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3章 東西都市国家大戦編

第23話  空中ブランコ

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ヒロシマCN 備高竹山駐屯地 指令室

 ケイは駐屯地の指令室でマリと物資配達要請を行う。
俺は実働部隊に入らずにオペレーターと周囲のサポートを続けていた。
とうとう中つ国にも敵が少しずつ侵入し始めて、リソースを切らさないよう
工房を通しながら生産した品を各地へ運ばせている。

「14:00までの注文はこれで終わり!
 後、5時間は配れないって連絡も出しておいて!」
「了解、19:00まで締め切り。駐屯地へ温存指示。
 明日5:00まで供給時間と報告しておきます」

あれから見守るように電波を広げて様子をうかがう。
戦闘はからっきしな自分でも物資采配が良い成績を出しているようで、
アイ司令からも任されて認められ、物資支援をしながら
資源ルートをくまなく閲覧しながら応援していた。

「まさか、向こうも一気にドバッと来るなんて。
 九州も四国も近江も中部西もほとんど侵攻されてるよ」
「大まかな数はまだ海で停滞してタイミングや先陣の結果で
 こちらの動向をうかがっている節が見られます。
 あたかも来るのが分かっていたかのように返された感じもあります」
「戦況はだいたい海沿いで止めていたり抜けられたり五分五分。
 まだこっちに来ていないからまだ良いけど、どうなるんだか」
「どういう狙いか、工房関連場所のみを目指している節もあります。
 今のところ不安点はないようで・・・あっ!?」
「どうしたの?」
「す、すみません。1つ受理するのを見逃しちゃいまして・・・」

彼女は一部発注し忘れたようだ。
ティッシュペーパー10箱を包装していなかったようで、
忙しさのあまり項目表示を抜かしてしまったらしい。

「ああ、まだあったのか。13:49の注文・・・時間内の物。
 さっきのトラック、もう行っちゃったね」
「「あうう、後でまたクレームくるけえの、すみませえん」」

いつものマリ節に、ねぎらいを届けたくなる。
人だから機械と違って見逃しの1つや2つくらい出るだろう。
女性オペレーターといえど、多少のミスは付き物。
しかし、無情にも出遅れた荷物が手前にまでやってきてしまう。

「お忘れ物ですっ!」

ドサッ

というわけで、さらにまとめた1箱を置かれる。
片手で抱えて持っていける量だけど輸送班が皆出てしまっている。
シンジやモブ分隊も山周辺へ見回りに行ってるから
今、直接持っていけるのは自分だけ。
19:00以降から持っていけばクレーム待ったなし。
でも、運ぶ方法があるにはあった。隣にある物を見る。

ピピピ キュルキュル

小型円盤の御供が足になってくれている。
そう、父が残してくれた機体に乗っていけばすぐに運べる。
元から名前がなく、シンジがトビゾウと勝手に名付けた随伴ずいはん機で
ふもとのエリアに飛んでいけるだろう。
反重力を搭載しているというこれも、一応運搬の機能をもっていて
10箱でも1kgもなく軽いから抱えて持っていける。
1人くらいぶら下がれて低速ながらも浮遊できるから手間を省けた。

(とりわけ戦闘力があるわけでもないし、
 俺ならではの役目をこれで果たせってわけなんだな)

さも、小さな星団としてここにあるような気がした。
似ても似つかないけど、せめてもの取りがある様な感じで
エイジ達みたいに強くもない、地上に浮かぶ風来坊ふうらいぼうとして動く。
マリさんを安心させるためにも、俺が直接輸送しに行こうと決める。
円盤下部に頑丈な鎖をらして片足を引っ掛けるフックを装着。
手さえ離さなければ1時間耐えられるから、恵まれた専用機に感謝して
現地へ向かった。

スウィィィン


シマネCN 色南エリア

 それから、要請された所に着く。
ここはまだ交戦していないようで住民の人達も滞在していた。
依頼先も最寄りの駐屯地と浮いたまま入口まで近づいた。

「あのー、備高竹山駐屯地ですけどお届け物です!」
「ああ、来たかい。待っていたよ」

おばさんがいてティッシュペーパー箱を全部わたした。
空だけにスカイッと持ってきて不備を直す。
これでマリさんへの文句はいかないはず。
だけど、この人の隣にこっちとは関係ない物があった。

「ところであんた、その乗り物重い物も上げられるかい?」
「まあ、一応」
「実はウチも運ばないといけないのがあって、腰が痛くなってね。
 すまないけど、これをヤマグチに持っていってくれないかね?」
「へ、ヤマグチですか!?」

12.5kg分のグリーンテープをそこへ持っていけと言われた。
さっきより重い物だけど、遠距離輸送は可。
確かにまとめてあってまだ軽いので持っていける。
この人も体調悪そうで見捨てるのも気分悪いから手伝う事にした。

スウィィィン


ヤマグチCN 岩圓エリア

「中つ国山地の者ですけど、テープ持ってきました!」
「おう、こっちや!」

 太ったおじさんが待ち受ける。
怪我人がすでにでていてたくさんのファーストエイドを頼んだようだ。
ここはもうグリーンテープが多く要ると分かっていたから、
数日前に多めに配っていたはずだけど、予想も超えていたみたい。
まるで他人事のように注意してきた。

「今こっちは関東モン追っ払いに手を焼いとるけえ。
 若いのも気を付けぇや」
「そうですね、巻き込まれないよう気を付けます。では――」
「せや、物はついでじゃ。わしんとこも渡さにゃならんモンあるわ。
 これをトットリへ持ってってくれや」
「トットリィ!?」

雑用品に紛れていた何かを運送しろと頼まれる。
25kgあるという変な置物をトットリCNまで運べと言う。
ていうか、こんなのラボリと関係あるのか?
作戦規定以外の物なんて頼まれても時間を食うだけだ。

「も、持ってはいけるんですけど、コレってどういった――?」
「なんや、せっかくの頼みを断るのが本部なんか?
 そこにある乗りモンに乗っ取りィ、スパッと行けるやろォ?」
「「ううっ、わ、分かりました」」

こっちの方が偉いはずなのにすごまれて引き受ける。
兵達もそうなら市民もソッチ系か、地域ごとに性格設定された感じに
利用不明の異物を押し付けられた。
若いから立場もへったくれもないのか、便利屋サービス同然な扱い
という仕打ちで余計なトラブル回避に、さっさと運んで次へ行く。


スウィィィン


トットリCN 目南エリア

「中山です、頼まれてた荷物持ってきました・・・おほわっ!?」
「あ~ら、待ってたわよ、イヤン、バッドタイミングにまいっちんぐ」

 到着がてら、ラッキースケベな光景と出くわす。
なんのきっかけか、着替え中の女性兵が対応した。
トットリは相変わらず大っぴらというかオープンな性格ばかりで、
普通の事務室でも平然と服を脱いだりしている。
口には出せないけど、胸が大きくスタイルの良さそうな人だ。
このCNがやたらと活発なのは異性交流とかで元気にさせてるからか?
これはイケナイ、すぐに目線を戻して妙な物を渡す。

「ウヒッ、あ、いや、置物持ってくるよう言われて」
「あ~コレね、願掛がんかけタヌキはあたしが頼んだのよ。
 この子みたいに大きく、頑丈になれるように」
「勝利祈願の御守りですかい!?」

なんと、こんな時にしょうもない理由で木製穴熊を注文していた。
盾の役割もないのに何を頑丈にさせるのか、
動機が常識からかなり外れて動悸どうきしそうな内容。
敵が侵攻しているこんな時に信仰だなんて特殊な心掛けだ殊勝のまちがい
これがCN内の資源ルートに入れられたのが不思議に思える。
とにかく仕事は仕事だからこっちの役目は終えたはず。

「さ、さいですか・・・では受領コード入力を――」
「ウッフン、あなた、たくましい御供でここに来たんですってね。
 じゃあ、これも頼めるかしら?」
「「ずいぶんと準備の良い・・・オカヤマへですか?」」

50kgのぶっとい竿さおの塊を運ぶように言われた。
別に変な物じゃない、切った竹をまとめてあった物。
そういえばオカヤマもたくさん採ってたけど、地雷は中つ国でたくさん
製造して敵の足元をすくうための装備品だった。
山地内でも歩いてはいけない場所もあって子どもの頃から
何度も言い聞かされてきた。

「そうか、シーアーチンの素材も周りから要請してたんですね」
「ほらぁ、オカヤマってタマタマをいっぱい作ってるでしょ?
 あたしらもいつもお世話になってるから、オ・カ・エ・シよ」
「「あはは、は、はい・・・持ってましょ」」

ちょっとんでイヤとは言えずに請け負い。
愛と性欲のハニートラップに掛かって運搬を再開。
ひょっとして駐屯地間で俺がやると事前に連絡し合ってたんじゃないか?
これで山陽と山陰の小競こぜり合いなんて絶対ウソも含まれてるはず。
どっちにしても俺の方はマタマタ重き荷をぶら下げて出発。
マナミがいたらおそらくビンタされる可能性が最大だっただろう。
なんだか、どんどん重たくなってる気がするけど、色気も負けて
またのお越しをお待ちして持っていく事にした。

スウィィィン


オカヤマCN拠点

「ん、ケイか?」
「アキヒコ司令!?」

 オカヤマの配布先は司令だった。
久しぶりに来たここも変わらなく、懐かしさすらかえされる。
シーアーチンの素材が多く要るらしく、同盟CNから要請して
新開発するつもりだったようだ。
でも、新装備を作り始めてからラボリも変わったらしく、
今まで見なかった手作業も目に入る。

「え~・・・トットリ産、銀竹をお持ちしました」
「ああ、これなら近江への必需品量を確保できる。よくやった。
 今、向こうは輸送隊が急襲されて動けなかったからな」
「俺も大変でしたよ、色んな所から運んでけとか言われて。
 今日はずっと飛びっぱなしで――」
「そうだな・・・カズキ司令は中つ国最高の技術をお前に託した。
 発動機もこういう時こそ最大限に活かされる。
 では、これもヒロシマまで輸送してくれ」
「え・・・ちょ、コレ・・・かなり重いんじゃ?」

よこにはしかくいいしがあった、とてもおもそうだ。
なんだかいやなよかんがした。
きゅうようをおもいだしたとうそをついてかえろうとした。
しかし、へやいりぐちにへいがいてむりだった。

「ケイよ、中つ国の本命を忘れたのか?
 宙に舞う事はただ、上層の特権というだけではないと。
 空と地、共に生きる者こそ国の命脈だと教えたはずだ」
「そ、そうですけど、運送とコレとは別で――」
「一緒だ、輸送は食事と同様に生命線の維持と変わらん。
 このオカヤマ石も必要とされる者が待っている。
 私はお前をそんな気概で備高竹山へ任せたのではないぞ」
「・・・・・・」

もう、絶対そうしろとばかりの流れと言わんばかりに強引な内容だ。
密約でもして俺を風船輸送隊にするつもりだろう。
というか、この人はこんな性格だったのか?
いつもと口調も違って理屈詰めに使命的説法をされる。
大きな抗争で緊張感をもっているからそうなってるだけか。
大した戦闘もできない奴は外回りさせられる運命。
それならトットリの発動機も全部輸送機にすれば良いのに。
加工したオカヤマ石100kg、とうとう重量3桁を迎えて
空の上ならぬ石の上で3時間の旅をこなす事になった。

スウィィィン

「「お・・・遅っ、とっても遅い。なんていうか遅い」」

 当たり前な事に重力の重量を重複された重張おもばりでゆっくり。
今更ながら反重力というものは不思議なもので下への力に抵抗する。
あの天主殻も同じ技術で浮いてるのか、この地方との関係も疑いたくなる。
世界から少し離れた景色でなんとなく元は下にいたんじゃないかと思った。


ヒロシマCN 

「「ま、毎度・・・サオトメ運送です」」
「おお、来れたのかね。司令もなかなかの手腕じゃのう」

 やたらと髪の毛が尖った技術班の人がいた。
もう何に使うのかイチイチ聞いてられない。
また用件を言われると先読みして受承コードを入力してもらった瞬間、
ダッシュして帰ろうとする。
が、なんでかその人は高速で入口へ回り込んで俺のトビゾウを見ていた。

「ん、君の乗ってきたそれは反重力搭載機だね?
 しかも、既製品でもないオリジナルタイプではないかああぁ!?」
「いやあっ、コレは、あの・・・ブランコです!
 僕は幼少期にこういった遊具を使わせてもらえずに、
 貴重な携帯型をもらったのであげられなくって・・・その」
「ウソをつくでないッ、型からしてA.D10年製と推測!
 30年務めてきた私は見逃さないィィ!!」
「も、もう宙ブラリンな活動はコリゴリなのにィ!
 お、俺の頭が急に何かが宿り始めて支配をォォ!?
 とらわれしノコシショウコウグンがああぁ!」
「ダメじゃ、君のバイタルはまだ健全かつ異常無し!
 わしも少々物資輸送に依頼したい物があってのう。
 ちなみに、こっちも頼もうか」
「ウンソオオォォ!」

と言われてお約束展開となる。
A.D50年生まれの生き偏屈引へんくつびきにまとわりつかれてしまい、
依頼品は史上最悪なる比類なき飛び級の物だった。

「でけえええぇぇぇぇ!!」


なんと、ライオットギアの胴体だった。
重量、約860kgのパーツを中つ国山地の作戦展開地域まで運べと、
人の苦労も知らずに言われる。というか、飛んでる最中で的にされそう。
こんな物持っていけるかと断ろうとしても、トビゾウの性能を見抜かれて
目の前で試し載りさせられる。
さらに、不審な対応すれば本部に報告するらしい。
地上にぶつけるわけにもいかず、高度20m以上の条件付きが足されて
荷物運びで人生終了しないよう広大な世界へ舞う。


ス スウィィィン

「た、高いィ、落ちる・・・オチルウウウゥゥ!!」

 括り付けたワイヤーがギシギシいってる。
8.6倍の脅威は伊達だてじゃなく、一触即発の運送状態だ。
落として破損、下に人がいて巻き添えにしたら一発で役職終了。
一瞬、一時停止した感じもしたような音がする。
一々言い過ぎだが、こんな小さな機体に馬力があるとは思ってもいなかった。
エネルギーは使うと別のものに変わると教わっていたけど、
これはまるで内在する自然的な力にみえる。
両手で握りしめながら事故と被害どちらも起こりそうな中、
どうにか目的地にはたどり着けて不運な結末にはならなかった。
配達先の描写はもう意味がないから省略する。


ヒロシマCN 備高竹山駐屯地

 結局、今日は中つ国全CNへ回ってラボリ終えた。
一度も敵襲を受けなかったのは幸いだけど、俺の心身は限界をきたして
ろくに動けず帰還報告だけは果たせそうにない。
いや、マリさんがいたからここから先は言う必要もないだろう。

「ケイさん、大丈夫ですか!?」
「「あ・・・う・・・気持ち悪い、うおえっぷ、ふぉっぽぉぉ」」

ドサッ

入口で倒れて自身が荷物。
高山病にかかったのか、こっちの意識が飛びそうになる。
空を飛ぶのは便利だけど、ここまで行き来してれば頭の気が
どんどん引けて体の中が抜けていく様に感じた。
大変な時期に起きたちょっとした運搬劇。
中央だからと待遇されていたと思っていたのが間違いだと悟る。
配達業もこんなに大変なのかと若者ばりに思い知った。
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