169 / 280
3章 東西都市国家大戦編
第4話 パラドックスマン1
しおりを挟む
アキタCN拠点 ロビー
「鉄道兵団のサーナがイワテの司令官に?」
「そうだ、同盟による再編成で彼女も上に就いたようだ」
カレンはデイビッドからイワテ事情を聞く。
一時的措置としてサーナが司令官に就任するらしい。
配置の見直しは東北も同様に行われていたが、
思いもよらず上層部の流動が短期間で多く発生したために、
他CNよりも措置が遅れてしまっていた。
「アドルフがロスト後、イワテは部隊編成の見直しを図ったようだが、
特出した候補者はいない。
汚職を働いたチャスとリュウノスケは営倉行き、
母ちゃん司令はアキタの界隈だけで無理。
他に務まる者がろくにいないから、
残りの鉄道兵団から選出されたんだろう」
「クリーズ司令はどうなの?
あの人は良さそうなイメージがあるけど」
「クリーズはアオモリの司令官で、確かにホッカイドウとの連携もしている。
イワテとの併合も考えたそうだが、1人称のシステムは好まないそうだ。
独占が生みやすく、あのアドルフの二の舞を踏まないように
複数の司令官達でバランスをとる必要があるんだと」
「だから母ちゃん司令もそんな事を言ってたのね」
いわゆる、総司令的な斡旋を行わないという意味。
2人の重役が一斉に降りた事で貿易も変わってしまう恐れが現れるだろう。
サラ司令がアキタの資源について何か言っていたが、
関東との連携も積極的に見張るらしく、
大まかな分配はレイチェル司令に任せる方にした。
鉄道兵団の在り方も今後変わっていくだろうと皆思っていると、
廊下の向こう側から当の本人がやって来た。
「てつど・・・サーナ司令!?」
「ごきげんよう、守備はどうですか?」
「え、ええ、いつも通りでまあ」
噂の来訪者が突然やって来たせいもあり、
言葉をだしたかったが、つい詰まってしまう。
デイビッドが先陣きって話をした。
「鉄道兵団をイワテの本拠地にする予定があると聞いたのですが、
本当ですか?」
「ええ、今まできちんとした本部がなかったので
しばらくはイワテで構えようとします。
現地の人達にも説得しているので心配なく」
元々はアドルフの使軍から始まった組織で交通潤滑のためとはいえ、
彼に対してわだかまりのある者もいるだろう。
そこが気掛かりだったデイビッドは、カレンも知らない様な
意外な事を口にする。
「先程聞いた話ですが、関東に路線を引く件もあるようで
他の影響に抵触する危険性について、どうお考えで?」
(鉄道兵団がそんな事をしようとするなんて・・・)
路線を関東に伸ばす、それは兵団の活動範囲を広げる拡大を意味するもの。
兵団自らの敷地の拡大で問題が生まれる
危険がある事をデイビッドは伝えたかった。
サーナは手慣れた態度で、彼にこう返答する。
「軍備拡張を恐れているのですね、分かります。
あくまでも、私達は彼らとの貿易のためです。
あなたが心配する展開にはなりません」
「路線の拡大は人の生存圏を脅かす原因にもなる。
鉄道規制の件についても・・・」
「ええ、二度とあのような出来事が起こらないよう
今後も共に歩んでいきましょう、では」
サーナ率いる兵団達は帰ろうとする。
横を通り、すれ違いにサーナが2人にそっとささやいた。
「「それとロックさんの事もね・・・私がここにいる以上、
彼に干渉はさせませんのでご安心下さい」」
「!!??」
ロックの出身はすでに鉄道兵団に筒抜けだった。
今まで彼を捕縛しない理由がここにあるのは彼女の采配の
一部によるものだったのである。
どうして隊長をかばうのか?
あっけにとられた2人はしばらく言葉にできず、
背後を振り向く挙動すらできなかった。
サーナは体の大きな方へ一瞬ながら視線を向けたが、
無意味だろうと顔を向きなおして去っていく。
イワテCN シェルター街
「ここだ」
ロックは人の賑わう市民街にまた足を運んでいた。
同盟により、さらに人入りが増して運搬車もより多く見かけて、
関東の者達も活発に出入りする光景が見られるようになった。
実は今回、来たのは自分のみではない。
隣にいたのは関東御目付の1人であるワタルだ。
「やっぱ新天地は良いもんだな」
ワタルは基本、新地に着く度に情報収集を行っている。
いざという時に備え、広く立ち目を回すのだ。
ここが内職的な弟のトオルとは異なる部分である。
そんな彼がどんなセッションで間もなく関われたのか、
東北のロックに案内された。
「しっかし、同盟国案内役も俺ばっかりさせやがって。
いきなりやって来て東北について教えろときたもんだ」
「押しかけ訪問が得意でな、アキタが特に親善っぽいと聞いたし。
侵攻の時は観てる暇もなかったが、なかなか良い所だと思うわ」
「まあ、なんだかんだ言っても、俺もたまにここに来るしな。
少しくらいなら連れてってやる・・・何を知りたいんだ?」
「まず、見るべきところは料理関係か。
ここでオススメな食事とかあるか?」
「そうだな、これを飲んでみな」
ワタルは調味料を探しているようだが、ロックに御当地的な
店で売られていた飲み物を勧められる。
さっそく購入した物を手に取り、飲んでみると。
「ガッ、辛えええ!?」
「どうだ、東北一のホットドリンクは?
これで凍死もなんのそのだ」
「辛えわ!」
そんなやりとりを周りの人達が見て笑う。
喧騒だが、賑やかな場所を好むロックにワタルも気に入り
好んでいる。うっかりと外調査など忘れてしまうまでに楽しんでしまう。
ここが同盟後の醍醐味なのだ。
「しっかし、俺にとっちゃ東北は極寒の地なのは知っていたが、
こんな時代でもノンケアピールする人がいるもんだな」
「イワテは人口もそこそこ多いしな。
それにここは酔っ払いも多くて有名だ。
前にも妙な事くっちゃべっていた奴もいたしな」
「ずいぶんとボキャブラリーあふれる輩もいるのか。
俺のネゴシエーションでそいつらを論破してやるか」
「あんまり絡むなよ、会話にもならねえのばかりだからな。
はあ、ウワサをすりゃさっそく・・・」
やめれば良いのに、何を利かせるのか屁理屈言っている内に、
壁を背に座りうつむいている酔っ払いがいた。
ベレー帽をかぶっている男が何か呟いていているのを、
ワタルはずかずかと当人の前へ歩いて相手しようとするが。
「ちょっと、そこのアンタ。アルコール度数が高めだぞ?
ウコン茶で頭を冷やした方が――」
「えへへっ、砂をかき分けたら最後の一粒は砂といえるのかなぁ?」
「は?」
男の口から発する奇妙な発言は2人の理解を超えていた。
ワタルですら、その内容の返答に困ってしまう。
答える間もなく続けて言い分を発した。
「時間の逆流で親元を抹消したら、
自分は今でも存在できるのかなああ?」
「はあああああ!?」
議題もテーマもへったくれもない話にどう扱えば良いか不明。
意味不明な妙言にワタルは議論の余地の欠片ももてなかった。
ロックは無駄だと引き留める。
「分かったろ? とりあえず、相手にすんな」
「ああ、そうだな」
ロックの言う通り、まったく話が通じずに相手をしてられないと
酔っ払いから場を離れた。
しばらくして、ここにグンマCNの兵もやって来る。
マリサとその一行だが、その中には見慣れぬ人物が1人いた。
「およよ、グンマのお嬢さんじゃないか」
「関東のとこか、わざわざご苦労なこった」
「視察よ、連携強化のための同盟CN巡りってね」
「俺と同じだな、異なるCNとの繋がりは大事。
これを奇遇と言わずして何という!」
「そうよね、幸運な出会いもその分多くなるわ。
今日は彼も連れてきたし」
「かかか彼!?」
勘違いしているワタルを否定しつつ、
マリサはいきなり後ろにいた小柄の研究者を紹介する。
「紹介するわ、トウキョウCNの技術者を務めていたトーマスよ」
「ト!?」
「よ、よろしくお願いします・・・」
関東と東北の顔ぶれが一斉に大人しそうな男の方へ向かう。
トウキョウというワードを聞けば、誰でも大きなリアクションをとるもの。
何事かと空気が張り詰める。
「トウキョウだとォ!?」
「はいはい落ち着いてね。
もうあたし達の仲間なんだからイキり立たない」
グンマが何故トウキョウの関係者を連れているのか?
マリサは成り行きを説明した。さかのぼること東北同盟前、
グンマCNに1機のライオットギアが通りかかった。
敵性の型だと分かり、運搬途中をたまたま破壊したら
中に収容されていた人物が彼だったのだ。
ロックが追及。
「なんで、そんな中に入ってたんだ?」
「実は侵入されたライオットギアにアブダクトされて、
どこかへ連れていかれたところを彼女に救出してもらったんだ」
グンマ兵にポッドから取り出された経緯を話すトーマス。
トウキョウの一角で起きた所以は近場で引き起こされていた。
我先にと注目のトウキョウ兵に質問攻めがくるところ、
ロックはまるでひとまとめにした言い方で聞いてみた。
「それでトウキョウってどんなとこなんだ?」
「そこから聞かれると長くなっちゃうね・・・機構がとても複雑で」
「こういうのは必要事項から聞くのが良いぞー。
“お友達はこっちに来るんですか?”とかな」
「何よ、その言い方?」
「奴らがこっちに来たらまずいだろう?
嗅ぎ付けられたら厄介だ」
ワタルの言葉に周りの兵達がハッとさせられる。
ある意味では危険人物であるトウキョウ兵がここにいるのだ。
もしかしたらスパイで来たんじゃないか?
引き腰になりつつある彼らに、逆に有利さをアピール。
「そんな事はあたし達がさせないから心配しないで。
彼の所有権は紛れてとっても“グンマ”だから、
引き渡しなんて許さないわよ」
マリサはあくまでも渡さない方針に向けるようだ。
そんな簡単に信じるなんて警戒心はどうなのか。
彼女、グンマの守る意志を改めて感じる流れのままに、
トウキョウの話題もそこそこ、メンバー達は解散した。
数時間後
しばらくして、これといった事件もなく生活場面は変わらずに
東北に多くの人達が入り乱れる様に行き来していた。
同盟CNの関係者も貿易に関する提携、新たに造れそうな備品、
軍備拡張の話でもちきりだ。
残っていたグンマ兵は東北の設備巡りをしていて、
そんな中、トーマスは格納庫に並べられたライオットギアを観ている。
珍しそうに金属の人型を眺めているのを、ロックは見かけた。
「お前はさっきの・・・ここであんまぶらついてるとふんじばられるぞ?」
「ごめん、こっちの技術も中々独特だなあと思ってさ」
「そんなもんか? 向こうの方がなんでもあると思ってたが」
「東北が装着している機体、かなり軽量化を意識していると分かる。
外装の合金は青天石でできている物だね。これは珍しいよ!」
「確か、山で採ってきたやつだよな。
トウキョウなら、たくさんあるんじゃねーのか?」
「いやいや、トウキョウだからといって何でもあるわけじゃないよ。
AURO精製するにも密度が高い物程時間がかかる。
しかも、足並みそろえる程の量を確保するのも簡単じゃないよこれは」
「そういうモンか」
「うん、別名:セレスタイトといって液状化しやすい性質ゆえに
高分子振動を高く起こす性質があるんだ。振動のベクトルとして
揺るがす性質によって重力質量を減らす効果があるらしいね」
装甲に青天石と異なる物質を配合し、重量を軽くしていた。
東北ライオットギアの機動の速さがそれによるものだ。
ただ、青天石そのものは脆く、装甲には不向きであるが、
他の物質と組み込む次第では有効な性質があったのだ。
「俺の武器がやたら軽いのもそれなのか、あいつの乗り物も」
「ナックル型か・・・うーん、実戦においてその武器じゃあ、
色々とデメリットが生まれるかも」
「なんだと?」
「怒らないでほしい、すでに言われてたかもしれないけど、
今の世界は銃による遠距離戦が占めている。
閉所以外で有用性はあまり見込めないかも」
「お前もそう言うか・・・クソッ、どうすれば?」
「そうだなあ・・・現実的実践効果を見込むなら追加効果かな。
“打撃”にこだわるというのなら、例えば衝撃に効きやすい物。
有利な機械系の敵相手に有効な設計にした方が良いかもね」
「ゆうこうなせっけい?」
「しばらく時間をくれるかい?」
何か準備すると言ってトーマスはどこかに行ってしまった。
技術者の言葉の意味をロックは未だに理解できなかった。
2日後
「いたいた、例の武器だけど、試作品を作ったよ!」
「なんか、ずいぶんと機械っぽい籠手だな?」
「エアークエイクナックルさ。
共鳴振動籠手、振動における周波数を共鳴させて
分子の結合を緩めて破壊する籠手だよ」
「?」
出会ったばかりなのに、いきなり大層な代物を見せつけられる。
にもかかわらずに彼はわざわざ武器を造ってくれた。
それをロックの腕にはめさせて、2種類のプレートを用意する。
ガラスを手前に、木の板を後ろに重ねて突き出した。
「手前にあるガラスを割らずに、後ろにある板を壊せるかい?」
「ホッ!」
バキッ
「あ」
ガラスは割れてしまう、予想通りに板もガラスも割れてしまった。
こんな事は常識で、子どもだって理解できる出来事に決まっている。
「普通に考えても無理だろ、ガラスが前にあんだから」
「普通に殴ってしまうと、当然そうなるよね。
そこで、周波数計測装置をオンにして一度その板に触れてみて」
ブゥン
「次に、君は力を入れ過ぎずにパンチを入れてみて」
「こ、こうか?」
パスッ ヴヴヴヴヴ パカッ
「な!?」
ガラスは割れずに板だけが割れた。
何が起きたのか理解しきれず、ロックの目が丸くなる。
マジックと言いたげに、トーマスはトリックを明かす。
「籠手に周波数をおぼえさせたんだよ。
板と同値の周波数を籠手から発生させたんだ」
「・・・なにがどうなってんだか」
「ガラスのコップに向かって叫ぶと割れるのと同じ原理だね。
高分子振動は1つの物質をまたいで奥の物質へとどかせる。
その物質なら、あらゆる周波数の振動を出せるから
おあつらえ向きかと思ってね」
叩き付けた異なる衝撃は青天石の効果が後押しする。
高分子振動が安定しながらも高く起こせる物質で、
検知センサーと他の合金鋼と組み合わせて作られた逸品は、
ここ東北に新たな技術をもたらした。
しかし、それによる弊害もまた生まれる危険性がある事をは忠告した。
「ただ1つ注意する事があるよ」
「なんだ?」
「やりようでは、内蔵に直接ダメージを与えてしまう。
そうなれば、人体は無事じゃすまない。
できれば、君は人兵よりも発動機やライオットギアみたいな
機械系専門で対処してほしいかも」
「敵なら、相手が人だろうと同じだろうよ?」
「君がそう思うのならばね。
でも、大きな力は必ず身に降りかかってくる。
素晴らしい道具も、使い道次第で大量破壊兵器になる危険性も
集まりにいるなら頭に入れておくもの。
従軍者ならば、なおさらね」
「・・・・・・」
「鉄道兵団のサーナがイワテの司令官に?」
「そうだ、同盟による再編成で彼女も上に就いたようだ」
カレンはデイビッドからイワテ事情を聞く。
一時的措置としてサーナが司令官に就任するらしい。
配置の見直しは東北も同様に行われていたが、
思いもよらず上層部の流動が短期間で多く発生したために、
他CNよりも措置が遅れてしまっていた。
「アドルフがロスト後、イワテは部隊編成の見直しを図ったようだが、
特出した候補者はいない。
汚職を働いたチャスとリュウノスケは営倉行き、
母ちゃん司令はアキタの界隈だけで無理。
他に務まる者がろくにいないから、
残りの鉄道兵団から選出されたんだろう」
「クリーズ司令はどうなの?
あの人は良さそうなイメージがあるけど」
「クリーズはアオモリの司令官で、確かにホッカイドウとの連携もしている。
イワテとの併合も考えたそうだが、1人称のシステムは好まないそうだ。
独占が生みやすく、あのアドルフの二の舞を踏まないように
複数の司令官達でバランスをとる必要があるんだと」
「だから母ちゃん司令もそんな事を言ってたのね」
いわゆる、総司令的な斡旋を行わないという意味。
2人の重役が一斉に降りた事で貿易も変わってしまう恐れが現れるだろう。
サラ司令がアキタの資源について何か言っていたが、
関東との連携も積極的に見張るらしく、
大まかな分配はレイチェル司令に任せる方にした。
鉄道兵団の在り方も今後変わっていくだろうと皆思っていると、
廊下の向こう側から当の本人がやって来た。
「てつど・・・サーナ司令!?」
「ごきげんよう、守備はどうですか?」
「え、ええ、いつも通りでまあ」
噂の来訪者が突然やって来たせいもあり、
言葉をだしたかったが、つい詰まってしまう。
デイビッドが先陣きって話をした。
「鉄道兵団をイワテの本拠地にする予定があると聞いたのですが、
本当ですか?」
「ええ、今まできちんとした本部がなかったので
しばらくはイワテで構えようとします。
現地の人達にも説得しているので心配なく」
元々はアドルフの使軍から始まった組織で交通潤滑のためとはいえ、
彼に対してわだかまりのある者もいるだろう。
そこが気掛かりだったデイビッドは、カレンも知らない様な
意外な事を口にする。
「先程聞いた話ですが、関東に路線を引く件もあるようで
他の影響に抵触する危険性について、どうお考えで?」
(鉄道兵団がそんな事をしようとするなんて・・・)
路線を関東に伸ばす、それは兵団の活動範囲を広げる拡大を意味するもの。
兵団自らの敷地の拡大で問題が生まれる
危険がある事をデイビッドは伝えたかった。
サーナは手慣れた態度で、彼にこう返答する。
「軍備拡張を恐れているのですね、分かります。
あくまでも、私達は彼らとの貿易のためです。
あなたが心配する展開にはなりません」
「路線の拡大は人の生存圏を脅かす原因にもなる。
鉄道規制の件についても・・・」
「ええ、二度とあのような出来事が起こらないよう
今後も共に歩んでいきましょう、では」
サーナ率いる兵団達は帰ろうとする。
横を通り、すれ違いにサーナが2人にそっとささやいた。
「「それとロックさんの事もね・・・私がここにいる以上、
彼に干渉はさせませんのでご安心下さい」」
「!!??」
ロックの出身はすでに鉄道兵団に筒抜けだった。
今まで彼を捕縛しない理由がここにあるのは彼女の采配の
一部によるものだったのである。
どうして隊長をかばうのか?
あっけにとられた2人はしばらく言葉にできず、
背後を振り向く挙動すらできなかった。
サーナは体の大きな方へ一瞬ながら視線を向けたが、
無意味だろうと顔を向きなおして去っていく。
イワテCN シェルター街
「ここだ」
ロックは人の賑わう市民街にまた足を運んでいた。
同盟により、さらに人入りが増して運搬車もより多く見かけて、
関東の者達も活発に出入りする光景が見られるようになった。
実は今回、来たのは自分のみではない。
隣にいたのは関東御目付の1人であるワタルだ。
「やっぱ新天地は良いもんだな」
ワタルは基本、新地に着く度に情報収集を行っている。
いざという時に備え、広く立ち目を回すのだ。
ここが内職的な弟のトオルとは異なる部分である。
そんな彼がどんなセッションで間もなく関われたのか、
東北のロックに案内された。
「しっかし、同盟国案内役も俺ばっかりさせやがって。
いきなりやって来て東北について教えろときたもんだ」
「押しかけ訪問が得意でな、アキタが特に親善っぽいと聞いたし。
侵攻の時は観てる暇もなかったが、なかなか良い所だと思うわ」
「まあ、なんだかんだ言っても、俺もたまにここに来るしな。
少しくらいなら連れてってやる・・・何を知りたいんだ?」
「まず、見るべきところは料理関係か。
ここでオススメな食事とかあるか?」
「そうだな、これを飲んでみな」
ワタルは調味料を探しているようだが、ロックに御当地的な
店で売られていた飲み物を勧められる。
さっそく購入した物を手に取り、飲んでみると。
「ガッ、辛えええ!?」
「どうだ、東北一のホットドリンクは?
これで凍死もなんのそのだ」
「辛えわ!」
そんなやりとりを周りの人達が見て笑う。
喧騒だが、賑やかな場所を好むロックにワタルも気に入り
好んでいる。うっかりと外調査など忘れてしまうまでに楽しんでしまう。
ここが同盟後の醍醐味なのだ。
「しっかし、俺にとっちゃ東北は極寒の地なのは知っていたが、
こんな時代でもノンケアピールする人がいるもんだな」
「イワテは人口もそこそこ多いしな。
それにここは酔っ払いも多くて有名だ。
前にも妙な事くっちゃべっていた奴もいたしな」
「ずいぶんとボキャブラリーあふれる輩もいるのか。
俺のネゴシエーションでそいつらを論破してやるか」
「あんまり絡むなよ、会話にもならねえのばかりだからな。
はあ、ウワサをすりゃさっそく・・・」
やめれば良いのに、何を利かせるのか屁理屈言っている内に、
壁を背に座りうつむいている酔っ払いがいた。
ベレー帽をかぶっている男が何か呟いていているのを、
ワタルはずかずかと当人の前へ歩いて相手しようとするが。
「ちょっと、そこのアンタ。アルコール度数が高めだぞ?
ウコン茶で頭を冷やした方が――」
「えへへっ、砂をかき分けたら最後の一粒は砂といえるのかなぁ?」
「は?」
男の口から発する奇妙な発言は2人の理解を超えていた。
ワタルですら、その内容の返答に困ってしまう。
答える間もなく続けて言い分を発した。
「時間の逆流で親元を抹消したら、
自分は今でも存在できるのかなああ?」
「はあああああ!?」
議題もテーマもへったくれもない話にどう扱えば良いか不明。
意味不明な妙言にワタルは議論の余地の欠片ももてなかった。
ロックは無駄だと引き留める。
「分かったろ? とりあえず、相手にすんな」
「ああ、そうだな」
ロックの言う通り、まったく話が通じずに相手をしてられないと
酔っ払いから場を離れた。
しばらくして、ここにグンマCNの兵もやって来る。
マリサとその一行だが、その中には見慣れぬ人物が1人いた。
「およよ、グンマのお嬢さんじゃないか」
「関東のとこか、わざわざご苦労なこった」
「視察よ、連携強化のための同盟CN巡りってね」
「俺と同じだな、異なるCNとの繋がりは大事。
これを奇遇と言わずして何という!」
「そうよね、幸運な出会いもその分多くなるわ。
今日は彼も連れてきたし」
「かかか彼!?」
勘違いしているワタルを否定しつつ、
マリサはいきなり後ろにいた小柄の研究者を紹介する。
「紹介するわ、トウキョウCNの技術者を務めていたトーマスよ」
「ト!?」
「よ、よろしくお願いします・・・」
関東と東北の顔ぶれが一斉に大人しそうな男の方へ向かう。
トウキョウというワードを聞けば、誰でも大きなリアクションをとるもの。
何事かと空気が張り詰める。
「トウキョウだとォ!?」
「はいはい落ち着いてね。
もうあたし達の仲間なんだからイキり立たない」
グンマが何故トウキョウの関係者を連れているのか?
マリサは成り行きを説明した。さかのぼること東北同盟前、
グンマCNに1機のライオットギアが通りかかった。
敵性の型だと分かり、運搬途中をたまたま破壊したら
中に収容されていた人物が彼だったのだ。
ロックが追及。
「なんで、そんな中に入ってたんだ?」
「実は侵入されたライオットギアにアブダクトされて、
どこかへ連れていかれたところを彼女に救出してもらったんだ」
グンマ兵にポッドから取り出された経緯を話すトーマス。
トウキョウの一角で起きた所以は近場で引き起こされていた。
我先にと注目のトウキョウ兵に質問攻めがくるところ、
ロックはまるでひとまとめにした言い方で聞いてみた。
「それでトウキョウってどんなとこなんだ?」
「そこから聞かれると長くなっちゃうね・・・機構がとても複雑で」
「こういうのは必要事項から聞くのが良いぞー。
“お友達はこっちに来るんですか?”とかな」
「何よ、その言い方?」
「奴らがこっちに来たらまずいだろう?
嗅ぎ付けられたら厄介だ」
ワタルの言葉に周りの兵達がハッとさせられる。
ある意味では危険人物であるトウキョウ兵がここにいるのだ。
もしかしたらスパイで来たんじゃないか?
引き腰になりつつある彼らに、逆に有利さをアピール。
「そんな事はあたし達がさせないから心配しないで。
彼の所有権は紛れてとっても“グンマ”だから、
引き渡しなんて許さないわよ」
マリサはあくまでも渡さない方針に向けるようだ。
そんな簡単に信じるなんて警戒心はどうなのか。
彼女、グンマの守る意志を改めて感じる流れのままに、
トウキョウの話題もそこそこ、メンバー達は解散した。
数時間後
しばらくして、これといった事件もなく生活場面は変わらずに
東北に多くの人達が入り乱れる様に行き来していた。
同盟CNの関係者も貿易に関する提携、新たに造れそうな備品、
軍備拡張の話でもちきりだ。
残っていたグンマ兵は東北の設備巡りをしていて、
そんな中、トーマスは格納庫に並べられたライオットギアを観ている。
珍しそうに金属の人型を眺めているのを、ロックは見かけた。
「お前はさっきの・・・ここであんまぶらついてるとふんじばられるぞ?」
「ごめん、こっちの技術も中々独特だなあと思ってさ」
「そんなもんか? 向こうの方がなんでもあると思ってたが」
「東北が装着している機体、かなり軽量化を意識していると分かる。
外装の合金は青天石でできている物だね。これは珍しいよ!」
「確か、山で採ってきたやつだよな。
トウキョウなら、たくさんあるんじゃねーのか?」
「いやいや、トウキョウだからといって何でもあるわけじゃないよ。
AURO精製するにも密度が高い物程時間がかかる。
しかも、足並みそろえる程の量を確保するのも簡単じゃないよこれは」
「そういうモンか」
「うん、別名:セレスタイトといって液状化しやすい性質ゆえに
高分子振動を高く起こす性質があるんだ。振動のベクトルとして
揺るがす性質によって重力質量を減らす効果があるらしいね」
装甲に青天石と異なる物質を配合し、重量を軽くしていた。
東北ライオットギアの機動の速さがそれによるものだ。
ただ、青天石そのものは脆く、装甲には不向きであるが、
他の物質と組み込む次第では有効な性質があったのだ。
「俺の武器がやたら軽いのもそれなのか、あいつの乗り物も」
「ナックル型か・・・うーん、実戦においてその武器じゃあ、
色々とデメリットが生まれるかも」
「なんだと?」
「怒らないでほしい、すでに言われてたかもしれないけど、
今の世界は銃による遠距離戦が占めている。
閉所以外で有用性はあまり見込めないかも」
「お前もそう言うか・・・クソッ、どうすれば?」
「そうだなあ・・・現実的実践効果を見込むなら追加効果かな。
“打撃”にこだわるというのなら、例えば衝撃に効きやすい物。
有利な機械系の敵相手に有効な設計にした方が良いかもね」
「ゆうこうなせっけい?」
「しばらく時間をくれるかい?」
何か準備すると言ってトーマスはどこかに行ってしまった。
技術者の言葉の意味をロックは未だに理解できなかった。
2日後
「いたいた、例の武器だけど、試作品を作ったよ!」
「なんか、ずいぶんと機械っぽい籠手だな?」
「エアークエイクナックルさ。
共鳴振動籠手、振動における周波数を共鳴させて
分子の結合を緩めて破壊する籠手だよ」
「?」
出会ったばかりなのに、いきなり大層な代物を見せつけられる。
にもかかわらずに彼はわざわざ武器を造ってくれた。
それをロックの腕にはめさせて、2種類のプレートを用意する。
ガラスを手前に、木の板を後ろに重ねて突き出した。
「手前にあるガラスを割らずに、後ろにある板を壊せるかい?」
「ホッ!」
バキッ
「あ」
ガラスは割れてしまう、予想通りに板もガラスも割れてしまった。
こんな事は常識で、子どもだって理解できる出来事に決まっている。
「普通に考えても無理だろ、ガラスが前にあんだから」
「普通に殴ってしまうと、当然そうなるよね。
そこで、周波数計測装置をオンにして一度その板に触れてみて」
ブゥン
「次に、君は力を入れ過ぎずにパンチを入れてみて」
「こ、こうか?」
パスッ ヴヴヴヴヴ パカッ
「な!?」
ガラスは割れずに板だけが割れた。
何が起きたのか理解しきれず、ロックの目が丸くなる。
マジックと言いたげに、トーマスはトリックを明かす。
「籠手に周波数をおぼえさせたんだよ。
板と同値の周波数を籠手から発生させたんだ」
「・・・なにがどうなってんだか」
「ガラスのコップに向かって叫ぶと割れるのと同じ原理だね。
高分子振動は1つの物質をまたいで奥の物質へとどかせる。
その物質なら、あらゆる周波数の振動を出せるから
おあつらえ向きかと思ってね」
叩き付けた異なる衝撃は青天石の効果が後押しする。
高分子振動が安定しながらも高く起こせる物質で、
検知センサーと他の合金鋼と組み合わせて作られた逸品は、
ここ東北に新たな技術をもたらした。
しかし、それによる弊害もまた生まれる危険性がある事をは忠告した。
「ただ1つ注意する事があるよ」
「なんだ?」
「やりようでは、内蔵に直接ダメージを与えてしまう。
そうなれば、人体は無事じゃすまない。
できれば、君は人兵よりも発動機やライオットギアみたいな
機械系専門で対処してほしいかも」
「敵なら、相手が人だろうと同じだろうよ?」
「君がそう思うのならばね。
でも、大きな力は必ず身に降りかかってくる。
素晴らしい道具も、使い道次第で大量破壊兵器になる危険性も
集まりにいるなら頭に入れておくもの。
従軍者ならば、なおさらね」
「・・・・・・」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる