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3章 東西都市国家大戦編

第13話  色欲の塊1

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中つ国CN 備高竹山駐屯地

「今日はくもりか」

 ケイは中つ国山地の頂上から周囲を見回していた。
いつもの駐屯所の外で美味い空気を意識しないで吸っていながら、
穏やかな風を浴びて偵察指揮をメンバー達に指示。
山頂から地上を眺めるにあたって、ほとんど下が見えず雲に覆われている。
まるで宙に浮かぶ基地みたいな状態だ。

 (あいつもこんな世界を・・・)

報告で西側のCNとほとんど同盟して大きくなってきて、
この基地は中つ国の要で資源運用を主にやっている。
俺もそこの部署でマリさんの凄腕に助けられつつこなしていた。
場所が場所だけあってこんな山の上で建てられた理由が少し分かる。
ここはまだ地上といえども、飛空艇にいるみたいに感じる。
気に入らなくとも、エイジもこんな光景を観ているのだろう。
自分の中には絶えず、あの男が残り続けている。
だが、もう個人の感情で勝手な行動は起こさない。
1つの敷地を任され、1つの組織を任されたんだ。
肩のワッペンのデザインが新たにい付けられている。
そう、今日をもって正式にここの隊員になったのだ。
もちろん、ケイ分隊だけでなく元ヤマグチ兵の分隊副隊長としてもう1人。

「隊長うおお、異常なああああああし!」
「やかましい!」

シンジに呼ばれた言い方もまだ慣れていない。
自分はここでも隊長を任される事になった。
これは昇進とよんで良いのか相変わらずよく分からないが、
置かれた以上はできるだけ任務を全うしなければならない。
そんな中、マリさんが報告にやって来る。

「ケイ隊長、例の画像がこれです」
「これか・・・確かに映ってる」
「なんだこれ?」

駐屯地付近に現れた謎の飛行物体が映っていた。
話はある夜間に、球型ビークルが人知れずに訪れていたらしい。
客人が来たと思いきや誰も覚えがなく、すぐに南へ離れていったようで、
ここからその物体まで青い光の様な線が細く観える。
時期的には関西同盟前に撮影されたもので、
南方から飛来してきたという目撃情報が一部で上がっていたのである。

「う~ん、原型は中つ国のと同じだね」
「でも、撮影当時はどのCNもここ一帯の利用履歴がありません。
 おそらく、敵性CNのアブダクトより紛れて来たと予想されます」

当時の偵察は皆、味方の物だと勘違いして阻止しなかったという。
空の管轄で動く星団の仕業と疑う兵達も多いが、被害もなく無報告。
ただ、確定情報とはいえず混乱を招くだけなので
まだ上には報告しないでおくようにした。
さっそく、その1人のヒロシマ司令官が様子を見に参上する。

「おーっす、守備はどう?」
「アイ司令、調です」

先程の様子も言いくるめて順調と報告する。
アイにで話すケイだった。

「いつもここの巡回ばかりで大変ですね」
「拠点から一番近いとこはあたしだからね。
 実質、ここは第2のヒロシマ拠点になりかけてるわ」

彼女はヒロシマ司令官にも拘わらず面倒見が良い。
位置的にもそうだが、先の事件の反省を活かしたのか
ヒロシマ兵達の動きの鋭さはいつにも増しているようだ。
外側だけでなく、内側の妙手に目を光らせて対応する
意気込みが頼もしく感じる。

次に気になるのは、やはり碧の星団だ。
紛れに司令官達にとって、星団の動きがどうなっているのかを
知りたくて聞いてみた。

「星団の動きはどの様に?」
「最近は中つ国から範囲を広げて他地方へ飛ぶようになったわ。
 地上班はいつもと同じ。
 オイスタークラブの報告も特になし、平和なものよ」
「そうですか・・・ところで、基地内の備品ですが、
 ヒロシマの拠点に持って帰らないんですか?」
「あー、全部は無理よ。
 ここ数年で増産しすぎたのもあるから、こっちに置いとく」

来たばかりの時は彼女の私物がいたる所に置きっぱなしで、
ヒロシマの私物が散漫していたが、1つ気になったのは
特に要人専用部屋にある黒いオブジェだ。

「アイ司令の私物も、まだいくつか残ってますよ。
 あの部屋には変な黒い物がありますけど?」
「そのままにしておきなさい、どうせ使い道がないし。
 同盟の証として置いてあるだけだから」
 (じゃあ、なおさら大切に保管しておけば良いんじゃ?)

以前、アイが盗まれたとわめいていた物は無事に帰ってきた。
同盟式から再び元の位置に戻しておいた謎の物体だが、
なぜか四国の偵察兵が持っていたのが分かり、戻ってきたという。
結局、謎のビークルは四国兵の仕業という事で終わっていた。
相変わらず使い道があるのか、誰も理解できない。
反重力もそんなもので、出処でどころが正直不明な物ばかり多い気がする。
彼女はそのオブジェはここに置いておくと言いながら
違う石のオブジェを削り始めた。
ここには多くの司令官もやって来る。
同盟という繋がりの象徴として、目立つ場所が良いらしい。

「同盟の証か・・・。
 なんで、わかれたりたりくっついたりしてるんだろう・・・」
「ま、それはそれで後々やっていくとするわ。
 予定がある程度済んだら食べに行きましょ。
 本物のオイスターカキを食べさせてあげるわよ。
 これは新しいIDカードよ。
 あんたら全員ここの部署だから、今度からこっち使って」
「ははは、ありがとうございます」

近況は駐屯地だけの出来事ではあるが、資源ルートの改革もあり
各CNも対応に追われているので再配置や編成に関わる話は
自分達だけに限らなかった。

 (俺に託されたもの・・・)

以前、オカヤマ司令に言われた事を思い返す。
託されたという意味は、ここ駐屯地だけの話だけではなく
オカヤマCNでの話だ。


数日前 オカヤマCN拠点 ロビー

「お前の親父さん、カズキ総司令がお前に託したものがそれなのか?」
「はい、この発動機です。マナミに襲われた時に俺にわたしてくれて」
「確かに汎用型の物とは違うな・・・形状、素材、一部は同じだが
 基盤AIがまったく異なる規格なのか」
「よくは分かりませんが、そうみたいです」

 白金色の円盤型のこれはあまりにも独自性をもつもので、
内部はこじ開けられない程にまで頑丈に造られている。
ただ、自分の声で反応する仕組みになっているようで
護衛用に残してくれていたようだ。
あらかた試したところ、しがみついて空中浮遊、敵影反応など
バディとして役に立っている。
でも、形からしてCNにとっても知っている技術に思えた。

「俺は素人だから中身は分かんないですけど、
 形を見ていてちょっと思った事があるんです」
「ん、どうした?」
「これ、トットリのドローンと同じ形なのに、オカヤマ所属だった父さんが
 個人で開発していたのってなんでか、司令はこれに覚えがありますか?」
「・・・・・・」

アキヒコは沈黙する。
これに何か問題でもあるのかと思いきや、
急に星団、エイジの話題に切りかえた。

「そうだ、明らかに総司令権限を流出されたから技術もそうなっただけだ。
 碧の星団を野放しにさせ過ぎて・・・あんな技術も先取りされて。
 エイジの動向まで読めなかったのも私の責任だ」
「それは違います!」

そこは大きく否定する、司令官として適切な処置を行えずに
責任を抱えようとするアキヒコをかばうのは当然だ。

「全てはあいつがやった事、全てはあいつのせいです!
 あなたが気に病むのは間違いです」

エイジの単独行動、100歩ゆずっても星団の意図なのは
自分は始めから分かっている。
人は山を1つ隔てただけで、拒絶するくらい単純な生き物なら
逆に単純な感性で変えていけば良い。

「自分も親とマナミを失いました。
 我を忘れて、周りが見えなくなるのと同じです」
「そうだな」
「自分が言うのもなんですが、人というのは
 “観えないものを恐れるから差別して隔離する”
 手段をとるんだと思います。エイジが手にかけたのも、
 マナミが怖いからそうしたに違いない」

久しぶりにカッコつけた言い方するのもなんだけど、事実だから言う。
昔から人は、山や暗闇は恐怖の象徴として扱われたものだ。
山を取っ払えないならば登れば良い。
暗闇で見えないならば明るくすれば良い。
単純な二元論でものを考えるというシンプルな構造で考え、
いつもの思考でやっていくのが良いと司令に素直に伝える。

「だから・・・自分も単純な目でモノを見る事にしました。
 だから、シンプルに司令官だから立場上そうするで、え~と。
 だから、良いんじゃないでしょうか?」
「はははは」

アキヒコは笑う、ケイはいつも通りだと思われたのだろう。
説得が効いたのか、彼もシンプルな立ち回りでやっていくと言いだした。

「単なるシンプルさ、複雑な2つの混乱。
 時にはお前のような単純な者が良いものなのか」
「え、う~ん・・・?」
「中つ国山地の管理を指揮したのはあの人だ。
 ならば、無機質に“総司令の指示に従ったから”で良いか?」
「司令・・・そ、そうですね」
「正反対という原理も、ここまで異なるもんだな。
 やはり、お前をこちらに残したのは正解だ。
 地上の空はこれからお前が継いでいくんだ」
「はい!」


星団飛空艇 艦内

「また、ここに入団者ですか?」
「ああ、しかも数人来るらしい。今度からは賑やかになるぞ」

 カナがエイジから近況を知らされる。
最近になってから、エイジは星団入隊を手広く募集している。
星団の存続を長く保つため、入隊資格を緩やかに変更する方針にでたのだ。
それが功を期して、少しずつながらもやって来る者達がいた。

「今まで手数が足りなかった分を取り戻せるな。
 ドローン操作といっても、あくまで操縦するのは人間。
 これでアーロンさんの手間も少なくなるでしょ」
「今のとこは、27の俺が年長者だ。
 もっと手練れなモンが来てくれりゃあね」

手作業でそう言いつつ答えるアーロンだが、
言葉とは裏腹に目つきは異なった色でエイジを観ている。

 (少し、ふところが緩くなってきたか?)

彼は心の中でエイジの方針の急転に疑問をもっていた。
今までは中つ国CNの選りすぐりしか入れなかった星団が、
制限を緩めるように公に募集する様になった。
集めるにも主に外側地方のCNからの介入ばかりで、
多方面から招き入れる事に何の意味があるのか、
無理解な動向に少し疑いが生まれ始める。

 (囲い込みはこんなものだろう、後は少しずつ進めていくだけだ)

対して、エイジがそんな疑われるような思いを抱くものの、
身内にも気付かれないように何かを案じて画策。
誰にも詳細を明かす事なく判明するには、もう少しの時間がかかった。


数日後 研究室

 それからしばらくして、星団達はいつもの行動をとっていた。
同盟以降、資源ルートも少しずつ変化してきているものの、
星団自体の立ち回りは基本的に巡回と調達と同じだが、
カナがなにやら独自的に動こうとする計画をとり始める。
最近気になっている事が1つあるようだ。

 (空調設備工事も改革しなきゃ)

地上から数百mも高く滞在するために、気圧の違いで耳鳴りも度々起こる。
実働部隊の彼らにとっては何とも思わないらしいが、
内務の彼女にとってはいささか問題だ。
改良工事も決してタダではなく、さらに結果もださなければ
長居させてもらえない。
せめて、個人でも何か動ける事があればと地表について
出来立てのスキャナーで物質の性質について調べていたら、
何やら見慣れぬデータベースに未記載なものが映っていた。

 (この反応は何?)

ほんの一箇所に、今まで見た事がない反応が表示されている。
他のメンバー達は気付いていなかったのか、聞こうと思ったが
まずは自分自身の手で綿密に調べてみようと試みた。
しばらくして、エイジが飛空艇を着陸させるという。

「カナ、ちょっと来てくれ!」
「はい!」

手頃に止めて休憩中に廊下を歩いていたら、例の入団者達がいた。
エイジの面接も終わり、各施設の見学で見回っているようだが
ハッキリ見えずにメガネを持ってきてかけると、
新入り者達の顔を見たカナは唖然あぜんとする。
そこにいたのは彼女が知っていた人物達であった。

「あなた達は!?」










カナの目の前には、かつて四国CNで従事していた者達。
戦闘機の女整備士達が入団希望により入って来たのだ。
同盟から自由にCN間へ移動できる制限も解除されて
意外な再会がここにあった。

「カナじゃない、あんたもここにいたんだ?」
「A、それにB~Eも!? 」
「反重力関連でここに来たの?」
「え、ま、まあそうね。でも、どうしてここに?」
「配置異動届が認められなかったから、亡命してきた。
 同盟してから自由も増えたし、新しい物もあるしで
 活動範囲が広がるって良いわあー」
「あの女なんかこれ以上持ち上げたくないし、
 同じ空気も吸いたくないからコッチに来た。
 それに、ここのリーダーはカッコイイしね!」
「・・・・・・」

カナは“あの女”が誰なのか、十二分に理解している。
嫌気がさしてこちらに来てしまったのは、同じ理由だ。
自身と違って堂々と嫌味を言いふらす態度で思いが見透かされたかに、
司令そっちのけで彼女達は続く。

「あたしらもカナと同じ事考えてただけよ。
 四国の頃から、そんな女なんてザラにいたわ」
「え、それは・・・」
「ホント、あそこを辞めてって正解ね。
 こんな快適な組織だったなんて知らなかったわ。
 あんたも目利きが早いわね!」
「こっちはイケメンばかりだけど、抜け駆けはダメよ。
 同じ思いをしないよう、今度からはちゃんとしたルールを作って
 男分配法則を成り立たせるんだから!」
「はあ・・・」

いけしゃあしゃあと持論を展開する彼女達に戸惑う。
男目当て、悪くいうなら馬鹿正直にそれが当てはまる。
しかし、彼女達も四国でつちかったノウハウをもつ実力者には変わりない。
希望の星団専用ライオットギアのメドも立ち、
これを機に星団の流れは加速を上げて進んでいった。
彼女達の加入以来、碧の星団に次々とメンバーが増えていく。


数日後 艦内ロビー

 この日、星団の集会が開かれた。
あれから評判が広まってさらにここへ訪れる数が増す。
九州、四国、近江周辺から憧れてやって来る若者達ばかりだ。
ただ、中つ国地方からの入団者だけが見当たらない。
アーロンは今になって、この意図に気付いた。

 (丸め込み・・・これが狙いだったのか)

実はエイジは中つ国のみ募集を施していない。
丸め込みとは元からそこにあったモノを封じようと
外側からの介入で習慣を包み込み、消化して中つ国地方を白紙に戻す。
他者を混ぜる事により、近場の因縁という重力を無効化。
解消しようとするのがエイジの思惑通りに進んでいく事だった。

 (他者介入で地元分散を狙う算段か、機転を利かせたな。
 この坊やもキレが良くなったわ)
 (大したたまをもっている)
 (新しい技術、新しい世界)

古株の星団員の視線と多くの者達に注目されている先は全て、
台に立つ中心の男に向けられ、彼の手で開かれようとするのだ。

「これで一気に施設増強のメドが立った!
 新生、碧の星団を宣言。
 中つ国地方に新たなる世界を構築する!!」
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