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2章 関東統一編

第3話  存在しない25時

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ギフCN拠点 視聴覚一室

「「こちらAチーム、みんなやられた。
  今一室にいるようだが、薄暗くてよく見えない。
  バッテリーも切れる寸前だ。
  壁になにかがある。これは電報時計だ。
  時刻を確認する、今現在は・・・25時ィ!」」
                    プツッ

「これが当時のログです。
 目標物に侵入してからの状況を語っていたものですが、
 彼がこれを報告して以来通信はありませんでした。
 当時の時刻は23時で、24時すら過ぎていません」

 オペレーターがラボリの報告記録テープを公開していた。
偵察兵1チームが北海部にあった巡洋艦の調査の途中で
行方不明になってしまったのだ。

「これはスノウさんの声か」

記録の声はギフCNの工作兵で、何度か面識ある人物。
かつては図工のノウハウを教えてもらっていた事もあった。
クロムは今回の事件で捜索するためにここに来ていたのだ。
確かに少し変わり者のイメージはあったが、この発言の内容。
彼の供述を解釈できる者は1人もいない。

「23時なのに、あの人は25時って言ってた。
 内部で発見した電報時計を見て・・・?」

拠点にも同じ電報時計がある。
電報時計には0,15,30,45分の5分前まで色がついた
幅が塗ってある。これは偵察時、拠点に定時連絡する時刻だ。
ヨゼフィーネが疑問に思って言い出す。

「れっきとした技術のプロが“25”なんて言い間違えるのか?
 1日24時間なんて子どもでも理解できるって」
「ここで決めた用語か何かか?」
「いえ、1CNで専門用語を生み出すのは禁止なので、
 彼の放った言語の真意は未だ不明です」

事前情報によると、謎の船は動いておらずに漂流していたところを
偶然発見して彼らが調査したという。
途中で敵性に襲われ、船内の最中で報告した時だ。
モニター越しにジュウゾウ司令が自分に状況を聞きだした。

「じぃ・・・司令」
「「敵性にアブダクトされた可能性が大きいな。
  行って来てくれるか?」」
「分かった」

追跡ラボリの指示を受ける。ニイガタとシズオカの裏切り以来、
ジュウゾウは目を通して神経質になりつつある。
二の舞を踏まないよう、どんな小さな事件でも同盟CNと
協力する意向を見せ始めた。
しかし、最近ここ中部でも理解に苦しむ妙事みょうじが増えている。
スノウの件以外でも、様々のCNの動きが見え隠れするという。

「「しかし、こう何度も面倒が起これば整理しきれん。
  この工作兵もそうだが、近日は不穏さが消えん。
  同盟国にも不透明さがあるようだな」」
「不透明?」
「「MUFの発生だが、資源経路が奇妙すぎる。
  特に不明なところを感じたのは、薬剤の量だ。
  リストアップしてみると、中部のあらゆるCNへ
  分配していくと思いきや突然消失。
  穴が空いたかに見えて、再びどこかで現れる部分があるようにな」」
「消えたままならば敵性CNの可能性もあるが、
 そのまま各地方へ流れていくなら、すぐに見当が着く。
 確かに横流しにしては不審だな。後でイリーナに聞いてみる」
「「各CNの司令官に聞いても知らぬ存ぜぬだ。
  言葉では表しにくいが、なんというか
  “隠し事の様な何か”を感じずにはいられん」」

司令の言葉に乗じてヨゼフィーネも奇妙な発言をした。

「ちょっと関係ないけど、こっちも話がある。
 トヤマのお偉いさんが、ナガノに来た時に聞いたんだけど、
 トウキョウに対して、ある1つの作戦を開始するらしいんだ」
「「何!?」」
「なんの作戦だ?」
「分からん、トウキョウのワードだけしか聞こえなくって
 極秘事項らしくてあたしらにも教えてくれなかったんだ」
「?」

ジュウゾウも、そんな作戦は初耳だと言う。
シズオカ戦で停滞し続けていたトウキョウへアプローチを
試みるらしく、総司令の受理なく行動しようとした。
にもかかわらず、極秘だなんて連携もへったくれもないが、
やはり水面下で各地で何かが起ころうとしているのは間違いなさそうだ。
グンマCNでヨゼフィーネ分隊が連れてきた兵といい、奇妙な出来事ばかり。
妙といえば、その関東兵がいなくなった件も同様だが。

「そういえば、あの連行してきた一隊は?」
「「逃げられた、ライゾウでは対応できなかったな」」

炎電兄弟の片割れのライゾウは倒されたらしい。
こちらアイチの不始末としても、あまり表に出させたくはない。
ナガノCNの計画はともかく置いておき、救出任務で今回始める。
ジュウゾウはスノウの捜索を開始する決定を下した。


0:00 中部周辺海上

 第1部隊が艦艇に乗り込み、調査出港を開始。
雨が降っている。
元からこのエリアは降水量が多いが、身にまとう装甲に支障をきたす。
自分は報告がてら、作戦を開始した。

「本当にレーダーでは反応しない」
「部下達が赤外線で目を見張らせています」
「スノウさんはどうやって見つけたのか・・・。
 まずはあの人から状況を全て聞かないといけないだろう。
 ん? メル?」
「いえ、問題ありません。タートルも全て収納済み」

気が付けばメルが後ろにいて準備を終えたと報告。
タートルは海上戦において危険なので持ってきていない。
落下による溺死防止で今回着ない事にした。
腰裏には水泳補助機能の小型スクリューをベルト装着するのみで、
すぐに艦艇脱出できるようにしてある。
漂っているはずの船を暗い中で見回した。

「目標確認、接近します!」

赤外線ですらスレスレの映像差で見つけ、約10mまで近づく。
しかし、フレームが現代のそれとまったく想像できない物で、
白い三角形が無数に組まれた造形をしていた。
それ意外は船としての原型は理解できるものの、
奇妙な事に例の船はまだ海上にただよっている。
一度本部に連絡しておく。

「こちら第1部隊、目標の巡洋艦に到着。今から乗り込む」

船から船へ伝って侵入する算段で進める。
数十人のアイチ兵はニイガタの動きを警戒しながら前進、
部下のアイチ兵Hが何気なく上を向いた時だった。

「ん?」

暗い空をを眺めながら、妙なジェスチャーをする。
何かがある光景を伝えてきた。

「隊長、今上部から黒い物が・・・って、ああ!?」

スパッ

「ぐああっ!」

1人のカルシウム金属がフィラメントを通じて断層状に
一瞬にして真っ二つにされてしまう。
黒いそれは音もなく飛びかかり、そして跳ね上がる。
攻撃してきた相手は人の形をした塊だった。

「黒い装甲兵!?」

確かに黒かった。
この暗さをさらに黒く染め上げる様な色が垂直に現れたのだ。
こんな装甲兵がこんな辺境にいたのか、思い当たる記憶もない。
敵性の新装備と判断して射撃態勢ととるが。

「銃を構えろ・・・って、あれ?」

ザブーン

異形の塊は海へ飛び込み、それきり浮いてこなかった。
俊敏な動きで、100m以上の跳躍で逃走。
とても鋼鉄を身にまとっているとは思えない。
自分が造ったものと遥かに上回る仕様とはまるで違う。
メルが斬られた部下を両腕で抱えて報告。

「隊長、Hが・・・」
「衛生兵に任せろ、後は船内に侵入するぞ」

怪我した部下をよそに、作戦を続ける。
船内にまだいるかもしれない。
一同は恐る恐るシリコンの様な30mの船に接近。
吸盤の付いた装備で、船盤を這い上がる。そして船内に着いた。
中は暗闇そのもので、光なしに侵入するのは不可能に近い。

「奥の方は・・・うっ!?」

ピカッ

ライトを照らしてみると、まぶしい光が見えた。
よくは見えないが、なにかに反射しているらしい。

「なんで、こんなに眩しく反射してるのでしょう?」
「壁そのものから跳ね返っているみたいだ。
 ガラス質で、こんな仕様にしているのはおそらく視認性を
 攪乱させるためかもしれない」

まるで壁一面に鏡が貼ってあったようだ。
レーダー反応を抑えるように設計されたと推測。
さらに、そこからすぐ柱の裏側に時計があった。
ログの内容からスノウは間違いなくここにいたはず。
つまり、あのとき彼は左右逆になっていた電報時計を見て、
間違えて認識してしまっていたのか。ここは相当暗いから、
おそらく1を1文字見逃して判断してしまったのだろう。
それにしても、ここは普通の船とは思えない。
内装が全て白い部屋で統一された面に異質さを感じる。

「ん、これは?」

テーブルに置いてあった書類を見つけた。
地理情報に関する報告書のようで、手書きで記してある。
どこかに行こうとしたのか、見ても行き先が分からずに
くまなく調べる自分達は妙な記述を目にする。

「U+3255、サドガCN?」

そこにはサドガCNと数字が書かれた内容が記載されていた。
こんなCNはもちろん初めて知る。
メンバー達は目を丸くして、あたかも覚えのない表書きに
状況を丸められない。今まで聞いた事もない所だ。

「どんなCNなんでしょうか?」
「司令なら、何か知っているかも・・・」

新たなCNの創立かもしれないが他の証拠は見当たらず、
スノウに関する物も発見できなかった。
ここで考察してもらちがあかない。
安全面も考え、一同は周囲の物品を押さえてから帰還した。


アイチCN拠点

「戻ってきたか、どうだった?」

 自分は司令に画像を提出、古くから知る者の意見を伺う。
アイチ兵と同じく彼も目を細くする。
示しと正反対の様な納得しない顔を見せた。

「司令、サドガCNを知ってる?」
「サドガCN・・・そんな組織は存在しないぞ?」

どうやら長年ここらの土地勘がある祖父も知らないようだ。
しかし、1人のオペレーターが横から発言。
思い当たるふしはあるという。

「ちょっと横からですが、私の先祖から教えてもらった話です。
 サドガではありませんが、近い名称の地について
 一度聞いた事がありました。
 かのニイガタと大きく交流していたらしく、
 名前は“サド”とよばれていまして、共通しているかまでは不明です」
「初耳だな」
「場所は・・・あのニイガタから面した孤島ですが」
「海に面した孤島?」
「ニイガタ北部に島があるだろう。
 放射線区域で立ち入れない場所が」
「立ち入り禁止区域・・・」

近似する名のつく島は存在していた。
皮肉なことに、裏切ったニイガタの北海にあるらしい。
名前以外に共通する接点もないので、
実際に現地で情報収集する他に手段がないのだ。

「なら、そこに――」
「いかん、危険だ。白血病にかかるぞ」
「中部に由来する場所なら、他にないだろう?
 スノウさんもそこに行ったかもしれない」
「しかし、サド島には不可解な点もあります。
 ここ最近では奇妙な現象が見受けられているようです。
 放射性物質反応が現れては消えたり、表示が揺らいでいる様に」
「何?」
「放射線って消えるのか?」
「そんな不鮮明な現象はありえん、γ線は長く残る性質があるんだ」

放射線は通常数十年、数百年は残存する。
オペレーターの見解でますます怪しく思えてきた。
事象の隙間をみた自分はそっちを調べにいくと発言した。

「だったら提案がある。
 シンチレーション検出器で現地付近まで調べにいく」
「大丈夫ですか?」
「保証はない。でも、疑問が浮かべば調べるのが道理。
 科学的に有り得ないなら、確証を得るよう行動に移さないと
 いつまでも進められないだろう?」
「むう」

これはイリーナが言っていた言葉だ。
わずかな疑問点で大きな答えを見つけて知識の発展を遂げてゆく。
自分もそうしてきたから、真似事で祖父に推したのだ。
この一言を機に許可が下りた。
エリア情報を改め、汚染区域周辺までなら捜索して良いと
総司令官は続いて印を推す。

「じゃあ行ってくる」
「仕方ない、気をつけて行ってこい」

こうして、サド島に向かう事が決定。
GOサインを受け、新たに海上に繰り出す一同。
理解できたのは何者かが暗躍している線が浮かぶ。
また再び、あの黒い妙兵が現れないのを期待しつつ
防具ベルトを引き締めて進んでいった。


ニイガタCN 近海

「隊長、敵影反応がありました!」
「どこからだ?」
「約2.2km南・・・ニイガタCNです!」

 出発がてら近海の関係者、ニイガタ兵の船が接近。
かつての同盟CNの兵が牙を向けてきた。
武力ならこちらが上で易々と負けるはずがない。
トム分隊ではないようで、せめてもの幸いか。
中部の真髄しんずいを改めて教えてやろうと思った矢先。


ズドン バラララララ

「上空からさらに接近、ドローンです!」
挟み撃ちピンチングか!?」

ニイガタ船のさらに上部から複数の1m円盤が飛来。
速射砲をお互いに放って牽制けんせいし合う。
だが見込みは甘く、速射砲の狙いを上空に向けさせた隙に
船側の懐を突かれてしまった。
これはニイガタ製ではなく、おそらくトウキョウ関連。
アイチの手法を先読みされていたか、徐々に劣勢。
この少人数では分が悪くてかなう相手でもない。
装甲を着けても、艇ごと沈められたら意味がなかった。
メルがここから自分を遠ざけようと誘導し始める。

「先に行ってて下さい!」
「お前達を置いて行けるか!?」

部下の請願を拒否する。勝手な行動を許したくなかった。
そんなメルは顔をひきつらせ、体を全てこちらに向けてきた。
いつもの戦闘態勢の顔とは違う。
そして、信じられない言葉を耳にする。

「隊長・・・こんな所で言う事じゃないが、
 前々からアンタに言いたかったことがあるんだ」
「何だ?」




















「俺はアンタが大嫌いだったってな!
 司令の腰巾着こしぎんちゃくなアンタがな!!」
「・・・・・・」

突然の部下によるヘイト宣言。
もう助からないから言いたくなったのか、司令のう同盟国の
妙事の片鱗が身近にも現れてしまった。
まさか、自分のチームすらもその内の1つになろうとは。

「装甲もない。あの軍勢じゃ、もう逃げられない。
 なんなら最後くらい本音の1つも言わせろってな」

だが、メルは自分を裏切る行為を見せようとしない。
それどころか、盾になろうと逃がす行動をとろうとする。

「スノウを探しに行くんだろう!?
 さっさと行くんだ!」

ドンッ ザブーン

 (うっ)

突き飛ばされて、海に落とされた。
こうなったらサド島まで泳いでいくしかない。
海中にもぐる寸前、聞きなれた声の悲鳴が聴こえたような気がした。
でも、顔をだして確認したくはない。
潜った後はライトの光を見ながらひたすら進んでいく動作しか
できずに何も考えたくなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
電報時計ですが、実際は5分前ではなく3分後です。
その間、聴取態勢をとるルールが設けられています。
あのモールス信号も同様の措置をとっています。
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