Condense Nation

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2章 関東統一編

第5話  暗孔てんでんこ

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時は東北とホッカイドウの同盟直後。
隣り合わせの南北関係は滑らかに進展していた。
かつての身を切らす様な敵対関係とはどこ吹く風で摩擦もなく、
介入も大きな問題など起きずに柔和されていく。
資源や人の出入りもより活性に賑やかな雰囲気が増えて
和平協定が成立している中、地理情報も変化しつつあった。
今回は彼らの間に再びつながれた、とあるエリアでの話である。


アキタCN

「キャンセルか?」
「そう、35部隊が担当するらしいから、私達の部隊は休みがとれたの」

 デイビッドが再確認するように聞き返す。
副隊長のカレンは哨戒ラボリの予定がなくなったと言う。
同盟でもう北方は監視の手が緩むので、今しばし休息の時を
得られた。個人で見回りに行っているロックは不在で、
帰って来たらどこかで飲み食いに行こうと画策していた。
白い悪魔などとよばれる者達との緩和に誰も反対はしない。
北側の仕事が手薄になるものの、味方が増えるのは頼もしく
安堵あんども得やすいのに変わりはないのだ。

「仕事が減るのもなんだけど、内心安心してる。
 エリートスナイパーと戦わないと思うと、ホッとしているよ」
「北への警戒心がなくなったのはかなり大きい。
 俺達の世代であのホッカイドウと協定するとは思いもしなかったが・・・」
「むしろ、今まで同盟どころか停戦にできなかったのか
 不思議に思うくらいだわ。
 これで二度と敵対関係にならないと良いわね」

トモキが地元の件を話す。

「それはそうと、1つアオモリから連絡がきたさ。
 あのトンネル、開通するらしいさ」
「あそこか」

赤函トンネル、アオモリとホッカイドウを繋ぐ海底トンネル。
かつてはアキラも話していた場所であるが、同盟より流通で
再びトンネルを復旧してエリア間を通じるという。
ここを通じ合わさなければ何も始まらない。
上層部が力を入れようとするCN同士の連携強化のため、
封鎖を解除してこそ北海との吉海よしみの好の始まりとなるのだ。

「そういえばそんなとこもあったわね。
 封鎖されてた通路もまた貿易路とかに利用するのも当然か」
「で・・・その、作業ラボリがうちらに・・・」
「ん、なんですって!?」

ラボリという単語でメンバー達の体温が下がり気味になる。
トモキは通達が遅れていた。
R-BOXの開発に気を取られて、言うのを忘れていたらしい。
メンバー達のうたげという楽しみだけは先送りになる羽目となった。


アオモリCN 後別エリア

 ホッカイドウとアオモリの司令官達が話をしている。
レイチェルは視察で鉄道企画についてクリーズと赤函トンネルの
開通作業の件について内容を検討し合い、資源流通をどうすべきか
共に発展させる流通方法を相談していた。

「鉄道と列車の構成は以下の通りです。
 動力は蒸気を用いて1km辺り200gの石炭を消費。
 線路構築は我々が古くから用いてきた型を使用しますが」
「素晴らしい造りですね、ホッカイドウにはないインフラ構造。
 上下分離方式とは異なる歴史を感じます」
「光栄です、運送方法は如何いかにしますか?
 鉄道兵団上のルールもありますが」
「1つの提案として、集中護送を請願します。
 カートレイン構想とよばれていました」
「カートレインですか?」
「1本の列車で運送する仕組みで、
 資源や人材派遣をまとめて送る方法があります。
 この線路は最大3本かれていた形跡がありますが、
 都合により1本から開始したいと思います」
「一経由で行うのですか。
 路線資源は我々東北が調達できますが?」
「お気遣いありがたいのですが、ホッカイドウ側は
 噴射ポンプの燃料圧縮の負担がかかりやすく、
 複数車両による蒸気事故の恐れも高くなります。
 降雪量も多く、運搬の足場である鉄板パレットの接着劣化も
 考慮する必要もあり、調べる時間もまとめて経過を考慮するべく
 まずは1つに絞る事で南部との貿易も潤滑じゅんかつに行えます」
「なるほど」

赤函トンネルは海底に通じている場所で、古来では電気で
列車を動かしていた。しかし、鉄道兵団は蒸気機関という
一歩古い技術の為、レイチェルはポンプ室の弊害を指摘し
海底での事故を恐れて1機から開始しようと言う。
さらに、ホッカイドウから輸出できる物資は多量になく、
列車から排気ガスによる災害も懸念している。

「私達から送る物資は主に食料と熱交換器などです。
 一度に多量を送れるので、心配はありません」
「そうですね、効率もありますが安全性を第一として開始したいと。
 兵達の都合もあります。
 コストパフォーマンスも視野に入れておく部分も必要かと」
「ようやく、近い位置にいたあなた方と共になり
 東北の一員として固まる事ができました。
 地域産物も、より一層盛んにうるおうでしょう」
「私達の代で結べるとは光栄に存じます。
 今回の件、決して無駄にはいたしません」
「私達、ホッカイドウも余すえんなく支援致します」
「ええ、我々も積極的に支援します」

2人は握手する。
TOPの交わしが東北を完全たる盤石に近づくであろう。


3日後

 数日後、開通予定日は良い天候でおあつらえ向きな日和見ひよりみ
各東北の兵達が集まり終わる頃、クリーズ司令が開始の号令を
説明と同時にかけた。市民も混ぜた1000人くらいの労働者達を前に
高らかな声で発言する。

「今回、赤函トンネル開通作業のラボリに参加してもらい、感謝する。
これはホッカイドウと歩みよる第1歩の過程となり、
資源、人材の貢献をより発展すべく――」

司令官お決まりの演説会で、しばらくの立ち往生が始まる。
聞いた限りではただのお決まりな締結的ていけつてき発言であるが、
途中で司令が奇妙な注意事項を説明する。

「「工事労働者だな」」
「「戦闘よりマシじゃない?」」

兵も軍事以外やらなければならない仕事なんて最初は予想していない。
市民も少しだけ参加しているようで、さして違いのない一般人のように
そのまま聞き続けていると。

「――ただ、一部立ち入り禁止区域がある。
 危険なのでそこには絶対に近寄らないように!」
「?」

カレンはそこだけ聞き逃さず耳に留まった。
初耳でそんな場所があるなど知らず、覚えにない。
場所はトンネル内ではなく、アオモリ内陸にあると言う。
今まで聞いた事がなく、危険地帯があるなど初めて聞いた。
現地人のトモキは何か知っているのだろうか。

「トモキ、禁止区域って?」
「・・・・・・」

一瞬、沈黙する。
気まずいのか、何故か元気なさそうに話し出した。

「ただの穴さ・・・しかも、液溜めが入る程深い大穴さよ」
「なんで、そんなに深い所があるの?」
「ここいら、大昔から災害の被害さでてる。
 対策として造られたってだけは聞いてるさ。
 話では数千mも深いってだけ知ってるが、
 なんで、あそこまで開けたかは分からない」
「す、数千!?」

アオモリには防空壕みたいな場所があった。自然洞穴でもないようで、
どれ程そんな深い穴など空いているのか薄気味悪い話ながらも
無関係とばかりに開通作業は始まった。

地上から約240mまで下り坂がある空洞は意外にも
劣化が少なめで残っていた。古来の知恵による補強工事が良かったのか、
浸水と瓦礫がれき以外は整備が手入れされていたようだ。
ただ、ここはすごく長い。
約54kmと伸ばされたトンネルは管理体制も強固にするため、
さらに設備も多種類の物を設置する必要がある。
列車停止装置、湧水量検知装置、送電線、煙量検知器など
通常よりも厳重な設備を置かなくてはならない。
劣化しきっている部品の交換や調達にも手間がかかりそうだ。

「じゃあ、やるっぺさ!」
「アキタはBブロックから、イワテはC、ヤマガタはD、ミヤギはEへ!
 除水終わってから岩片付け優先してさ!」
「撤去作業かよ」
「ツルハシ足りないから持ってくる」
「ははは、力作業は苦手でね・・・」
恩赦おんしゃ極まりさ!」

アオモリ兵に指示を受けてそれぞれの仕事を行っていく。
力作業は全員男兵が担当、女兵は伝達、運転などが中心だから
自然と任されるのはいつの時代でも変わらない。
備品が足りないようで、アキタから工面してこいとカレンは催促された。

「カレン、イオン伝導炭素が20kg足りないようだ。
 アキタへ戻って持ってきてくれ」
「はーい」

現場で活躍するチャンスもないカレンは運び係副隊長と代わる。
ある意味予想外な作業になり、運搬交通も出入りが多く
他に抜け道がないかとビークルで横道の角を曲がると、
何か奇妙な土手が目に映る。
立ち入り禁止の看板がかかげられた標識柱の後ろに
10m四方の張りぼてが敷かれていた。

「あ、あそこは!」

1つだけがれている場所があった。
自然なのか、誰かがこじ開けたのか分からないが、風でパタパタ
小さな音を立てている。他は全て施錠せじょうされて開けられない。
周辺は誰の見張り役もいないようで、無用心さも感じられる。

 (まさか、ここって!?)

例のクリーズ司令が入るなと言っていた場所。
ウワサとなる用途不明の敷地内であった。
間合いはそれ程広くなく、地面に屋根やねがわらが埋まった様な
三角形状でひっそりと造られている。

ゴクッ

一息飲む。
どんな場所なのだろうか、好奇心が上回ってしまう。
各々おのおの、やるべきボランティア活動があるはずなのに、
秘められた謎の領域が気になって仕方ないのだ。
車を停めて歩いてスニーキングしてフェンスを乗り越えて
つい、一部のふたを開けて見てみた。
トモキの話の通り、かなりの縦長で広大な空洞のようだが、
すぐ下には落下防止の網が張られていて、落ちる心配はない。
角度的に見づらくビークルにあったスティックの先が光る
携帯用電灯でさらに奥の方へ見入ると、感触がまったくない。
底など到底とどかぬ光もない無界がカレンの目を覆った。




















オオオオオオオオオオオオオオオオオ

「・・・・・・」

バタン

すぐにふたを閉めた。
特に何の変哲もない穴。
空気の流れが耳を覆う様な感じがやたらと気味悪い。
結局奥は何も見えず、何かが出てきそうな寒気がするので
これ以上ここにいたくなかった。

ピピッ

「「どうした?」」
「トイレに行ってた、アキタから持ってくるから
 もう少し待ってなさいっ!」

ビークルに無線がきていたロックを恥交じりにあしらう。
何もなかったかのような口調で資源を取りに行くべく、
地元へ戻っていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ちなみに、カートレイン構想は当該トンネルで
実現していない運行で、創作として書いただけです。
目に見えないものを描く事も結構大変で、文章なら
なおさら独特な表現をしなければならないのが辛いところですね。
地盤沈下待ったなしの大穴など、
大袈裟な描写をちょっと了承して頂きたいです。
闇、それは光無き無形なる虚ろの領空。黒い黒い。
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