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2章 関西統一編

第3話  ネゴシエーター

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ミヤザキCN拠点 多目的室

「放せっ、放せえっ!」
「いいから来い!」

 捕らえられた1人のエヒメ兵が連行されてきた。
先の侵入でどうにか若い兵を捕らえてアブダクトできた。
両腕を捕まえて暴れがちに拠点の一角へ連れて行き、
部屋にはミヤザキ司令官のイイダ嫁が待ちかまえている。

ドサッ

「連れてきました」
「取って頂戴ちょうだい

連れてこられた四国の兵士の頭にかぶせられた袋を取る。
捕虜としてとうとうロストされるのかと覚悟していた彼は
次にミヤザキ司令は意外な一言を男に告げた。

「あんた、ここから逃がしてあげるわ」
「へっ、ずいぶんと御都合が良いな。何を企んでやがんだ?」
「企んでなんかいないわ。
 ここ近年の膠着こうちゃく状態から一歩先に進めたい。
 あんた達のCNと仲良くしたいだけよ」
「散々、弾ぶっぱなしてきやがって何をいまさら――!」
「それはお互い様、だから今こそ仲直りする機会なの。
 この手紙、あなたの司令に渡してくれないかしら?」
「は、こんなの信用しろってのか?
 老人だらけのCNかついでも良いことないぜ?」
「ここ九州は美味しい食べ物がい~っぱいあるの。
 南国の あまぁい ものも盛りだくさん。
 当然、そういったリソースも分けてあげるわよ」
「くっ、んなモンで釣ろうってのがミエミエだ・・・。
 どうせ罠・・・ワナに決まって」
「後は~」

突然、部屋にナイスバディそうな女兵士達が5人入ってくる。
まるでタイミングを見計らったかの様に男の前に並んだ。

「可愛い子と巡り合える機会も割と多めにあるかも。
 琉球美人の伝説は古くから有名だしぃ。
 あなた達も大いにって思うでしょ?」
「はあ~い♪」
「あまぁい・・・もりだくさん。
 ・・・・・・分かりました伝えときます」

どうやって集めたのか、美貌びぼうな女兵士を見て男は承諾する。
外でそれを見ていたイイダは交渉が成功したにもかかわらず、
げんなりとした顔だ。

 (相変わらず手口が達者な奴だわ)

そして、男は本国へと解放させた。
四国へ向かったビークルを自動モードで警戒させずに送り、
返事がくるのを期待している2人の司令官達だが、内1人はほくそ笑む。

「これでうまくいくと良いわな」
「まあまあの出来だわ」
「何がじゃ?」


ナガサキCN拠点 会議室

「失礼します」
「入ってくれ」

 同盟の報告を聞かされた部下の1人が詳細を聞きにきた。
九州の西国は突然の知らせに驚きを隠せずにいる。

「話は聞きました、九州が四国と組むというのは本当ですか?」
「そのようだ、ミヤザキCNからによる彼女の発想に私も驚きだ」

イイダ嫁のアイデアを組んで同盟展開に踏み込んだ決定を下した。
話はCN法にある同盟システムを利用して最東側に備える動きを案じた。
まるで一歩譲歩じょうほする風にも思えるが、
まずは近隣の四国から取り入れようとする流れをつくり、
近江の勢力を緩和させる狙いのようだ。
部下が驚いたのはここではなくミヤザキ司令官のアイデアを
採用したところによる。

「あまりにも奇想天外きそうてんがいな内容で、まだ理解が及びません。
 聞けば、ミヤザキCNの案の様ですが?」
「そうだ、我々は今までにない手法を用いて中つ国や四国との
 締結を図る事にした。始めは四国へのアプローチを行う」

ナガサキ司令官が書類を見せる。

「・・・この手法は!?
 今まで聞いた事がありません・・・」
「その方が効率的だからだ。手を汚さず、無駄な血を流す事もない」

九州、もといイイダ嫁の方針となる同盟の手順を知った兵は
書類から目が離せなかった。
火力で屈させるのでなく、温和で柔和的な内容だ。
いつ頃から手掛けたのか理解できないが、見込みある手法。
この様な回りくどい術を用いるには訳がある。
技術者消失の件で、方向修正を図る必要があった。
九州CNが今まで大きな動きをとらなかった理由がそれで、
和平交渉を望む進路を模索し始めていたのだ。
自らの部下にそう伝えつつ、黒いオブジェを撫でながら
ナガサキはナガサキで動こうと言う。

「そうですか、では我々はこれから何を?」
「九州CNの各医療班から連絡が届いた。
 しばらくはミヤザキCNのサポート役として動くのだ。
 薬用素材の調達を予定している」
「ここ九州には他に劣らぬ豊富な自然資源グリーンリソースがありますが、
 医療班の援護という訳ですか」
「ミヤザキ司令は薬剤不足をサポートするよう要請がきた。
 それに備えて柚久島にある素材も採りにいくのが我々のラボリとなった」

同行にあたり、オキナワCNが協力してくれるという。
西側の各CNにもそれぞれの動きが見られる様が、
生存する糧の1つとなって向かっていくようだ。


コウチCN拠点 ロビー

 その後、連絡を受けた四国の司令達が目を丸くして驚愕きょうがく
各地の拠点は大混乱寸前の騒ぎを起こしていた。
今まで削り合いをしてきた国から手を組むよう頼みこまれ、
突然による同盟を勧告されたからだ。
トミ分隊も、空前絶後な話題でもちきりだった。

「急に同盟の意を見せるとは、一体どうしたんだ?」
「陽動作戦だったりしてな」
「う~ん・・・」
「どうした?」
「いや、大丈夫」

浮かばないような態度のスイレンを伺うタカ。
良からぬ噂話を立てる者もいるが、彼女が何かを知っていたらしく
若者同士でつちかってきた詳細を話した。

「なんかねー、エヒメの行方不明になってた子が海岸で見つかったの。
 突然帰って来たらしいんだって」
「そうなのか?」
「うん、多分アブダクトされた子だと思うけど、
 発見された時、目が怪しいくらい愉快ゆかいな顔をしていて、
 手紙を持っていたんだとか」
「交渉でその子をダシにしたってのか。しかし、愉快な顔って・・・」

若者が無事に戻ってこれたなら良かった話。一部不可解な内容だが、
本当なら同盟の話は本当にあり得る線が大きくなっていく。
西側との合併で東側とどういった動きをとる方針なのか。
多少は司令官に顔が利く我らのリーダーの御尊顔が少し気になる。

「かくいうこっちの隊長は・・・・・あ、来た」

こちらの噂話は当の本人がすぐに現れた。
仏頂面ぶっちょうづらでトミがロビーにやって来る。
たいてい隊長があんな表情をするときは、
何かしら悪い知らせを伝える暗喩あんゆなのだ。

「トミさん、次のラボ――」
「ちょっと用事ができての、しばらく出かけるわ」

隊長はメンバー達に急用でチームから離れると言い出した。


30分前  会議室

「キュウシュウへ侵攻じゃと?
 なんだって、この時に?」

 トミがコウチ司令官に老人の貫禄で問いだす。
仕方ないと言わんばかり、司令は事情を説明した。

「先日エヒメ兵が中つ国によって空爆を受けました。
 瀬戸内海戦艦が奇襲を受け、わずかに生き残った者達を助けるべく
 ファーストエイドの素材である樹液を要します」
「確か縄文杉の樹液じゃったな。
 衛生兵が調合しとるときに原料が光っているのを覚えとるわ」
「それが不足してすぐに調達できるといえば九州の資源なんです。
 若者も数人いて、どうにか回収しなければなりません」

絶命しかけている部下達に猶予ゆうよは残っていなかったが、
それを解決するにあたり司令官は頭を悩ませていた。

「実はそれにも問題が1つあるんです」
「ん、なんじゃ?」
「先日、解放されたエヒメ司令官が九州CNから
 同盟をしたいという内容の手紙をもらったようです。
 アブダクトされていた部下の兵士がこちらから
 救助もされずに突然帰還してきて」
「伝令として解放されたんか・・・・・・・・・・・・・ん?
 なら、同盟勧告のCNに潜入してこいって寸法か!?」
「そうなんです・・・皮肉な展開ですが、私は彼の肩代わりとして
 作戦を成就すべく今回受理したんです」

つまりエヒメの司令官は同盟の勧告を受けたにもかかわらず、
資源の為に当地に関係するCNに潜入しなければならなかった。
部下を助けるにはもう時間がなかったのだ。

「同盟を成立させて原料をおすそ分け・・・って間に合わんな」
「ええ、私はかつて干害の時、エヒメ司令官から受けた恩があります。
 ここまで育てられた恩赦おんしゃを報いるためにも、
 今回の作戦をなんとしても成功させたいのです」

高齢者の世代はほとんど40年前の干害の被害者だ。
それぞれ助け合ってきた者同士、切れない恩もあるのだろう。
己も味わってきた世代で無視できない請願だった。

「まあそうだな、このコソバユイ仕事に若造共は不向き。
 少人数制といこうかの」
「若者達にはまだ潜入のノウハウがありません。
 最も熟年層のあなたのチームに行ってもらいたい」

自分は目をつむり、起こりうる作戦の内容を想定する。
長年生きた勘を働かせ、目的の地形を見つつ内心秘める。
1分後、目を開けて自らの策を司令に伝えた。

「ワシのメンバーは連れていかん。
 他の資源回収役と運搬役だけを連れてきてくれんか?」
「え、ええ。構いませんが、何か良い案でも?」
「そうじゃな、ワシは隠れん坊で一度も見つかった事がないプロじゃけえ。
 ただでさえ目立つ・・・でもないが、部下達をぞろぞろ連れていけん。
 ワシだけで行けば良かろう?」
「資源採取ポイントは柚久島・・・頼みます」
「よし、これで決まりやな。行ってくるわ!」

この件はタカやスイレン達には内緒で実行するようにした。
彼らを連れて行けない訳を誰にも話すつもりはない。
ただ目立つからだけでなく、まだ独自の事情をもっているからだ。

 (汚れ役はワシ1人でええ・・・もう時間がないしな)

時間がないという意味はトミにとって周りではなく個人の事。
己の単身の都合で内心思っていた。
そう独りよがりに行動する思いを抱えるのも無理はない。
彼の体には逃れられぬ悪性が潜んでいたからだ。


1週間前

「率直に申し上げますと、あなたはガンにかかっています」
「なんじゃと!?」

 医師に宣告されたトミは顔を引きつらせながら言い返した。
彼は体内に癌をわずらっていたのだ。

「ワシは・・・癌に」
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