊張感も感じられない。
親族さながらの余裕か、または秘策でもあるのだろうか。
エイジと共にあるこのエリアの外観も気にはなるが、
見越していた男が詳細を話した。

「どうだ、中々綺麗な庭だろ?
 高原の花って良いのが咲くな、まさに高嶺たかねの花という。
 これだけの高さなら花は美しく咲けるんだぞ」
「こんな物を造るために、空中基地なんて建てたのか?」
「ここはまだ庭園だ、いずれはもっと広いエリアを造る。
 1つの国レベルくらいのな」
「・・・・・・」

行動理由がまったく見えてこない。
俺の先に見えるのは、ガラスや金属パイプの端材はざいばかり。
まだ建設途中の段階だろう。

「想定じゃ、完全に発展するのは5年以上だろう。
 で、これからもっとエリアを拡張増設していくんだ。
 資源がそろい次第、実行に移す」

地上を差し置いての完全独立。
もちろん、星団がとろうとしている安易に許されるものではない。
空への進出は下界にとって由々ゆゆしき問題がある。
太陽光も当たらない、落下物の被害、自然環境の衰退など
様々な空からの弊害へいがいが及ぼされるからだ。
星団拠点を造りたがっていたエイジにこれ以上拡充させないよう、
俺は計画から下りるよう要請をした。

「星団を解散するんだ」
「・・・あいつらにそう言われてきたんだろ?
 もう遅いな、何もかもが遅い」
「早いも遅いもあるもんか、今からでもすぐにここを解体しろ!」
「必要以上に溜まるものは衝突や腐敗が起こる。
 一応シンプルに言ってもそれらは必ず出始めるんだよ」
「人の上に人をつくらず・・・ちょっと調べた言葉だ」
「は?」
「こんな組織はそこから離れすぎている。
 1つの地方としてカイリしすぎて・・・その・・・えーと」

難しい言葉を使って説得しようとして、返って言葉に詰まる。
エイジは相変わらずな俺におかまいなく、先の問いを一蹴いっしゅうした。

「脳天気さは全然変わってないな、恐れ入るくらいだ。
 バカなんだから、無理して難しい言葉使うなっての」
「お前こそ、こんな時にちゃっかり花に水なんてやって――!」
「お前は光がまぶしすぎて目暗めくらになってるだけだ」
「なんだと!?」
「お前は外様管理下を経験してないから言えるんだよ。
 どんな事態を引き起こすか知りもしないで、
 ハイハイと従ってばかりだからな」
「管理下なんて、それぞれ役目が違うだけだろ!
 ただ、お互いやるべき事ってのは役割分担の1つで――」
「そういう管理紛れに差別ってのがあるんだよ。
 分担の中にある仕組まれた差別がな」
「何をどう仕組まれているんだ!?
 じゃあ、エイジが星団を継ごうとした理由ってなんだ?
 なんで父さんとまったく違う方向へ行こうとする?
 しまいにはマナミをあんな目に・・・分からない。
 昔はあんなにうまくやっていけたじゃないか!?」
「だろうな、あの頃は世の中の道理も不条理も
 何も分からなかったんだからな」

弟を前に口調が変わる、あの頃は何も分からなかった。
見聞きするに相応しい少年時代から変わっていった何かを。
に相当する何かを受けた事をきっかけに変わってしまった。
周囲で破裂音や発光が散りばめられている中で、
エイジは弟に本当の理由を告げようとする。
不条理という言葉を発したには理由があった。

「個人では立ち入れない世界がある。
 俺は幼少から見えてきた隙間から思い知らされてきたんだよ」
「?」

俺が8才の頃だ。時折空を飛んでいるビークルが好きで、
こんな切羽詰まったご時世にも拘わらず夢中になっていて、
宙に浮かぶ珍しい乗り物、子供心ながら青く広がる空に強くあこがれていた。

ある日、CNの関係者達がスカイレイダーを披露ひろう、それで
子供達も一緒に乗せてくれるというイベントがあった。
まあ、徴兵制度の一貫として試し乗りさせているんだろが、
俺は順番待ちで早く乗れるのを待ちわびていた。だが。

「ん、君はトットリCN出身だね?
 残念ながら、山陽戸籍がないとこれの搭乗はできないなあ」
「・・・・・・」

その時はまったく理由が分からなかった。
年増ごとに、CNの出身で利用できるものとできないものが
明白に思い知らされていく実感を味わわされる。
いわゆる差別だ、他に例えられる言葉がない。

「あのマナミだって、スカイレイダーの搭乗権とうじょうけんがなかったからな。
 その反動で、グラスホッパーの操作に躍起になってたって
 言ってたくらいだしな」
「だから、あんなに操縦がうまかったのか・・・」

次第に中つ国は機械関係をID管理する仕組みだと分かってくる。
歪と思えてきたキッカケは南北による搭乗権の違い。
ビークル、ライオットギア操縦を分別する理由が理解できなかった。
工作班に携わっていた両親に聞こうとしたが、共にロスト。
カズキに拾われてからは、自然と星団への道が開けていく。
自分の能力向上に優れ、可能性を見込まれていたのか、
先人のアーロンのサポートも相まって少ない人数の中、
中つ国の全権を把握利用できるようになった。

「ま、カズキの親父のコネも否定はしないな。
 おかげで、色々知る事ができるようになったし。
 でもな、その分だけ中つ国の闇も観えてきたんだよ」

親父の死後、総司令官専用ファイルを閲覧してから
山陽山陰の間に潜む巨大な空洞に気付いてしまった。
Pの不正利用、四国との癒着、出生による異常な分別配置。
一軍としてあるまじき行為などを目にする。

「なんで、そこまで事情が分かったんだ?」
「親父が所持していた総司令官のデータだ。
 中つ国の組織の記述がまざまざと載っていたよ。
 天主殻創立から歴史ごとな」

総司令官が起きた事実を明確に記載してデータに残す。
今まで秘匿ひとくされた話を見た俺は次々と世界の穴を見つけてしまう。
A.D80年に起きたスカイレイダーの事故が発生した件も載っていた。
上岩高原エリアの墜落事故で、音声認識に不具合が生じたという。
なんと、携わっていた俺の実の両親だった。
公式ではオカヤマとヒロシマの指導者達は事故で責任者を
失ったと報道していたのは覚えていた。
それとは裏腹に、データではまったく異なる内容が記載されていた。

「下界じゃ、まだ移動間でID読ませてるだろ?」
「そうだけど、IDが何か?」
「あれも、時々中のコード代えてるんだぞ。
 管理者御都合で色々変えられる施策をな」
「なんだって!?」
「スカイレイダーはID登録と音声起動で動かせる仕組みだ。
 普通、ビークル操縦権限は資格や階級で許可されるはず。
 でも、どういうわけか同じ型なのに起動時間別なんて項目もあった。
 CNや時間帯指定なんてするわけがない。
 怪しいと思った俺は当時の詳細を見直していくと、
 昼と夜では利用する機体が違っていたと気付いた。
 何故かその時間帯だけは夜間運用と書かれていた。
 続きを調べてみたら案の定だ、奴ら司令官は隙を見て
 昼用の物とすり替えていたんだ。
 当時の司令官は両親を手にかけたんだよ!」

当時のスカイレイダーは昼夜で使い分けされていた。
暗視機能のない昼用を乗せられて事故に合わされたらしい。
司令官という権利の穴を利用されて。

「父さんが言ってた夜間襲撃事件もそれの一端だったのか。
 なんで、その人はエイジの両親を?」
「分からない、カズキの親父が通信で揉めていた事で知ったな。
 司令官と製造権の話をチラッと聞いたのは憶えている。
 俺が急遽きゅうきょ、夜型ライオットギアを製造したのも分かるだろ。
 そいつらは時間帯の差を狙ってやってたんだからな」

事故と見せかけての奇襲。よくある手口ながらも、姑息なやり方。
ならば、その話を公表すれば良いのではとエイジに勧める。

「そんな事がここで起きてたなんて。
 それが本当なら公に発表しよう。
 皆に見せればきっと分かってくれる!」
「実はそれも無理だろ。
 そこには責任回避のカラクリの穴もあったからだ」
「責任回避のための穴?」
「機体のすり替えだけじゃ、強く責任を問えない。
 当時の司令官もすでにいないしな。
 だから製造物責任法から話しを辿らなければならないが、
 総司令権限データの中にも見られない部分があったんだ。
 ミッシングシステマーっていうんだよ」

ミッシングシステマー、データの製造、元管理者に関する情報。
基本、機材には関係者の名前、製造日など記載するのが規約だが、
データ内に一部暗号化キーで塞がれたページがあり、
奇妙な棒線の塊で書かれていて、普通に読み取るのは不可能。
総司令官のカズキでも、こじ開けて解読する事ができなかった。

「俺は行き詰った、親の無念さと技術の追求の間で。
 ふと思ったんだ、何故中つ国は反重力の技術が盛んになったんだろうと」
「確かに生まれた時から、ずっとあったもんな。
 なら当然、当時の事も書いてあるだろう?」
「俺もそのつもりで初代の名を探し回ったさ。
 でも、ページは暗号化されていて見られない。
 そこで答えを得たのは、このウェイヴレングス。
 お前からもらったあの誘導ビーコンさ」
「!!??」

エイジが懐から、再びあの機器が取り出される。
ウェイヴレングス、それは光の波長を複数重ね合わせて
バーコード化による解読が行えるものであった。

「これを何度か当てたらキーが解除された」
「あのビーコンが・・・カギだったなんて」
「光ってのは不思議なもんだ。
 見えるものが消える、見えないものが現れる。
 光の波次第で、真実が分かるのな」
「その元の元といえる、反重力の生みの親の責任として
 関係者をたどれば分かるんじゃないのか?」
「そりゃそうだよな、でもなかったんだよ。
 何故なら反重力技術の創始者の名前も記載されていなかったからだ」
「責任者すらも不明だったのか・・・どうなってるんだ?」

波長検査でも、反重力技術者の詳細がなかったとエイジは言う。
大元の責任者が分からないのをいい事に、裏で吸収と排除を
繰り返し差別をしながら役所の選別を行っていたのだ。

「でも、まだ理解しきれない部分もある。
 中つ国の突発的行動・・・ここがどうしても観えない」
「そんなのただの性格とか習慣じゃ?」
「薬物投与の線も疑ったが、履歴も痕跡もなくそこも見えない。
 四国にあったムーンライトチルドレン発症に関与する線も考えた。
 だから、アーロンさんとガイルさんを加入させた」
「どうせしごかれてイキり始めたとかじゃないのか?
 ちなみに聞くけど、怪しいと思ったCNとかってあるの?」
「断定はしていない。
 でも、いびつな配置をしていた元締めのCNもあるにはある。
 ・・・あのオカヤマとヒロシマだ」
「あそこにそんな裏話があったとは・・・ていう事は!
 じゃあ、アキヒコ司令とアイ司令が!?」
「あの2人は後任だから、知らないだろうな。
 当然、かなり前の話だから関係者は古株連中。
 CNの創立者は、相当隠し事がうまかったんだろ。
 反重力なんて天地がひっくり返るモンを造ったんだ。
 相当狡猾こうかつな奴なんだろうよ」
「そうか」

俺はウェイヴレングスをたまたま庭の倉庫で見つけた。
父のカズキがこれでコードの根本を調べていなかったのが不思議だ。
いや、もしかしたら知っていた事でマナミに襲われたのか?
何かしらの理由でできなかった事を伝えるために、
息子の自分に譲ろうとして閉まっていたのだろうか。
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