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3章 東西都市国家大戦編

第40話  蒼光

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ヒロシマCN 備高竹山駐屯地 指令室

 中つ国地方でも至る所で交戦の火の手が上がっている。
先程アイ司令からきた連絡の内容も、多数の関東兵がすでに
周辺にいるとのことだ。だが、東の介入だけではなく、
鋭利な刃物で中つ国兵がわずかながらに襲われているというのだ。

 (こんな時でも、アイツは動き回ってるのか?)

ケイはマップに表示されている状況を観て混乱しそうになる。
黒兵も便乗して度々奇襲をかけているのはすでに聞いていた。
接近武器のみで各地を渡り歩くものなどいやしない。
ましてや、関東軍と行動を共にしている話すらほとんど聞いてなく、
本当に向こうとつながっているのか疑わしく思えてくる程だ。
シンジが同盟CNから要請がきたと報告。

「トットリからリソース要請がきたぞ!
 隊長、資源サポートはどうなってる?」
「もう送ってある!
 今のところは持ちこたえられるはずだ。
 資源管理の1つを任されたけど、いつまでもつか・・・」

相次ぐ交戦の連続により補強素材が必要で、同盟国からの注文が
絶えずにコールが鳴り続いていた。
さらに関東軍の介入で資源ルートのこじれがジワジワと生じ始める。
こういった時は最も割合の高い物資を先に予約配備させるべきだと
父から教わっていた。
どの種類を送るべきか、マリさんに聞いてみる。

「ねえ、中つ国は後1週間くらいもつかな?」
「予想量ではおよそ5日、交戦規模次第でもっと下がるかと」
「やっぱり少し低いか。薬は最初から多めに用意してたけど、
 機械系の防衛に頼らないと人だってダメになるし」
「防衛ラインより、すでに4か所突破されています。
 一部駐屯地にも侵入されてドキュメントを盗難された報告も」
「もうヒョウゴにまで来てたのか、関東も不思議な技術をもってるし。
 なんで鉱石類ばかり・・・ライオットギアを造りたいのか?」
「兵器増産で物資横領している線が一番高いと思いますね。
 実際でも、近江CNへの輸出資源も低下しています。
 情報をつかまれて鉄、金、黒曜石、銅など関東軍も狙っています」
 (ん、黒曜石?)

複数の資源名を聞く内、その鉱石が耳にひっかかる。
話によると、発注される中で不定期に送っている素材もあるのだ。
あの黒兵が身にまとっている装甲も黒い物質が含まれた合金だと
報告書に記載されていたのを思い出した。
その鉱石の名を聞いた時、頭の中に違和感がよぎる。
かつて、父から聞いたわずかな記憶だ。


10年前

「おおっ、この黒い石カッコイイ! なんていう石なの?」
「それは黒曜石だな、ガラス質の物質だ」
「こくようせき?」
「主に火山地帯で採れる石だ。
 中つ国でもわずかしか採れない貴重な鉱石だ」
「てことは、関東地方でしかほぼ採れないのか?」
「九州地方でも多少採掘ができるが、ここに適する工房がない。
 を造るなら、あちらの方面だろう」
「うわあ、黒き力がこの身に宿るうううう!」
「アホ!」

 エイジと一緒に聞いていた少年時代の思い出。
何気ない会話にあった“1つの製品”という父の言葉。
元々1つの完成形として関東からやって来ただけなら分かる。
もし、微量としても長年かけて新しい物を造っていたかもしれない。
“時間をかけて関西でも誰かが黒兵を造っていた”としたら。
アホながらでも、少しくらいの可能性をさかのぼってみた、
という思惑がフッと湧く。

ピピッ

ここで着信音で現場へ引き戻される。

「ヒロシマCN本部から通信がきています」
「アイ司令か、つないで!」
「「物資要請、グリーンテープ10箱、補修材カーボン5箱分!
  こっちにリソース送ってちょうだい!」」
「了解、もう配送終えました!
 ところでアイ司令、ここいら中つ国で黒曜石の産出地域って
 どこにあるか分かりますか?」
「「え、産出エリア? 何よ突然?」」
「ちょっと気になる事がありまして、軍事物でいつも使ってない
 資源注文がなんだかあってこっちでも分からないんですよ」
「「ちょっと待ってなさい」」

一応、彼女に聞いてみる。
駐屯地のここでも全部載ってなく、ヒストペディアですら
ところどころ正確に書いてないから最高責任者に聞くしかない。
関東ではなく関西エリアの実行者がどこかしら掘り起こして
黒兵の基礎設計を行っていたとしたら。
根拠は特になく、ただ、流れでそう思っただけだ。
黒曜石の利用は主に器のみで、
司令部の見解でも黒兵につながる証拠は見いだせていない。
数分経った後、アイ司令がエリアを割り出した。

「「シマネ、オオイタ、サガ、ナガサキくらい。
  いくつかあるけど、多く産出してる地域じゃないわ。
  特に何か造ってるでもないし、それがどうかしたの?」」
「後、中つ国の資源ルートで、今現在最も利用率が高い所ってどこですか?」
「「一番利用しているCN?」」

またもやアイに調べてもらい、結果を待つ。
すると、誰もが知る関西最大CNの名前が現れた。










「「オオサカCNよ」」
「オ、オオサカだって!?」

意外な所だが、人口数から考えれば無理のあるCNではない。
もしかしてオオサカのどこかで黒兵が造られているのか。
在中するセンやライリーも不在。
内地の情勢の詳細に絡めてさらに調査したいが、ここを離れる余裕もない。
混戦状況が続く中、さらに駐屯地に一通の連絡が届いた。

「「えー、こちらオカヤマCN。
  中つ国山地にも敵影反応確認、対処求む」」
「分かった、みんな哨戒してくれ!」
「おーし、みんな出撃だ!」

とうとう、このエリアにも敵が入り込んできたのか。
まさに腰の入れ時と、山地周辺にシンジと部下達を回らせる。


数十分後

しばらくして、メンバー達の通信を待っていたが、
危機感も何もない山と空気ばかりの場だけが残った。
火の粉、銃声音が一切感じられない静寂せいじゃくの空間。
交戦どころか敵影の1つも報告がない。

「「敵兵、見当たりません」」
「「おい、どこにもいねえんだけど?」」
「いない・・・?」

メンバー達も誰1人、見かけないと言う。
駐屯地から外に出て周りの景色を眺めても、同じ様子だ。
遠方に目を凝らして見ていると、前ではなく後ろから音がした。


カツン  パァン キイイイィィィン

すぐ側に落ちてきた1つの物体が、地面に着く瞬間に破裂する。
スタングレネードだ。
光を目に受けたら最後、何も認識できずに判断力を失うものの。

「何度も引っ掛かるか!」

俺はとっさに目と耳を防護する。
いつ何が起きてもしのげるように勘を働かせていた。
すでに何度も行われてきた手段の対応。
この状況、特に真上からやって来るなど誰の仕業なのかは言うまでもない。
目眩めくらましから逃れてすぐに立ち上がり、構えをとろうとした
次の瞬間、脇腹に衝撃が走った。

ドスッ

「げふっ!?」

周囲の確認を忘れて2mくらい吹き飛んで転倒。
姿をハッキリと見る前に先手を打たれてしまう。

「とりあえず寝てろ、色々面倒だから」

エイジに不意打ちを受けた。
気絶から逃れた途端に、肘打ちで気絶寸前になりそうだ。
次の次を考えられない点には、隊長格には届いてないのがやっぱり俺である。

「「エ、エイジ・・・待て、待てよ・・・動け・・・うご」」
「探してくれ!」
「了解!」
「ここで・・・何を!?」

先程の無線連絡は星団による陽動だったのだ。
星団達が駐屯所の中へ入っていき、物色する。

「「あわわわわ、私の命だけは・・・え、ちがう?
  じゃあ、とうとうガマンしきれなくて私の体を・・・え、それもちがう?
  黒い物を持ってこい?」」

わずかにマリさんの声がする。
何かの物目当てで探しにきたようだ。
他のオペレーター達もどうする事もできず、様子を見ているだけ。
数分もかからず、再び外に出てきた星団達の1人が
手に持っていた物は、あの黒いオブジェだった。

「それは、アイ司令の持っていた!?」
「ありました、未知の反応をもっていたのは間違いなくこれで」
「これがそうなのか・・・よし、撤収する!」
「なんで・・・それを・・・おい待て!」

星団員は全て艇に乗り込んで、足早に間もなく退却。
自ら乗る直前にエイジはケイに大人びた口調でこう語りかけた。

「これは我が軍の発展に欠かせない物だ。
 地上派のお前達にはもったいない。
 大いなる計画を果たすために有効に扱わせてもらおう」
「発展?」

そう言ったきり飛び去ってしまう。
エイジはアイ司令の所有物を悠々と持って帰っていった。
いつものパターンとして上からやって来る星団も、
今回ばかりは突然の襲来の意図も理解できずに混乱寸前。
大いなる計画とは?
備高竹山で今まで滞在していた組織がなんで今更取り戻しにきたのか。
俺の頭には謎ばかりの念で答えなんて1つも拾い上げられなく、
帰っていくエイジの艦隊をまざまざと見せつけられるばかりだった。


アキタCN 女鹿エリア

ゴスッ

「ぐふぉっ!?」

 アキタ最西端でロックは関西の送り込んだライオットギアと戦闘。
侵入を防いだのもほんの一時で、来なくなったと思いきや
暗くなりかけた夕方に大型を引き連れて侵入しにきた。
船を沈めて連携を断ったのもほんの一部にすぎず、また襲いに来る。
しかも、普通と違った形で身のこなしが大きく、歩幅がさらに大きいから
走って近寄るのも難しかった。

「「キシュシュウ、四つ足はまだ必要とされているうぅぅ。
  アーマーディロの様な円滑さばかり追求しても、骨格こそ至高。
  せいぶつにもとづくきかくこそそんざいのあかしぃ、
  ぐんじせいかもここでしめしてほんぶにさいこうせいをぉぉぉ」」

操縦者も意味不明な事をぬかして我を失っている。
狂気に満ちて侵攻ルートも分かりにくく、どこを目指しているのか
つかめずにいた。
言葉から戦闘に勝ちたい事だけは確かで俺達を全滅させようと
しているのだけは間違いないようだ。

「おいボウズ、無理すんな!」
「コイツは俺にしかやれねえ、あんたらこそ下がってろ!」

おっさん兵の警告も無視して先陣切って威勢のいい事を言う。
中年兵しか地元に残っていない中で若い奴が俺だけなのも変だが、
能力ウンヌンで言われたまま残っていた。
こんなのが来ると分かってて置かせたのか。
しかも、これは脚が4つ付いていて手応えも感じられなかった。
さっきから脚を殴り続けているのに崩れる様子もなく、
まるで遊ばれているように広場で荒らしまわっていた。
ここで盗賊時代の隊長、おやっさんのある出来事を思い出していった。


「ロックよ、世の中にゃどうあがこうと勝てねえ相手もいる。
 こないだ、お前のとった行動はかなり危なかったから無理すんな」
「なんだ、いきなり?」
「いきなりもなにも言いてえ時にゃ言うわな。
 下手に破壊しようとすりゃ目立って位置がバレるぞ」
「でも、実際相手が目の前にいんだからそうするだろ?
 あの時は3人奇襲しかけて仲間が危なかったんだしよ」
「そんでつい反射的に突っ込んじまったんだろう?
 そんな時にゃ、つい自身の事しか考えなくなる。
 だから、いつも周りを観て動くんだ。
 追い詰められた時こそ目線を広げな」
「はあ」

仲間がピンチになれば助けるのは当たり前だと思っていたが、
おやっさんはむやみに飛び出すなと言う。
これは助けるなといった話じゃなく、場合も考えろという意味。
ただ、そこを上手く考える頭がいつも足りない。
元からフクシマでも雑で適当な扱いしかされてなかったから、
俺にとって目の前の出来事が全てだった。
でも、ここにいるのも事実。民家に逃げ込んでから子どもの流れで
明日も見えないのにアキタに流れ着いた。
軍事行動だって馬鹿の集まりではやっていけないのは分かる。
こんな奴を相手にできるのだって皆に支えられているおかげで、
本当の意味で返せる事をどうするのか思いつけない。
おやっさんの説得が巡ってトウキョウ技術者の武器までしか
考えようにないのだ。

(頭が良いって・・・なんなんだよ?)


ピピッ

「母ちゃん司令!?」
「「そいつの脚は繊維質のパッドを巻いている。
  衝撃を和らげる物だからあんたの装備でも効かないわ!」」

サラ司令から突然無線がきて敵の仕組みを教えてくれた。
機械の中身など知るわけもなく、ただひたすら殴ろうとしか考えずに
ここで相手の中身を言い当ててもらい、今までの戦法がムダと分かる。
だから知恵も使う事が必要で、おやっさんの言う通りに仕掛けを使って
俺は近場の工作班に呼びかけた。

「おい、タンクでアイツを壁まで突っ込んでくれ!」
「「え、でも弾が――!」」
「いいから早く!」

おっさん兵に戦車をまるごと当てさせる。
別に深く考えてなんていない、動きを止める手段を身の回りから
見て取り出そうとしただけだ。

ドシン  ギュルルル

「「がうっ、ごおお、いぬがたこそすべてぇぇ!!」」

まずは脚部の攻撃を止めて味方に動きを止めさせる。
叫び散らす相手に、おかまいなく胴体真ん中を押さえつけていく。
そこへ俺がタンクの上に乗って胴体に向けて打撃。

ガスッ  ブウウウゥゥン  ゴスッ  ブウウウゥゥン

「「いぬっ、あっ、いぬぅ、よつあしっ、いいいぃぃぃ!?」」
「これは・・・破壊、じゃねえ。融通の利かねえ塊への伝言。
 デカブツへの語り、身を沈めさせる説得だァ!」

連打、連打、連打。ここはとにかく殴りまくって音も出す。
響きが大きな力に代わって形を歪ませてゆく。
今までは火薬の衝撃だけ飛び交うやり方だけだったが、
音波の揺さぶりで相手を抑えられるようになった。
中の奴も言葉にならない声を発してナックルの声を伝えてやる。

ズシン   フュウウウウン          ガシャン

「「いきものの・・・きはん・・・へいきん・・・・しれい」」

機体は倒れて停止した、こんな物は普通殴って倒せる相手じゃない。
おやっさんの小言もそうだが、1つだけにこだわるんじゃなく
いくつかのモノとまとめてやっていけば良い。
狭い知恵ながらも実戦を通して協力し合っていけと言いたげに、
トーマスの言葉の意味を足してもっと分かるようになった。

(下手にねじ伏せようとしてもでかく返ってくるって分かってた。
 なんだか、俺は、丸くなっちまったが、おかげで今がある)

だから、おやっさんは大事を起こさずに凌いで生きれば良いと言った。
鉄道兵団に勝てないのは当たり前だが、それ以前に身の程を知れと
頭で認めるのも時には必要だろう。
目の前が全てなのも当然だが、次の出来事や行動を少しは改めて
どうすべきか静読した方が良いのかもしれない。
アキラも一度そんな事を言っていたか、実戦ばかりじゃ兵法はできない。
あいつとの格の違いも思い知らされて経験も味わう。
そして今、トウキョウの男に与えられた力で死守できた。
最大級のCNに乗っかる中で別の目的で使おうもんなら、
返ってどんな目に遭わされるのか?
例えはそこで留める、塊だって色々あるわけだから。
まだ俺の知らない世界がたくさんあるんだろう、アキラも一足先に
飛んで観にいってしまい、ついうらやましいとさえ思ってしまう。
CNも全てが終わったらどうすれば良いか考えもしていない中、
日の反射で腕が蒼く光って言いようのない感じを目に入れさせられた。
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