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3章 東西都市国家大戦編

第14話  濃霧

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アキタCN拠点

「お前ら小隊だけで行くのか?」
「「ええ、今回は珍しく地元で10人部隊を編成できたんです。
  特に敵影反応もないようですし、最近あまり活躍していませんから」」

 ロックは無線でメイソン、イザベルと話をしていた。
イワテで中規模の偵察ラボリを開始する決定がでたらしい。
他地方で不穏な事件もあり、メンバーの意志をんだ行動を
とりたいと、せめてもの哨戒だけはきちんと行おうという姿勢だ。
しかし、この日は天候がやや不順になりそうで視界が悪化、
特に山林で動き回る活動にはあまり相応しくない。
それでも、彼女達は行くと言う。兄はここ最近の好調で哨戒に余裕が
でてきたから大丈夫だと通話越しで言う。

「「関東も全てじゃないけど、一番近いCNはだいたい同盟できて
  敵性の心配がなくなってきた。北側のこっちは海側はそうそう
  油断できないけど、内地はほぼ安全区域になって気にするのは
  資源だけになったからね」」
「「もちろん自然災害だけは意識しています、発生中に出るほど
  無謀じゃないのでそうなる前に帰るので大丈夫ですよ」」
「あ~、そうだな。そういや、濃霧が出る時期だったな。
 俺も昔はよく迷いそうになった時もあったな。
 イワテにはまだたくさん兵士いるだろ?
 こんな悪天候なら、ベテランに任せときゃ・・・」
「「確かに、作戦展開の悪エリアに直接向かわせるのは忍びないが、
  偵察くらいなら大丈夫だろう。同盟から安全性も一気に上がって
  妹も行きたいと、可愛い子には旅をさせよってね」」
「「もう、兄さんってば」」
「あーそーか」

2人の恋人の様な漫談まんだんもほどほどに受け流す。
早い話、CNもだいぶ安定して味方によって南北ガッチリ固まり、
若い連中を外出させる機会が増えたようだ。
イワテも一般兵のところはいつもと変わらぬ様子なのは分かった。
確かに最近のここは緊張感も薄れている。
関東か中部で妙な話があったらしいが、向こうだけの事だろう。
特に何も起こらないだろうと、事態も受け流す様に納得した。


アキタCN 市民街

 一方でカレンとマイは近場の街へ巡回していた。
前と比べて人入りもかなり多く見かけるようになり、
貿易が盛んになった様子が一目で分かるようになった。
新しい食べ物、乗り物、かつて敵だったCNの技術がこぞって入って
目線の狭い女性でも興味を持ち始める事が増えてゆく。
そこに1つ、同盟国から物質の運送が来る、ナガノCNだ。

「おーい、名産地持ってきた!」
「ナガノの子か、こりゃまたおいしそうなで」
「あたしを食べる気か?」
「方言、省略してるだけだから気にしないで。
 ナガノって、内地のCNなんだね」

ヨゼフィーネという子が貿易運搬しにきてくれた。
前に同盟した時にたまたま近くにいた子と再び再会。
聞けば輸送隊の1人で今日はここに来たという。
他のエリアと密接な関係に位置するゆえ、円滑な物資の移動に
優れているのが内地の利点で、ナガノCNの十八番おはこだ。
移動ルートも増したので、行動範囲も流通で自然と広がるが
同様に警戒度も下がり気味になってきてはいる。
カレンは空飛ぶビークルを観てホッカイドウの物とは違うと気付いて、
中部さながらのやり方に関心をもって言った。

「まあ、最近は運びを中心に動くのが多いな。
 あたしらホワイトキャラバンは荷物運びがメインだし、
 今日は父ちゃんとは別行動だ」
「あのブットイ男の人か、未成年を他地方に送るなんてどうって思うけど、
 敵がいないと分かれば安心しきってるのね」
「そうかもな、安全な場所ができたと分かれば警備レベルも減らせて、
 市民側もあたし達と同じ仕事をする者がでてくるって言ってた」
「ホッカイドウと一緒になれたなんて意外だったけど、
 敵地からおもいっきり離れてるここらは製造業中心に
 変わるかもしれないって母ちゃん司令も言ってた。
 そうなったら、私達の役割も減ってくるわね」
「こんな短期で多くのチームが出来上がったんだし、
 取り分で仲間割れするCNもでてくるかも」
「・・・・・・」

彼女達の会話を聴いていたヨゼフィーネの顔が真顔になる。
心中には、アイチCNの事情が浮かんでいた。
東との同盟には成功したものの、中部地方は分断されて
別々になってしまっている。
最も気になるクロム達は西側についてしまった。
立場としては敵、対面した時は戦わなくてはならないのがCN法。
しかし、こんな話は周りはおろか、父のロビンにも話せない。
店のイスに座り込む、まだ話を続けている東北の声には入らずに、
西の方へと顔を向けているだけだった。


数時間後 羽奥山脈

「定時連絡、こちらメイソン分隊。特に異常なし」

 メイソンとイザベル達は互いに分隊を分けて山々を渡り歩く。
今回は6人で見回りする事になり、珍しくチーム編成をする。
しかし、指揮を受けて妹とは違うルートとなって
結局、別行動をとる事にしたようだ。
しかも、霧が濃く立ち込めているので身を固めた方が安全だと
伝えたが、妹は別行動をとると返した。

「今日はちょっといつもより濃くなってるな。
 そっちは足場もあまり良くない、お前達だけで大丈夫か?」
「「あっちのルートも回らないといけないでしょ?
  私達が行ってくるから兄さんは向こうをお願い!」」
「なら、お言葉に甘えてそうする、頼んだよ」
「「頼まれました」」

妹はそう応えて通信を切る。濡れてもお構いなしと、
見えぬ水蒸気を散らしながら妹達は森林へと入っていった。


アキタCN 市民街

「こちらアキタCN分隊・・・え、敵と遭遇したですって?」

 連絡先はイワテCNからだった。
カレンは突然連絡を受けてリンゴが手から1つ落ちてしまう。
すぐ隣のCNで、しかも山林内で起きた出来事だと言われて
正直、どうなっていたのかよく分からない。
ただ、相手の声からして様子が慌ただしいのが分かる。
どんな事件発生の知らせを聞いて状況が整理しきれず、
突然の知らせがここにきて詳細もよく伝えてくれずに急応。
周りは出はからっていて無線からでない。

「すぐそっちに行くから待ってて!」

敵性CNの軍勢かと聞いても違うらしい。
異常事態とだけ分かり、ここで待ってるのも気が引ける。
ロックも今出かけていてここにいないので、
どんな状況なのかをハッキリ確認しようと、
彼女は1人で現地へと向かった。


イワテCN拠点 医療室

 イワテの拠点に到着した時は、男達の悲痛な叫び声ばかり。
あまりにも偏った性別ばかりの集まりに異常な様子が目に入った。
医療関係からして命にかかわる分野、出来事なのはすぐに理解。

「すみません、何があったんですか!?
 あの・・・ちょっと通ります・・・ええと・・・ちょっとそこを」

詳しく知ろうと女の私がどうにか間に分け入って原因のある所まで
どうにか行こうと複数の嘆きに紛れて向かう。
どうして男達ばかりがこんな感情をあらわにしているのか?
一室に踏み入った私の前には、見たくもない光景が映る。
望まれぬ白いシーツが小さく細長いものをかぶせていた。




















イザベル ロスト



「何故だ・・・どうして・・・妹が・・・。
 うあああああああああああああああああああ!!!」

白い布で全身覆われていた彼女に覆いかぶさり号泣するメイソン。
ほんのわずかな間に起きた出来事。
イザベルの死という出来事が私と彼らの前に現れた。

「ベルちゃああああああん!」
「イワテの白妖精があああ!」
「「信じられない・・・あの子が」」

話では突然飛びかかってきた人型に斬られたらしく、
真っ先に気が付いた彼女がメンバーをかばって盾になったと言う。
対抗しようにも姿は一瞬で消え、ディサルトの向き先は霧しかなく
索敵もまったく反応を示さなかった。

「クソが、どっからいてでやがったァ!?」
「トウキョウか西しかねぇだろ!
 向こうでもそんな話があったしな!」
「おそらく集団対抗で隠密奇襲型を送り付けてきやがったんだな・・・。
 こんなカワイイ子を襲、シュウ、シュシュシュウウゥゥ」
「「許さない・・・絶対に」」

怒号、悲鳴、声にならない声が交ざりだしてゆく。
様々な人達の感情の音が一斉に響き、
静かだった東北に平穏の塊を割く亀裂きれつが生まれ始めた。


イワテCN拠点 指令室

「敵の侵入ルートはどこ?」
「それが、どこにも痕跡が見つからなくて・・・」

 先の状況報告を聞き出すサーナ。
本部も早急に敵の侵入経路を割り出そうと切磋せっさしていた。
しかし、偵察兵の誰1人すら確認できなかったのだ。
羽奥山脈周辺の監視をくぐり抜けてきたのは当然だが、
足跡すら見つからない。わずかな目撃報告でも黒い人型というだけで、
侵入先がほとんど判明していない。

「ここまで証拠を残さない現象は初めてです。
 相当な潜入に特化した者でしょうか?」
「事件は濃霧注意報の寸前にやって来た。
 考えられるのは海側からのケース。
 ならば、わずか短時間で侵入してきた事になる。
 飛空艇、フライヤー型ライオットギアでも不可能」

主に海域巡回しているホッカイドウCNも何かしら捉えているはず。
当然、海からの報告は一切ない。
1人のオペレーターの報告のみが、現状を説明するだけであった。

「四陸海岸からも報告無し。
 各駐屯地の監視カメラでも、一切映っておりません」
「こちら東北ではありませんが、交戦記録があります。
 同盟国のグンマCNで戦闘があったという報告がだされています。
 ですが、九州兵と判明してあまりにも侵攻理由が雑なので、
 関連性は今のところ不明のようです」
「・・・・・・」

グンマの件に関してはすぐに無関係だと察知。
ただ、自軍の哨戒ルートが少々広がりすぎなのが気になる。
この霧だらけの森に入っていく兵士の動向も納得いかず、
関係者に聞いても泣き崩れてばかりで話にならなかった。
だが、司令官というものは、ここで打開するべき存在。
精一杯の勘を研ぎ澄ます彼女は、ある決断を部下達に発令した。

「警戒レベルを3に上げます。
 偵察兵と突撃兵は海沿いのエリアを中心、
 鉄道兵団は外周沿いに回って下さい!」

サーナの繰り出す警戒態勢が一斉に伝わりだす。
ミヤギ、アキタ、ヤマガタ、ホッカイドウ、アオモリ兵の会話もこわばり
中部で起きた謎の事件による魔の手はここにも伸びる脅威に
東北各地の人達を震撼しんかんさせた。


「マジかよ・・・まるで亡霊じゃねえか」
「そいつはどうやってやって来たんだよ?」
「海からの侵入はなかったんだろ?
 なら、陸からしかなくね?」
「我々偵察兵ですら、そこまで隠密行動をとるのは難しい。
 何者なんだ?」
「たんだでね・・・訳さしかへれさ」

もう安全だと思っていた地方もここでようやく事の重さが分かるまで、
ロストという事実を詰めるように、意識し始める。
大掛かりな軍事組織といった者の仕業でもなく、単独による行動だと
予測できるものの、姿や音もまともに捉えきれていない。
危険、脅威はまだ消えてなく、はっきりとした敵性が見えない中で
側には得体の知れない何かが入り込んでいると少しずつ浸透させていった。


町田エリア

 林に囲まれた地域の細い道を兵士達がビークルで走行している。
先の事件で連絡を聞いた各隊員がかされる思いだ。
そんな中、周囲の状況により機敏になっている者がいた。
デイビッドだ、用事で現場に向かって次のやるべき仕事のために移動。
無線でサーナ司令と話をしている。

「「という理由により、緊急事態対処として哨戒を強化します。
  あなたは一時的に鉄道兵団との合同ラボリを行って下さい」」
「また、向こうとですか?」
「「私が直に指示したので彼らも承諾しています。
  レイチェル総司令官の采配により、最近の近況整理で
  兵団の人員は不足気味となってしまいました。
  あなたなら、指揮系統は再び修復できると思います」」
「了解」

という事で列車に乗って広域哨戒をする任務にとりかかる。
アドルフ、チャス、リュウノスケの汚職による身の固まりは洗い流され、
イワテの人員が崩れて直される中でミヤギの俺にわざわざ指名。
掘り出し物を見つけた感じで無線で連絡をよこしたくらいだ。
とはいえ、突然の敵性襲来に俺も平和ボケから不意討ちを受けた気分だ。
まったく居るはずのない所から敵が湧いて、
今までのやり方を覆されたように思えたから。

 (周回軌道をくぐり抜けて来るのか・・・)

俺の目は鉄道エリアの内側ではなく、外側に向けていて
鉄道ルートに見落としがないか見張っていたのだ。
あの線路を視界に入れない日はほとんどなかった。
そこまでして、そういったエリアばかりいるのも理由がある。
高速で景色が移り変わる光景、相対速度による遠方への警戒意識は
すでに経験して今でも忘れていない。
俺は元鉄道兵団だったからだ。

 (前ばかり見てれば後ろは見えない、それは地上からでも同じで
 他人からのサポートでようやく万全なポジションを保持できる。
 思えば、いつも裏取りばかりされてきた)

ミヤギCNにいた時は鉄道による哨戒が日常だった。
話によると、東北で鉄道組織や設備を採用している理由は
資源と動力源の技術が発展して寒帯の中で迅速に移動できるために
軍事との相性も重なって有効性があると造られてきた。
車両は常に前進し続ける機能で、背後からの警戒度は薄めになる。
当時は自分も前方を意識しすぎていたのが悔やまれたが、
過去による身もすでに遅すぎる事だ。

兵団を辞めたきっかけは、とあるエリア戦。
まだ敵だったホッカイドウ兵によって遠距離射撃を受けていた時だ。
当時はアオモリ方面に向かって移動していて、
その背後からスナイパーライフル狙撃でメンバーがロストされた。
“南側から来るはずがない”という先入観が仇となり、
部下を死なせてしまった罪悪感。時が経っても上達の見込みが
生まれずに自分自身で不向きだと悟り、一般兵に異動した。

 (似た景色が続けば方角を見失いやすい。
 線路も細長い道も、暗い道も死界となるのは結局同じなんだ)

あの暗闇からの狙撃を見落としていた過ちは二度とふまない。
こんな俺がまた向こうに行ってやり直す、車の音もよく聴こえない程に
そう思いつつターミナルへ向かっていった。


鉄道兵団 駅

 ここに着いてから細かい道中の出来事は省略。
何度も見た建物、標識もあれからまったく変わってなく印象もそのまま。
ほんの少しだけ変わった顔ぶれと出会って懐かしさもすぐ側に置く。
あまり語りたくもなく、元同僚に迎えられている中を通り過ぎて
東北の深い暗闇をき消すため、部下に指示をだす。

「闇は視界をさえぎるもの、2等レンズに変更する。
 あまねく光を照らすんだ!」
「はいっ、広域モードに切り替え!」
「サーチライト、オオオオオオン!」

気合の入った元部下達も外部へ目を凝らす。
甲板端のライトの長く明るい光の帯が闇夜を切り拓いていく。
どんなに夜が黒で観えないくらい塗りつぶそうとしても、
人の生み出した技術により暗黒は分解する様に打ち消されてゆく。
軍事ライトの光はより一層明るく照らされて、
兵士達の目は周囲を見定めていった。
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