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3章 東西都市国家大戦編
第25話 トレイシス・オブ・ウォーター
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カガワCN 拠点入口
「「えっ、タカさん達、まだ決まってなかったの!?」」
「ああ、CN外周の防衛とだけ言われてそこから打ち止めだ」
タカの様子を聞いたスイレンは驚く。
今回より始まった大きな交戦でラボリ行動がそれぞれ分かれて、
何をしているのかお互いの近況を話していた。
ミエCNに着いて作戦行動開始前に四国の様子を伺ってみたが、
タカ分隊の配置指示が未だにきていなかったという。
「四国の海域付近に敵影反応が出て第30~50部隊がもう出て行った。
でも、俺達に本部から通知が来ない。
ヒロさんが聞きに行っても指令室への立ち入りが制限されていたんだ。
おそらく、外されたかもしれないな」
「「制限って、四国の司令達はどうしたの?」」
「重要機密立案のため、立ち入り禁止だと。
また極秘に何かやろうとしているんだろう。
あのトミ隊長を単独で任務に行かせた件もあるしな」
「「また・・・何かを」」
とはいえ、名目はCN規定防衛ラインを保てとだけ指示がくる。
上は意味もなく中年兵ほったらかしに決めているわけでない。
今回ばかりはA.D50年に匹敵する大交戦だから、
長年務めてきた2人にとって、四国の上層部の意向などすぐに読めていた。
そんな上でも、それなりの対策をしようと少なからず頑張っているのは
分かっていたので、あまり追求をする気が起きなかった。
「まあいいさ、外地だって30~40代もまだ数が多いし
元締めのオオサカもんがなんとかしてくれる。
引退寸前組が少しくらいいなくても対応できるだろうな。
ところで、そっちの調子はどうだ?」
「「今のところ大丈夫、久しぶりのライオットギアだから、
ちょっとばかり操作に戸惑っちゃって」」
「四国の人型も現地入りか。近江と組むなんて予想もしてなかったが。
うちは水路とか水辺のある場所でしか有効に動けないが、大丈夫か?」
「「うん、だから私は川沿いルート対応係。近江の人達のサポート役だって。
第80~90部隊の子達と一緒に」」
「ん、後番の連中ってことは10~20代部隊だな。
こっちはおっさんばかり残ってるな・・・?」
タカは遠征に向かう四国兵のある詳細にふと気付く。
話の内容から察すると若い兵士ばかりなのがすぐに分かり、
高齢者がほとんどいない事が分かった。
よく活躍している自分達ですら呼ばれていないのだ。
「て事は、そっちに中年兵がいないのか?」
「「うん、男女均等といったらそうだけど、若い子多いって今気づいた。
今回の作戦で四国の若い子も機体の搭乗で何人か行かせてるみたい」」
「なんだって!?」
四国CNは少ない若年層を前線に出す方針を立てていたのだ。
彼女は出国後に部隊編成を知らされて時間差で出かけたために、
タカ分隊と違った年齢層だと分かったらしい。
普通ならば先のない者を行かせるべきなものを逆の方針で
今回の作戦が判明。この件も本部は詳しく語っていなかったが、
近江兵と合流させて動こうとするやり方に憤慨する。
ミエCN拠点 同盟CN専用宿泊施設
ここでスイレンの場に代わる。
割り当てられた部屋のベッドの上で1人、会話の最中。
無線からタカの声が5m離れていても聴こえそうなくらい、
怒鳴り声が発せられていた。
「「若い奴だけを前衛に送り込む気か。
そいつらまでやられたら、四国は誰が守るんだ!?」」
プツッ
「だからタカさん達が・・・って、タカさん? おーい!」
隊長は無線を切ってしまう。
水の女神の話すら投げるくらい気が触れる内容だったのか、
何をしに行ったのかしばらく彼が連絡にでる事がなく、
切れたツーカー音だけが流れ続けていた。
翌日 ミエCN 律エリア
次の日、ベースキャンプで滞在していた四国兵とミエ兵の若年が
全隊員集って装備品もきちんと置いて出陣に備えている。
ここは近江に位置する場所だけど、ある理由があって私達は集められた。
ミエCNは電磁技術に長けている地域で四国と似た環境や条件で
水域活動も盛んに行っているとの事。
特殊工作なんてどこの国であっても必ず仕掛けを造ってるもの。
このチームは侵攻から守る役割で、それぞれ決められたルートで展開。
東からの攻撃をここで止めるようラボリを始めようとした。
ミエ兵が点呼、兵装共に異常無しと確認。
「四国の兵隊さん、準備はいい?」
「こちら四国CN、準備OKです!」
お互いを確認し合う2つのCN。
四国兵を先導するのはもちろん若き最年長の私。
ただ、1つ気付いた事は周りがずいぶんと若い男の子ばかりで、
どういう采配か守られ過ぎと言わんばかりの配置だ。
タカさんの言いたかった内容が多分、これに当たるものだったのか。
それはそうと60年生きてきた経験には違いなく、
目に見えない図太い神経もワンセットで導いてあげるつもり。
今更ながらの事だけど、ラボリ中はポニーテールにして髪を結っている。
ミエ兵隊長が外周の守るべき位置を示して段取りを公開。
「この屈川川を防衛ラインとして交戦する!
ここから先には行かせるな!」
「了解!」
こうして両兵がそれぞれ作戦地域に向かい始める。
私も機体に乗り込み、川の浅瀬伝いに歩いていく。
ここら辺もさほど深い場所はない。
私達の住む大陸はこんなに押し込まれた様な急な形だと思いながら、
ミエ兵は四国のライオットギアを見て関心していた。
「これが水と共に活きる機体か・・・」
「スゴイでしょ、燃料はほぼ無限なの♪
弾薬も代わりに水を放射してやっつける特産物よ!
まあ、水辺限定だけど」
「脚部の底から水を吸い上げる仕組みなら吸収口も壊されにくいし、
リロードも戦闘中ほとんど隙無く撃てる仕組みか。
兵装と起動の効率が一気に加速するな」
ここでも言い分通りに水という性能を観られている。
別に私が造ったわけではないけど、確かに故郷で造られている産物は
無色透明で形もない物に大きなこだわりがある。
あのミゾレさんのジェネレータといい、四国に秘められた謎技術に
変化した私の体を通して誇らしげに思いたくなる。
隣の男の子が補足。
「ただ、海水はそうもいかないんだ。
たまにポンプ内部に残留物の塩分とか溜まっちゃって、
射出口が詰まる事があるしな」
四国の水による加護装甲の外観に目を見張るミエ兵達に、
当事者みたいなあんまりない小さい胸を張って示す。
返って、スイレンはミエが所有するビークルについて話した。
「でも、ここも変わった乗り物があるじゃない?
あの黒大豆みたいな機体とか」
「まあ、ミズスマシも川に特化したビークルだね。
電磁推進で動くからスピードなら、近江ピカイチだし。
波が高すぎると、ひっくり返されるから淡水用だ」
「だから、スクリューが付いていないんだな。
俺ら頭悪いからよく分かんないけど」
「これまたスゴイな」
お互いの技術力を見合って精査。
今更ながら、各地方の特徴を目の当たりにして一考する。
資源次第で人の立場が決まるといっても良いだろう、
カナが言ってた分配法則のなんたるかを裏付けされた気分だ。
(物って時代が進むと形も変わったりするものなのかな。
何年経っても分かりっこないや)
この年になっても覚えているのは4歳くらいから。
飛行機操縦を学び始めたのがそれくらいからで、
人の行き来と抱えてくる物の変化に内心考えさせられる。
長く生きた先人が国のため人のためとつくり。
そして、若者が後を継いでまた新しい物が出来上がる。
動物と機械の変わる様に、いつからそうなったと気付く節目も見つけにくい。
ここにいる子達も価値観とかモノの見方が別々だろうなと
世代間を感じて話していると、先陣の海沿いメンバー達から伝令が届く。
やって来たのはイバラギ兵であった。
「敵発見、交戦開始!」
「川沿いから入られないよう阻止!
デッドライン出ないようにお願いします!」
「いっくわよおおおおおお!」
装甲はあくまでも人を守る塊。
CNや親からそう教わってきたから、同じように水を生命線として
搭乗する分身から掬い上げ、仲間も救う。
メンバー達は全員ライオットギアに搭乗できない、
少しでも盾になれるよう目立って前線に出る。
ブシュウウウッ
あぶれしぶじぇっと技術とよばれる水圧カッターはできるだけ
機械系を、人は腕を狙うようにしている。
様を直に見たりしようものなら1週間は野菜も切りたくなくなるから、
ロストさせない配慮も念頭に置いていた。
上空展開なら細かく見られないからあんまり気にしていない。
久しぶりの地上戦でそこの心境も不安ではあった。
水色の腕から透明の液体が射出しているのを見て、
イバラギ兵も四国兵が交じっている事に気付く。
「水圧カッターだ、推定射程距離、約150m!」
「四国兵器がこんなエリアに? 合同で待ち伏せされている!
距離をとって横に展開!」
「あ!?」
スイレンが急に進路を変えた関東の陣形に気付く。
迫る軍勢は左右に広がる壁と変わる。
四国の兵装を観た関東兵が前進を止めて横向きに移動し始めた。
正直に付き合う気もなく軸ずらしで射線を避けるつもりだろう。
ミエ兵隊長はスポット変化を警告。
「敵位置が変化、ライン端に注意して当たれ!」
「了解!」
だけど、私達の兵装は今となってそんなに珍しくもない。
四国の孤島特性で陸が離れた地形把握はまだこなれているから、
景色の空いた場所を警戒する心得はお手のもの。
トクシマ司令官がオリエンテーションで言ってた話がここで利くとは
予想できていなかったけど。
とにかく、タンクやライオットギアに侵入されると配置も乱れて
一気に戦況が悪化するので、危険度の高い機械系を優先して狙う。
弾薬、無限。これ以上に有利なガジェットはそうそう無いから。
コシュウ コシュウ ブシャアッ
「遠すぎて威力減衰してしまいます!」
「ライン越えちゃ駄目だ、反撃される!」
しかし、水砲は遠距離に対してまったく効果を成さず。
兵装を見抜かれてすぐに対策をとられてしまう。
異様に統制がとれているカナガワ兵の立ち回りに、
防衛ラインが次第に歪まれていく。
「引いたり攻めたり、絶妙な間合いばかり取りやがる」
次第に水圧カッターの放射と同時に後ろへ下がる戦法をとられてしまう。
単純に水が届かないので、ライオットギアの攻撃力も効かなくなり
狙われるのは非搭乗人員の方へ変わるかもしれない。
「スイレンさん、俺らがいったん前進しましょうか!?」
「ダメッ、危ないし、君達が先に狙われちゃうよ!」
前に出たがる子を止める。
陸上戦はほとんどディス・アサルトの銃で応戦するだけ。
相手も人兵を先に削る方が有効だと思うけど、条件がこちらと同じで
結局は倒されやすい人から襲われる。
先にロストされるのはいつも新兵などで、頑丈な乗り物にいる私は
どう守るべきか操縦の手をつい緩めてしまう。
ズドン
「ぐあっ!」
銃弾がすぐ近くにいたミエ兵の脚へ横切る。
白兵戦はあくまでも人の列で構成するために、必ず隙間から崩されていて
物質の硬さと射出力では流石に分が悪くて比較にならない。
(ラチがあかない・・・)
間合いはジリ貧へ持ち込まされそうになってゆく。
このままだと周囲の皆から先に終わってしまうだけで、
タカさんの心配する若者の消失が現実になってゆくだろう。
冷静さを欠いてはダメだと分かっている、ヤケが一番の敵だし
高齢者のイラつきに似た様な感情さながら今を突破するべく、
突然大胆な行動を起こした。
バシャバシャ
「スイレンさん!?」
私は川から飛び出して、1人の敵兵へ走り出した。
保守的な水域ラインから外に出て砲身を構え直す。
ブシゥアアアアバシャッ ドテン
「うおおっ!?」
陸に向かってありったけ放水したのだ。
標的に直接当てるといった発想を一度止めて、波状攻撃・・・の様な
形に変えて相手が予想できない戦法をとろうと図る。
地面が芝生で足を滑らせたイバラギ兵。
転んだと分かった瞬間、相手に向かって走り出した。
「うりゃー!」
ガツン
「ぶがおっ!」
殴りつけた、遠距離とみせかけて近距離の差にもちこむ戦法だ。
もちろん、本人がそこまで考えて狙ったわけではなかったが、
おかげでカナガワ兵達の陣形が崩れだした。
「こっちに穴が開いたよ! 左右それぞれ対処して!」
「彼女の指示通り、分散した相手に集中しろ!」
「一旦、後ろへ下がれ!」
「ウオッシャアアアア!」
平行線を保っていたラインが崩れて前線は飛び道具の向きが変わって、
私は数発の砲撃を受けて身動きがとれなかったものの、
護衛の男の子達がすぐに加勢してロストを免れた。
数十分後
混戦が続いた後、関東兵を押し切って撤退においやった。
数の力もあり、どうにか防衛成功したようだ。
拠点へ引き返す前に戦後処理する中、怪我人も多く残っている。
「「いてて」」
「君、大丈夫!? ちょっと待ってなさい!」
怪我をしたミエ兵に私はエメラルドエイドを塗り込む。
トミさんのラボリで作成された新規格の特効薬を早速使う。
あまり活躍できなかったカガワ兵のお詫びの代わりというのか。
みるみる治っていく傷を観て、思わず目を丸くした。
まるで奇跡の様な光景に讃頌する彼ら。
「な、どうなってるんだコレ!?」
「はい、もう治ったわ!」
「あんたら、こんな技術までもっていたのか!?」
「わ、私も地元でこんな薬があったのは意外だったけどね」
「ままままさか、四国の女神というのは貴方様では!?」
「みみみみ水の超越者、いや、神がこんなうら若き乙女とはぁ」
「むむむむ、胸が突然苦しくなってきた気が・・・ぜひ俺も看病を」
「めめめめ目が、俺も急に眼が痛くなってきた、治療して下さぁ~い!」
「ほほほほ、癒されるなぁ~♪」
「「う、う~ん、皆、私のとこばっかり・・・」」
ミエ兵の人達がプルプル震えて感謝。
なんだか仮病っぽい人もいるけど、怪我人が一斉に集まってきて
戦闘の傷がなかった事の様に回復させてゆく。
見慣れない彼らにとって、四国の恩恵は魔法そのもの。
ここ近江地方でも注目の的にされるのはやっぱり同じか、
もはや恒例にならざるをえないのだろう。
(戦争が終わったら看護師にでもなろうかな・・・)
先の戦闘で陣形の満ち引きがあたかも波のそれに見えて、
傷口を覆う翠色の波もまた真逆の状態を垣間見る。
いつ終わるのか分からない世界だけど、癒すという行為は感謝や喜び、
人を幸せにさせる要素がたくさん含まれている。
どちらかと相応しいのはこっちかもしれない。
今も衛生兵がいるけど、攻撃役よりもサポート役の方が適していると
さりげなく思い始めていた。女神は救済する存在なのだから。
ただ、全ての兵達がそんな眼差しをしているとは限らない。
女神と称えられている奥で、かつてどこかと同じ光景が見えている事に、
私はまたもや気付いていないのだ。
女兵達「・・・・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミズスマシとは水面を滑る甲虫です。
少年時代で一度だけ見た事があり、思い出補正の側で
川の突破口役として登場させました。
生物情報はアイデアの宝庫だと思います。
「「えっ、タカさん達、まだ決まってなかったの!?」」
「ああ、CN外周の防衛とだけ言われてそこから打ち止めだ」
タカの様子を聞いたスイレンは驚く。
今回より始まった大きな交戦でラボリ行動がそれぞれ分かれて、
何をしているのかお互いの近況を話していた。
ミエCNに着いて作戦行動開始前に四国の様子を伺ってみたが、
タカ分隊の配置指示が未だにきていなかったという。
「四国の海域付近に敵影反応が出て第30~50部隊がもう出て行った。
でも、俺達に本部から通知が来ない。
ヒロさんが聞きに行っても指令室への立ち入りが制限されていたんだ。
おそらく、外されたかもしれないな」
「「制限って、四国の司令達はどうしたの?」」
「重要機密立案のため、立ち入り禁止だと。
また極秘に何かやろうとしているんだろう。
あのトミ隊長を単独で任務に行かせた件もあるしな」
「「また・・・何かを」」
とはいえ、名目はCN規定防衛ラインを保てとだけ指示がくる。
上は意味もなく中年兵ほったらかしに決めているわけでない。
今回ばかりはA.D50年に匹敵する大交戦だから、
長年務めてきた2人にとって、四国の上層部の意向などすぐに読めていた。
そんな上でも、それなりの対策をしようと少なからず頑張っているのは
分かっていたので、あまり追求をする気が起きなかった。
「まあいいさ、外地だって30~40代もまだ数が多いし
元締めのオオサカもんがなんとかしてくれる。
引退寸前組が少しくらいいなくても対応できるだろうな。
ところで、そっちの調子はどうだ?」
「「今のところ大丈夫、久しぶりのライオットギアだから、
ちょっとばかり操作に戸惑っちゃって」」
「四国の人型も現地入りか。近江と組むなんて予想もしてなかったが。
うちは水路とか水辺のある場所でしか有効に動けないが、大丈夫か?」
「「うん、だから私は川沿いルート対応係。近江の人達のサポート役だって。
第80~90部隊の子達と一緒に」」
「ん、後番の連中ってことは10~20代部隊だな。
こっちはおっさんばかり残ってるな・・・?」
タカは遠征に向かう四国兵のある詳細にふと気付く。
話の内容から察すると若い兵士ばかりなのがすぐに分かり、
高齢者がほとんどいない事が分かった。
よく活躍している自分達ですら呼ばれていないのだ。
「て事は、そっちに中年兵がいないのか?」
「「うん、男女均等といったらそうだけど、若い子多いって今気づいた。
今回の作戦で四国の若い子も機体の搭乗で何人か行かせてるみたい」」
「なんだって!?」
四国CNは少ない若年層を前線に出す方針を立てていたのだ。
彼女は出国後に部隊編成を知らされて時間差で出かけたために、
タカ分隊と違った年齢層だと分かったらしい。
普通ならば先のない者を行かせるべきなものを逆の方針で
今回の作戦が判明。この件も本部は詳しく語っていなかったが、
近江兵と合流させて動こうとするやり方に憤慨する。
ミエCN拠点 同盟CN専用宿泊施設
ここでスイレンの場に代わる。
割り当てられた部屋のベッドの上で1人、会話の最中。
無線からタカの声が5m離れていても聴こえそうなくらい、
怒鳴り声が発せられていた。
「「若い奴だけを前衛に送り込む気か。
そいつらまでやられたら、四国は誰が守るんだ!?」」
プツッ
「だからタカさん達が・・・って、タカさん? おーい!」
隊長は無線を切ってしまう。
水の女神の話すら投げるくらい気が触れる内容だったのか、
何をしに行ったのかしばらく彼が連絡にでる事がなく、
切れたツーカー音だけが流れ続けていた。
翌日 ミエCN 律エリア
次の日、ベースキャンプで滞在していた四国兵とミエ兵の若年が
全隊員集って装備品もきちんと置いて出陣に備えている。
ここは近江に位置する場所だけど、ある理由があって私達は集められた。
ミエCNは電磁技術に長けている地域で四国と似た環境や条件で
水域活動も盛んに行っているとの事。
特殊工作なんてどこの国であっても必ず仕掛けを造ってるもの。
このチームは侵攻から守る役割で、それぞれ決められたルートで展開。
東からの攻撃をここで止めるようラボリを始めようとした。
ミエ兵が点呼、兵装共に異常無しと確認。
「四国の兵隊さん、準備はいい?」
「こちら四国CN、準備OKです!」
お互いを確認し合う2つのCN。
四国兵を先導するのはもちろん若き最年長の私。
ただ、1つ気付いた事は周りがずいぶんと若い男の子ばかりで、
どういう采配か守られ過ぎと言わんばかりの配置だ。
タカさんの言いたかった内容が多分、これに当たるものだったのか。
それはそうと60年生きてきた経験には違いなく、
目に見えない図太い神経もワンセットで導いてあげるつもり。
今更ながらの事だけど、ラボリ中はポニーテールにして髪を結っている。
ミエ兵隊長が外周の守るべき位置を示して段取りを公開。
「この屈川川を防衛ラインとして交戦する!
ここから先には行かせるな!」
「了解!」
こうして両兵がそれぞれ作戦地域に向かい始める。
私も機体に乗り込み、川の浅瀬伝いに歩いていく。
ここら辺もさほど深い場所はない。
私達の住む大陸はこんなに押し込まれた様な急な形だと思いながら、
ミエ兵は四国のライオットギアを見て関心していた。
「これが水と共に活きる機体か・・・」
「スゴイでしょ、燃料はほぼ無限なの♪
弾薬も代わりに水を放射してやっつける特産物よ!
まあ、水辺限定だけど」
「脚部の底から水を吸い上げる仕組みなら吸収口も壊されにくいし、
リロードも戦闘中ほとんど隙無く撃てる仕組みか。
兵装と起動の効率が一気に加速するな」
ここでも言い分通りに水という性能を観られている。
別に私が造ったわけではないけど、確かに故郷で造られている産物は
無色透明で形もない物に大きなこだわりがある。
あのミゾレさんのジェネレータといい、四国に秘められた謎技術に
変化した私の体を通して誇らしげに思いたくなる。
隣の男の子が補足。
「ただ、海水はそうもいかないんだ。
たまにポンプ内部に残留物の塩分とか溜まっちゃって、
射出口が詰まる事があるしな」
四国の水による加護装甲の外観に目を見張るミエ兵達に、
当事者みたいなあんまりない小さい胸を張って示す。
返って、スイレンはミエが所有するビークルについて話した。
「でも、ここも変わった乗り物があるじゃない?
あの黒大豆みたいな機体とか」
「まあ、ミズスマシも川に特化したビークルだね。
電磁推進で動くからスピードなら、近江ピカイチだし。
波が高すぎると、ひっくり返されるから淡水用だ」
「だから、スクリューが付いていないんだな。
俺ら頭悪いからよく分かんないけど」
「これまたスゴイな」
お互いの技術力を見合って精査。
今更ながら、各地方の特徴を目の当たりにして一考する。
資源次第で人の立場が決まるといっても良いだろう、
カナが言ってた分配法則のなんたるかを裏付けされた気分だ。
(物って時代が進むと形も変わったりするものなのかな。
何年経っても分かりっこないや)
この年になっても覚えているのは4歳くらいから。
飛行機操縦を学び始めたのがそれくらいからで、
人の行き来と抱えてくる物の変化に内心考えさせられる。
長く生きた先人が国のため人のためとつくり。
そして、若者が後を継いでまた新しい物が出来上がる。
動物と機械の変わる様に、いつからそうなったと気付く節目も見つけにくい。
ここにいる子達も価値観とかモノの見方が別々だろうなと
世代間を感じて話していると、先陣の海沿いメンバー達から伝令が届く。
やって来たのはイバラギ兵であった。
「敵発見、交戦開始!」
「川沿いから入られないよう阻止!
デッドライン出ないようにお願いします!」
「いっくわよおおおおおお!」
装甲はあくまでも人を守る塊。
CNや親からそう教わってきたから、同じように水を生命線として
搭乗する分身から掬い上げ、仲間も救う。
メンバー達は全員ライオットギアに搭乗できない、
少しでも盾になれるよう目立って前線に出る。
ブシュウウウッ
あぶれしぶじぇっと技術とよばれる水圧カッターはできるだけ
機械系を、人は腕を狙うようにしている。
様を直に見たりしようものなら1週間は野菜も切りたくなくなるから、
ロストさせない配慮も念頭に置いていた。
上空展開なら細かく見られないからあんまり気にしていない。
久しぶりの地上戦でそこの心境も不安ではあった。
水色の腕から透明の液体が射出しているのを見て、
イバラギ兵も四国兵が交じっている事に気付く。
「水圧カッターだ、推定射程距離、約150m!」
「四国兵器がこんなエリアに? 合同で待ち伏せされている!
距離をとって横に展開!」
「あ!?」
スイレンが急に進路を変えた関東の陣形に気付く。
迫る軍勢は左右に広がる壁と変わる。
四国の兵装を観た関東兵が前進を止めて横向きに移動し始めた。
正直に付き合う気もなく軸ずらしで射線を避けるつもりだろう。
ミエ兵隊長はスポット変化を警告。
「敵位置が変化、ライン端に注意して当たれ!」
「了解!」
だけど、私達の兵装は今となってそんなに珍しくもない。
四国の孤島特性で陸が離れた地形把握はまだこなれているから、
景色の空いた場所を警戒する心得はお手のもの。
トクシマ司令官がオリエンテーションで言ってた話がここで利くとは
予想できていなかったけど。
とにかく、タンクやライオットギアに侵入されると配置も乱れて
一気に戦況が悪化するので、危険度の高い機械系を優先して狙う。
弾薬、無限。これ以上に有利なガジェットはそうそう無いから。
コシュウ コシュウ ブシャアッ
「遠すぎて威力減衰してしまいます!」
「ライン越えちゃ駄目だ、反撃される!」
しかし、水砲は遠距離に対してまったく効果を成さず。
兵装を見抜かれてすぐに対策をとられてしまう。
異様に統制がとれているカナガワ兵の立ち回りに、
防衛ラインが次第に歪まれていく。
「引いたり攻めたり、絶妙な間合いばかり取りやがる」
次第に水圧カッターの放射と同時に後ろへ下がる戦法をとられてしまう。
単純に水が届かないので、ライオットギアの攻撃力も効かなくなり
狙われるのは非搭乗人員の方へ変わるかもしれない。
「スイレンさん、俺らがいったん前進しましょうか!?」
「ダメッ、危ないし、君達が先に狙われちゃうよ!」
前に出たがる子を止める。
陸上戦はほとんどディス・アサルトの銃で応戦するだけ。
相手も人兵を先に削る方が有効だと思うけど、条件がこちらと同じで
結局は倒されやすい人から襲われる。
先にロストされるのはいつも新兵などで、頑丈な乗り物にいる私は
どう守るべきか操縦の手をつい緩めてしまう。
ズドン
「ぐあっ!」
銃弾がすぐ近くにいたミエ兵の脚へ横切る。
白兵戦はあくまでも人の列で構成するために、必ず隙間から崩されていて
物質の硬さと射出力では流石に分が悪くて比較にならない。
(ラチがあかない・・・)
間合いはジリ貧へ持ち込まされそうになってゆく。
このままだと周囲の皆から先に終わってしまうだけで、
タカさんの心配する若者の消失が現実になってゆくだろう。
冷静さを欠いてはダメだと分かっている、ヤケが一番の敵だし
高齢者のイラつきに似た様な感情さながら今を突破するべく、
突然大胆な行動を起こした。
バシャバシャ
「スイレンさん!?」
私は川から飛び出して、1人の敵兵へ走り出した。
保守的な水域ラインから外に出て砲身を構え直す。
ブシゥアアアアバシャッ ドテン
「うおおっ!?」
陸に向かってありったけ放水したのだ。
標的に直接当てるといった発想を一度止めて、波状攻撃・・・の様な
形に変えて相手が予想できない戦法をとろうと図る。
地面が芝生で足を滑らせたイバラギ兵。
転んだと分かった瞬間、相手に向かって走り出した。
「うりゃー!」
ガツン
「ぶがおっ!」
殴りつけた、遠距離とみせかけて近距離の差にもちこむ戦法だ。
もちろん、本人がそこまで考えて狙ったわけではなかったが、
おかげでカナガワ兵達の陣形が崩れだした。
「こっちに穴が開いたよ! 左右それぞれ対処して!」
「彼女の指示通り、分散した相手に集中しろ!」
「一旦、後ろへ下がれ!」
「ウオッシャアアアア!」
平行線を保っていたラインが崩れて前線は飛び道具の向きが変わって、
私は数発の砲撃を受けて身動きがとれなかったものの、
護衛の男の子達がすぐに加勢してロストを免れた。
数十分後
混戦が続いた後、関東兵を押し切って撤退においやった。
数の力もあり、どうにか防衛成功したようだ。
拠点へ引き返す前に戦後処理する中、怪我人も多く残っている。
「「いてて」」
「君、大丈夫!? ちょっと待ってなさい!」
怪我をしたミエ兵に私はエメラルドエイドを塗り込む。
トミさんのラボリで作成された新規格の特効薬を早速使う。
あまり活躍できなかったカガワ兵のお詫びの代わりというのか。
みるみる治っていく傷を観て、思わず目を丸くした。
まるで奇跡の様な光景に讃頌する彼ら。
「な、どうなってるんだコレ!?」
「はい、もう治ったわ!」
「あんたら、こんな技術までもっていたのか!?」
「わ、私も地元でこんな薬があったのは意外だったけどね」
「ままままさか、四国の女神というのは貴方様では!?」
「みみみみ水の超越者、いや、神がこんなうら若き乙女とはぁ」
「むむむむ、胸が突然苦しくなってきた気が・・・ぜひ俺も看病を」
「めめめめ目が、俺も急に眼が痛くなってきた、治療して下さぁ~い!」
「ほほほほ、癒されるなぁ~♪」
「「う、う~ん、皆、私のとこばっかり・・・」」
ミエ兵の人達がプルプル震えて感謝。
なんだか仮病っぽい人もいるけど、怪我人が一斉に集まってきて
戦闘の傷がなかった事の様に回復させてゆく。
見慣れない彼らにとって、四国の恩恵は魔法そのもの。
ここ近江地方でも注目の的にされるのはやっぱり同じか、
もはや恒例にならざるをえないのだろう。
(戦争が終わったら看護師にでもなろうかな・・・)
先の戦闘で陣形の満ち引きがあたかも波のそれに見えて、
傷口を覆う翠色の波もまた真逆の状態を垣間見る。
いつ終わるのか分からない世界だけど、癒すという行為は感謝や喜び、
人を幸せにさせる要素がたくさん含まれている。
どちらかと相応しいのはこっちかもしれない。
今も衛生兵がいるけど、攻撃役よりもサポート役の方が適していると
さりげなく思い始めていた。女神は救済する存在なのだから。
ただ、全ての兵達がそんな眼差しをしているとは限らない。
女神と称えられている奥で、かつてどこかと同じ光景が見えている事に、
私はまたもや気付いていないのだ。
女兵達「・・・・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミズスマシとは水面を滑る甲虫です。
少年時代で一度だけ見た事があり、思い出補正の側で
川の突破口役として登場させました。
生物情報はアイデアの宝庫だと思います。
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