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2章 関西統一編
ヒポクリフィレイン2
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「・・・・・・・・・・・・・・・・・・D?」
ここに来ていたのはメンバーのDだった。
帰っていったはずの友人の1人がまた戻ってきて
いつもと顔色が薄暗さも相まって異常に観える。
先程とはまったく別の表情だ、何か用事でもあるのだろうか。
「こんな時間に・・・どうしたんだ?」
「決めたよ・・・・・・今日こそ君を・・・しぇあッ!」
ドスッ
突如としてDは懐刀を抜き出してかかってきた。
間一髪で避ける。刃は壁に突き刺さり、Dは抜こうとした。
何が起きたのか整理がつかず、彼に釈明を迫る。
「待ってよ・・・ホントに何を・・・訳を話してよ!」
「もうやるしかない・・・ヤるしかないいいぃぃっ!」
Dの視線が定まっていない、意味不明な言葉も放つ。
ジリジリと追い詰めてくる、彼は止めるつもりはない。
背中が壁にぶつかった、台所用品の側まで来ていたようだ。
ゆっくりと迫りくる彼の逆にはBからもらった手つかずの
野菜ミソがあった。防衛策は他になしとばかりに、
緊急避難で彼女からもらったそれを投げつける。
「来るなあああああああ!!」
ベチョッ ツルッ ドデン
「ぎゃああ、す~べ~るううう!」
Dは転倒して、叫びだす。
ミソで滑ってどういうわけかそこで悶える。
うっかり気を取られて逃げる事を忘れかけてしまう。
そんな彼をよそに、通路側の階段に目を通していく。
ザッ
(ここから逃げないと・・・)
たどたどしい足取りで、なんとかして脱出を試みたが、
ドアノブに手をつないでみると固い違和感が生じた。
ガコン
「ドアが開かない!?」
入口ドアのどこかを施錠されてしまったようだ。
回線も切られていた、本部への有線はまったく効かず、
無線機を使おうにも何故かつながらないのだ。
そう思う間から奇声が大きく聴こえてくる。
「うぐっ、ぐすっ・・・ひひひん、もーひひぃ。
やりたくない、やらないと、やりたくないけどやらないと」
(一体、なんなんだ・・・?)
感情と行動が一致していない、支離滅裂だ。
何がDを突き動かさせているのか、理解も及べない。
またもや上にやって来た彼は言葉にならない言葉を発して接近して来た。
「頼むからやめてくれ、何が君をそうさせるんだよ!?」
「君を理解しているのは僕だけなのにぃぃひひっ。
・・・っがダメだって、こうしないとダメだってえへへへ」
まったく説得に応じない彼に再び窮地に追いやられる。
今度は横や後ろにドアがなく、逃げ場がない。
その時、後ろに下がる自分の体にある物が接触する。
(これは!?)
Cからもらった手付かずの塩サイダーが側にあった。
瓶製品もイシカワで主に作られている物で、
当然武器として扱えるわけじゃないけど、場合が場合。
右腕を振りかざして、Dに思い切り叩きつけた。
「来るなくるなあああああああ!!」
ガシャン
「ぎゃああ、し~み~るううう!」
視界を塞がれたDが転がる隙にまた逃げ出す。
それにしても、先程から不可解な様子がある。
逃げても、決まって居場所が気付かれてしまう。
自分の居場所が何故かすぐに見つかってしまうのだ。
再び足音がヒタヒタと聴こえてくる。
「Dが来る・・・・・・・・・あの竹細工が!?」
「気付いてしまったのかい?」
いつも駐屯地内で感じていた違和感の正体がそれであった。
その竹細工は監視カメラの可動式で、赤外線の遠隔操作により
自分の位置を把握されていたのだ。
急いでそれを破壊し、対抗策として止む追えずに
武器を探し見ようとした。
(なにか・・・何か武器があれば)
「できるだけ苦しまないよう、一突きでやってあげる」
(誰かがここに置いていたボウガン・・・だけど矢が)
だがあったのだ、1つだけ代わりになる矢が。
Eからもらったやはり手付かずのハマヤを武器代わりにでも用いようと、
引き金を指に当てた。
「やるやるやらない、やるやるやらない、やるやるやーるね」
「来るなくるなクルナあああああああ!!」
バシュッ ドスッ
「ぎゃああ、身ぃ~で~るううう!」
射出して額にヒット、
ダメージはないのに大袈裟に転がり込むD。
しかし、先端は円柱状なので一撃は致命傷にはならず。
逃げても逃げても彼はすぐに歩いてここにやって来る。
「「誰か・・・助けて・・・だれか」」
連絡網が一切断たれたこの駐屯地、近場にありながらも孤立化。
偵察兵がてら、戦闘訓練もろくにしてこなかったから、
完全自力で抵抗できる自信もない。
手元にはもう何もない、Dの視線は禍々しく僕を笑いながら
睨み付けて意味不明な発言をしながら近づいてきた。
「僕を傷付けた・・・付けたんだね?
なら、君はもう仲間ではない・・・。
完全に僕の敵だああああああ!」
「やめろやめろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
バリン ドスッ
「ごんぶっ!?」
「な!?」
ガラスの破裂音とともに女性が窓から飛び出してきた。
彼女の飛び蹴りがDの頭にヒットする。
弾き飛ばされた衝撃で彼は気を失った。
「間に合ったみたいね!」
「あなたは・・・いつも僕をつけ回していた!?」
突然応援に来た女性は、外からAを見回していた人物だった。
大きな音を立てずに床へ着地してスムーズに立ち上がる
彼女は素性を明らかに語った。
「私はクミ、フクイCNの偵察兵よ。
あなたを護衛サポートするために来たの」
「え、僕の?」
A、つまり自分をサポートするためにこの駐屯地に来たという。
今までの彼女の立ち回りがなんだか相容れない感じがするが。
「で、でも、ここに偵察兵が来るなんて話、聞いてな――」
「言う訳ないでしょ、密偵としてラボリしてたんだから。
CN内で通達の1つでもだそうなら、すぐに気取られるわ。
こんな身近にいたコイツは狡猾よ?
察知されてすぐ逃げるに決まってるし」
「そうだったんだ・・・」
辺りを調べていた彼女の報告は正しかった。
有線を切断、金属粉を散布して通信妨害、窓を溶接など
脱出させない工夫が至る所に散りばめられていたのだ。
そんな僕を標的にしていたのはメンバーのDだった。
数年も共にしていた彼が何故こんな行動を起こしたのか。
「なんでDは・・・僕を?」
「この男は元々、フクイCNの関係者だったの。
あなたの周辺にいる事だけは分かっていたけど、動機はサッパリね」
「君はどうして、僕が狙われていると知っていたの?」
「私もフクイ出身よ、ニイガタ物資横領の関与を調べに栢山駐屯地かと
リーク情報で同盟CNの疑いがこっちに来てる連絡が入ったの。
何やらフクイ兵の関係者がこっちにいるらしくて、
身辺調査以上は何も分からなかったけど」
「まさか、Dが!?」
「でしょうね、同盟直後に資源流通操作を狙ってたかも。
この地域にいると思われる目標を探し回っていたら、
たまたまこの男を見つけてね。張り込みしてたらビンゴよ」
事件の展開はまるでズレた格子の様に歪だった。
ストーカーは彼女だが、命を狙っていたのは同期のD。
今だに話の含みが分からず、頭がクラクラして重い。
一気に体の力が抜けて放心する。
ガクッ
「君がここに来ていたのは、張り込みのためだった・・・」
「あなたは気付いてなかったでしょうけど、
この男は“夜中に何度もこの駐屯地に来ていた”のよ。
小賢しくわざわざ小細工してたんだから。
中に入らず、ゴソゴソしてたから怪しいと思ったわ」
「「な・・・・・・」」
その話を聞いた自分は冷や汗をかく。
Dの用意周到さは、彼女の目にしっかりと捉えられていたのだ。
いつも、自分をつけ回していた彼女は味方だった。
頼もしさを通り越して、さらに疲れがどっとやってくる。
「そんな話が裏側であったなんて・・・」
「ただ同盟してそこで終わりっていかないのが、こんな世界よ。
理由は何でも、しがらみは切れないのが人ね」
確かにその話は遠からず当たっていた。
彼女の台詞が今回の一例として何よりだろう。
どの様な理由があれど、彼女は自分を助けたのだ。
床にベッタリしつつ彼女の顔を見つめ、感謝の言葉をあげる。
「うん、その・・・今日はありがとう」
「どういたしまして、おかげで証拠がつかめたわ」
「お礼の大きさはこっちの方こそだよ。
でも、今度から観察なら側でしてよ」
「うーん、遠慮しておく。私は間近でみるより、
覗いてる方が性に合ってるもの」
「な、なんだそれ!?」
偵察兵ならではの徴兵病でもあるのだろうか。
どんな事情があるにしろ、彼女は助けてくれたのだ。
それにしてもDは何故、僕を襲ったのか。
気を失った彼は当分の間起きる事なく、救助隊が来た後は
そのまま本部へと連行されていった。
数日後
尋問官の話により、Dは全てを自白した。
彼は栢山駐屯基地を解任された隊長の息子で、父親の汚職責任で
ニイガタから資源奪取した件をCNに通さず発覚して辞めさせられた。
同僚だった親繋がりでたまたま適性だと僕が決まったものの、
次の就任者の僕を疎ましく思い、圧力をかけるよう命じられていたという。
D自身は僕に対して大いに期待してくれていたらしいが、
日を増すごとに父親からのプレッシャーが溜まり、やり場がなく
あのような錯乱状態で凶行に陥ったのだろう。
工作していた手際の良さも、ここの駐屯地に詳しかったゆえにうなずける。
アイチも同じく、昔から生産業連携が盛んだった。
数年前からフクイからイシカワに移籍した人も数人いたようで、
彼は僕にそんな話を一度もしていなかったのは意外だが。
僕はDを許す気持ちがあり、恐怖心は拭えずとも会いまみえる
勇気は残されていた。話し合うための再会を望んではいる。
でも、彼は反逆で身柄拘束により、営倉で何年も暮らす運命だ。
内偵防止で、面会謝絶のルールなので簡単に会う事はできない。
それ以来、顔を見る機会もほとんどなくなった。
またいつか顔を合わせる事はあるのだろうか。
その時までは知る由もない。
余談だが、クミの所属する第1分隊との連携を本部から許可された。
別に驚いた事はフクイCNでも精鋭偵察兵として有名との事。
これも奇妙か、たった1人しかいない部隊の管理下として認定された。
そんな彼女は駐屯地の出入りを自由に許可されているのに、
相変わらず僕を窓の外から眺めている時がある。
人は外見によらない事をつくづく思い知らされた。
予想外の展開な事件があったものの、それからはいつもの日々。
西側との同盟からすっかりと辺りは静かになっている。
こんな日がいつまでも続くのを願うばかりだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本編と絡まない主人公を書きました。
仕事行きたくない、行かねば。
という様に葛藤が続けば人はよじれていき、
Dの様なウヒヒ状態になっていくのでしょう。
これは一部に限った話ではなく、
社会も決して心身供に安定性などないのが分かります。
ここに来ていたのはメンバーのDだった。
帰っていったはずの友人の1人がまた戻ってきて
いつもと顔色が薄暗さも相まって異常に観える。
先程とはまったく別の表情だ、何か用事でもあるのだろうか。
「こんな時間に・・・どうしたんだ?」
「決めたよ・・・・・・今日こそ君を・・・しぇあッ!」
ドスッ
突如としてDは懐刀を抜き出してかかってきた。
間一髪で避ける。刃は壁に突き刺さり、Dは抜こうとした。
何が起きたのか整理がつかず、彼に釈明を迫る。
「待ってよ・・・ホントに何を・・・訳を話してよ!」
「もうやるしかない・・・ヤるしかないいいぃぃっ!」
Dの視線が定まっていない、意味不明な言葉も放つ。
ジリジリと追い詰めてくる、彼は止めるつもりはない。
背中が壁にぶつかった、台所用品の側まで来ていたようだ。
ゆっくりと迫りくる彼の逆にはBからもらった手つかずの
野菜ミソがあった。防衛策は他になしとばかりに、
緊急避難で彼女からもらったそれを投げつける。
「来るなあああああああ!!」
ベチョッ ツルッ ドデン
「ぎゃああ、す~べ~るううう!」
Dは転倒して、叫びだす。
ミソで滑ってどういうわけかそこで悶える。
うっかり気を取られて逃げる事を忘れかけてしまう。
そんな彼をよそに、通路側の階段に目を通していく。
ザッ
(ここから逃げないと・・・)
たどたどしい足取りで、なんとかして脱出を試みたが、
ドアノブに手をつないでみると固い違和感が生じた。
ガコン
「ドアが開かない!?」
入口ドアのどこかを施錠されてしまったようだ。
回線も切られていた、本部への有線はまったく効かず、
無線機を使おうにも何故かつながらないのだ。
そう思う間から奇声が大きく聴こえてくる。
「うぐっ、ぐすっ・・・ひひひん、もーひひぃ。
やりたくない、やらないと、やりたくないけどやらないと」
(一体、なんなんだ・・・?)
感情と行動が一致していない、支離滅裂だ。
何がDを突き動かさせているのか、理解も及べない。
またもや上にやって来た彼は言葉にならない言葉を発して接近して来た。
「頼むからやめてくれ、何が君をそうさせるんだよ!?」
「君を理解しているのは僕だけなのにぃぃひひっ。
・・・っがダメだって、こうしないとダメだってえへへへ」
まったく説得に応じない彼に再び窮地に追いやられる。
今度は横や後ろにドアがなく、逃げ場がない。
その時、後ろに下がる自分の体にある物が接触する。
(これは!?)
Cからもらった手付かずの塩サイダーが側にあった。
瓶製品もイシカワで主に作られている物で、
当然武器として扱えるわけじゃないけど、場合が場合。
右腕を振りかざして、Dに思い切り叩きつけた。
「来るなくるなあああああああ!!」
ガシャン
「ぎゃああ、し~み~るううう!」
視界を塞がれたDが転がる隙にまた逃げ出す。
それにしても、先程から不可解な様子がある。
逃げても、決まって居場所が気付かれてしまう。
自分の居場所が何故かすぐに見つかってしまうのだ。
再び足音がヒタヒタと聴こえてくる。
「Dが来る・・・・・・・・・あの竹細工が!?」
「気付いてしまったのかい?」
いつも駐屯地内で感じていた違和感の正体がそれであった。
その竹細工は監視カメラの可動式で、赤外線の遠隔操作により
自分の位置を把握されていたのだ。
急いでそれを破壊し、対抗策として止む追えずに
武器を探し見ようとした。
(なにか・・・何か武器があれば)
「できるだけ苦しまないよう、一突きでやってあげる」
(誰かがここに置いていたボウガン・・・だけど矢が)
だがあったのだ、1つだけ代わりになる矢が。
Eからもらったやはり手付かずのハマヤを武器代わりにでも用いようと、
引き金を指に当てた。
「やるやるやらない、やるやるやらない、やるやるやーるね」
「来るなくるなクルナあああああああ!!」
バシュッ ドスッ
「ぎゃああ、身ぃ~で~るううう!」
射出して額にヒット、
ダメージはないのに大袈裟に転がり込むD。
しかし、先端は円柱状なので一撃は致命傷にはならず。
逃げても逃げても彼はすぐに歩いてここにやって来る。
「「誰か・・・助けて・・・だれか」」
連絡網が一切断たれたこの駐屯地、近場にありながらも孤立化。
偵察兵がてら、戦闘訓練もろくにしてこなかったから、
完全自力で抵抗できる自信もない。
手元にはもう何もない、Dの視線は禍々しく僕を笑いながら
睨み付けて意味不明な発言をしながら近づいてきた。
「僕を傷付けた・・・付けたんだね?
なら、君はもう仲間ではない・・・。
完全に僕の敵だああああああ!」
「やめろやめろおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
バリン ドスッ
「ごんぶっ!?」
「な!?」
ガラスの破裂音とともに女性が窓から飛び出してきた。
彼女の飛び蹴りがDの頭にヒットする。
弾き飛ばされた衝撃で彼は気を失った。
「間に合ったみたいね!」
「あなたは・・・いつも僕をつけ回していた!?」
突然応援に来た女性は、外からAを見回していた人物だった。
大きな音を立てずに床へ着地してスムーズに立ち上がる
彼女は素性を明らかに語った。
「私はクミ、フクイCNの偵察兵よ。
あなたを護衛サポートするために来たの」
「え、僕の?」
A、つまり自分をサポートするためにこの駐屯地に来たという。
今までの彼女の立ち回りがなんだか相容れない感じがするが。
「で、でも、ここに偵察兵が来るなんて話、聞いてな――」
「言う訳ないでしょ、密偵としてラボリしてたんだから。
CN内で通達の1つでもだそうなら、すぐに気取られるわ。
こんな身近にいたコイツは狡猾よ?
察知されてすぐ逃げるに決まってるし」
「そうだったんだ・・・」
辺りを調べていた彼女の報告は正しかった。
有線を切断、金属粉を散布して通信妨害、窓を溶接など
脱出させない工夫が至る所に散りばめられていたのだ。
そんな僕を標的にしていたのはメンバーのDだった。
数年も共にしていた彼が何故こんな行動を起こしたのか。
「なんでDは・・・僕を?」
「この男は元々、フクイCNの関係者だったの。
あなたの周辺にいる事だけは分かっていたけど、動機はサッパリね」
「君はどうして、僕が狙われていると知っていたの?」
「私もフクイ出身よ、ニイガタ物資横領の関与を調べに栢山駐屯地かと
リーク情報で同盟CNの疑いがこっちに来てる連絡が入ったの。
何やらフクイ兵の関係者がこっちにいるらしくて、
身辺調査以上は何も分からなかったけど」
「まさか、Dが!?」
「でしょうね、同盟直後に資源流通操作を狙ってたかも。
この地域にいると思われる目標を探し回っていたら、
たまたまこの男を見つけてね。張り込みしてたらビンゴよ」
事件の展開はまるでズレた格子の様に歪だった。
ストーカーは彼女だが、命を狙っていたのは同期のD。
今だに話の含みが分からず、頭がクラクラして重い。
一気に体の力が抜けて放心する。
ガクッ
「君がここに来ていたのは、張り込みのためだった・・・」
「あなたは気付いてなかったでしょうけど、
この男は“夜中に何度もこの駐屯地に来ていた”のよ。
小賢しくわざわざ小細工してたんだから。
中に入らず、ゴソゴソしてたから怪しいと思ったわ」
「「な・・・・・・」」
その話を聞いた自分は冷や汗をかく。
Dの用意周到さは、彼女の目にしっかりと捉えられていたのだ。
いつも、自分をつけ回していた彼女は味方だった。
頼もしさを通り越して、さらに疲れがどっとやってくる。
「そんな話が裏側であったなんて・・・」
「ただ同盟してそこで終わりっていかないのが、こんな世界よ。
理由は何でも、しがらみは切れないのが人ね」
確かにその話は遠からず当たっていた。
彼女の台詞が今回の一例として何よりだろう。
どの様な理由があれど、彼女は自分を助けたのだ。
床にベッタリしつつ彼女の顔を見つめ、感謝の言葉をあげる。
「うん、その・・・今日はありがとう」
「どういたしまして、おかげで証拠がつかめたわ」
「お礼の大きさはこっちの方こそだよ。
でも、今度から観察なら側でしてよ」
「うーん、遠慮しておく。私は間近でみるより、
覗いてる方が性に合ってるもの」
「な、なんだそれ!?」
偵察兵ならではの徴兵病でもあるのだろうか。
どんな事情があるにしろ、彼女は助けてくれたのだ。
それにしてもDは何故、僕を襲ったのか。
気を失った彼は当分の間起きる事なく、救助隊が来た後は
そのまま本部へと連行されていった。
数日後
尋問官の話により、Dは全てを自白した。
彼は栢山駐屯基地を解任された隊長の息子で、父親の汚職責任で
ニイガタから資源奪取した件をCNに通さず発覚して辞めさせられた。
同僚だった親繋がりでたまたま適性だと僕が決まったものの、
次の就任者の僕を疎ましく思い、圧力をかけるよう命じられていたという。
D自身は僕に対して大いに期待してくれていたらしいが、
日を増すごとに父親からのプレッシャーが溜まり、やり場がなく
あのような錯乱状態で凶行に陥ったのだろう。
工作していた手際の良さも、ここの駐屯地に詳しかったゆえにうなずける。
アイチも同じく、昔から生産業連携が盛んだった。
数年前からフクイからイシカワに移籍した人も数人いたようで、
彼は僕にそんな話を一度もしていなかったのは意外だが。
僕はDを許す気持ちがあり、恐怖心は拭えずとも会いまみえる
勇気は残されていた。話し合うための再会を望んではいる。
でも、彼は反逆で身柄拘束により、営倉で何年も暮らす運命だ。
内偵防止で、面会謝絶のルールなので簡単に会う事はできない。
それ以来、顔を見る機会もほとんどなくなった。
またいつか顔を合わせる事はあるのだろうか。
その時までは知る由もない。
余談だが、クミの所属する第1分隊との連携を本部から許可された。
別に驚いた事はフクイCNでも精鋭偵察兵として有名との事。
これも奇妙か、たった1人しかいない部隊の管理下として認定された。
そんな彼女は駐屯地の出入りを自由に許可されているのに、
相変わらず僕を窓の外から眺めている時がある。
人は外見によらない事をつくづく思い知らされた。
予想外の展開な事件があったものの、それからはいつもの日々。
西側との同盟からすっかりと辺りは静かになっている。
こんな日がいつまでも続くのを願うばかりだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
本編と絡まない主人公を書きました。
仕事行きたくない、行かねば。
という様に葛藤が続けば人はよじれていき、
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