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3章 東西都市国家大戦編

第16話  フロウマテリアル弐

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ギフCN拠点 会議室

「お久しぶりです、お元気ですか?」
「報告を聞いても、ちっとも要領を得んので直接ここに来た。
 で、用件は何だ?」

 椅子イスに座るギフCN司令官の元にナガノ兵が訪問。
やって来たのはロビンとヨゼフィーネ数十人の内、
ホワイトキャラバンは依頼を受けてやってきた。
しかし、到着直後にすぐ準備する行動を起こしてなく、
1人の大男は少し不満気だ。

「今回、あなた方に運んでほしい物があります。
 あるCNからこちらで管理していた物資をわたしてほしいのです」
「運んでほしい? ホワイトキャラバンはこっちにもいるのに。
 人手が足らん程、よほど多くあるのか?」
「それもありますが、いつもと事情が異なります。
 他の任務でお疲れかもしれませんが、
 今はあなた方しか当てにできる者がおりません。
 報酬はご連絡した内容でよろしいですね?」
「ああ、次のラボリも控えてるしな。
 こちらも引き続きライオットギアの補修資源を頼みたい。
 我らナガノの機体の損傷もそこかしこにあるしな。
 アイチの手を離れた以上、自己管理もさらに大事になる」

ナガノCNも残存する機械を直すのに金属資源が必要だった。
東との同盟前は素材、修理の大まかな設備はアイチが担当して
まかなっていたため、今は整備するにも一苦労。
分裂で補修の当てが無くなった今、頼れるのは採掘場のある同盟で
機械関係は他でどうにかしなくてはならなくなったが、良い当てがない。
同じ中部地方のギフCNには、衣類アパレル産業が盛ん。
工業関係はあまり発展している方でもないが、
技術に覚えがある人材が多く、まだ最低限の修理の見込みがあるのだが。

「ならば一石二鳥いっせきにちょうです。
 P以外の報酬もそれにプラスしておきましょう。
 あなた方に運んでほしい物はこちらです」
「やっぱいつもの搬送はんそう仕事か」

ヨゼフィーネがモニターに表示された物を観て、無い胸を下ろす。
依頼物はまだ拠点内に置いてなく、引き上げも手伝ってほしいとの事。
司令官の要請は湖に沈めていた物資を運んでほしいと言う。
ナガノ兵としては、何の問題もなさそうな任務であったが、
肝心の運搬先がどこかまだ知らない。

「黒水湖か、食料品の類ではあるまい」
「引き渡し品は鉱石です。
 およそ0.5tの重量をもつのでお気を付けて下さい」
「水量でノーバディの馬力でも不足がちか、一度船で陸まで上げる。
 時間もあるから1隻で全て運んでみる。
 それで受け渡し先はどこなんだ?」
「ナガノCN南東部のエリアです。
 F-3区に待ち合わせ場所を指定しております」
「南東部だと?」

指摘された場所を聞いて耳を疑う。
そこは広がる荒野こうや廃墟はいきょも数多く、CNの配下はおろか
行き場を無くした者達が集う所も点在するらしい所だった。
しかも、トウキョウCNと隣接する近場でもあり、
影響下でおいそれと立ち入るCNは少なかった。

(取引先はどこだ?)

ロビンは指定区域に納得していない。
そんな人気のない場所で取引するなど、どう考えても利点に会わず
尋常じんじょうな貿易には思えないからだ。

「何故、CNが存在しないエリアを指定するんだ?」
「取引先の都合です。彼らの要望によりますと、
 “所属CNにも明かせない理由がある”との事」
「ん? 身内にも言えんって、知られたくない事でもあるのか?」
「はい、貢献Pの事でトヤマCNと問題が発生して
 私達にとっては、同盟以降もPの確保の重要性を保つ必要があるからです」
「そうか、分かった」

自分は承知する。心内ではまだ納得いかないものの、
ナガノの持ち前にここまで来た無駄足も悪いので、
言われた通りに資源の確保に向かう準備に移ろうとした。


黒水湖

 こうして大柄な体格率いる分隊は湖に到着。
腐敗しない物はこういった自然内そのものが保管庫代わりの役割をもち、
わざわざ入水してまで盗みに来る恐れもあまりない。
名ばかりとは対照的にエメラルド色に染まる綺麗な水面だ。
若者ばりに、うっかりと見惚みほれるヨゼフィーネを場へ戻し、
湖底に保管している鉱石回収に取り掛かろうとする。

「水面まではクレーンで上げるんだな、俺達も乗り込むが
 全員では困難となる。フィーネ、お前もだ」
「先の通り約0.5tで積載量限界スレスレですので、
 沈まないかどうか心配ですね」
「それ全部、この船にせるのか!?」
「構わん、仕分けて載せると二度手間だ。
 沈まなければ今のところ効率的だ」

急がせる立場に、あせり面の娘をよそに作業を開始して、
全ての鉱石を船に載せた。ていうか、沈んだらやり直すのは同じなのに。
ビニールとテープで舗装ほそうされたこれらは薄めで、
少しだけ中身が透けて見える。
移動する度に揺れる船に転倒寸前で辛抱強くこらえて耐える・・・
までには及ばず、倒れる。

ドテン

「ははは、相当たくさん積んでるんだな」
「「うぐっ、パンチドランカーの気分みたいだ」」

こうして船は無事に岸までたどり着く。
後はノーバディ数機に分けて運べば難なく持っていける。
ナガノ兵達がそれぞれに積み代えて現地に移動しようとすると、
ギフ兵隊長は一言告げて自分達に託した。

「玄の縁をお願い致します」
「任せておけ」
 (変な言い方)


上空

フィイイイイン

 ノーバディで資源を飛行運搬。
ここはいつもと変わらない日常で、目に映るのは空ばかり。
ただ、違うのは中部地方の枠からはみ出た出張だ。

「あっちが関東か、聞いてた通り山が少な! しかも、小さ!
 トウキョウだけ異様に違う色で突き抜けてるから、すぐ分かった」
「向こうはなんといっても最重要警戒区域だ。
 砲撃など狙撃されんように移動せんとな」
「移動ルートもおもいっきり広くなったし、前の方が楽だったよぉ~」
「飛距離が伸びて昼寝の時間もびただけマシと思え。
 日帰りで次はナガノに同盟CNの連中が来る」
「他CNもそうだけど、アイチ管轄が終わったらこんな話ばっかり。
 どこどこにコッソリ運んでくれえとか、内緒話ばっかじゃん!」
「より慎重になったな。以前の二の舞を踏まないよう、
 おそらく、MUF回避策として回り始めたんだろう」

関東側にくっついてから、ボウエキ事情も少しずつ変わっているらしい。
まあ、やってる事は変わってないから時間が延びたのは大歓迎。
というわけで、言われた通りに昼寝。
隊長の指示通り(?)、横になりながら物を眺める。
ただ、後部座席に固定されたそれはこれといった石みたいな形。
そこで、いつも気になっていた事を父に聞く。

「マフって、なんで起こるの?」
「鳥のついばみ合いだ、広範囲を行きう物の流れは誰にも奥まで見えん。
 遠くから目を凝らし、隙あらば急降下してエサを取ってゆく」
「だって、きちんと決められてるのにおかしいじゃん。
 勝手に使っちゃいけないとかCNに禁止されてるんでしょ?」
「組織、としてはな。決まりの上では正統的に分別されている。
 だが、CNはあくまで集まりの場。
 命の保証もない軍事人生に、少しでも多くかてを欲しがる。
 ルールがそうだからといって、何でも忠実に動く連中ばかりでもない」

ちょっと分かりにくい例えで父は言う。
なんというか、物がたくさんあればふところが安定しやすいから、
平然と横取りでもなんでもしてやり過ごすんだと思う。
大人って汚い。
あたしがいつもやってるつまみ食いみたいなものか。
鳥の様に似た状況の空の上で、にごった側面を教えられたのであった。


上呂エリア

 と、取引現場に向かう前にギフCNのある所に立ち寄る。
ロビンは住宅街らしき区画に用があると言ってそこに到着させた。
ノーバディに荷物を積み終えたけどすぐには行かずに、
まだやる事があると言って現地にたどり着く。

「何・・・ここ?」
「キンコツメグリをしに行くぞ、ギフに来たのは貿易だけではない。
 1時間哨戒も協力しろと頼まれたから見回りにいく」

キンコツメグリ、それは入り組んだ住宅街の間を巡回しろと依頼されて
不足しがちだったルートも回ってほしかったそうだ。
実はもうA.D50年から移住が終わって人が住んでいないらしく、
取り壊されないまま放置されて残されていた。
下手に撤去すると容易く侵入されてしまい、ただの開けたエリアになるので
そのままにしておいたらしい。更地に戻すのも手間がかかるから
ちょっとした阻止として扱っているのだろう。

「へえ、ギフにもこんな所があったんだ。
 なんか、色々と付け足したみたいな住宅っぽいけど、
 地元兵の案内も無し?」
「いたら俺達がラボリをする必要もない、別用に回っているんだろう。
 数日前に敵性の連中が入られたと知らせを聞いた。
 まだいるかもしれん、とりあえず行くぞ」

といった感じで廃墟の群れに入る。
装備もKDDYだけじゃなく新作の銃も持ってきているから
いつでもどこでも相手できるけど、道のりは確かに変だ。
なんていうか家と家の隙間を通り抜けて進むだけで、
これといった特徴とかそんなに見られない。建物そのものはいたって普通で、
特別な素材とか装置とかあるわけじゃなく、本当にただの元家。
が、作り方だけが変に思えた。ある建物に近づいてみると。

「うわっ、天井低っ!」
「お前は大丈夫だ、まあ・・・よくこんな構造にしたものだな」

縁の下にも道があって進めとばかり。
見た目からして増築工事をしたと思う、人が増えていたのか
大きな戦争の反動で逆に廃れた感でこうなったかもしれない。
父の太い体こそなおさらくぐるのは大変、というかこんな所を
進む必要なんてないと思うけど侵入経路の1つらしい。
そんな態勢で進むと、次に見えてきたのは水路だ。

「水が流れている」
「黒水湖から引かれて流れているのだろう、元は居住区だ。
 川の近い場所に住むのはどこでも同じ習慣だ」

家の下部から流れている様がまさに表している。
たいてい水があれば人も生活しやすいから集まってきて、
色々と作物を育てて生きられるとおばあちゃんが言ってた。
オコジョだって水辺近くですんでいたりして何でもそうだろうけど、
居場所と水はどっちも欠かせないものだ。
何か石碑みたいな物も壁のへっこみ内に置かれている。
詩みたいな字も書いてあって、ナガノのドウソジンと同じく
おそらく地域活性を願って備えた物のようだ。
が、そこの下にも通路がある。お約束展開として入れと言わんばかり。

「まさか・・・この中に?」
「そのまさかだ、潜伏するにはもってこいな場所だろうからな。
 ライオットギア工房も地下が大半だ、こういった所を好んでやってくる」

確かに上半身も浸るわけじゃないから濡れる心配はない、
こんな時に鉄砲水でも来たら溺死できしは免れない、十中八九じゅっちゅうはっく無いけれど
やたらと狭い範囲ばかりで市街戦で利用するならうってつけだと思う。
あたしらがオコジョになってこうするなんて予想してない。
父の背中を押してやる、こんな状態だとちょっと可愛く見える。
絶対口には出さないけど。
どっかの動物みたいな外見を目に、また地上に出て家の壁に挟まれる。

「え~と、次はどこを進むの?」
「待っていろ、マップを確認する」

ただ、構造だけは複雑で壊して進むわけにもいかない。
あくまでも巡回は地形に沿った移動をこなす事。
道先が行き止まりで水路をまたぐ排水管がある。
そこを足場にすれば進めるからゆっくりと乗って渡った。
そして、コンクリートに接続した取っ手梯子を登る。
土地的に高くなった先を観てあたし達は目を疑った。

「え・・・道が途切れてる?」

なんと、橋が無くなっていた。
あたかも進ませないとばかりぶった切られた足場が壊れていて、
用水路を前にした道の途中で足場が失っていたのだ。

「壊されたんでしょうか?」
「らしいな、向かいの道も崩れてボロボロになっている。
 こんな肥大化したCNの末端は変わらず資源の標的のままだ」

やはり、敵がやってきていて侵入防止で除いたらしい。
侵攻というよりリソース目当てに入り込む件数はいつもと同じで、
目の上のタンコブはここでもありえる一角。
向こうまでの距離は約7m、下に降りれば行けるけど確実に濡れる。
部隊で一番ジャンプ力のあるあたしが飛び越えて足場になりそうな物を
持ってこようと決めた。

「いいや、あたしが行って梯子とか持ってくる」
「できそうか? 走り幅跳びで6m超えた事ないだろう?」
「今日はちょっと太股がウズウズしてしょうがなかったし、
 去年よりもっと行けそうな感じだ、うおおふぉおおおおっ!」


バシャアアン

落ちた、やっぱり越えられるわけもなく勢い低下で6m80cmが限界。
残念ながら、個人チャレンジはここで失敗となった。

「おい、大丈夫か?」
「何よここ、敵だってこんな場所来るわけないじゃん!」

実際来るのか来ないのかはともかく悔し紛れに叫ぶ。
別に流れが急でもないのでまったく心配もなく上がれる。
結局隣に丸太があって、それを倒して進んだ。
それから、特に大した出来事も起こらずに哨戒は終了。
敵と一度も遭わずにホームメイロだけ味わってハプニングとばかり
あたしだけずぶ濡れになって巡回は終わった。


数時間後 荒野南東エリア

 こうして、ナガノ分隊は待ち合わせ場所に着いた。
岩場の目につきにくい後ろにノーバディを止めて降りる。
しばらくして、取引相手も到着して姿を現す。

「こいつは・・・」
「細長い機体だな」

直方体どうしを連結した様なビークルで参上。
ライオットギアなのかは分からない。
少なくとも中部にはなく見た事がない形状だ。
中から数人の兵達が出てくる。
中心にリーダーらしき人物が自分達に運搬物の要求を迫った。


「シガCNに注文した物はそれだな?」

黒いスーツの男達が出てくる。
位置的に関東の者だろうか、少なくとも中部には見かけない。
今回の取引先が連中で間違いないようだ。
リーダーの男が質問と同時に資源を受け持つと言う。
自分は請けた物資の確認を聞く。

「注文のリソース、500相当で間違いないな?」
「・・・間違いない、ご苦労だったな。
 謝礼はもう済んだな?」
「報酬はすでに向こうから受けた、必要ない。
 しかし、ずいぶんと深量なブツだな」
「知る必要はない、くぞ」

ブウウウウン

相手は去っていってしまった。
取引はあまりにも早く、ほんの少しだけの会話で終了。
急ぎ早な態度であっけなく退散されて呆然ぼうぜんとする。

「あいつら、何だったんだ?」
「CNに所属していない野党か何かかもな。
 運び屋は運搬だけしていろという事か・・・」

全ての決定者はもとい司令官などの最高責任者のみで、
一兵の一存など全てを知る余地すらない。
結局は今回の任務はこれで終わり、依頼者や物の事情は
何も分からずにラボリは終了で印を閉じる。










「・・・・・・」

帰り支度をするナガノの分隊から800m離れた場所で、
複数の視線が彼らに集中している。
何者かがジッとその一部始終を眺めていた事に、
そこにいたロビン達は気付いていなかった。
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