Condense Nation

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1章 ホッカイドウ編

第7話  凍り付く命

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ホッカイドウCN拠点 指令室

 一方で、ガブリエルチームはエリザベートチームの帰還が
予定より遅くなっていることに気が付いていた。
気象情報によると、今回発生したのは観測史上最悪な寒波らしく、
雲の集まりが突然集中し始めて見込みよりも大きく上回る。
私のチームも察知して早々に引き上げて帰還。
訓練をすぐ取り止めて全部隊に拠点や駐屯地にこもるよう指示した。
しかし、分隊へ何度も通信を送っているが返事がない。

「エリザベートさん達、大丈夫でしょうか」
「この程度で参る連中ではない。
 地理に詳しいヨハンもいる、必ず現地で対応しているはずだ」

オペレーターの不安にガブリエルが答える。
通信機が凍結しているので、連絡できないと案じる。
予定時刻をえて遭難しているのは分かっていた。
帰れないならば、こちらから探すのみ。
Bチームに捜索をだそうとした時、拠点に通信がくる。

「「伝令、モホーツク海から敵性CNが接近中!
  ただいまDチームが応戦しています」」
「「吹雪の警戒レベルは4、C~Dチームでは対応しきれません。
  応援を求めます!」」
「Bチームから50人送る、私も行く。
 前線に出すぎるなと伝えておけ!」

兵装から中部の者達が攻めてきたようで、拠点内から警報を鳴らす。
敵兵でも易々と侵入できる余裕がないと思うも、無視はできない。
入口のドアを開いた途端に白い風が叩き付く。
この猛吹雪の中、彼らは拠点を飛び出して現地へと向かう。
ガブリエルは心の中でエリザベート達の無事を願った。

(・・・生きて戻って来てくれ)


知庄エリア

「敵はいたか!?」
「まったく見えません、熱源が猛吹雪に完全にさえぎられて」

 南東部で待機していたC~Dクラス数人は警戒情報を聞く時もなく
侵入経路を元に辺りを見回していた。
話によると、巡回船が通り過ぎた後を攻撃されずに張り付かれて
上陸されたとの事。そこからの対策をしたいものの、
赤外線センサーですら雪の幕に覆われてろくに探知できず、
いつもなら捉えられるはずのオレンジ色の人影が映らない。
当然、音すらほとんど聴こえない。あるのは風の音くらいで
せいぜい白い景色だけで様子をうかがうしかなかった。そんな時。

ズドォン

「ウッフォオオォ!?」

1発の銃弾がモブ兵の胴体を貫く。
やはり、まだ近くに残存しているようですぐに帰還できそうになく、
凍り付くSRを手にほとんど姿が確認できない中で対抗。
移動もままならない姿勢で腰を落として待つだけ。

「奴らも帰れなくなって向かってくるしかないのか、
 命知らずめ・・・ううっ、こんなケースは初めてだぁ」
「ガブリエル隊長が来るまで持ちこたえろォ!
 絶対に防衛ラインを越えさせるな!」


14:00 九勝山周辺

 エリザベートチームは未だに拠点に帰れなく、
白い視界だけの雪山を徘徊はいかいして回っている。
感覚は脚の脹脛ふくらはぎの辺りだけか、無意識に移動する様のみで
もうどれだけ歩いたかなど憶えてすらいない。
食事も摂れず、終わりのない氷獄に精神を削られようものならば
人が人を保つ事もできなくなってゆく。

「「キシャアア、ミャオオ」」
「「キョテンハドコダキョテンハドコダキョテンハドコダ」」
「「プットナザァド、プットナザァド」」

(理性を失っている・・・)
 (もう何言っても返事すらしねえ・・・)

後ろから聴こえるのは狂言だけ。
ヨハンとヘルマンはメンバー達の精神崩壊具合を音だけ耳に入れる。
代表格の言葉すら通じずに、統制なく白い世界を歩き続けた。
また1人、異常事態を告げる者が現れる。

「「暑い・・・あついぞぉ」」
「・・・おい、お前どうした!?」

フェリックスは苦しさのあまり発狂してしまった。
この吹雪の中、衣類を全て脱ぎ捨てて全裸になってしまう。
矛盾脱衣だ。

「イヒヒーン、オレはたった今寒さに屈しない
 無敵のボディを手に入れたぞおおんおうぇ!!!」
自棄やけになるな、しっかり自我を保て!!」
「至って正常ですよほほお、寒く感じないし。
 ハハハハハハ・・・・・・・ガッ」
「なっ!?」



フェリックス ロスト



ショック死、フェリックスは心臓麻痺を起こして地に倒れた。
-30℃を下回るこの地での全裸など自害行為に等しい。

「ああああああ!」
(隊長・・・・・・パパ)

メンバーが次々とロストする。
凍りかけた身体もろくに動かせず、私はどうすることもできない。
ただ、ライフルを構えて敵を倒す訓練しかしてこなかった。
しかも、敵兵ではなく自然によって命を奪われるなど
予想の内にすら入れずに創痍そうい
自分の能力がサヴァイヴァビリティの欠如のあだとなるなんて。

 (歩く・・・歩けば必ず)

こんな状況でも、女はただジッと堪える強さだけはある。
事情どうあれ、今は進むしかない。
私は前を向きなおした直後、急に動けなくなった。
というより、後ろから抱きつかれていた。

「ちょっと、なに・・・やだ!!」
「クンクン、エリザの体あったかくて良ひ二ホイだぞおお」

マクシムが暖を求めて強引に抱きついてきた。
鼻が首に引っ付いてきて、気持ち悪い感触。
瞬時に横から氷の拳が飛んでくる。

バキッ

「グホッ」
「あにしてんだテメエはぁ、隊長の娘だぞ!?
 懲罰じゃ済まされねーぞ? あ?
 分あってんのかよおおぉぉ!!!」

ガスッ ゴスッ グシャッ

倒れたマクシムにヘルマンは容赦なく殴打する。
彼はホッカイドウCNの中で一番パンチ力がある者。
もはや、誰も止める行動力も気力もなかった。
マクシムは虫の息で悔しさをにじませる言葉を発する。

「「ぐすっ、女1人交われずに人生終わりたくない・・・
  死にたくない・・・隊長ばかり・・・・ずるい」」



マクシム ロスト



マクシムは眼をギョロつかせるだけで何も言えずに息絶えた。
メンバー達は羨望せんぼう嫉妬しっとの眼で彼を見続けている。
ヘルマンはすぐ側に敵がいるような感覚をもってしまっている。
ヨハンに小声でエリザベータをかばう発言をした。

「「お嬢の脇を固めろ、手を出させるわけにはいかねえ」」
「そうだな・・・・・・あっ!?」

振り向いた目の先にムスティスラフがいた。
いつの間にか腕の縄をどこかで切っており、何も見えない遠くへ
目を大きく見開いてブツブツと言葉を発する。

「「・・・この先に拠点・・・ある」」
「何言ってんだ、川しかねえだろ!?」
「「あるんだよ、その川の先に・・・」」
「違う、拠点付近に川があるエリアはない。
 駐屯地も山際のどこにも水域に近い場所はないはずだ。
 まだ目的地付近にも達して――」


ザブーン

またしても1人が奇行を起こしてしまう。
ムスティスラフが突然、川に飛び込み泳ぎだしたのだ。

「この先に拠点があるぞおおおぉぉ!
 あるっていったらあるあるあるううううぅぅ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

当然その先に拠点があるわけがない、おそらく流域に紛れて
早く帰りたいがゆえに苦し紛れの狂言だとすぐに分かる。
思い込みといえばそれまでで、原因など知る必要すらない。
気が触れて彼はそのまま川に沈み、浮かんでこなかった。



ムスティスラフ ロスト



また1人、また1人とロストしてゆく。
体力も気力も全て等しいなんてならない、追い詰められた者から
本性をさらけ出して自ら冷たい塊になって人生を止める。
判断を失っていると言ったらそこまでなものの、
こんな状態でもう完全に味方を助ける力などなかった。
自分の足を動かすだけで精一杯なのだ。
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