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2章 関西統一編
第10話 哺乳類の安息1
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ミヤザキCN目南エリア 鶏戸神宮
ポイッ カコーン
「くっ、外した」
「どれ、今度はあたしが・・・」
スポッ ポチャン
「入った!」
「チクショー!」
犬兵団はミヤザキCNの海沿いにある鍾乳洞に来ていた。
四国と同盟を組む事が決まり、地元にまつわる祝いの儀式を行おうという、
イイダ夫妻の提案でここの警備を任された。
自分も意外にここに来るのは初めてで、
こんな海に隣接した山に軍事以外の施設を造るなど珍しいと感じた。
当のイイダ2人がやって来て、続きを話す。
「しかし、ずいぶんとまた海の近くで行うんですね?」
「ここは四国からそう遠くない距離に位置するし、
相手にとっては手間を取りにくいでしょ」
「ここは門出を祝う場所にも打って付けじゃ。
本来ならもっと演習場みたいな場所で行うものだが、
万が一に備えて沿岸でする事に決めたんじゃ。
ちと狭いが、神聖な場所で同盟式を行うには良い」
あれだけしのぎを削り合ってきた関係が、
もう今日から共に歩んでいく仲となるのだ。
CNの統合を祝い事として扱う事が良いとは言い切れない。
だが、それでも命の取り合いの愚かさを戒めるための
“居場所”は必要なのだろう。
ポイッ
「ああああ、入らないいいいい!」
「ホント、狙いが甘いわね」
この鍾乳洞は昔からジンジャとして利用されていた。
先程から自分達が投げているものは運玉といって、
崖の底にある岩の窪地に投げ込み、入ると運が良くなるという
ジンクスがある。軍事利用としてはさほど重要度は高くないので、
奪取される恐れがあまりない。
安全性を考慮した上で、海沿いがふさわしいと判断された。
「それで、ここにしたんですね」
「ほら、あそこの岩は乳房の様に見えるでしょ?
哺乳類を代表とする母乳という由来が昔からあったの」
「た、確かにそう見えなくもないですが。自然の形でそんな・・・。
なんというホニュウルイ感」
「そうじゃな、わしらにお前たちのような宝には恵まれんかった。
色々あったが、人生思うようにはいかんのう。
だから、こういった場所を設けたかったんじゃ。
ここ、九州の縁を保てるようにな」
「え、ええ・・・」
という言葉通り、2人には子どもがいない。
イイダ90歳、イイダ嫁70歳と年齢差もあって、
くっついたのもかなり後だというから機会がなかったようだ。
どこで知ったのか、ジンクスという意味的として、
縁結びとしてこうした場所を備えていた。
ここにも犬の石像が置かれている。
「ははは・・・ここにもお前そっくりな像があるな」
「ワンッ」
あれからオルンに変調はなく、いつものようにふるまっている。
この子の正体は発動機、ライオットギアの類であったが、
自分は決して悪い目で見てはいない。
もしかしたら、別のCNから来たのかもしれないが、
機械であろうが、大事なパートナーであることに変わりはないのだ。
ミキの犬がオルンをペロペロしながら彼女も眺める。
「それにしても、ホントによくできている子ね」
「どう考えても、この時代の技術には思えないな」
「・・・・・・」
少なくとも、前に見た内部のパーツは九州製のものではない。
関東には高い技術力をもつCNもあるらしい。
隣接の所と同盟するいえど、外側はまだまだ侮れないと
気を引きそうに思えるくらいだ。
犬が苦手なはずの司令がオルンをじっと見ている。
「まあ、犬兵団は九州にとって大事な位置付けなのに変わりはない。
怖くても・・・管理は・・・ひっすじゃ」
「これを建造したのはイイダ司令ですよね?」
「そうじゃ、デザインも決めたのはワシじゃ・・・あ!?」
「?」
司令はしまったというような顔をする、何かを言いかけたようだ。
まるで口を滑らせてしまったと言わんばかりに、
設計者が自分だった事が明らかになってしまう。
「司令がデザインも担当していたなんて意外ですね?」
「思っていたんですけど、ここ九州にいる柴犬って
そんなに多くないのに、何故この犬種をモデルに?」
意外な指摘をして周囲から気を引く。
天然で口を漏らした司令の話でミキは犬種にひっかかる。
彼女の質問に司令が懐古を思わせるような発言をした。
「そう思うのも無理はあるまい。
ワシは・・・かつてオルンに助けられたからのぅ」
「!?」
オルンの前担当者はイイダ司令だったのだ。
さらに、司令が犬兵団にいた事が今になって判明したとは
普段から聞いてないとはいえ、犬嫌いなんていうウワサとは逆の
事実を明らかにされた。
「司令が・・・オルンに助けられた?」
「ああ、そうじゃ。この子はわしにとって第2の担当犬。
奇妙な付き合いをしていた仲じゃった」
司令が実働部隊として兵役していたのは約60年前まで。
つまり、この子はかなり以前からいた事になる。
まさか、九州の総司令官も犬兵団だった事を今更知ったので、
どのような経緯があったんだと追求したくなるのを読んだのか、
ゆっくりとした口調で話し出した。
「あの時・・・んと・・・あの時じゃな」
自分がまだ衛生兵を担当していたときだ。
当時はCN最西部に位置するのか、大きな抗争も起こらずに
人手不足だった犬兵団の方へ転属する事になった。
説明で犬小屋を見せられた時は身体が止まったわ。
土佐犬、薩摩犬など大型もいるが、シーズーやチワワなど
とても軍用犬として扱えそうに思えないもの交ざっていた。
上層の話では“平均的な基本動作ができる犬”などという珍妙な理由で
どんな犬種でも扱う方針だったらしい。
そこに1匹の犬がいた。
柴犬とよばれる犬種で、大変狂暴で皆の手を焼いていた扱いの悪い犬だった。
運の悪い事に、自分にその犬を担当する役目が回ってきたのである。
この子は早くにして母親を亡くしていたという。
話によると、この犬は“母乳を一度も与えられなかった”もので、
栄養剤のみ投与されて生きてきたと後で知ったものだ。
哺乳類が凶暴になるのは大抵母乳の不足さが主。
自分は自分が飲む分のミルクをこしらえて飲ませようと色々と
工夫をしてきた。それでも、この子は中々飲もうとしなかった。
あきらめずに指導を続けた末、ようやく懐いてくれたようで
基本軍事動作ができるくらいにまで成長できた。
しばらくして、中つ国CNへ進出したときの事だ。
少し目を離した間に敵の射線区域まで入り込んでしまい、
その子は速射砲であっさりとロストしてしまった。
当時はろくに訓練もこなせていなく、改めて思い知らされた。
犬という哺乳類をぞんざいに扱っていた人間の傲慢さにな。
だが、自分は認めたくなかった。
犬ですら共に歩めると信じて犬兵団の存続が危ぶまれる中、
なんとか推し通してきたのだ。
親犬が子犬に母乳を与える光景を見るたびに心が痛くなる。
真っ当に育てきれなくて申し訳なかったとな。
「・・・・・・」
司令の犬が苦手だったのは、これが根本原因だったわけだ。
決して安全ではない現場に動物を駆り出して命まるごと盾にする。
犬を大事にするという裏腹で戦争の道具として利用させて、
共存と使役の差に苦しむ内に目をそむけたくなってしまうだろう。
ミキが理解した上で続きを聞く。
「本当に大変な思いをしていたんですね・・・続けたいんですが、
九州に犬兵団を存続させたのはどういった事で?」
「うむ、これでもわしは一度犬兵制度を廃止しようと思っていたわ。
じゃが、嫁や周囲の要望で今に至っておる」
哺乳類というのは母乳で育てる動物だ。
ここの鍾乳洞は犬達を守るために自分が再設立した場所だった。
次からは目立たぬ場所で育成しようと選ぶよう心掛けた。
ある日、野良犬回収で山岳地帯を見回っていると、
クマモト某所で嫁と共にある動物を見つけたときの事だ。
そこに1匹の犬がいた。
外見ともに自分が担当していた犬と同じ。
当時は何度も目を擦って疑った。
柴犬などいくらでもいるというのに、あやつとまったく同じ姿の
犬が毛色、顔も瓜二つの犬が。それがこの子だったんだ。
「司令は・・・この子が機械だという事実を知っていたんですか?」
「そうでもない、話では他地方からの提供者としか聞いておらん。
あの時代は哺乳類の回収が多く行われていたから、てんやわんやにな」
同じ犬種だから偶然似ているだけと思われるが、仕草も同じだという。
訓練でやった事もそっくり同じ事ができたので、感動に打ち震えたらしい。
司令ですら、オルンが製造された理由が分からなかった。
この子といい、オキナワで破壊されたという亡霊艇といい、
九州に暗部が存在する事だけは感じ始めている。
ミキは自分に言ってきた。
「あんたはどう思う?」
「思うって何が?」
「イイダさんみたいな司令官クラスでも知らない事実があるって事は、
“どこからそういった経路で伝わってきたか”って思わない?」
「他の提供者っていうくらいだから、もちろん他CNだろ。
四足ライオットギアみたいなロボットがあるから、
犬型だってどこかで造ってるに決まってる」
「犬を扱うCNがないのに?」
「それは・・・なら、天主殻からやって来たと考えるしかないだろ。
他で機械的におかしいっていったら、あの円盤とか。
あれだけは、正体不明というか、未知との遭遇というか」
「話によると、天主殻は100年前に創立されたっていうじゃない。
なら、はるか前の時代にすごい文明があったてことよね?」
「そうかもしれないな」
ミキは生き残り的な技術の始まりに興味があるらしい。
全て謎に包まれている天主殻ならば、動物機体の1つでもあり得るだろう。
エイミーも別口で似た事は言っていた。
彼女の言い分になんとなくも聞きながらそう言いつつ、1つ疑問が浮かんだ。
「天主殻は哺乳類による軍事利用を認めてるようですが、
動物にこれといった法律制度がないのはどうしてでしょうか?」
人間に課された懲役システムのみで、他の生物などには
何故適用されていないのか。今度はイイダ嫁方が話した。
「あたしの先祖の話では、かつて天主殻から攻撃を受けていたという
出来事があったって。支配された後は規定範囲内で行動しろと
言われたらしいわ」
「むやみに外出るなって・・・まるで僕らが犬扱いですね」
「昔からここに存在する犬兵団は“動物との共存”するという
名目の上での軍事ルールじゃったが、適応の理由がサッパリじゃ。
先の通り、詳細ですらよく分からんわ。
犬兵団の創立者は・・・誰じゃったかの?」
「戦いだけにしか使われないなんて可哀想ね・・・」
マサキもミキの言い分に同感する。
犬達を見つめて撫でる彼女を、同じく横で見ている
イイダ嫁司令が思いもよらない話をし始めた。
「でも、おかげで新しい発見もつかめたわ。
そんな哺乳類にも特異な性質があったのよ。
あたし達の研究班が見つけたの」
「ミヤザキCNの人達がですか!?」
「ええ、乳清という鎮静剤よ。
痛み止めの研究をしていて、良い製品が出来上がったの」
乳清、哺乳類の母乳を加工、改良して精神を落ち着かせる
鎮静剤を製造している事を明かした。
「母乳にはアミノ酸なども含まれてるのよ。
神経を和らげるセロトニン作用をもつ物質がね。
実は麻酔弾の原料にも使われているの」
「な、なにがなんだかサッパリ・・・」
「相当すごい効き目なら、副作用もありそうですが大丈夫でしょうか?」
「もう検証済みよ、人体への投与に使用したわ。
もちろん、九州の人に実験させるわけにいかないから他で試したの。
本国に帰還させたあの捕虜に」
「なんですと!?」
かつて司令が説得した捕虜に乳清を与えて実験していたのだ。
2人の言葉がつい訛ってしまうくらいに、
イイダ嫁は大いなる成果物をあみだしていた。
「食事の中に混ぜても効き目は変わらなかったから、
あらゆる有用で使えそうね。
デメリットも少なく、まさに哺乳類の超特性よ」
(ここはホントに超頭脳ばかりだ。
やっぱりコウシ先生がいなくなったのはキツイな)
「嫁の生み出した乳清は幅広く対応できそうでな。
応用して新たな技術を設けようと思っとる」
「新たな技術ですか?」
「ああ、それは――」
「司令、四国兵が入国します!」
司令が言いかけたところに部下が報告。
入口付近で大きな人声が目立ちだす。
外にいた兵士達がざわめきだすと同時に海側も騒ぎ始めた。
「来たようね」
「四国がとうとう・・・こっちと」
「全員配置について、出迎えるわよ!」
「了解!」
大型の戦艦が岸にたどり着く。
四国の司令官3人を始め代表者達もこぞって入国してきた。
ポイッ カコーン
「くっ、外した」
「どれ、今度はあたしが・・・」
スポッ ポチャン
「入った!」
「チクショー!」
犬兵団はミヤザキCNの海沿いにある鍾乳洞に来ていた。
四国と同盟を組む事が決まり、地元にまつわる祝いの儀式を行おうという、
イイダ夫妻の提案でここの警備を任された。
自分も意外にここに来るのは初めてで、
こんな海に隣接した山に軍事以外の施設を造るなど珍しいと感じた。
当のイイダ2人がやって来て、続きを話す。
「しかし、ずいぶんとまた海の近くで行うんですね?」
「ここは四国からそう遠くない距離に位置するし、
相手にとっては手間を取りにくいでしょ」
「ここは門出を祝う場所にも打って付けじゃ。
本来ならもっと演習場みたいな場所で行うものだが、
万が一に備えて沿岸でする事に決めたんじゃ。
ちと狭いが、神聖な場所で同盟式を行うには良い」
あれだけしのぎを削り合ってきた関係が、
もう今日から共に歩んでいく仲となるのだ。
CNの統合を祝い事として扱う事が良いとは言い切れない。
だが、それでも命の取り合いの愚かさを戒めるための
“居場所”は必要なのだろう。
ポイッ
「ああああ、入らないいいいい!」
「ホント、狙いが甘いわね」
この鍾乳洞は昔からジンジャとして利用されていた。
先程から自分達が投げているものは運玉といって、
崖の底にある岩の窪地に投げ込み、入ると運が良くなるという
ジンクスがある。軍事利用としてはさほど重要度は高くないので、
奪取される恐れがあまりない。
安全性を考慮した上で、海沿いがふさわしいと判断された。
「それで、ここにしたんですね」
「ほら、あそこの岩は乳房の様に見えるでしょ?
哺乳類を代表とする母乳という由来が昔からあったの」
「た、確かにそう見えなくもないですが。自然の形でそんな・・・。
なんというホニュウルイ感」
「そうじゃな、わしらにお前たちのような宝には恵まれんかった。
色々あったが、人生思うようにはいかんのう。
だから、こういった場所を設けたかったんじゃ。
ここ、九州の縁を保てるようにな」
「え、ええ・・・」
という言葉通り、2人には子どもがいない。
イイダ90歳、イイダ嫁70歳と年齢差もあって、
くっついたのもかなり後だというから機会がなかったようだ。
どこで知ったのか、ジンクスという意味的として、
縁結びとしてこうした場所を備えていた。
ここにも犬の石像が置かれている。
「ははは・・・ここにもお前そっくりな像があるな」
「ワンッ」
あれからオルンに変調はなく、いつものようにふるまっている。
この子の正体は発動機、ライオットギアの類であったが、
自分は決して悪い目で見てはいない。
もしかしたら、別のCNから来たのかもしれないが、
機械であろうが、大事なパートナーであることに変わりはないのだ。
ミキの犬がオルンをペロペロしながら彼女も眺める。
「それにしても、ホントによくできている子ね」
「どう考えても、この時代の技術には思えないな」
「・・・・・・」
少なくとも、前に見た内部のパーツは九州製のものではない。
関東には高い技術力をもつCNもあるらしい。
隣接の所と同盟するいえど、外側はまだまだ侮れないと
気を引きそうに思えるくらいだ。
犬が苦手なはずの司令がオルンをじっと見ている。
「まあ、犬兵団は九州にとって大事な位置付けなのに変わりはない。
怖くても・・・管理は・・・ひっすじゃ」
「これを建造したのはイイダ司令ですよね?」
「そうじゃ、デザインも決めたのはワシじゃ・・・あ!?」
「?」
司令はしまったというような顔をする、何かを言いかけたようだ。
まるで口を滑らせてしまったと言わんばかりに、
設計者が自分だった事が明らかになってしまう。
「司令がデザインも担当していたなんて意外ですね?」
「思っていたんですけど、ここ九州にいる柴犬って
そんなに多くないのに、何故この犬種をモデルに?」
意外な指摘をして周囲から気を引く。
天然で口を漏らした司令の話でミキは犬種にひっかかる。
彼女の質問に司令が懐古を思わせるような発言をした。
「そう思うのも無理はあるまい。
ワシは・・・かつてオルンに助けられたからのぅ」
「!?」
オルンの前担当者はイイダ司令だったのだ。
さらに、司令が犬兵団にいた事が今になって判明したとは
普段から聞いてないとはいえ、犬嫌いなんていうウワサとは逆の
事実を明らかにされた。
「司令が・・・オルンに助けられた?」
「ああ、そうじゃ。この子はわしにとって第2の担当犬。
奇妙な付き合いをしていた仲じゃった」
司令が実働部隊として兵役していたのは約60年前まで。
つまり、この子はかなり以前からいた事になる。
まさか、九州の総司令官も犬兵団だった事を今更知ったので、
どのような経緯があったんだと追求したくなるのを読んだのか、
ゆっくりとした口調で話し出した。
「あの時・・・んと・・・あの時じゃな」
自分がまだ衛生兵を担当していたときだ。
当時はCN最西部に位置するのか、大きな抗争も起こらずに
人手不足だった犬兵団の方へ転属する事になった。
説明で犬小屋を見せられた時は身体が止まったわ。
土佐犬、薩摩犬など大型もいるが、シーズーやチワワなど
とても軍用犬として扱えそうに思えないもの交ざっていた。
上層の話では“平均的な基本動作ができる犬”などという珍妙な理由で
どんな犬種でも扱う方針だったらしい。
そこに1匹の犬がいた。
柴犬とよばれる犬種で、大変狂暴で皆の手を焼いていた扱いの悪い犬だった。
運の悪い事に、自分にその犬を担当する役目が回ってきたのである。
この子は早くにして母親を亡くしていたという。
話によると、この犬は“母乳を一度も与えられなかった”もので、
栄養剤のみ投与されて生きてきたと後で知ったものだ。
哺乳類が凶暴になるのは大抵母乳の不足さが主。
自分は自分が飲む分のミルクをこしらえて飲ませようと色々と
工夫をしてきた。それでも、この子は中々飲もうとしなかった。
あきらめずに指導を続けた末、ようやく懐いてくれたようで
基本軍事動作ができるくらいにまで成長できた。
しばらくして、中つ国CNへ進出したときの事だ。
少し目を離した間に敵の射線区域まで入り込んでしまい、
その子は速射砲であっさりとロストしてしまった。
当時はろくに訓練もこなせていなく、改めて思い知らされた。
犬という哺乳類をぞんざいに扱っていた人間の傲慢さにな。
だが、自分は認めたくなかった。
犬ですら共に歩めると信じて犬兵団の存続が危ぶまれる中、
なんとか推し通してきたのだ。
親犬が子犬に母乳を与える光景を見るたびに心が痛くなる。
真っ当に育てきれなくて申し訳なかったとな。
「・・・・・・」
司令の犬が苦手だったのは、これが根本原因だったわけだ。
決して安全ではない現場に動物を駆り出して命まるごと盾にする。
犬を大事にするという裏腹で戦争の道具として利用させて、
共存と使役の差に苦しむ内に目をそむけたくなってしまうだろう。
ミキが理解した上で続きを聞く。
「本当に大変な思いをしていたんですね・・・続けたいんですが、
九州に犬兵団を存続させたのはどういった事で?」
「うむ、これでもわしは一度犬兵制度を廃止しようと思っていたわ。
じゃが、嫁や周囲の要望で今に至っておる」
哺乳類というのは母乳で育てる動物だ。
ここの鍾乳洞は犬達を守るために自分が再設立した場所だった。
次からは目立たぬ場所で育成しようと選ぶよう心掛けた。
ある日、野良犬回収で山岳地帯を見回っていると、
クマモト某所で嫁と共にある動物を見つけたときの事だ。
そこに1匹の犬がいた。
外見ともに自分が担当していた犬と同じ。
当時は何度も目を擦って疑った。
柴犬などいくらでもいるというのに、あやつとまったく同じ姿の
犬が毛色、顔も瓜二つの犬が。それがこの子だったんだ。
「司令は・・・この子が機械だという事実を知っていたんですか?」
「そうでもない、話では他地方からの提供者としか聞いておらん。
あの時代は哺乳類の回収が多く行われていたから、てんやわんやにな」
同じ犬種だから偶然似ているだけと思われるが、仕草も同じだという。
訓練でやった事もそっくり同じ事ができたので、感動に打ち震えたらしい。
司令ですら、オルンが製造された理由が分からなかった。
この子といい、オキナワで破壊されたという亡霊艇といい、
九州に暗部が存在する事だけは感じ始めている。
ミキは自分に言ってきた。
「あんたはどう思う?」
「思うって何が?」
「イイダさんみたいな司令官クラスでも知らない事実があるって事は、
“どこからそういった経路で伝わってきたか”って思わない?」
「他の提供者っていうくらいだから、もちろん他CNだろ。
四足ライオットギアみたいなロボットがあるから、
犬型だってどこかで造ってるに決まってる」
「犬を扱うCNがないのに?」
「それは・・・なら、天主殻からやって来たと考えるしかないだろ。
他で機械的におかしいっていったら、あの円盤とか。
あれだけは、正体不明というか、未知との遭遇というか」
「話によると、天主殻は100年前に創立されたっていうじゃない。
なら、はるか前の時代にすごい文明があったてことよね?」
「そうかもしれないな」
ミキは生き残り的な技術の始まりに興味があるらしい。
全て謎に包まれている天主殻ならば、動物機体の1つでもあり得るだろう。
エイミーも別口で似た事は言っていた。
彼女の言い分になんとなくも聞きながらそう言いつつ、1つ疑問が浮かんだ。
「天主殻は哺乳類による軍事利用を認めてるようですが、
動物にこれといった法律制度がないのはどうしてでしょうか?」
人間に課された懲役システムのみで、他の生物などには
何故適用されていないのか。今度はイイダ嫁方が話した。
「あたしの先祖の話では、かつて天主殻から攻撃を受けていたという
出来事があったって。支配された後は規定範囲内で行動しろと
言われたらしいわ」
「むやみに外出るなって・・・まるで僕らが犬扱いですね」
「昔からここに存在する犬兵団は“動物との共存”するという
名目の上での軍事ルールじゃったが、適応の理由がサッパリじゃ。
先の通り、詳細ですらよく分からんわ。
犬兵団の創立者は・・・誰じゃったかの?」
「戦いだけにしか使われないなんて可哀想ね・・・」
マサキもミキの言い分に同感する。
犬達を見つめて撫でる彼女を、同じく横で見ている
イイダ嫁司令が思いもよらない話をし始めた。
「でも、おかげで新しい発見もつかめたわ。
そんな哺乳類にも特異な性質があったのよ。
あたし達の研究班が見つけたの」
「ミヤザキCNの人達がですか!?」
「ええ、乳清という鎮静剤よ。
痛み止めの研究をしていて、良い製品が出来上がったの」
乳清、哺乳類の母乳を加工、改良して精神を落ち着かせる
鎮静剤を製造している事を明かした。
「母乳にはアミノ酸なども含まれてるのよ。
神経を和らげるセロトニン作用をもつ物質がね。
実は麻酔弾の原料にも使われているの」
「な、なにがなんだかサッパリ・・・」
「相当すごい効き目なら、副作用もありそうですが大丈夫でしょうか?」
「もう検証済みよ、人体への投与に使用したわ。
もちろん、九州の人に実験させるわけにいかないから他で試したの。
本国に帰還させたあの捕虜に」
「なんですと!?」
かつて司令が説得した捕虜に乳清を与えて実験していたのだ。
2人の言葉がつい訛ってしまうくらいに、
イイダ嫁は大いなる成果物をあみだしていた。
「食事の中に混ぜても効き目は変わらなかったから、
あらゆる有用で使えそうね。
デメリットも少なく、まさに哺乳類の超特性よ」
(ここはホントに超頭脳ばかりだ。
やっぱりコウシ先生がいなくなったのはキツイな)
「嫁の生み出した乳清は幅広く対応できそうでな。
応用して新たな技術を設けようと思っとる」
「新たな技術ですか?」
「ああ、それは――」
「司令、四国兵が入国します!」
司令が言いかけたところに部下が報告。
入口付近で大きな人声が目立ちだす。
外にいた兵士達がざわめきだすと同時に海側も騒ぎ始めた。
「来たようね」
「四国がとうとう・・・こっちと」
「全員配置について、出迎えるわよ!」
「了解!」
大型の戦艦が岸にたどり着く。
四国の司令官3人を始め代表者達もこぞって入国してきた。
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