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2章 関東統一編

        アンラッキーセヴン2

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22:00 下層階 キューブセクション一角

「「いたわ、奴よ」」

 θから連絡が入り、目的の部屋まで着いたと言う。
灰色の立方体がガラスの壁越しに配列で動いている。
もちろん、外から中は見えずに制御用の屋根裏から侵入しなくてはならない。
πが撮影するためにθがまずドア前の障害を越える必要があった。
情報屋が実行を指示する。

「じゃあ、人形前にデコイを貼り付けてくれ」
「「分かった」」

これらは全て個室、ゴミや資源、個人的使用で使われていた。
2人は情報を元に、No7が使用している部屋を発見。
部屋前には10体ものPDが配置されている。
θがデコイを上部に貼り付けて膨らませると。

クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ クイッ

10体全て上を向いた。
着点した瞬間、衝撃で栓が外れて有機ガスをゴム部に注入。
機械の人型は初めて遭遇する有機体をとにかくチェックする性能をもつ。
見事な隙だらけの間にθがドアロックを解除する。
成功報告にメンバー達が喜ぶ中、1人だけ黙々とする。

「・・・・・・」

ωはまだ疑問に思っていた。
PDが複数同じ場所を観ている時点で、上は異変に気が付くはず。
対して、誰もここには来ない。
もしかすると、情報屋も上層部と繋がっているのではと勘繰かんぐる。
だが、今は聞ける立場ではない。
あまり追及すれば逃げられる恐れもあるので、
言われた通りに動くしかなかった。2人が現場を押さえている最中。
様子を見ていたγがもどかしさに強奪すれば良いかと催促した。

「護衛がいないなら、直にブツをぶんどってやれば?」
「地形が悪い、狭い区域でアブダクトしようもんなら
 増援呼ばれてあっけなく御用にされる。
 デコイも、多数の人間にゃ効かないから無理だ」

ちなみに、No7は首にかけているネックレスにシェーライトを
いつも仕込ませている情報は手に入れていた。
気付いたλが指摘。

「横からっすけど、あの首飾り。何か仕込んでる可能性がありそうっすよ。
 ランプ点灯が小さく付いていて、セキュリティ設定していると」

強奪はまだ不可能と言う。
アブダクトしても、外の監視カメラに見つかってしまう。
あくまでも、大きな騒ぎが起こらないよう動くのだ。
No7はPDの視界が止まった事に気付いていない。
隙にπが中に侵入して行為に及んでいる光景を撮影。
女兵士を都合よく引用する証拠を押さえた。

パンパン

(あいつ・・・なんて事してんだい)

眼が赤くなるのをこらえながら近場で光景をしっかりと捉え、
データ保存したUSBメモリをアジトへ持ち帰った。


アジト

「うまくいったか」
「最低・・・こんなの、女にやらせないでよね」

 πはサッサと放り投げて渡す。
メモリを受け取る情報屋はPC端末機器に差し込み、
データ内容を上層部に通達して送った。
これからNo7を告発する。
目標を届きやすい中層階への下げを実行。
しかし、本当にこんな事で上を落とせるのか?
θは上告が棄却されないか気掛かりになる。

「上の連中って、ろくに苦情の1つも受け入れないのに、
 下級のあたしらが密告したところで聞いてくれるの?」
「なくはないが、確かに信用度は低くなりそうだな。
 だから、中層から安全理事あんり局を通して伝えていく」
「権限酌量しゃくりょうまで考えていたのか。
 上そ・・・いや、工作班に理解者がいるって事だろう?」
「姉ちゃんの言う通り、コネからチクるのが強力だな。
 脳ミソってのは使う程凝り固まって倫理観も乾いていく。
 下層は使い捨てだ。
 何も通せずに苦渋してきたお前達なら分かるだろう」
「・・・・・・」

男の言い分に、あたし達は返す分が思い当たらなかった。
上というものは合理性ばかり追求し、叶わなければ即切り捨てと
感情が介入する余地などろくにない。
今まで自分達は何もできなかった。
扱いの違いになおさら自由への気持ちが高まっていく。


1時間後

データ送信してからすぐに安全理事局のベルティナから連絡がくる。
しかし、返ってきたのは意外な返答だった。

「「No7への訴訟は無効とする」」
「なに?」
「「彼女達は妊娠している形跡がない。
  一夫多妻的傾向による行為は皆無だ。
  よって、男女均等配置法の違憲立法審査は通らない。
  お前、どこでこれを撮影した?」」
「あー、22:00、交通局第940部隊が担当。
 キューブセクション整備ラボリ中に発覚して撮影した」
「「No7のPDに部屋への通行認証が取得されていないが、
  どうやって中に入った?」」
 (チッ、そっちの目があったか)

PDの認識なく入ったのを忘れていた。
ベルティナの追及に口達者な情報屋も止まってしまう。
たまらずπは叫んで押し問答した。

「すぐに妊娠なんてするわけないでしょ!?
 上層部が勝手に人を選出して良いものなんですか!?」
「「No7は形式上の能力選抜として執行している。
  CN法に抵触する部分はない」」
「あんな卑猥ひわいな行為が選抜!? あんたらそれで安全理事!?
 もっと、よく調べなさいよ!」
「「立場をわきまえろ、偽装データの可能性も否定しきれない!
  とりあえず内容についてNo7への対応はこちらで引き受ける、
  以上だ」」

プツン

ベルティナは通信を切った。
安全理事局は棄却する方針を立てて願い下げされる。
スキャンダル訴訟で引きずり込む手段は断たれてしまう。
メンバー達は次の手を考えなければならない。

「ムカつくわ」
「どうすんのよ?」
「そうだな・・・次は」
「法で訴えられないなら、もう物理行動しか・・・」
らちが明かねえなら、直接拉致らちするしかねえだろ」
「本人を?」
「さっきの様にはいかないぞ」

確かに、直に本人をアブダクトすれば済む話。
どこかしらの界隈で運べば良いが、そう簡単な事ではない。
監視カメラも同様だが、まず立ちはだかるのが無数のPD。
移動型偵察機の群れを攻略する術が見出せないのだ。
下級兵にとってアンドロイドの存在は未知そのもの。
何を基準にそこに人がいると認識しているのか、
ωは人型の在り方についてまたまた疑問をもっていた。

「あんたに聞きたい事がある。
 PDを操ってるのはNo1~9までなんだな?」
「ああ、PDの管理者は上層部のみ。
 交通局、軍事執行局、安全理事局、軍備計画局、統制論理機関の
 いずれに就いてるNoだけだ」
「教えてほしい、デコイはどうやって眼を操っている?」
「・・・仕方ない、教えよう」

正式名称は有機ガスデコイ、情報屋自ら開発したと言う。
表面はただの風船で、中身は有機ガスを含む。
PDは内部分子を検知して生命体の有無を判別。
“生物がいる+人型=人間”だと決定する仕組みだった。

「数年前、軍備計画局工作班と共同作業していた時だ。
 PDの挙動を不審に思っていて上にいつわって研究していた。
 そして、有機物と無機物を判別しているんだと俺は気付いたのさ」
「ガスって、巻エリアの?」
「そうか、つまりあんたは――」
「俺も元下級兵、下層の住人でガス発掘調査をしていた。
 んで、上に報告しなかった性質を個人で内密に調べて
 たまたまPDに水素反応がある事を発見したんだ」
「天井裏に貼り付いても反応していたな」
「厚さ30cmくらいなら透かして反応するらしい。
 最初に会った時も壁の裏側に付けてたからな。
 キューブセクションのコンパクトさが功をそうしたのは幸いだった」

男はAI検知の一部が水素成分に引き寄せられる傾向を見つけた。
意外なところで明らかになる情報屋のエピソード。
トウキョウの目を逃れる手の内を1つ教えてくれた。
味方とみなして素直に話してくれたのか。
どちらにせよ、城塞都市を覆う多数の目をかいくぐるために
攻略法はデコイ絡みであざむくのを外せなかったのだ。


キューブセクション一角

 やる事を終えたNo7の元にベルティナから連絡がくる。
突然の知らせに意味不明で、かかとを床に叩いていた。

「PDが全員上を向いていたぁ?」
「「監視画面が22:00から天井しか映っていない。
  一定方向ばかりで、頭部神経回路に異常ないか?」」
「今は普通に動いてるから故障してないぞ。
 これから寝るってのに、何の話だ?」
「「お前のキューブセクションの密会リーク情報が届いた。
  ずいぶんとこっずかしいラボリをしていたものだな!」」
「な!?」

彼女の言葉で眠気が吹っ飛んでしまう。
No7はスパイ活動されている事に気が付いた。


翌日 下層階アジト

「んん、ああ、そうか。また後で連絡する。
 目的達成までとりあえず寝かせておいてくれ」

 次の日、情報屋が同僚の中層兵と話をする。
中層階にNo7が介入しにきた知らせを聞いた。

「ガサ入れか、侵入したのがバレたんだな」
「まあ、予想通りだ。No7が勘づいて探してる。
 いずれ、ここ下層もしらみつぶしにやって来るぞ。
 その前にケリ付けないとな」

相手は中層階の偽情報にまだ振り回されているようだ。
往生する間にどうにか目標をとらえなければならない。
幸いか、No7が頻繁ひんぱんに下階へ降りてくるようになった。
流石にもうキューブセクションには近寄らずに中層エリアで各所、
工事関係ラボリに徘徊しているという。
次はそこでトラップを仕掛けようと情報屋が進めるが、
肝心の攻略内容がまだ整っていなかった。
どうするか考察するところ、λが提案する。

「ちょっとγと相談して決めた策があるんだ。
 奴のPDを1機かっぱらってコックルバーを仕込んで一掃した後に、
 ターゲットをアブダクトするってのはどうだ?」

しかし、ωは危険性が高すぎると否定する。
検知器だらけのトウキョウでむやみな火ネタは控えろと言う。

「駄目だ、一気に騒ぎになって余計に接近しづらくなる。
 それにブツも粉々になったら無意味だ」
「半日かけて考えたのに・・・」

過敏かびん状態のNo7に目立つ行動は御法度。
トウキョウの空気に合わせた動きをしろと勧める。
強引なアブダクトは不可能にふりだしで作戦却下された中、
“1機かっぱらう+仕込んで”というワードを聴いていた
女2人が何か考えていた。

 (替え玉・・・)

ジーッ

「?」

θとπはμを凝視する。
別に監視してるつもりはない。
何かのイメージを重ね合わせて彼女に近寄った。

「ミューちゃあん、ちょっとこっちに来なさあい」
「今からお姉さんとおめかししましょ、怖くないから、ね?」
「ええっ、ちょっと、わわっ!」

小柄150cmのμが177、182cmの大女に両腕を掴まれる。
訳も分からずにμは2人に奥の部屋へ連れていかれた。


2時間後

「こ、これで大丈夫ですか?」
「そっくり、似てるわ。しかもカワイイ」

PDの制服を着させ、髪やアイコンタクトも同じ色にした。
どこから用意したのか、λの言葉で変装するのはどうかと、
μの背丈がNo7の趣味が混ざった側近と丁度等しいので、
2人はμとPDを入れ替えて誘い込む算段を立てていた。
PDに変装して入れ替わり、No7を誘導させようという策だ。

「カムフラージュか、さすがに見分けされるだろう?」
「気づかれずに周囲に溶け込めば良いんでしょ?
 あいつ、少女型をたくさん引き連れてるくらいだし、
 似たのがいたから、この子を交えさせてもイケるわ」
「でも、声までは真似できませんよ?
 しゃべったらすぐバレちゃいます」
「声なら、ボイス編集ソフトを持っている。
 音声はアンプ取り付けたヘッドセットで出すから、
 あんたは口パクして誤魔化してれば良い」

アブダクトしたPDをμに仕立てて側近に忍ばせ、
疑似音声で目標を誘い込もうと画策した。
しかし、物理的な成り済ましにも限度があると警告する。

「ただ、長居はできない。
 生体情報を判別する機能で偽物だとバレるからな」
「いつ頃バレるんだ?」
「もって1時間、PDによる体内の遺伝子検査が終わるのは
 それくらいかかるらしい。
 でも、バイタルサインを最後まで通さないと上に通達しない仕組みだ。
 トウキョウ人以外はすぐに敵とみなすが、関係者ならすぐに言わない。
 AIが異物と判断する時間差を逆手にとってやるんだ」
「う、ううん」
「こういったのは俺らにとってもはや門外っす、隊長。
 で、どうやってすり替える?」
「これを見るんだ」

中層階のマップ一部を表示する。
とある一般通路の図面をチームに見せた。
次は複数での作戦、No7捕縛への手順を模索しながら
いよいよ本人に接近する。
浅知恵が見え隠れする様な中、本当に目的をこなせるのか、
私達は全容を理解できずに彼に任せたまま、しばらくの日々が続く。
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