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3章 東西都市国家大戦編
第26話 ディープブルー
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オキナワCN 海上
優雅に波をかきわける光景が観える中、大きな巡洋戦艦が
数機のライオットギアを搭載で2隻進行している。
ホッカイドウ兵達はすでに目的近海までやって来ていた。
彼らにとってヨハン以外は初めての長旅で、真逆とも言える環境に入り
足腰が動かしやすくなった分、スタミナのだるさも感じやすい。
気候もまるで異なるせいか、慣れずに調子がやや崩れがちだ。
ヘルマンが再び軍服を脱ぐ。
「流石にあっちいな、もう脱いでも良いだろ?」
「でも、ホッカイドウ兵にこんな軍服があったんだね?」
「今更かよ!?」
「これは最近新調された物だな、一昔前はもっと厚手の使用だったんだ」
「こ、これよりも厚い兵装だったの?」
「近年繊維技術で工夫を凝らして今回採用したそうだ。
さらに、ヤマガタとミヤギの綿密な繊維を改良して新着したらしい。
既存のよりもさらに薄く、頑丈のな」
「そこのCN、司令官が捕まったとか言ってなかったか?」
「ああ、どういう訳かそれ系の件で営倉行きとなった。
関東との同盟もそんなきっかけで越えられたという」
「向こうとは組むつもりがないとか言っときながら、結局組んだんだな。
おもいっきりやり合えるチャンスも無くなっちまったが」
「推測だが、東北の重鎮が短期で消えたのも拍車をかけていったそうだ。
イワテも内乱が発生して有力候補がロスト。
そこへアオモリの者が平穏に事を済ませたそうだ」
「柳の下のガイレッツかよ」
同盟後の細かな進歩も、兵装に少しずつ良い影響を与えていた。
レイチェル司令の幅広い知識+見繕いアレンジにより、
気候を考えて製造してくれたのだ。
元々、温和な性格なので誰からも敬われる雲の上の人の様に
総司令官を務めるのも当然。オキナワ進出もきっと何かの案をもって
黒兵の出元をつかんでいるのだろう。
関西で最果てとなる南のCNに、関東最北端のCNが相手をする。
位置的理由としては大した意味はない。単なる迂回陣形の都合だと
以前に伝えられた事を実行するだけだ。
当人から無線でアナウンスされる。
「「あと10分で作戦区域に入ります。各自準備を開始して下さい」」
「では、予定通り行動に移れ!
アーヂンチームはベルーガ搭乗で空域展開継続、
ドゥヴァーチームは潜水艇に分かれて水域行動する」
「アーヂン、乗り換え準備」
「了解、ドゥヴァー入水!」
号令された瞬間、ホッカイドウ兵達の目線が海へ移り変わる。
それぞれ別行動により、お互いに無事を願って作戦が開始。
エリザベート率いるアーヂンはこのまま空中戦闘。
ミロン率いるドゥヴァーは海中へ向かおうと、潜水艇の中に入っていく。
ヘルマンは一目見るや、ヨハンに謎のエールを送る。
「司令官らしくなってるかもな」
「その話は終わってからだ」
「そうだな、では行動開始する!」
「了解!」
ブルウウウン
数十機のベルーガが同時に飛び出して拡散。
目標近場のエリアに近づいたエリザベートが発射態勢をとり、
アーヂンチームを島から波状陣形に対抗させた。
「目的地確認、狙撃態勢に移る。
Aクラスは射撃、Bクラスのあなた達は背後でサポートして」
「了解っす、お前ら気を抜くなよ!」
「は、はいぃ!」
ホッカイドウ兵Mは空飛ぶ機体の方へ回される。
オキナワの陸路まで約4km、当然速射砲の類を設置しているはず。
相手も同様、すでにこちらを捉えているはずだが静かなる場。
ホッカイドウより遥かに小さな施設を凝視する彼女は違和感を感じていた。
(迎撃設備が見当たらない)
基地にあるべき、対ビークル用の速射砲や迫撃砲がない。
孤島という状況はたいてい遠距離射撃が望ましく、
接近を許さない飛び道具を用いた設備を敷いているのが通常。
砲身らしき円柱もバレルもなく、本当に長方形の建物と植物くらいで
兵器のそれと思えないのどかな風景のみ。
普通は建造物の壁や屋上に配置されているはずだ。
「だ、誰もいないんでしょうか?
逃げてくれたらうれしいんですが・・・」
ホッカイドウ兵Mも引きつる顔で様子を眺める。
堂々と顔を出して迎えるなどヘッドショットの良い的で、当然待ち伏せて
何かしら攻撃をしてくるに違いない。
待ちきれないとばかりヘルマンが身を乗り出す。
「ちょっと俺が様子を見て――」
「下がりなさい!」
ガシャン バシュッ ズドン
突如として、オキナワ拠点の壁や屋根の形が変形する。
正方形、長方形のパネルの様な形が分散、折りたたんで変形し、
あらゆる地形がホッカイドウ兵の視線を疑わしくさせた。
「いひぃん、壁がギッタンバッコンと!?」
「兵装が無いように見せてるだけ! 甲板へカバー!」
「助かりました!」
身を乗り出そうとしたヘルマンが退いて感謝。
早急に感づいた彼女は言われた事を忠告したのみだ。
かつて、ガブリエルから聞いたように予めて
部下達に見栄えに頼り過ぎない事を伝えていた。
A.D98年 ホッカイドウCN ロビー
「兵装の見えないCNですか?」
「ああ、そこは突然姿を現すんだ。A.D60年の抗争で父から聞いた話、
琉球地方は形状を誤魔化す特殊な規格を施しているという。
物らしい。
全自動システムの様な何かでな」
「なるほど」
父ガブリエルは私に祖父によるオキナワの経験談を語っていた。
A.D50年戦争とよばれる大交戦が過去にも一度起こり、
東北がかつて南に進んだ事で多少の様子をつかめていた。
意味は外見によらない武器、姿形を一瞬で変えて攻撃に移す存在が
至る所に配置されているという。
最も離れた位置であるCNの特徴は異質なもの。
りゅうきゅうという世界について前もって教えていたのだ。
(壁・・・障害物が丸ごと変形する。
パパも誰かから色々聞かされたって言ってた)
先人の伝言がなければヘルマンはとうに討たれていただろう。
その特徴が今になって目の前に表れている。
父の教えから、完璧とはいえなくも攻略方法を練り
少しずつ動いては前進する機会を探る。
ホッカイドウには小型のドローン系はない。
フライングフィッシュもせいぜい脱出用でしか使えずに、
無線機能による目を所持していないこちらは全て人の目で判断。
ここで優位なのは空中移動がある程度利くので移動は必然、
旋回を繰り返しつつ隙のありそうな箇所を見つけた。
操縦している部下に正面に向かわないよう指示。
「11時の方向、建造物横の壁に寄せて!」
「了解しました!」
指示された通りにベルーガを射線の軸に合わせていく。
オキナワCN拠点
「間合いに入ってきた、ドラゴンフライ準備だ!」
「この時を待っていたぞおおおお!」
一方、オキナワ陣営は拠点周囲で待機。
待ってましたと言わんばかり、セリオは担当する無線機能による
シーザーを操作して他メンバー、陸上班と対応していた。
からくり砲台でホッカイドウの白い飛行物体目掛けて砲撃する。
ボシュッ ボシュッ
「発射・・・当たったか!?」
「ハズレ、50mくらいズレてるぞ!」
経験者であるはずの中年兵もあまり手慣れてなく、初実戦に苦戦して
まともに着弾させられていなかった。
それら塊がこちらに向かっているのを確認するホッカイドウ兵。
ブシュッ ドゴォン
数発のロケット弾が飛んできたのを正確に撃ち落とす。
エリザベートは40mm以上のサイズなら定めて当てられる。
オキナワ兵も、静かながらに接近される機会を伺っていたのだ。
「くっ・・・」
エリザベートも搭乗する立場のみで、回避は部下任せのみ。しかし。
ガゴンッ
「あ゛あ゛ああぁぁぁぉぉぉお!」
別働隊の機体が被弾され、ベルーガが1機墜落。
相手の砲台はAFでも破壊できない。
遠方に対して有利なはずの彼女すら攻略の目処が立てず、
未だに苦戦が続いている中、ヘルマンは予備のベルーガに乗り込んで叫ぶ。
「俺に先方をやらせて下さい!」
「「無理に出過ぎるな、下がれ!」」
ホッカイドウの陣列をさらに分離させて他から攻めるという。
彼のベルーガは大きく迂回しながら、オキナワ北部へ飛んで行ってしまった。
数分後 国足エリア 海岸部
ザブン
ベルーガを着陸、本隊から気を逸らせたのか近辺にはオキナワ兵がいない。
ヘルマン率いる分隊は5人。
まともに進軍できる数ではないものの、潜入で多人数に
足を運べる余裕はなかった。
あくまでも、目的はオキナワを倒すのではなく、証拠捜索。
本部の本願に従わない程、馬鹿ではない。
「予定通り、黒兵の証拠物資を探す。
片っ端から家探しすっぞ」
「はい!」
ホッカイドウ兵Sがヘルマンの横をサポート。
黒兵は素早い動きに見合わず装甲を身にまとっているらしく、
大抵工房がある建造物の中に関係する何かがあるはず。
周囲に入口はなく、壁に沿ってどこからか入ろうと試みる。
横1m、縦60cmはある長方形が連続。
作戦会議時に聞いた話の通りに奇抜な展開はここにも現れた。
カシャ カシャ カシャ カシャ
「ここもだァ!」
「回避ッ!」
ブロック状の壁がへっこみ、砲台が突き出てきた。
形状から飛び道具系と判断するが、距離の近さに判断が遅れてしまう。
バシュバシュッ
「ぐふっ!?」
速射砲に似た短い砲身から放たれた弾に1人被弾。
AFでも破壊できそうになく、隠れるしかない。
すぐに近くの壁で壁でカバーしてやり過ごそうとかがんでいると、
両脇の通路からオキナワ兵が4人飛び出してくる。
ヒサシ「敵発見、対処する!」
「野郎ォ!」
2つの警棒を持っていて、接近戦にもちかける気だ。
人兵と奇妙兵器に囲まれる間で戦闘開始。
叩き込まれる前に吹き飛ばそうと拳をストレートに放つ。
同時にオキナワ兵は飛び上がって宙返り、真上から叩き付ける。
ゴスッ ブンッ
腕で棒をガード、身体をノックバックさせる。
ヘルマンはサポートを巻いて衝撃を防いでいた。
着地と同時に連打、棒と腕の打撃を繰り返す。
ガガガシッ ゴゴゴゴキン
「オキナワの御仁、その程度かよ?」
腕以外の箇所への打点を許さずに平然と主張。
銃器を使ってこないのは意外だが、地元で鍛えただけあって
チャンバラごっこしたいのならお手の物だ。
南国スタイルの型図に易々とひるまないホッカイドウ兵。
ダメージを見込めないのか、オキナワ兵は一度手を止めた。
「「なるほど、この場合は・・・撤退ッ!」」
スッ
近接戦闘を止めて上部に登って去っていった。
怖気づいたのか、潜入するチャンスができたようだ。
「前進すんぞォ!」
「うおっす!」
ホッカイドウ兵Sはできるだけ人のいなさそうな足場を探し、
防壁らしい場所へ這い上がり、着地。
敵兵はおらず、赤外線センサーも人影がない。
視界的にはただの建築物で兵装している形には見えなかった。
ヨハンの言う通り、ここは区画線工が奇妙に整理された仕様に
納得させられる。壁というマス目が視界的に小刻みに動くので、
どこが壁でどこが通路なのか判断を鈍らせるからだ。
「シーサー、起動!」
グイイイイン ガシャン
「壁が!?」
なんと、石垣がまるごと動いて円状にベルトコンベアで包囲。
ホッカイドウ兵達は囲われて閉じ込められてしまった。
オキナワ仕掛けの術中にはまってしまう。
ガスッ ゴスッ ドゴン
「硬え!」
「銃器でも無理です、壊せません」
殴りつけてもまったく壊せそうにない。
これはただの石垣ではなく、金属性も混じっている壁のようだ。
半径5m程の狭さでコックルバーは使えない。
(俺は・・・罠に)
飛んで火にいる夏の何物とはこの事。
オキナワ兵が撤退したのは誘き寄せるため。
傲岸なヘルマンも顔が青ざめてゆく。
前のめりな行動癖が空となり、抑えられる間も生んでしまった。
ここでロストされるかと覚悟し始めた時。
「何だ!?」
内部が眩い光が放射。
突如として青白い空間が身体を包み込んでいった。
オキナワCN 海底基地付近
同時刻、他のホッカイドウ兵は海中からの侵攻も行っていた。
作戦によると、周囲の海域内にも設備があるとの報告で
連携するエリアを抑えて孤立無援状態にもちこむ方法を選ぶ。
オキナワ陣営ももちろん海中対策をしているはずだと思う中、
ミロン達は潜水艇15機を従えてゆっくりと進んでいく。
パッシブソナーで周辺を探索する。
ピィン
「ソナーに反応確認、機雷が漂っています」
「し、沈めます」
ドォン ゴボゴボ
何故か近くのポジションに配置されていたあの兵士Mが
魚雷発射管から飛び出したミサイルが機雷を破壊する。
案の定、至る所に撃墜の罠が仕掛けられていた。
200m以下まで潜り続けてここまで来ても、
敵の侵入経路を塞ごうとしているオキナワの徹底した防衛策に
振り回されがちだ。
推進を止めて水深の施しに悩ませる。
「1機だけじゃなく、ウヨウヨありますよ」
「伊達に海を得意領域として有名なCNじゃないね。
ヘルマン達は大丈夫かな・・・」
今までは皆に助けられっぱなしだったミロンもこんなケースは初めてで、
雪国から離れた別世界の様に対抗手段を見失う。
今回ばかりはBクラスの部下達をリードしていかなければならないのだが。
「・・・・・・」
ミロンは迷っていた。それ程水中戦に慣れているわけでもない。
事前の訓練ではしっかりやれていたものの、いざ実際の海において
目の当たりにすると、気後れしやすくなる。
「Aクラス兵、指示を!」
当然、部下からどうすべきか聞かれる。
外見が子どもでも、最高クラスの指揮をとらなければ示しがない。
このまま先に進もうと、ミロンは声を上げた。
「各艦へ、このまま敵地にしんにゅ――」
「させないわ!」
バシュバシュッバシュバシュッ
魚雷が数発が向かっていく。
オキナワCNの潜水艇が待ち伏せしていたのだ。
「ひぃん! 魚雷探知、計4発!」
「アクティブソナーに切り換えて!
回避後、すぐに発射!」
軌道を把握して全て回避。
レーダー探知機でいくつか反応が見られる中、
オキナワの物らしき武装兵器が400m先に見かけた。
「周辺の部位破壊を優先して攻略する!
魚雷発射!」
海底基地のパーツから破壊してオキナワCNのセンサー関連を
無効化させる手にでようと、ホッカイドウ兵も魚雷を撃ち返した。
数発向かっていく。
バシュバシュッ
「当たってない、ダメージありません!」
「な・・・」
が、当たらなかった。
オキナワ兵が配置した兵器はEMP装置で、モーターを内蔵する
魚雷の推進部を停止させる使用だったのだ。
(訓練ではキチンとやれていたのに・・・)
近づきし者と遠ざける者達の戦況はしばらく終わることなく、
決着が接しない境界線ばかり続いていた。
もうここまでか、戦場の厳しさをこんな深い世界で同じように
無念さも沈みかける。進めばロスト、退けば立場も失うという
お互いの均衡が保たれている時、奇怪な現象が現れた。
「なにぃコレ!? あの世!?」
「異常発生!?」
目前が白く染められてゆく。
潜水艇の計器も水圧計が0MPaに、ハンドルも一切効かなく
ドゥヴァーチームも同様、彼らも飲み込まれていった。
優雅に波をかきわける光景が観える中、大きな巡洋戦艦が
数機のライオットギアを搭載で2隻進行している。
ホッカイドウ兵達はすでに目的近海までやって来ていた。
彼らにとってヨハン以外は初めての長旅で、真逆とも言える環境に入り
足腰が動かしやすくなった分、スタミナのだるさも感じやすい。
気候もまるで異なるせいか、慣れずに調子がやや崩れがちだ。
ヘルマンが再び軍服を脱ぐ。
「流石にあっちいな、もう脱いでも良いだろ?」
「でも、ホッカイドウ兵にこんな軍服があったんだね?」
「今更かよ!?」
「これは最近新調された物だな、一昔前はもっと厚手の使用だったんだ」
「こ、これよりも厚い兵装だったの?」
「近年繊維技術で工夫を凝らして今回採用したそうだ。
さらに、ヤマガタとミヤギの綿密な繊維を改良して新着したらしい。
既存のよりもさらに薄く、頑丈のな」
「そこのCN、司令官が捕まったとか言ってなかったか?」
「ああ、どういう訳かそれ系の件で営倉行きとなった。
関東との同盟もそんなきっかけで越えられたという」
「向こうとは組むつもりがないとか言っときながら、結局組んだんだな。
おもいっきりやり合えるチャンスも無くなっちまったが」
「推測だが、東北の重鎮が短期で消えたのも拍車をかけていったそうだ。
イワテも内乱が発生して有力候補がロスト。
そこへアオモリの者が平穏に事を済ませたそうだ」
「柳の下のガイレッツかよ」
同盟後の細かな進歩も、兵装に少しずつ良い影響を与えていた。
レイチェル司令の幅広い知識+見繕いアレンジにより、
気候を考えて製造してくれたのだ。
元々、温和な性格なので誰からも敬われる雲の上の人の様に
総司令官を務めるのも当然。オキナワ進出もきっと何かの案をもって
黒兵の出元をつかんでいるのだろう。
関西で最果てとなる南のCNに、関東最北端のCNが相手をする。
位置的理由としては大した意味はない。単なる迂回陣形の都合だと
以前に伝えられた事を実行するだけだ。
当人から無線でアナウンスされる。
「「あと10分で作戦区域に入ります。各自準備を開始して下さい」」
「では、予定通り行動に移れ!
アーヂンチームはベルーガ搭乗で空域展開継続、
ドゥヴァーチームは潜水艇に分かれて水域行動する」
「アーヂン、乗り換え準備」
「了解、ドゥヴァー入水!」
号令された瞬間、ホッカイドウ兵達の目線が海へ移り変わる。
それぞれ別行動により、お互いに無事を願って作戦が開始。
エリザベート率いるアーヂンはこのまま空中戦闘。
ミロン率いるドゥヴァーは海中へ向かおうと、潜水艇の中に入っていく。
ヘルマンは一目見るや、ヨハンに謎のエールを送る。
「司令官らしくなってるかもな」
「その話は終わってからだ」
「そうだな、では行動開始する!」
「了解!」
ブルウウウン
数十機のベルーガが同時に飛び出して拡散。
目標近場のエリアに近づいたエリザベートが発射態勢をとり、
アーヂンチームを島から波状陣形に対抗させた。
「目的地確認、狙撃態勢に移る。
Aクラスは射撃、Bクラスのあなた達は背後でサポートして」
「了解っす、お前ら気を抜くなよ!」
「は、はいぃ!」
ホッカイドウ兵Mは空飛ぶ機体の方へ回される。
オキナワの陸路まで約4km、当然速射砲の類を設置しているはず。
相手も同様、すでにこちらを捉えているはずだが静かなる場。
ホッカイドウより遥かに小さな施設を凝視する彼女は違和感を感じていた。
(迎撃設備が見当たらない)
基地にあるべき、対ビークル用の速射砲や迫撃砲がない。
孤島という状況はたいてい遠距離射撃が望ましく、
接近を許さない飛び道具を用いた設備を敷いているのが通常。
砲身らしき円柱もバレルもなく、本当に長方形の建物と植物くらいで
兵器のそれと思えないのどかな風景のみ。
普通は建造物の壁や屋上に配置されているはずだ。
「だ、誰もいないんでしょうか?
逃げてくれたらうれしいんですが・・・」
ホッカイドウ兵Mも引きつる顔で様子を眺める。
堂々と顔を出して迎えるなどヘッドショットの良い的で、当然待ち伏せて
何かしら攻撃をしてくるに違いない。
待ちきれないとばかりヘルマンが身を乗り出す。
「ちょっと俺が様子を見て――」
「下がりなさい!」
ガシャン バシュッ ズドン
突如として、オキナワ拠点の壁や屋根の形が変形する。
正方形、長方形のパネルの様な形が分散、折りたたんで変形し、
あらゆる地形がホッカイドウ兵の視線を疑わしくさせた。
「いひぃん、壁がギッタンバッコンと!?」
「兵装が無いように見せてるだけ! 甲板へカバー!」
「助かりました!」
身を乗り出そうとしたヘルマンが退いて感謝。
早急に感づいた彼女は言われた事を忠告したのみだ。
かつて、ガブリエルから聞いたように予めて
部下達に見栄えに頼り過ぎない事を伝えていた。
A.D98年 ホッカイドウCN ロビー
「兵装の見えないCNですか?」
「ああ、そこは突然姿を現すんだ。A.D60年の抗争で父から聞いた話、
琉球地方は形状を誤魔化す特殊な規格を施しているという。
物らしい。
全自動システムの様な何かでな」
「なるほど」
父ガブリエルは私に祖父によるオキナワの経験談を語っていた。
A.D50年戦争とよばれる大交戦が過去にも一度起こり、
東北がかつて南に進んだ事で多少の様子をつかめていた。
意味は外見によらない武器、姿形を一瞬で変えて攻撃に移す存在が
至る所に配置されているという。
最も離れた位置であるCNの特徴は異質なもの。
りゅうきゅうという世界について前もって教えていたのだ。
(壁・・・障害物が丸ごと変形する。
パパも誰かから色々聞かされたって言ってた)
先人の伝言がなければヘルマンはとうに討たれていただろう。
その特徴が今になって目の前に表れている。
父の教えから、完璧とはいえなくも攻略方法を練り
少しずつ動いては前進する機会を探る。
ホッカイドウには小型のドローン系はない。
フライングフィッシュもせいぜい脱出用でしか使えずに、
無線機能による目を所持していないこちらは全て人の目で判断。
ここで優位なのは空中移動がある程度利くので移動は必然、
旋回を繰り返しつつ隙のありそうな箇所を見つけた。
操縦している部下に正面に向かわないよう指示。
「11時の方向、建造物横の壁に寄せて!」
「了解しました!」
指示された通りにベルーガを射線の軸に合わせていく。
オキナワCN拠点
「間合いに入ってきた、ドラゴンフライ準備だ!」
「この時を待っていたぞおおおお!」
一方、オキナワ陣営は拠点周囲で待機。
待ってましたと言わんばかり、セリオは担当する無線機能による
シーザーを操作して他メンバー、陸上班と対応していた。
からくり砲台でホッカイドウの白い飛行物体目掛けて砲撃する。
ボシュッ ボシュッ
「発射・・・当たったか!?」
「ハズレ、50mくらいズレてるぞ!」
経験者であるはずの中年兵もあまり手慣れてなく、初実戦に苦戦して
まともに着弾させられていなかった。
それら塊がこちらに向かっているのを確認するホッカイドウ兵。
ブシュッ ドゴォン
数発のロケット弾が飛んできたのを正確に撃ち落とす。
エリザベートは40mm以上のサイズなら定めて当てられる。
オキナワ兵も、静かながらに接近される機会を伺っていたのだ。
「くっ・・・」
エリザベートも搭乗する立場のみで、回避は部下任せのみ。しかし。
ガゴンッ
「あ゛あ゛ああぁぁぁぉぉぉお!」
別働隊の機体が被弾され、ベルーガが1機墜落。
相手の砲台はAFでも破壊できない。
遠方に対して有利なはずの彼女すら攻略の目処が立てず、
未だに苦戦が続いている中、ヘルマンは予備のベルーガに乗り込んで叫ぶ。
「俺に先方をやらせて下さい!」
「「無理に出過ぎるな、下がれ!」」
ホッカイドウの陣列をさらに分離させて他から攻めるという。
彼のベルーガは大きく迂回しながら、オキナワ北部へ飛んで行ってしまった。
数分後 国足エリア 海岸部
ザブン
ベルーガを着陸、本隊から気を逸らせたのか近辺にはオキナワ兵がいない。
ヘルマン率いる分隊は5人。
まともに進軍できる数ではないものの、潜入で多人数に
足を運べる余裕はなかった。
あくまでも、目的はオキナワを倒すのではなく、証拠捜索。
本部の本願に従わない程、馬鹿ではない。
「予定通り、黒兵の証拠物資を探す。
片っ端から家探しすっぞ」
「はい!」
ホッカイドウ兵Sがヘルマンの横をサポート。
黒兵は素早い動きに見合わず装甲を身にまとっているらしく、
大抵工房がある建造物の中に関係する何かがあるはず。
周囲に入口はなく、壁に沿ってどこからか入ろうと試みる。
横1m、縦60cmはある長方形が連続。
作戦会議時に聞いた話の通りに奇抜な展開はここにも現れた。
カシャ カシャ カシャ カシャ
「ここもだァ!」
「回避ッ!」
ブロック状の壁がへっこみ、砲台が突き出てきた。
形状から飛び道具系と判断するが、距離の近さに判断が遅れてしまう。
バシュバシュッ
「ぐふっ!?」
速射砲に似た短い砲身から放たれた弾に1人被弾。
AFでも破壊できそうになく、隠れるしかない。
すぐに近くの壁で壁でカバーしてやり過ごそうとかがんでいると、
両脇の通路からオキナワ兵が4人飛び出してくる。
ヒサシ「敵発見、対処する!」
「野郎ォ!」
2つの警棒を持っていて、接近戦にもちかける気だ。
人兵と奇妙兵器に囲まれる間で戦闘開始。
叩き込まれる前に吹き飛ばそうと拳をストレートに放つ。
同時にオキナワ兵は飛び上がって宙返り、真上から叩き付ける。
ゴスッ ブンッ
腕で棒をガード、身体をノックバックさせる。
ヘルマンはサポートを巻いて衝撃を防いでいた。
着地と同時に連打、棒と腕の打撃を繰り返す。
ガガガシッ ゴゴゴゴキン
「オキナワの御仁、その程度かよ?」
腕以外の箇所への打点を許さずに平然と主張。
銃器を使ってこないのは意外だが、地元で鍛えただけあって
チャンバラごっこしたいのならお手の物だ。
南国スタイルの型図に易々とひるまないホッカイドウ兵。
ダメージを見込めないのか、オキナワ兵は一度手を止めた。
「「なるほど、この場合は・・・撤退ッ!」」
スッ
近接戦闘を止めて上部に登って去っていった。
怖気づいたのか、潜入するチャンスができたようだ。
「前進すんぞォ!」
「うおっす!」
ホッカイドウ兵Sはできるだけ人のいなさそうな足場を探し、
防壁らしい場所へ這い上がり、着地。
敵兵はおらず、赤外線センサーも人影がない。
視界的にはただの建築物で兵装している形には見えなかった。
ヨハンの言う通り、ここは区画線工が奇妙に整理された仕様に
納得させられる。壁というマス目が視界的に小刻みに動くので、
どこが壁でどこが通路なのか判断を鈍らせるからだ。
「シーサー、起動!」
グイイイイン ガシャン
「壁が!?」
なんと、石垣がまるごと動いて円状にベルトコンベアで包囲。
ホッカイドウ兵達は囲われて閉じ込められてしまった。
オキナワ仕掛けの術中にはまってしまう。
ガスッ ゴスッ ドゴン
「硬え!」
「銃器でも無理です、壊せません」
殴りつけてもまったく壊せそうにない。
これはただの石垣ではなく、金属性も混じっている壁のようだ。
半径5m程の狭さでコックルバーは使えない。
(俺は・・・罠に)
飛んで火にいる夏の何物とはこの事。
オキナワ兵が撤退したのは誘き寄せるため。
傲岸なヘルマンも顔が青ざめてゆく。
前のめりな行動癖が空となり、抑えられる間も生んでしまった。
ここでロストされるかと覚悟し始めた時。
「何だ!?」
内部が眩い光が放射。
突如として青白い空間が身体を包み込んでいった。
オキナワCN 海底基地付近
同時刻、他のホッカイドウ兵は海中からの侵攻も行っていた。
作戦によると、周囲の海域内にも設備があるとの報告で
連携するエリアを抑えて孤立無援状態にもちこむ方法を選ぶ。
オキナワ陣営ももちろん海中対策をしているはずだと思う中、
ミロン達は潜水艇15機を従えてゆっくりと進んでいく。
パッシブソナーで周辺を探索する。
ピィン
「ソナーに反応確認、機雷が漂っています」
「し、沈めます」
ドォン ゴボゴボ
何故か近くのポジションに配置されていたあの兵士Mが
魚雷発射管から飛び出したミサイルが機雷を破壊する。
案の定、至る所に撃墜の罠が仕掛けられていた。
200m以下まで潜り続けてここまで来ても、
敵の侵入経路を塞ごうとしているオキナワの徹底した防衛策に
振り回されがちだ。
推進を止めて水深の施しに悩ませる。
「1機だけじゃなく、ウヨウヨありますよ」
「伊達に海を得意領域として有名なCNじゃないね。
ヘルマン達は大丈夫かな・・・」
今までは皆に助けられっぱなしだったミロンもこんなケースは初めてで、
雪国から離れた別世界の様に対抗手段を見失う。
今回ばかりはBクラスの部下達をリードしていかなければならないのだが。
「・・・・・・」
ミロンは迷っていた。それ程水中戦に慣れているわけでもない。
事前の訓練ではしっかりやれていたものの、いざ実際の海において
目の当たりにすると、気後れしやすくなる。
「Aクラス兵、指示を!」
当然、部下からどうすべきか聞かれる。
外見が子どもでも、最高クラスの指揮をとらなければ示しがない。
このまま先に進もうと、ミロンは声を上げた。
「各艦へ、このまま敵地にしんにゅ――」
「させないわ!」
バシュバシュッバシュバシュッ
魚雷が数発が向かっていく。
オキナワCNの潜水艇が待ち伏せしていたのだ。
「ひぃん! 魚雷探知、計4発!」
「アクティブソナーに切り換えて!
回避後、すぐに発射!」
軌道を把握して全て回避。
レーダー探知機でいくつか反応が見られる中、
オキナワの物らしき武装兵器が400m先に見かけた。
「周辺の部位破壊を優先して攻略する!
魚雷発射!」
海底基地のパーツから破壊してオキナワCNのセンサー関連を
無効化させる手にでようと、ホッカイドウ兵も魚雷を撃ち返した。
数発向かっていく。
バシュバシュッ
「当たってない、ダメージありません!」
「な・・・」
が、当たらなかった。
オキナワ兵が配置した兵器はEMP装置で、モーターを内蔵する
魚雷の推進部を停止させる使用だったのだ。
(訓練ではキチンとやれていたのに・・・)
近づきし者と遠ざける者達の戦況はしばらく終わることなく、
決着が接しない境界線ばかり続いていた。
もうここまでか、戦場の厳しさをこんな深い世界で同じように
無念さも沈みかける。進めばロスト、退けば立場も失うという
お互いの均衡が保たれている時、奇怪な現象が現れた。
「なにぃコレ!? あの世!?」
「異常発生!?」
目前が白く染められてゆく。
潜水艇の計器も水圧計が0MPaに、ハンドルも一切効かなく
ドゥヴァーチームも同様、彼らも飲み込まれていった。
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