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2章 関東統一編
第14話 トウキョウ下暗し
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トウキョウCN中層階軍備計画局 トーマス部署
「主任がいなくなった!?」
「先日、栖馬エリアシェルター街で住民以来調査に向かう途中、
敵性にアブダクトされた模様。報告から中部のタイプと思われるが、
以上の詳細は不明」
ベルティナからトーマスがトウキョウから離脱した話を説明された。
市民街調査の途中、何者かに侵入されてさらわれてしまったようだ。
突然の出来事で、メンバー達も動揺を隠せなかった。
でも、内部監視カメラやPDを数機配置してあるはずなのに、
ここまで通達が来なかったのもおかしい。
通常なら、侵入者なんて映像確認した時点ですぐに対応できるはず。
最近になってから周辺で不思議な事件ばかり起きてる気がする。
あれから赤いライオットギアの件について進展もなく、
つい勢いで視察してもこれといった物も発見できなかった。
メンバー達と共に聞いていたセレーネは今後を伺う。
「ここはどうなるんですか?」
「今、審議中で別の担当適任者を検討している。
よって、トーマス部署は一時閉所。ラボリも指定できない。
彼の代行が来るまで待機との事、以上だ」
休みができたのは幸いなんて言ってられない。
それにヒデキとの面会についても聞きたかった。
退出した彼女を追って聞きに行く。
トウキョウCN中層階 軍備計画局入口
「どうしてもダメなんですか?」
「許可はできない、反逆者との共謀や情報漏えい防止のため、
立ち入り禁止となっている」
ヒデキとの面会をベルティナに要望するが、やっぱりダメなようだ。
少なくとも彼はもう中層階にはいないと聞いていたから、
思い当たるのは下層階だけで、
てっきり出戻り的な配置に就かされていると思った。
肝心なのはそこだけど、調べても名前が一切見つからず。
赤いライオットギアの件も同様、下部の動きが色々とおかしい。
「1つだけお伺いいたします!
最近、キューブセクションの利用状況がおかしいみたいです!
軍事執行局に務める妹も、区画整備に不審点があると――」
「機密事項だ、そこに関する区画は重要ゆえ極秘に値。
ヒデキについてはもうここに再配属する予定はない。
奴の事は忘れるんだ」
彼女は答えずに立ち去る。
いつもながら、要件や規律だけ伝えてさっさと行ってしまう。
言葉で表す法の壁。
正直、デモクラシーに反した体制なのは前から理解していた。
だからといって、上に物を言える者なんていない。
つい、右手を前に上げてしまうも誰も見ていない。
結局ふりだしに戻されてしまった。
中層階 リフレッシュ広場
昼休みの休憩時間。
私はベンチに座って水素水を飲んで休憩。
女友達のBとDは別用でいないから、1人で過ごす。
まだ下級兵装備ドキュメントも確認を終えていないけど、
少し休みたくなった。
トーマス主任も不在だから、ズル休みしても怒られる事もない。
すぐに代理が来ると思うので、いつまでもそうするつもりもないが
たまには自室以外の所で異なる光景を観たい気分だ。
周囲を歩くトウキョウ兵達。
(ホントに忙しそう・・・)
巨大な木が広場中央に一本だけ生えた広場で同じ事をしてるのは
今、私だけ。
多忙は自分だけに限った事でもない。
ここトウキョウはCNの中で最高峰の設備を誇るという。
外観では普通に人が歩いているだけ。
だけど、楽しそうというよりも目的のために足を運ぶ様。
それぞれのやるべき課題をこなそうと動き、歩き、感情を抑えるように
包み覆われて成立する所に思えて仕方がない。
でも、私にとっては複数の道を歩く人の流れが思考をよく促せる。
道という場に人の乱れない進行が正確性から幾何学的思考、
まるで、電子が一定に回る様な原子が自分を周りとして
配列、整理状態が頭の中で好奇心へ変えさせてゆく感じがするのだ。
頭に少し痛みが走る。
最近の仕事が重なり続けて無理がたたったかもしれない。
それでも仕事は来る日も来る日もやって来る。
度重なるコード連続に“できません”という単語は使えない。
人の都合なんて考えられていないここで、ただシステムに則って
働かせ続ける。
これから世界はどう進むのか?
生活がどう変化してゆくのか?
周囲の仕様は時代を越えても金属から出るワードを刻々と刻むのか?
どこへ?
(ハッ、私ってば何を!?)
また、うっかりと自身の世界に浸ってしまう。
女が理工系に関われるのはこういった心象が主だけど、
こんな価値観なんて簡単に理解されるものじゃない。
変な人だと思われないよう周囲を見まわしながら気を取り直すと、
トーマス部署の同僚Aが来た。
「セレーネ、今日は1人かい?」
「うん、BもDも実家に帰ってていないから。
部署も休みで、ちょっと疲れちゃったから」
「大丈夫かい? 君はいつも正常そうに観えるから気付けなくて」
「いいの、元気だけが私の取り柄だから。
でも、トウキョウの中に敵が入ってきたなんて予想外。
まさか、こんな事になるなんて」
「そうだね、最近になってここも大きく変化したから。
対策もより高じて兵装設計はアップデートの連続の連続。
主任には悪いけど、僕らもけっこうきつかったよ。
まあ、たまにはこうしてゆっくりしたいものだよね。
隣、良いかい?」
「え、ええ」
彼が隣に腰を下ろす。
後で噂になられるのも嫌なので、
体がくっつかないよう間にポシェットを挟み置き。
一応、近辺の話だけしようとした。
「そういえば、君は何か探しているみたいだけど?」
「う、うん・・・下層階に赤い、ライオットギアがあるんだって。
話だとキューブセクションの中にあるみたいで」
「あの話か、僕も詳しくは分からないけど、軍事執行局が色々と
回っているんだっけ。No7がよく利用してたって話だけど、
あの人は機械関係じゃないし。あくまでも噂だよね?」
「分かっているの、マシンエンジニア関係で興奮するのが悪いクセで。
でも、気になって・・・どうしようもないよね」
ここでヒデキの話はしたくない。
異性の話で不快にさせるわけにはいかなかった。
同じく変に思われたくないから、いつもの物好きをアピール。
Aは覚えがあると言う。
「キューブセクションか・・・個別パスコードで分けられた個室を
辿るには・・・あの人ならできるかな。
見つける方法はあるにはあるけど?」
「あるの!?」
繊細さを忘れて身を乗り出しかけて“問い詰める”。
「お願い、教えてくれる!?」
「待って、あまり堂々と公言するのもなんだから・・・これで」
内容はデリケートなものらしく、
あのPDに検知されない文字変換ツールに変えて伝えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
中層階交通局にラメッシュという人がいる。
その人はトウキョウ下層階を熟知していて、あのキューブセクションの
内装すら色々知ってるようだ。
少しだけ聞いた話では、何者かが他地方と連携を試みて接触。
それが下層階のどこかと通じて、新たに何か製造しているらしい。
もしかしたらヒデキも関係で連れていかれた可能性も。
もっと知りたいならば、本人から直接聞いてみると良い。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Aは交通局に知人がいて、情報屋的な役割をする者がいるという。
ならば、またいで教えてほしいと言いたいところだけど、
重要区画の一部でこの人の身も障るから無理なようだ。
確かに区画整備担当の部門だから、位置情報に詳しい。
普通の言葉に戻して話す。
「僕だってにわかに信じられないけど、可能性はあると踏む。
主任も栖馬エリア自然排水口からアブダクトされてしまったし。
君はどこの下層階なのか分からず気になるんだろう?
ならば、それぞれ携わる区域担当者から確認した方が良いね」
「わ、分かった・・・ありがとう」
確かに交通局はサイタマやカナガワ、ここの整備を管轄している。
この好奇心はもう抑えられずに、観たい欲求が大きく膨らむ。
私は周囲から不審がられないような足取りでそこに向かった。
トウキョウCN 最下層
「カミは我をお見捨てておらんぅぅ、かならずやいつかおすくいをぉぉ」
「オレはムテキのチカラをてにいれてモテたいだけなんだよォ!
オレにオーロパワーがあるからひがんでここにいれたんだるォ!?
まだオレにはカノウセイがある、サッサとここからだせェ!」
「ちょいといっかいのつもりでヤッて、いつのまにやらたにぞこへ~♪」
ヒデキは牢に入れられた者達の奇声から避けるため、
布団の中で耳を塞ぎながらうずくまっている。
ある時になると、こうして毎回声を上げ始めて騒ぎを起こす。
もちろん意味もへったくれもないから聞くだけムダ。
嫌でも聴こえてくるから、ろくに眠れない。
(人はこんなにもおかしくなれるんだな)
ネタとしても面白くない光景に、気分もよりどん底を這う。
周囲への気遣いなんて気持ちも微塵もなく恥をさらす。
頭がイカれたにも程がある。
いや、変というのは自分の感想で、下層階連中からすれば普通なのだろう。
歌い、叫び、本能のまま自分を主張したりする。
まさか、こんな所で認識させられるなんて思ってもいなかったけど。
ボクら頭脳者は知的アピールだってするから、品性や表現の違いで
キレイに思えるだけで当然印象が異なるはず。
そんな中、見たくれとは裏腹に誰かを蹴落とす算段を立ててゆく。
本音を吐き出すなど許されないトウキョウだからこそ、
人の本性や性格なんて傍から観えなくなる。
だから、嵌められてこんな所に来させられてしまった。
自分も最初はこうだったかもしれない。
(ボクは、いつからこんな人間になったっけ?)
ボクは栖馬エリアで生まれた。
一人っ子で、家柄もそんなに大きくない一民家出身。
3才頃から+-×÷の計算やコード遊びをしていたのは覚えている。
当時は友達もいなくて、勉強みたいな事だけいっぱいこなしてきた。
おかげで、CN加入時は飛び級で中層階の軍備計画局に入れて、
有数なトーマス部署に参加できた。
もちろん、正直言って嬉しかったし、舞い上がったのは否定しない。
否定したくない程黙々とした10代だったから。
こんな状況で知識をひけらかした行き先が牢獄世界だった。
調子にのって手を伸ばして上がれば下が見えにくくなるだろう。
でも、気が付くのが遅すぎた。
至る所に見えない罠だらけ、先回りに囲われて馬鹿をみた。
知識って何のために? 世間への表現って? 立場の行く末とは?
もう、自分そのものが分からなくなってゆく。
元から身体なんて動かさないから、ダルいままだ。
布団の中から前方の牢を見る。
「・・・・・・」
例の問題男は無言が続いている、今日は一言も口を発していない。
暴れたかと思えば、突然静かになり黙り込む。
こういった者は何ていうのか、ガマンをしない奴でも
エネルギーの使い方が分からないケースかもしれない。
それに腕を振るスピードが精鋭部隊の連中よりも速い。
他の連中とは違うのはすぐ気付いたけど、異質さも垣間見える。
相当に得体の知れない素質をもっているのだろう。
トウキョウにこんな人物がいたのは意外だけど。
ただ理解できたのは、虹彩が蒼く白人と違ってとても濃い。
人の目だけは嘘をつけない色をもっていたという光景くらいだ。
「主任がいなくなった!?」
「先日、栖馬エリアシェルター街で住民以来調査に向かう途中、
敵性にアブダクトされた模様。報告から中部のタイプと思われるが、
以上の詳細は不明」
ベルティナからトーマスがトウキョウから離脱した話を説明された。
市民街調査の途中、何者かに侵入されてさらわれてしまったようだ。
突然の出来事で、メンバー達も動揺を隠せなかった。
でも、内部監視カメラやPDを数機配置してあるはずなのに、
ここまで通達が来なかったのもおかしい。
通常なら、侵入者なんて映像確認した時点ですぐに対応できるはず。
最近になってから周辺で不思議な事件ばかり起きてる気がする。
あれから赤いライオットギアの件について進展もなく、
つい勢いで視察してもこれといった物も発見できなかった。
メンバー達と共に聞いていたセレーネは今後を伺う。
「ここはどうなるんですか?」
「今、審議中で別の担当適任者を検討している。
よって、トーマス部署は一時閉所。ラボリも指定できない。
彼の代行が来るまで待機との事、以上だ」
休みができたのは幸いなんて言ってられない。
それにヒデキとの面会についても聞きたかった。
退出した彼女を追って聞きに行く。
トウキョウCN中層階 軍備計画局入口
「どうしてもダメなんですか?」
「許可はできない、反逆者との共謀や情報漏えい防止のため、
立ち入り禁止となっている」
ヒデキとの面会をベルティナに要望するが、やっぱりダメなようだ。
少なくとも彼はもう中層階にはいないと聞いていたから、
思い当たるのは下層階だけで、
てっきり出戻り的な配置に就かされていると思った。
肝心なのはそこだけど、調べても名前が一切見つからず。
赤いライオットギアの件も同様、下部の動きが色々とおかしい。
「1つだけお伺いいたします!
最近、キューブセクションの利用状況がおかしいみたいです!
軍事執行局に務める妹も、区画整備に不審点があると――」
「機密事項だ、そこに関する区画は重要ゆえ極秘に値。
ヒデキについてはもうここに再配属する予定はない。
奴の事は忘れるんだ」
彼女は答えずに立ち去る。
いつもながら、要件や規律だけ伝えてさっさと行ってしまう。
言葉で表す法の壁。
正直、デモクラシーに反した体制なのは前から理解していた。
だからといって、上に物を言える者なんていない。
つい、右手を前に上げてしまうも誰も見ていない。
結局ふりだしに戻されてしまった。
中層階 リフレッシュ広場
昼休みの休憩時間。
私はベンチに座って水素水を飲んで休憩。
女友達のBとDは別用でいないから、1人で過ごす。
まだ下級兵装備ドキュメントも確認を終えていないけど、
少し休みたくなった。
トーマス主任も不在だから、ズル休みしても怒られる事もない。
すぐに代理が来ると思うので、いつまでもそうするつもりもないが
たまには自室以外の所で異なる光景を観たい気分だ。
周囲を歩くトウキョウ兵達。
(ホントに忙しそう・・・)
巨大な木が広場中央に一本だけ生えた広場で同じ事をしてるのは
今、私だけ。
多忙は自分だけに限った事でもない。
ここトウキョウはCNの中で最高峰の設備を誇るという。
外観では普通に人が歩いているだけ。
だけど、楽しそうというよりも目的のために足を運ぶ様。
それぞれのやるべき課題をこなそうと動き、歩き、感情を抑えるように
包み覆われて成立する所に思えて仕方がない。
でも、私にとっては複数の道を歩く人の流れが思考をよく促せる。
道という場に人の乱れない進行が正確性から幾何学的思考、
まるで、電子が一定に回る様な原子が自分を周りとして
配列、整理状態が頭の中で好奇心へ変えさせてゆく感じがするのだ。
頭に少し痛みが走る。
最近の仕事が重なり続けて無理がたたったかもしれない。
それでも仕事は来る日も来る日もやって来る。
度重なるコード連続に“できません”という単語は使えない。
人の都合なんて考えられていないここで、ただシステムに則って
働かせ続ける。
これから世界はどう進むのか?
生活がどう変化してゆくのか?
周囲の仕様は時代を越えても金属から出るワードを刻々と刻むのか?
どこへ?
(ハッ、私ってば何を!?)
また、うっかりと自身の世界に浸ってしまう。
女が理工系に関われるのはこういった心象が主だけど、
こんな価値観なんて簡単に理解されるものじゃない。
変な人だと思われないよう周囲を見まわしながら気を取り直すと、
トーマス部署の同僚Aが来た。
「セレーネ、今日は1人かい?」
「うん、BもDも実家に帰ってていないから。
部署も休みで、ちょっと疲れちゃったから」
「大丈夫かい? 君はいつも正常そうに観えるから気付けなくて」
「いいの、元気だけが私の取り柄だから。
でも、トウキョウの中に敵が入ってきたなんて予想外。
まさか、こんな事になるなんて」
「そうだね、最近になってここも大きく変化したから。
対策もより高じて兵装設計はアップデートの連続の連続。
主任には悪いけど、僕らもけっこうきつかったよ。
まあ、たまにはこうしてゆっくりしたいものだよね。
隣、良いかい?」
「え、ええ」
彼が隣に腰を下ろす。
後で噂になられるのも嫌なので、
体がくっつかないよう間にポシェットを挟み置き。
一応、近辺の話だけしようとした。
「そういえば、君は何か探しているみたいだけど?」
「う、うん・・・下層階に赤い、ライオットギアがあるんだって。
話だとキューブセクションの中にあるみたいで」
「あの話か、僕も詳しくは分からないけど、軍事執行局が色々と
回っているんだっけ。No7がよく利用してたって話だけど、
あの人は機械関係じゃないし。あくまでも噂だよね?」
「分かっているの、マシンエンジニア関係で興奮するのが悪いクセで。
でも、気になって・・・どうしようもないよね」
ここでヒデキの話はしたくない。
異性の話で不快にさせるわけにはいかなかった。
同じく変に思われたくないから、いつもの物好きをアピール。
Aは覚えがあると言う。
「キューブセクションか・・・個別パスコードで分けられた個室を
辿るには・・・あの人ならできるかな。
見つける方法はあるにはあるけど?」
「あるの!?」
繊細さを忘れて身を乗り出しかけて“問い詰める”。
「お願い、教えてくれる!?」
「待って、あまり堂々と公言するのもなんだから・・・これで」
内容はデリケートなものらしく、
あのPDに検知されない文字変換ツールに変えて伝えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
中層階交通局にラメッシュという人がいる。
その人はトウキョウ下層階を熟知していて、あのキューブセクションの
内装すら色々知ってるようだ。
少しだけ聞いた話では、何者かが他地方と連携を試みて接触。
それが下層階のどこかと通じて、新たに何か製造しているらしい。
もしかしたらヒデキも関係で連れていかれた可能性も。
もっと知りたいならば、本人から直接聞いてみると良い。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Aは交通局に知人がいて、情報屋的な役割をする者がいるという。
ならば、またいで教えてほしいと言いたいところだけど、
重要区画の一部でこの人の身も障るから無理なようだ。
確かに区画整備担当の部門だから、位置情報に詳しい。
普通の言葉に戻して話す。
「僕だってにわかに信じられないけど、可能性はあると踏む。
主任も栖馬エリア自然排水口からアブダクトされてしまったし。
君はどこの下層階なのか分からず気になるんだろう?
ならば、それぞれ携わる区域担当者から確認した方が良いね」
「わ、分かった・・・ありがとう」
確かに交通局はサイタマやカナガワ、ここの整備を管轄している。
この好奇心はもう抑えられずに、観たい欲求が大きく膨らむ。
私は周囲から不審がられないような足取りでそこに向かった。
トウキョウCN 最下層
「カミは我をお見捨てておらんぅぅ、かならずやいつかおすくいをぉぉ」
「オレはムテキのチカラをてにいれてモテたいだけなんだよォ!
オレにオーロパワーがあるからひがんでここにいれたんだるォ!?
まだオレにはカノウセイがある、サッサとここからだせェ!」
「ちょいといっかいのつもりでヤッて、いつのまにやらたにぞこへ~♪」
ヒデキは牢に入れられた者達の奇声から避けるため、
布団の中で耳を塞ぎながらうずくまっている。
ある時になると、こうして毎回声を上げ始めて騒ぎを起こす。
もちろん意味もへったくれもないから聞くだけムダ。
嫌でも聴こえてくるから、ろくに眠れない。
(人はこんなにもおかしくなれるんだな)
ネタとしても面白くない光景に、気分もよりどん底を這う。
周囲への気遣いなんて気持ちも微塵もなく恥をさらす。
頭がイカれたにも程がある。
いや、変というのは自分の感想で、下層階連中からすれば普通なのだろう。
歌い、叫び、本能のまま自分を主張したりする。
まさか、こんな所で認識させられるなんて思ってもいなかったけど。
ボクら頭脳者は知的アピールだってするから、品性や表現の違いで
キレイに思えるだけで当然印象が異なるはず。
そんな中、見たくれとは裏腹に誰かを蹴落とす算段を立ててゆく。
本音を吐き出すなど許されないトウキョウだからこそ、
人の本性や性格なんて傍から観えなくなる。
だから、嵌められてこんな所に来させられてしまった。
自分も最初はこうだったかもしれない。
(ボクは、いつからこんな人間になったっけ?)
ボクは栖馬エリアで生まれた。
一人っ子で、家柄もそんなに大きくない一民家出身。
3才頃から+-×÷の計算やコード遊びをしていたのは覚えている。
当時は友達もいなくて、勉強みたいな事だけいっぱいこなしてきた。
おかげで、CN加入時は飛び級で中層階の軍備計画局に入れて、
有数なトーマス部署に参加できた。
もちろん、正直言って嬉しかったし、舞い上がったのは否定しない。
否定したくない程黙々とした10代だったから。
こんな状況で知識をひけらかした行き先が牢獄世界だった。
調子にのって手を伸ばして上がれば下が見えにくくなるだろう。
でも、気が付くのが遅すぎた。
至る所に見えない罠だらけ、先回りに囲われて馬鹿をみた。
知識って何のために? 世間への表現って? 立場の行く末とは?
もう、自分そのものが分からなくなってゆく。
元から身体なんて動かさないから、ダルいままだ。
布団の中から前方の牢を見る。
「・・・・・・」
例の問題男は無言が続いている、今日は一言も口を発していない。
暴れたかと思えば、突然静かになり黙り込む。
こういった者は何ていうのか、ガマンをしない奴でも
エネルギーの使い方が分からないケースかもしれない。
それに腕を振るスピードが精鋭部隊の連中よりも速い。
他の連中とは違うのはすぐ気付いたけど、異質さも垣間見える。
相当に得体の知れない素質をもっているのだろう。
トウキョウにこんな人物がいたのは意外だけど。
ただ理解できたのは、虹彩が蒼く白人と違ってとても濃い。
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