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3章 東西都市国家大戦編

第34話  瀬戸内海の甲殻

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ヒロシマCN貧山エリア 沿岸部

 今日のヒロシマCNは暑く、汗が多めにでてくる程暑かった。
暑いと感じるのは環境に慣れていない地元以外の者達。
瀬戸内海の南東から東北の戦闘艦が4隻侵入。
指令室にいるアイが近海で防衛、食い止めるよう指示する。

「兵装から東北軍と判明。
 久しぶりに遠出から来た連中よ、もてなしてやんなさい!」

監視映像からおよそ70mmの砲弾を積んでいる。
27歳の彼女によっては当然初となる大掛かり任務。
側近の第1部隊長も配置を欠かさずチェックして単身で外に出ないよう
無線連絡で伝えた。

「各隊員に告ぐ、敵艦は砲撃をすると推測。
 予定通り防衛ラインからの発射体勢を維持せよ!」

敵影侵攻予測ルートから、ここに来るのは分かっていた。
目的は不明だが、物資横領だろうと踏んで1人たりとも上陸させる気はなく
全て海沿いで終わらせるつもりだ。
もちろん、ここには元から海ならではの兵装を培ってきた。


 そこから頭を上げたアオモリ兵が海岸沿いを慎重に視察しながら
陸まで2km近くまで低速度に進んでいく。
地の理から遠距離戦になると十分に備えているものの、
一分隊にいたトモキは所持するR-BOXの攻撃範囲の計測をしている。
なまり言葉が混じる片方では、普通に話す兵士達もいた。
共に来たのは彼らアオモリ兵だけではなかったのだ。

「「ここか・・・」」
「頼むから、絶対に先に行かないでくれさ!」

イワテ兵の分隊も何人か共に侵攻で来たのだ。
メイソン分隊もトモキと行動していたが、彼はやたらとせわしなく
少しでも早く前線に出たがり攻撃しようとする。
黒兵を送り付けた相手を見つけ出して自ら報復したいから、
先の事情を知っているトモキはメンバーから自棄やけにならないよう、
見張り役も兼ねて同行を任されている。理由はミサイルポッド使用による
戦艦合同戦略だけでなく、ある事情をもった抑え役。
クリーズ司令からかつての同行者、及び理解者の1人として
サポートするよう任されていた。


3日前 アオモリCN ロビー

「イワテであの人が編成されていなかったですさ?」
「そうらしい、彼は元から遊軍扱いとされて妹と2人のみの編成。
 サーナ司令に代わっても同様の立場だったようだ」

 メイソンは最初から浮足うきあし立つ様な存在だったとここで聞いた。
いつもイザベルとだけチームを組んで、他の分隊とほとんど動かなく
特別扱いを受けていたという。
話によれば、ササキ家は武器製造に携わっていたイワテ大手の者らしく
CN養成所に通っていなかった人もいて周囲から浮いていたようだ。
話だと別枠からの参加で飛び入りした経歴があったとの事。
確かに妹さんはEEEEの使用者と飛び出た特技があったけど、
お兄さんの方は特にこれといった持ち前は聞かない。
あの厳格なアドルフ司令直下の割には珍しい事もあると思うけど、
父もロストしてから段々と影響力も無くなっていったらしい。
サラ司令もおそらく立場がなさそうな2人を見込んで黒神山地の
ラボリを一緒に同行させていたのかもしれない。
もっと早く知っていれば武器OTAどうし親密になれたかもしれないけど、
妹さんは黒髪ロングで可愛く、こんな我が近寄れそうにもなかっただろう。
イワテ兵もずいぶんと冷たいと思うも、父親も相当怖い人だったようで
空中分解された後に救いの手がなかった様子だった。
あんな仕打ちを受けたものだから我もかける言葉が見つからない。
今回の目的は同じく黒兵の工房を見つける事。
だが、他にもやらなければならない任務がある。
関西の資源ルートがどうなっているのか、
クリーズ司令から調査するよう指示されていた。


 そして、回想から戻ってヒロシマの現場。
まずは遠距離射撃で前線の牽制を抑えてから上陸する手段をとる。
どんな事情があっても我らアオモリの持ち前はR-BOXのみ。
甲板で部隊が10人横一列に並び、目標を探す。
以前よりもさらに上がった性能で設備を破壊しようとしたものの。

「ロックオン感知・・・・・・ん?」

手元の赤外線センサーで敵影を確認しても反応がない。
遠距離役で分隊支援火器を発射してやろうと試みるが、
堂々と人兵が待ち構えているわけがなかった。
あるのは向かいの沿岸に灰色の甲鉄ばかりで塞がれた
20mの壁、冷たい防壁のバリケードだ。
隣のモブ兵が熱遮断性の資源を用いていると推測。

「熱探知しにくい構造さ。こりゃ、他のルート探るの必須かさ」
「・・・・・・」

せっかく性能を上げても使えなければ箱となってしまう。
相手がいないのか、いや、いるはずだとイワテ兵が急き立てるのを抑え、
トモキが肉眼で目を凝らして見なおした時だ。


パカッ ズドンズドン    バキャッ

「スジャアァァガ!?」

モブ兵のR-BOXに砲撃を受けて破壊される。
我の太い体も驚きのあまり転倒してしまった。

「開いたさ!?」

沿岸部の壁に付いた楕円形だえんけいのカバーが開き、砲撃してきた。
貫通系らしき弾丸が人と空気を斬ってゆく。
そこはただの壁でなく、隠し砲台が設置された壁だったのだ。

「たが硬そうな壁ださ! 弾じゃ、わんつか効きやしね!」
「標準語で言え!」
「防御式トーチカの類さね、爆発系の攻撃も防げる構造さ」

トモキの解読で、ヒロシマの防護柵の仕様が見て取れた。
開いては閉じて、開いては砲弾を射出するそれはまさに
“貝”の様な仕様の兵器だ。

対するヒロシマサイドは東北軍の兵装をしっかりと捕捉して
陣形を変え始めてゆく。相手に特殊な攻め手など感じられずに、
こちらの対処法でこなせられると実行した。

「第1~10部隊、シェルの援護を継続!
 第11~18部隊、周辺の偵察で裏取りを阻止!」
「オイスタークラブ出動!」
「海中から艦を沈めに行くわ!
 この海域に来た時点で、お前らの負けじゃけえ!」

対する中つ国陣営は甲殻類の如く守りに徹底。
アイ監修の元にヒロシマ兵の独特な手打ちにうろたえる東北兵。
どこを見ても、攻め入る場所が見当たらない。
下を向いたメイソンは思いがけない行動に出てしまう。

「前が無理なら、下からだ!」

ドボン

「メ、メイソン君!?」

彼は海へ飛び込んでしまった。
同じく数人のイワテ兵も続いて飛び込んでいく。
無理矢理上陸しようというのか、白兵戦を試みようと
船から次々と飛び降りて泳いで渡ろうとした。

「かちゃくちゃ・・・むちゃくちゃさ!」

始めから彼らはこうするつもりだったようで、
アオモリ兵達は彼らを止めたくも、引き留める余裕もない。
予想もしなかった散開陣形に、本部への通達をするのを忘れてしまう。

危険をかえりみずに視点はイワテ兵に代わり、
ヒロシマの視線からできるだけ避けられるよう岩場に紛れて推進。
波は沖に流される程大きくない。
青い視界ばかりの中、小型ボンベを口に海水をかき分けて
なんとか岸へと向かおうとするメイソン達。

「「東北の冷たい水に比べれば、こんなの快適だ」」
「「地獄の海中訓練をこなしてきた俺達を舐めんなよ!」」

極寒の訓練を活かしてこの場をしのごうと躍起やっきになるイワテ兵。
が、その目論見もくろみは甘くなかった。
等しい水位の向こう側からも何かがやって来たからだ。

「「敵影確認、討ォ伐ッする」」
「「岸の守護者、オイスタークラブ参上ォォ!」」

灰色のウェットスーツをまとった兵達が待ち伏せしていたようで、
水中からの侵入を予測されていたようだ。
ある程度、ここにもいると予想はしている。
イワテの水域ですら四陸海岸の侵入はよくあった事だから。

「「妹の仇は取らせてもらう!」」
「「けえええええええ!!」」

どちらも兵というコマにすぎないが、事情が違おうと
同じ条件にいる立場で海中戦を試みようとする。
東北軍の3分の2は海の中、艦上に残された者達は少しばかり
安全圏ながらも、そこからすぐに対策を投じなければならない。

バシュッ  バシュッ

海中の矢、モリを撃ち放ってきた。
当然、水中で瞬時に動けられないので避けられない。
こちらは単発式ディサルトで応戦、弾のスピードでは有利に思えるが
約350人が少しずつ削られて途中で動かなくなる者もいる。

「「もっと散開しろ、わずかな隙を狙え!」」

ソリッドワイヤーはここでも使用できてせいぜい慣性力で移動するのみだ。
しかし、僕は素直に指示を聞いても動かない。
側にいたイワテモブ兵Jに左腕を引っ張られた。

グイッ

「「こっちだ!」」
「「あんたは?」」

普段から話さない男に導かれてどこかに隠れようと言う。
どうして僕なのかまでは分からないけど、自信気のなさそうな部分を
見つけられたのか、そこもつかまれていった。

ドボン

しかし、正面上から突然人が飛びこむ。敵兵が奇襲を仕掛けてきたものの。

ドボン

「「ごっぼぉぉ!?」」
「「何!?」」

さらに塊が飛びこんできてヒロシマ兵の頭に直撃。
幸運とばかり間合いを離せる時間ができた。
この辺りは礒が多く、少しでも死角を見つけようと連れてきたようで、
僕はJに顔を向けられて忠告を受ける。

「「メイソン、イザベルの事はよく分かる。
  だがな、先走るだけでは跳ね返りで同じ目に遭う。
  気持ちは俺達だって同じなんだぞ」」
「「同じって、他人と一緒にしないでくれ・・・身近の僕にとって――」」
「「同じだ、境遇や立場が違えど皆いつでもそういった出来事になりえる。
  CNは人が集って目標をこなす組織。
  今回も失った親や兄弟がすでに出始めているんだぞ」」
「「それは、そうかもしれないけど、なんでここで?」」
「「出撃前からずっと様子を観ていてちょっとな。
  あの4E工房の子どもがいると聞いてどんな奴か気になったんだ。
  ここで言うのもなんだが、あまり経験を積んでいないだろう?
  あのササキ工作班とまったく見たくれが違うもんだな。
  分隊も優遇されてお前達はアドルフ司令に持ち上げられて、
  家系乗っかりで身の程や目標がなかったんじゃないのか?」」
「「うっ!?」」
「「それはそうと、アキタ兵の事件で東北も軟化し始めて変わったが
  組織ってのは広がるのを恐れて逆に固めたいって思うようになるな。
  ワンマン体制が消えてからようやく言えるようになったが、
  イワテもイワテで身内をめすぎた節があったと思うわ。
  そして、お前も被害を受けた1人で側杖そばづえ食いすぎて
  続いて自ら甲殻こうかくを身内でつくっちまったのさ」」
「「・・・・・・」」

彼の言い分は場違いながらも的確といえるそれで、僕の内を突く。
反論が口から出ない、酸素ボンベの息だけが速くて消費量が多いと
指摘もされて図星のそれとばかり精神的な痛みを突かれた。

「「フウッ、フウッ、僕は・・・妹にすがりすぎて外を観なくなったのか。
  可愛いと思うばかり頼りすぎて・・・外側の脅威を、まったく」」
「「そうだ、ここで責めるつもりはないが、濃霧は思うより危険だぞ?
  木の中に居すぎてたまたま外に出た瞬間を狙われただけだ。
  己の意志で登っても昇降台で登るのとは違う。
  もうられるような男になるな・・・」」

情におぼれて命も消える。
この場とは関係ないものの、とにかく怒りの念を静めてもう一度冷静に、
状況を判断できるよう気を直そうとする。

「「上1時の方角、敵がいなさそうだな。合図と共に出るぞ」」

返事ができなくても体だけは言う通りに動く。
まだ気持ちが整理できたわけでもないが、今は敵地だ。
少しだけ周囲がおとなしくなった感じがして移動再開しようとした。

「「1・・・2の・・・3ッ!」」

両脚を蹴って同時に飛び出す、再び広い景色が視界に入った時だった。

ドボン

「「な!?」」










だが、そこにいたのはまたもやヒロシマ兵。
腕から放たれた兵器が射出、Jの体に複数刺さって辺りが鈍色に濁る。
次は銀色の細長い物が目前にまで迫ってくる。
僕は当然身動きすらできずに、成り行きはどうなるのか思う余地も失った。


 数分前、船上で応戦を続けていたアオモリ兵も海中でのうごめきで
何かしら戦闘しているとすぐに気付く。
とはいえ、トモキ分隊は戦艦から攻撃するしかないので、
せめて道を開けるよう防壁のどこかに穴を開けようとしたい。

 (赤外線センサーは通用しない・・・どうしてできればさ?)

トモキの持ち手はR-BOXのみ、他の東北兵はSRや同系の物ばかりで
壁を越える術が中々見つからない。
甲板の影からコッソリうかがって突破口を考えてみるが。

「「う~む・・・」」

ジーッ

目を凝らしても等しい同色の壁ばかり。
ロックオン感知も機能せず、熱源の捉え先がいつまでも表示されずに
お得意の誘導機器が活かせずにもどかしさが増す。

「「う~んむむ・・・」」

隙が見つけられずに攻略法が見出せないのだ。
ろくに傷も付けられない鋼鉄の防壁を抜けるのは困難。
理系が実学に直面して思考詰まりを起こす様なケース。
ただただ撃退されて東北兵士が無駄に消費されていくばかりで、
次第にイライラ感がつのっていく。そして。










「ぶほおお、ノーロックしかなひいいいい!」

バシュバシュッ ドゴオン ドゴオン

放出された20mm弾頭ミサイルは壁に当たり爆発。
一部は海の中にまで飛んでいってエイムがまともに定まっていない。
しかもダメージを与えてなく向かいの灰色は一部黒焦げになるものの、
肝心な壁の向こう側が一向に見えそうになかった。


カシャッ  ガキッ

「敵艦、小型ミサイルも発射!」
「固定砲台じゃなく、人が直持ちしている兵装からの模様!」

ヒロシマ兵も破砕を狙いにきていると気付く。
アイはシェル砲台座席にいた1人から発射できないと言われた。
部隊長が異常が何かと聞く。

「どうした、何故砲撃しない!?」
「「開口部に異常発生、何かが挟まっています!」」
「「シェルに破片が詰まっている、すぐに取り除いて!」」


トモキの自棄糞行為により、ヒロシマの防壁に悪影響を与えた。
隙間が生まれて中身のトーチカが露出したままで、
破壊される機会が生じている。
クリーズも外装の崩壊が生じて攻め入る機会を見逃さずに、
アオモリ兵に戦艦を接近するよう指示。

「約20km/s速度前進、海岸付近100mまで進め!」
「今がチャンスださ、この隙に上陸す――!?」

岸辺にわずかな優勢を見いだした東北軍だったが、
分断された範囲に目を向けていたアオモリ兵達の背後から
異なる巡洋艦が迫っていた。カガワCN達の戦闘艦だ。

「ううっ、南方から敵艦隊!」
「こ、これは予想外ださ!?」

後陣からも敵兵がやって来ていた。
瀬戸内海南部、四国方面の援軍として加勢にきたのだろう、
挟み撃ちを図りに現れた。

「ロロロロックオン、効かなひい!?」
「艦隊、甲板がら撤退!
 はやぐにげでがぐれでいそいでェ!」

さすがにこんな状況で一方だけを相手にできない。
上陸されるのを見越して今まで別の島の裏から隠れていたようだ。
待ち伏せするのは人だけでなく機体も同様。
海上の上での背水の陣を迫られるイワテとアオモリの軍雄に、
逃避の道は水平線が見える場所以外に残されていないようだ。
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