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2章 関東統一編

第8話  腕部の宿り樹

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グンマCN 森林地帯

「まだ着かねえのか?」
「もうすぐよ、ほら頑張りなさい」

 クリフのウンザリ気味な問いに、マリサが推して先導する。
生い茂る森林ばかりの山の頂上付近の拠点があるという。
道のりは獣道ばかりで、一歩間違えれば即迷子にならんといわんばかりの
例えようのない緑色な経路だ。
しかも、周辺は火山ガス地帯もあると言われて、
地元民のみ知る安全ルートでここまで移動してきた。
自分達はここをろくに理解していなかったためにあんな目に遭った。
共に動向する間でワタルは周囲よりも、グンマの装衣(マリサ)に凝視する。

「葉を集めてシートに貼って、視界を誤魔化す。
 今まで偵察しにくかったわけだ」
「木々と共に生きるがあたしらグンマのやり方よ。
 環境を駆使する戦法は昔さながらでね」
「まさに森を盾にする仕様だな」

自分以外の皆にとってグンマはとても面識があったようだ。
通称:森のたみ
自然の葉にくるまり、不思議なワイヤーでエリアを飛び交って
森林地帯で生活しているという外見そのものが特徴的だ。
特に気になっているのは彼女達の腕に装着している物。
理由はよく分からないが、伸びる長線に光が見えた気もした。
どこか心底引っ掛かりもある中、拠点へ足を運んでいく。


グンマCN 拠点

「よく帰還したな、マリサよ」
「スガワラさん、事前報告の通りラボリは成功。
 東部の人達も連れてきたけど良いでしょ?」
「ああ、かまわんぞ」
「ずいぶんとあっさりしてるな・・・」

 視界がほぼ森林で満たされた場所に到着。
グンマ司令官であるスガワラは敵対CNであるにもかかわらず、
自分達を受け入れてくれた。アイチでの件で助力した恩もあって、
マリサが自分を率先して司令と対面させようとしたのだ。
しかし、何か別の事情があると彼女が自分を指名してきた。

「司令、この人が例の人よ」
「俺?」

グンマの司令が自分の顔、いや目を直視し続ける。
その次、思いもよらない言葉を口にした。

「君のその目・・・わずかに覚えがあるような?」
「俺のこの眼を知ってるのか!?」

スガワラ司令は自分の赤い虹彩に覚えがあると言う。
ここで出生についてやっと見つけられそうだ。
かつて、関わり合いがあったのかと聞くと、昔話をし始めた。

「私自身が目にしたわけではないが、
 古き文献ぶんけんに赤い目の男の話が書かれていた。
 私の先祖が書いたであろう、その記載がな」
「先祖・・・いつの?」
「記述からして私より3代前・・・だから、およそ100年前」
「・・・・・・」

スガワラ司令当人ではないようだ。
昔の記述から見覚えがあるとの事のみ。
あまりにも遠すぎる話に、ヒントもつかめそうにない。
もしかして、自分はここ出生だったのだろうか。
何か得られるかと色々知りたかったが、根拠は分からなかった。
赤い目の伝説は唐突とうとつに途切れる。
自分の事はともかくとして、これからメンバー達が何をするか
話し合いが再び始まる。

「で、これからどうするよ?
 出先で逆にまるめ込まれちまったけど」
「俺達は彼女に助けられた。都合と言うにはなんだけど、
 自分達もあんた達の手伝いをしたいと思っている。
 アレン司令に話を通さないとどうにもならないだろうけど」

助けてもらったのは事実でも、個別間で締結を勝手にできない。
あくまでCNどうしがどうするか決める必要がある。
スガワラ司令が返答した。

「同意、我々の部下を助けてくれたのだ。
 えて敵視する理由はどこにあるのだ?」
「ま、そりゃあそうだけどな」
「自分達と・・・同盟してくれないか?」

急に本題を食い込んだ。
世話話せわばなしをしたくてここに来たんじゃない。
なんとかして、戦闘以外の選択肢を見つけなければならないから
グンマとの接点というきっかけをつくりたかった。

「生きるために戦う、君はそれを望まないと?」
「俺はなんでここにいるのかも分からず、
 CNなんていう各地で戦争をしているのかすらも知らないんだ。
 なんていうか・・・良い言葉が見当たらないけど、
 何も知らないのに、むやみに戦闘をしろというのは間違っている」
「・・・・・・」
「クリフ・・・」

クリフは目を瞑って黙り込む。
いつもだが、先陣きって戦ってきただけに迷いも強いだろう。
こいつが沈黙する事は並大抵の判断じゃないくらいもう分かっていた。
それでも、通すしかない。
多数の人達が今もどこかで犠牲になっているだろう現状に
あんまり悠長ゆうちょうにしている余裕もないのだ。

「良いんじゃねーか、俺はOKだ」
「こっちもOK」
「ああ。ただし、俺らのボスに相談してからだぞ」
「最終決定権をもつ司令の御決断を待ちましょうかね」

両隊長もOKサインを出してくれた。
クリフも一考(らしく)して同盟に賛成する。
あいつも、ずいぶんとほがらかな思考をもつようになってきた。
相次ぐ同盟で何かが変わってくれたのだろう。

「ああ、そうだな!」


1日後

「「コルソデングリイヴェンティは分かりかねるが、
  あのグンマとも同盟に成功するとは大したものだ」」
「まあ、展開が早すぎて俺もよく分かんねえけどな。
 司令、今日は遅いから泊まっていいか?」
「「かまわんぞ。ただ、今こちらは1つ問題が発生してな」」
「問題が?」
「「いや、詳しくは帰還してから話す。グンマ司令はいるな?」」
「今代わるわ」
「「聴こえますか、チバ司令?」」
「「通信越しですが、スガワラ司令。
  我々と共に、手を組みましょう!」」
「「こちらこそよろしくお願いします」」



チバ、イバラギ
トチギ、グンマ 同盟



「「以上のCN同盟を許可します。
  来るべき確立のため、生存領域を共に歩んで下さい」」

こうして、グンマCNとの正式な同盟が締結された。
新緑の兵士が共に加わり、関東の北西に仲間が増えたのだ。
いつものMが認証、後にエリア制限解除されて手を組む事によって
範囲の輪が少しずつ広がってゆく。

「バンザーイ!」
「マジで森の民と手を組めるなんてな!
 ここ最近、情勢変わりすぎじゃね!?」
「これで隠密行動もやりやすくなるわ!
 もう山岳地帯をビビらず歩かなくてすむんだな!」
「・・・・・・」

今回は戦闘などアクシデントは起こらずに済む。
モブ兵の言葉の通り、人の居場所も都合でアッサリと変わるのが妙で、
戦い、奪い合う行動がまっさらに終われるシステムの意味が
まったく機能してないように思えた。ワタルが伺いにくる。

「どうしたレッド、また悩み事か?」
「本当に曖昧あいまいであやふやな世界だな」
「マジでそう思ったか・・・正解だ!」
「ずいぶんとストレートだな、また引っかけか?」
「CN法が俺らを引っ掛けてんだろ。
 でもな、あんなお天道テントウさんがいなくてもやる時はやってたかもな。
 俺らだって生き物、いつもあやふやで、不安定。
 そっから深く考えても無意味だろ?」
「確かに・・・ないな」

人との接点のきっかけも気まぐれに然りと言いたげだ。
拠点内にライトが点灯し始める。
ある意味、歴史もパッと変わるものなのかもしれない。
今は新たなCNとの結合を喜び合う流れにのるだけだ。


20:00

 時は意識できないくらい進む間、夜になってしまった。
ほんの一部のグンマ内で見回りしたが、かつて身削りし合った
敵とは思えないくらい活発で友好的だ。
そんな彼らから今から拠点に戻るのは危険と判断され、
ここで一泊させてもらう事になった。
メンバー達もグンマの仕様を見て回っている。
彼らが着ている装備について会話しているようだ。

「これがあんたらが着ているスーツだな?」
「そうよ、バグウォーム。
 この深森を駆けるには、これが必須だ」
「そういえば、僕達が作成したケニーのワイヤー技術も
 元はここのものですよ」
「数年前にトチギ抗戦で持っていかれたやつか。
 お前ら、扱えたのか?」
「射出成型機を機体に取り付けただけです。
 まさか、人専用装具だとは意外でしたけど」

ソリッドワイヤーとよばれる金属糸で離れた場所へ移動する具。
ある程度の距離なら、瞬時に着地点へ移動できる道具で
森の中を行き来するのが可能な逸品いっぴんだ。
自分も前々から気になっていたこのワイヤー技術は
どういう仕組みなのか内装について聞いてみる。

「この糸というのは何でできてるんだ?」
「植物だな、リグナムバイタっていう木だ」
「ええっ、植物から金属性糸だったんですか!?」
「そうよ、グンマ民を助ける、かつ活発にさせる木!
 多分、全CNでここしかないんじゃない?」

なんと、ソリッドワイヤーは植物を繫殖させて増産していたのだ。
グンマは植物生産地なのか、森ならではの緑品に思える中、
シートに覆われた栽培施設のような場所に案内された。
ここの研究施設、農園的で肥料の匂いがする中には
驚くべきものが生えていたのだ。

「これが木から・・・信じられない」
「真っ黒い木!?
 こんな色の木なんて見た事ないな」
「我々の技術のすいだ。
 グンマ兵の機動力は全てこの木によるもの」
「じゃあ、茎は伸縮性が高いのか」
「そうでもない、茎は普通固い繊維質で形作られるが、
 リグナムバイタの茎に限っては非常に高いのだ。
 実は我々も何故この種に限って伸縮性が強いのか分かっておらなんだ」
「あんた達ですら分かってないのか?」
「ここの先祖がこの木を育てていたのがキッカケだけど、
 ホントになんでかは分からないのよ」
「茎内部の繊維の質が普通の木とはまったく別物です。
 通常と違って、原生の物はそれほど伸縮性はありません」

横にいたグンマ衛生兵が性質を調べても固有種の誕生原因は不明。
つまり、自然の木に元々伸び縮みする種類などなかった。
繊維以外の何かが紛れ込んでいるのだろうか。
この世界は本当に分からない事ばかりだ。

「で、結局栽培するだけで解明はできなかったの。
 ウチの連中はアホばっかだし、そのままおざなり」
「でも、これってグンマCNの機密情報ですよね?
 僕達にあっさりと公開しちゃっても良いんですか?」
「1つけてみようかと思ったんだ。
 この戦乱を解決する策の要は君にあるのではないかとな」
「俺が・・・?」
「その文献の赤目の男も天主殻からの解放を願い、
 戦乱を治めようとした者の1人だったらしいのだ」
「なら、お前以外にも同じ奴らがいたって事か?」
(俺以外にも誰かいたのか・・・)

一体、この眼は何なのだろう。
頭がジワジワとにじみ出てくる感覚がしてきた。

「ああ、君達にもこの装具を製造してあげよう。
 10日はかかるが待っていてくれ」
「やったぜ!」


10日後

 グンマCNから連絡が入り、ソリッドワイヤーが完成したとのこと。
自分達はすぐに行けるよう、事前にトチギCNで待機していた。
マリサに出迎えられさっそく自分達にもそれが渡された。

「じゃあ、まず腕に付けてみて!」

パチン

「これが俺達の・・・」
「あたしらと同じ最新式だからね、感謝しなさいよ!」

籠手の様な金属製で腕にはめてみたこれは中に細長く収納されて
40mの距離から射出できる仕様だ。
障害物に掴み取る様に刺さり、引っ張られて打点にたどり着く。
原理は至極単純にそれだけだが、
遮蔽しゃへい物のある戦地では大いに役に立つ代物だ。

「試しに飛んでみてよ」
「どれ」

パァン ヒュンッ ガシッ

「おおーっ!」

約20m先の壁に接着して、自身の体が引っ張られた。
重心は重力による真下への負担があるが、移動先の力の方が
強いために少し腕が疲れてしまう。
普通なら脱臼だっきゅうを起こしそうだが、御都合ですんなり移動できた。

「ふんっ・・・・っと、こんなもんか」
「せいやっ、まあまあだな」
「うわーっ!?」

メンバー達もこぞって試してみた。
腕にはめ込まれたその移線は障害物に引っ掛けて移動ができる。
あのケニーのように、わずかながらも移動が短縮できるのだ。

「まあ・・・悪くねえな」
「新感覚だねえ、これで俺らの戦術に新たな1ページを
 書き込む時が来たな!」

クリフやワタルも満悦らしい顔になる。
ただケニーとは違い、自分の身体そのもので障害物を乗り越えて
移動するから、重心をかけるバランスのセンスが必要なのだ。
マリサが自分をジッと眺めている。

「・・・・・・」
「マリサ」
「え、ん?」
「ありがとな」
「あ、ええ・・・いいってことよ。
 どうせあたし達だけで、関東各地の現状なんて
 どうする事もできなかったし」
「?」
「それにあたしも、ここグンマでしか育っていないから、
 外の世界がどんなのか知りたいのよ」
「そうか、これからもよろしく頼む」
「はいはい、そう固くならずにやってきましょ」

新たに加わったグンマによる新たな力。
それがこれからの攻防を克服する根拠も保証もない。
だが、理由なく“やっていける”という気概はむやみながらも
どこかしこ湧いてくるような気がした。

 (これが俺達の新たな力となる)

こうして、チバとイバラギとトチギは新たな装備を手に入れて
|世界という空間を回る力を得る。
同盟成立の喜びと新知の巡り会いでグンマに感謝しつつ帰還していった。
その後、マリサはスガワラに話す。

「あの子、モーションがほぼ完璧だったけど。
 どっかで習っていたのかな?」
「確かにムダなモーションがほぼ観られなかった。
 やはり、我が祖先と何かしらの接点があった者かもしれんな」
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