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2章 関東統一編
番外編第1話 エリーの糸電話
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「あー、あー、聴こえますか?」
シーン
返事がない、またどこかで絡まってたり切れたりしたのだろう。
観ている周りの視線も次第に細くなりつつある。
括り付けた紙コップに向かって声をあげるエリーがいた。
彼女の奇行に分隊メンバー達もうんざりな顔だ。
一見、幼稚な行為をしている彼女であるものの、
こんな子どもじみた真似をしているのには実は理由があった。
東北戦前 トチギCN拠点
話は少し前にさかのぼる。
仲間を救助しに関東CNが東北へ向かう時の事だった。
関東で中心的な指揮者の役割になりつつあるワタルが
私に護衛役を任せるというのだ。
「ええっ、私は待機ですって!?」
彼にトチギで待ってろと指示された。
ロストさせたくないのか、万が一の時を想定して
後陣としてCNのリソースを蓄えておくと言う。
「まあ、そんな訳で今回はお留守番しててくれるかな?
若き乙女を極寒の地へと誘いたくなくて云々――」
「う、う-ん」
理論も含む口説き文句に反対できずに了承する。
トチギ兵は少数のみ前衛で向かう作戦を決定したが、
エリー分隊は行けなかった。
仲間メンバー達は内心ホッとしたが、私だけは納得していない。
「不満そうだな」
「説得役にワタルだけ行くなんて危険すぎるよ。
なら、私も一緒に連れてってくれれば良いのに・・・」
東北を説得するネゴシエーターとして行きたかったが、
自分はここに残れと言うんだから不満というしかない。
トウキョウ程ではないけど、北方面だって兵力があるというから
彼にとっては、今回それだけ危険なラボリだからだろう。
さらに時間が空いてしまった事で、するべき立場も透けていく
嫌な気持ちも大きくなるものだ。
トチギCN エリー家
その後、エリーは市民街の家に一度帰った。
母親は娘の状況に安心して、しばらくここに居ろと言う。
「良かったじゃないさ。
あんたが前衛に出されたらと思うと、そら心配でげーぼ悪いさ」
「後衛なんざやっちくねーけど、あっちゃの代表さ言うんだから。
ホントにつかっちゃ」
「なら、家の手伝えしてけらい。暇っちゃや?」
「が!?」
母親の作業を見ているエリー。
ちなみに、エリーの家系は紡績工場に携わる所だった。
白く細い繊維の作業を眺めるのは帰ってからよくある光景だ。
当然、ここも作業場だから滑らかな線が目に入るのは当然ではあるが。
(絹か・・・)
対してその目の中に入る情報は火にまみれたものに変換する。
実家も延々と燃え続け、繊維も残らず灰に変わっていく。
かつて見た覚えが逆へ巡り、火から糸状態に戻る。
「あ・・・」
細い繊維を見続けた彼女に、あるイメージが浮かんでくる。
昔、友と一緒に作って遊んだある道具だ。
家の絹を勝手に持ち出して遊んでいたあの時を思い出していた。
(人知れずに伝える・・・ならば)
誰にも理解されないだろう自分の作戦を想像する。
その日は意味もなく、ただのイメージのみで終わるだけだ。
しかし、ただの夢で終わるはずがなく確固たる意志が宿り、
今は過去の思いにふけつつ、彼女は就寝した。
翌日 トチギCN拠点
イメージはいつの間にやら確固たる実行心に変わっていた。
今のトチギはイバラギの傘下にあるとはいえ、
ただ待つだけでやはりこのまま何もせずにはいられない。
あの思いついた案を無駄にするのをできはしなかった。
個人的任務に移すべく、辺りをふらついてた分隊を呼び出した。
「エリー分隊、集合おお!」
「もう、皆集まってるよ」
メンバー達を集める彼女の元にいつもの顔が見られる。
これから1つの作戦を提案しようと、彼女は堂々と発言した。
「何か良い案でも見つかったの?」
「糸電話で伝えよう・・・私もネゴシエートする!」
「いいっ、糸電話!?」
糸電話など、この時代の者達はそうそう知っているわけでない。
ある程度の無線技術が成り立っているこの時代ならば、
旧世代の伝達方法など理解の外。
やっぱりびっくりするメンバー達は理由を返してくる。
「ど、どうやって伝えるの?」
「絹」
「へ?」
家から持ってきた糸の塊をメンバーに見せる。
エリー一家の繊維業はトチギCNで中心的な役割をしていた。
それを勝手に持ち出して糸電話を作ろうと言うのだから、
誰もすぐに理解できるはずがない。
何故、そんな物を作るのか半ば適当そうに聞いてきた。
「無線で電波とらえて伝えれば良いんじゃ?」
「無線を使ったら、周波数帯域ですぐにバレるわよ。
糸なら盗聴されないから見つからないでしょ?」
「どこに設置するの?」
「フクシマ北部、とにかく敵さんがいそうな所。
まずはそこを開始地点として移動するよ」
目的は敵対する東北の人達に和平交渉する伝言を行う。
フクシマからミヤギ、イワテ、アオモリ各地に渡って
絹を張り巡らせて意思疎通しようとする。
ただ、糸を張る場所も様々な問題があるのだが。
「あれ、ヤマガタとアキタにはやらないの?」
「そこは無理そう。位置的に悪路で大変だし、人がいなさそうで
海沿いの林地帯に設置しようかなと」
敵に見つかりにくいのは当然として、移動の安易さや糸の設置の
可能性はそこが良い。森の奥深くに設置しても発見されないから。
大まかな内容を理解したメンバー達は最後の確認をエリーに
迫る側、1人の兵士が絹糸を眺めて言う。
「糸通信か・・・電気を送る有線ケーブルならあるけれど。
こんな方法でも、音は伝えられるのね」
「えへへ、すごいでしょ!」
「隊長の家がそれ系だからな、良いコラボだ(?)」
トチギの誇りをかけるなんて大きく言えたものではない。
この戦争を終わらせる“せめてもの1つの手段”として
火薬をまき散らす以外で行動するだけだ。
例え上層部に咎められようと、自ら正しい行いをしたい。
「上に黙ってやるんだから、バレた時やばいぞ」
「隊長の私が責任とるからいいよ♪」
「気軽に言わないでよ、あたし達の首もあるのよ?」
「良いったら良いの! そうなったら、次回から
イバラギ制服のデザイン面積減らすって言うから」
「わ、わかった」
「じゃあ、行きましょ。
エリー特殊工作部隊、直ちに出動する!」
フクシマCN 北部
予定地に着き、エリー分隊は隠れながら障害物と隙間を辿って
設置しに向かって行く。エリーは開始地点で音が伝わるか
発信役として待機する。ソリッドワイヤーで無音、スムーズに移動する
メンバー達は言われた通りに絹糸を張り巡らしていった。
「「エリー、設置場所どうする?」」
「「50~100m間隔ごとに結んでみようかな。
木や柱の上部の方に結んでね!」」
糸電話は通常数百mしか音が届かない。
しかし、エリーにはこの絹糸は音を凝縮する性質があるのを
かつて母親から聞いていたのだ。反響糸とよばれるその糸には
遠距離に及ぶ音伝達が可能な糸だったのが分かった。
だが、作り立ての端材で成功できる保証はなく、
ろくに実験もしていないので、効率良く行えずにいる。
ものは試しでやってみるものの。
プツン
「あ、切れた!」
木々の間を通していく時に、摩擦で切れてしまう。
エリーは何かと補修をする手段を指示しようとする。
「「エリー、こっちも切れたぞ?」」
「「糸同士結び直して、またつないでみて。あー、あー!」」
「「・・・聞こえてるな」」
メンバーのコップから声が聴こえた。
解れても繋ぎ直せば通じるのだから、相当な性能。
数km離れた長さでもはっきりと聴こえるそれに誰しも驚いた。
「「どう、いけそうでしょ?」」
「「すごい仕組みなんだな」」
メンバーはエリー家の技術に改めて感心を抱く。
通信に問題ないなら、このまま設置していけば良い。
続けて淡々と作業をしていると予想通り相手側も現れる。
「「敵影確認、一旦隠れろ!」」
東北兵がやって来た、索敵しているようで辺りを注意深く
見回している1人の兵が木に接続されているコップを観ている。
「ん、何だこの筒は?」
兵士は不思議そうな声を出しながら見つけたようだ。
人声の振動音を感知したエリーは応答してもらうべく、声を発した。
「あの、私の声が聴こえま――!」
「誰だ、こんなとこに筒を張り付けた奴は!?」
ブチン
切られてしまった。エリーの呼びかけに応じるどころか、
伝達器だとすら気づかれやしない。
「あーん、惜しかったぁ!」
多少予想したものの、ファーストコンタクトが困難を極める。
それからいたる所に設置したものの、説得するどころか
会話に応じる機会すらまともにやってこない。
取り付けた物は次々と断たれてしまう。
「こんなルートロープ作った覚えはないぞ、カット」
ブチン
「もしかしてワイヤートラップか!?
解除かいじょカイジョォ!」
ブチン
「丁度良い尿が出そうだったからこれで――」
ブチン
「・・・・・・」
ミヤギもイワテも勝手で珍妙な発言ばかりに切断。
駄目だ、誰もまともに取り合ってくれない。
所詮は浅はかな考えだったのかと無念さがよぎりだしてきた。
「た、隊長」
「ううっ」
メンバー達は怒らずとも、エリーに対して懇願交じりに問いだしてくる。
やっぱり、ただの子ども同然な発想に過ぎなかったのか。
でも、相手の所にまで確かに伝わっていたのも事実。
なんとか次のメンバー達に指示しようとすると、
近距離点からの爆撃音が聴こえた。
ドゴーン
「「敵影反応有り、近くにいる!」」
設置したエリアにも戦闘が始まったようだ。
次第に大きくなる爆撃音は直接こちらにも伝わってくる程だ。
「「これ以上進めない、撤退する!」」
(せっかく設置したのに壊される・・・)
もうこれ以上現地にいられない。
メンバー達も退避し始める。もはやこれまでと観念した時、
それとは異なる、まったく別の振動音が耳に入ってきた。
コップからこちらを呼びかける声だった。
クリーズ「「こちら、アオモリCNの者だ」」
男の声が聴こえた。
先とは違って凛とした芯のある声。
確かにこちらに響いたコップの振動音による瞬間を逃さずに
エリーは切磋琢磨に呼びかけた。
「こちら関東CNの兵です。
今回、そちらに向かった理由は侵攻ではありません!」
関東で行った件は不本意だと主張する。
だが、アオモリ司令官はそれを鵜呑みにせず否定した。
「「それを示せる証拠はあるか?」」
「私の名はエリーというもので・・・」
「「ネームだけでは不十分だ。
とにかく所属だけでも伝えてほしい、どこのCNだ?」」
「わたしは・・・私はフクシマCNの者でした」
「!?」
クリーズは驚いた。直接、自分にコンタクトをとってきたのは
壊滅したはずのCNだったのだから。
確証なき、1本の仕掛けで顔も分からぬ伝言にも関わらず、
クリーズはこの会話に応じる態度にでた。
「「君がこの通信機を作ったのか?」」
「はい、フクシマ自慢の絹繊維。
フェアリーフェザーとよばれる技術です」
やっと会話の機会が巡ってくる。
本来なら身内の情報を安易に話してはいけないが、
現状に関する事情をありったけ話して理解してもらうべく、
エリーは自らの出世を語りだした。
「この絹糸も私達の技術で精製されたものです。
遥か百年も昔からある祖国の技術です」
「「百年も昔?」」
トチギに移っても絹繊維の製造は怠っていなかった。
生き延びたフクシマの人達がトチギに伝え、認められて
移住権を獲得したようなものであったから。
「「そうか・・・なら、君はどうしたんだ?」」
「私は今、新たなCNに身を置いています。
違いな国、地方も信頼を結べる何よりの見えぬ証拠です。
異なる地でもお互いに仲良くやっていける。
移住した先で身をもって体験してきました。
今もそのフクシマの心身は全く変わっていません。
この絹の技術をあなた方に託す心もあります。
だから、私達はあなた方と――」
プツン
彼女の言葉はそこで止まり、もう聞こえることはなかった。
糸は切れ、小細工された筒を手に取ったクリーズ司令官。
彼女の言葉は届いたのか、声は届いても意味は届いたのか。
知る由もなく、切断された糸だけが終わりかけの
破裂音だけで通信は終わりを告げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
外伝書きました。糸、それは伝える力を持つものの1つであります。
少ない物資で連携がとれる術で、実用的かなと思いました。
ちなみに災害時に糸電話で通達して助かった人もいるそうです。
シーン
返事がない、またどこかで絡まってたり切れたりしたのだろう。
観ている周りの視線も次第に細くなりつつある。
括り付けた紙コップに向かって声をあげるエリーがいた。
彼女の奇行に分隊メンバー達もうんざりな顔だ。
一見、幼稚な行為をしている彼女であるものの、
こんな子どもじみた真似をしているのには実は理由があった。
東北戦前 トチギCN拠点
話は少し前にさかのぼる。
仲間を救助しに関東CNが東北へ向かう時の事だった。
関東で中心的な指揮者の役割になりつつあるワタルが
私に護衛役を任せるというのだ。
「ええっ、私は待機ですって!?」
彼にトチギで待ってろと指示された。
ロストさせたくないのか、万が一の時を想定して
後陣としてCNのリソースを蓄えておくと言う。
「まあ、そんな訳で今回はお留守番しててくれるかな?
若き乙女を極寒の地へと誘いたくなくて云々――」
「う、う-ん」
理論も含む口説き文句に反対できずに了承する。
トチギ兵は少数のみ前衛で向かう作戦を決定したが、
エリー分隊は行けなかった。
仲間メンバー達は内心ホッとしたが、私だけは納得していない。
「不満そうだな」
「説得役にワタルだけ行くなんて危険すぎるよ。
なら、私も一緒に連れてってくれれば良いのに・・・」
東北を説得するネゴシエーターとして行きたかったが、
自分はここに残れと言うんだから不満というしかない。
トウキョウ程ではないけど、北方面だって兵力があるというから
彼にとっては、今回それだけ危険なラボリだからだろう。
さらに時間が空いてしまった事で、するべき立場も透けていく
嫌な気持ちも大きくなるものだ。
トチギCN エリー家
その後、エリーは市民街の家に一度帰った。
母親は娘の状況に安心して、しばらくここに居ろと言う。
「良かったじゃないさ。
あんたが前衛に出されたらと思うと、そら心配でげーぼ悪いさ」
「後衛なんざやっちくねーけど、あっちゃの代表さ言うんだから。
ホントにつかっちゃ」
「なら、家の手伝えしてけらい。暇っちゃや?」
「が!?」
母親の作業を見ているエリー。
ちなみに、エリーの家系は紡績工場に携わる所だった。
白く細い繊維の作業を眺めるのは帰ってからよくある光景だ。
当然、ここも作業場だから滑らかな線が目に入るのは当然ではあるが。
(絹か・・・)
対してその目の中に入る情報は火にまみれたものに変換する。
実家も延々と燃え続け、繊維も残らず灰に変わっていく。
かつて見た覚えが逆へ巡り、火から糸状態に戻る。
「あ・・・」
細い繊維を見続けた彼女に、あるイメージが浮かんでくる。
昔、友と一緒に作って遊んだある道具だ。
家の絹を勝手に持ち出して遊んでいたあの時を思い出していた。
(人知れずに伝える・・・ならば)
誰にも理解されないだろう自分の作戦を想像する。
その日は意味もなく、ただのイメージのみで終わるだけだ。
しかし、ただの夢で終わるはずがなく確固たる意志が宿り、
今は過去の思いにふけつつ、彼女は就寝した。
翌日 トチギCN拠点
イメージはいつの間にやら確固たる実行心に変わっていた。
今のトチギはイバラギの傘下にあるとはいえ、
ただ待つだけでやはりこのまま何もせずにはいられない。
あの思いついた案を無駄にするのをできはしなかった。
個人的任務に移すべく、辺りをふらついてた分隊を呼び出した。
「エリー分隊、集合おお!」
「もう、皆集まってるよ」
メンバー達を集める彼女の元にいつもの顔が見られる。
これから1つの作戦を提案しようと、彼女は堂々と発言した。
「何か良い案でも見つかったの?」
「糸電話で伝えよう・・・私もネゴシエートする!」
「いいっ、糸電話!?」
糸電話など、この時代の者達はそうそう知っているわけでない。
ある程度の無線技術が成り立っているこの時代ならば、
旧世代の伝達方法など理解の外。
やっぱりびっくりするメンバー達は理由を返してくる。
「ど、どうやって伝えるの?」
「絹」
「へ?」
家から持ってきた糸の塊をメンバーに見せる。
エリー一家の繊維業はトチギCNで中心的な役割をしていた。
それを勝手に持ち出して糸電話を作ろうと言うのだから、
誰もすぐに理解できるはずがない。
何故、そんな物を作るのか半ば適当そうに聞いてきた。
「無線で電波とらえて伝えれば良いんじゃ?」
「無線を使ったら、周波数帯域ですぐにバレるわよ。
糸なら盗聴されないから見つからないでしょ?」
「どこに設置するの?」
「フクシマ北部、とにかく敵さんがいそうな所。
まずはそこを開始地点として移動するよ」
目的は敵対する東北の人達に和平交渉する伝言を行う。
フクシマからミヤギ、イワテ、アオモリ各地に渡って
絹を張り巡らせて意思疎通しようとする。
ただ、糸を張る場所も様々な問題があるのだが。
「あれ、ヤマガタとアキタにはやらないの?」
「そこは無理そう。位置的に悪路で大変だし、人がいなさそうで
海沿いの林地帯に設置しようかなと」
敵に見つかりにくいのは当然として、移動の安易さや糸の設置の
可能性はそこが良い。森の奥深くに設置しても発見されないから。
大まかな内容を理解したメンバー達は最後の確認をエリーに
迫る側、1人の兵士が絹糸を眺めて言う。
「糸通信か・・・電気を送る有線ケーブルならあるけれど。
こんな方法でも、音は伝えられるのね」
「えへへ、すごいでしょ!」
「隊長の家がそれ系だからな、良いコラボだ(?)」
トチギの誇りをかけるなんて大きく言えたものではない。
この戦争を終わらせる“せめてもの1つの手段”として
火薬をまき散らす以外で行動するだけだ。
例え上層部に咎められようと、自ら正しい行いをしたい。
「上に黙ってやるんだから、バレた時やばいぞ」
「隊長の私が責任とるからいいよ♪」
「気軽に言わないでよ、あたし達の首もあるのよ?」
「良いったら良いの! そうなったら、次回から
イバラギ制服のデザイン面積減らすって言うから」
「わ、わかった」
「じゃあ、行きましょ。
エリー特殊工作部隊、直ちに出動する!」
フクシマCN 北部
予定地に着き、エリー分隊は隠れながら障害物と隙間を辿って
設置しに向かって行く。エリーは開始地点で音が伝わるか
発信役として待機する。ソリッドワイヤーで無音、スムーズに移動する
メンバー達は言われた通りに絹糸を張り巡らしていった。
「「エリー、設置場所どうする?」」
「「50~100m間隔ごとに結んでみようかな。
木や柱の上部の方に結んでね!」」
糸電話は通常数百mしか音が届かない。
しかし、エリーにはこの絹糸は音を凝縮する性質があるのを
かつて母親から聞いていたのだ。反響糸とよばれるその糸には
遠距離に及ぶ音伝達が可能な糸だったのが分かった。
だが、作り立ての端材で成功できる保証はなく、
ろくに実験もしていないので、効率良く行えずにいる。
ものは試しでやってみるものの。
プツン
「あ、切れた!」
木々の間を通していく時に、摩擦で切れてしまう。
エリーは何かと補修をする手段を指示しようとする。
「「エリー、こっちも切れたぞ?」」
「「糸同士結び直して、またつないでみて。あー、あー!」」
「「・・・聞こえてるな」」
メンバーのコップから声が聴こえた。
解れても繋ぎ直せば通じるのだから、相当な性能。
数km離れた長さでもはっきりと聴こえるそれに誰しも驚いた。
「「どう、いけそうでしょ?」」
「「すごい仕組みなんだな」」
メンバーはエリー家の技術に改めて感心を抱く。
通信に問題ないなら、このまま設置していけば良い。
続けて淡々と作業をしていると予想通り相手側も現れる。
「「敵影確認、一旦隠れろ!」」
東北兵がやって来た、索敵しているようで辺りを注意深く
見回している1人の兵が木に接続されているコップを観ている。
「ん、何だこの筒は?」
兵士は不思議そうな声を出しながら見つけたようだ。
人声の振動音を感知したエリーは応答してもらうべく、声を発した。
「あの、私の声が聴こえま――!」
「誰だ、こんなとこに筒を張り付けた奴は!?」
ブチン
切られてしまった。エリーの呼びかけに応じるどころか、
伝達器だとすら気づかれやしない。
「あーん、惜しかったぁ!」
多少予想したものの、ファーストコンタクトが困難を極める。
それからいたる所に設置したものの、説得するどころか
会話に応じる機会すらまともにやってこない。
取り付けた物は次々と断たれてしまう。
「こんなルートロープ作った覚えはないぞ、カット」
ブチン
「もしかしてワイヤートラップか!?
解除かいじょカイジョォ!」
ブチン
「丁度良い尿が出そうだったからこれで――」
ブチン
「・・・・・・」
ミヤギもイワテも勝手で珍妙な発言ばかりに切断。
駄目だ、誰もまともに取り合ってくれない。
所詮は浅はかな考えだったのかと無念さがよぎりだしてきた。
「た、隊長」
「ううっ」
メンバー達は怒らずとも、エリーに対して懇願交じりに問いだしてくる。
やっぱり、ただの子ども同然な発想に過ぎなかったのか。
でも、相手の所にまで確かに伝わっていたのも事実。
なんとか次のメンバー達に指示しようとすると、
近距離点からの爆撃音が聴こえた。
ドゴーン
「「敵影反応有り、近くにいる!」」
設置したエリアにも戦闘が始まったようだ。
次第に大きくなる爆撃音は直接こちらにも伝わってくる程だ。
「「これ以上進めない、撤退する!」」
(せっかく設置したのに壊される・・・)
もうこれ以上現地にいられない。
メンバー達も退避し始める。もはやこれまでと観念した時、
それとは異なる、まったく別の振動音が耳に入ってきた。
コップからこちらを呼びかける声だった。
クリーズ「「こちら、アオモリCNの者だ」」
男の声が聴こえた。
先とは違って凛とした芯のある声。
確かにこちらに響いたコップの振動音による瞬間を逃さずに
エリーは切磋琢磨に呼びかけた。
「こちら関東CNの兵です。
今回、そちらに向かった理由は侵攻ではありません!」
関東で行った件は不本意だと主張する。
だが、アオモリ司令官はそれを鵜呑みにせず否定した。
「「それを示せる証拠はあるか?」」
「私の名はエリーというもので・・・」
「「ネームだけでは不十分だ。
とにかく所属だけでも伝えてほしい、どこのCNだ?」」
「わたしは・・・私はフクシマCNの者でした」
「!?」
クリーズは驚いた。直接、自分にコンタクトをとってきたのは
壊滅したはずのCNだったのだから。
確証なき、1本の仕掛けで顔も分からぬ伝言にも関わらず、
クリーズはこの会話に応じる態度にでた。
「「君がこの通信機を作ったのか?」」
「はい、フクシマ自慢の絹繊維。
フェアリーフェザーとよばれる技術です」
やっと会話の機会が巡ってくる。
本来なら身内の情報を安易に話してはいけないが、
現状に関する事情をありったけ話して理解してもらうべく、
エリーは自らの出世を語りだした。
「この絹糸も私達の技術で精製されたものです。
遥か百年も昔からある祖国の技術です」
「「百年も昔?」」
トチギに移っても絹繊維の製造は怠っていなかった。
生き延びたフクシマの人達がトチギに伝え、認められて
移住権を獲得したようなものであったから。
「「そうか・・・なら、君はどうしたんだ?」」
「私は今、新たなCNに身を置いています。
違いな国、地方も信頼を結べる何よりの見えぬ証拠です。
異なる地でもお互いに仲良くやっていける。
移住した先で身をもって体験してきました。
今もそのフクシマの心身は全く変わっていません。
この絹の技術をあなた方に託す心もあります。
だから、私達はあなた方と――」
プツン
彼女の言葉はそこで止まり、もう聞こえることはなかった。
糸は切れ、小細工された筒を手に取ったクリーズ司令官。
彼女の言葉は届いたのか、声は届いても意味は届いたのか。
知る由もなく、切断された糸だけが終わりかけの
破裂音だけで通信は終わりを告げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
外伝書きました。糸、それは伝える力を持つものの1つであります。
少ない物資で連携がとれる術で、実用的かなと思いました。
ちなみに災害時に糸電話で通達して助かった人もいるそうです。
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