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1章 ホッカイドウ編

第5話  歩行訓練

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ホッカイドウCN 拠点

「コホン、コホン」
「司令、風邪かぜをひいてしまいましたか?」
「そうみたいですね」

 ガブリエルがレイチェル司令の身を案じる。
彼女は風邪をひいてしまったようで、顔の向きがいつもより下になる。
普段から拠点、駐屯地、市民街をを繰り返して
最近もっと寒くなったせいか、病気になるのも無理はない。

「大丈夫ですか? 少し休まれたほうがよろしいかと」
「そうしますね。隊長、後はお願いします」

そうして司令は自室へ入ってゆく。
エリザベートの訓練から約2ヵ月が過ぎた頃、ここは変哲へんてつもなく
白い軍服を着た生活を続けてきた。
しかし、地元を守るための者によって市民同等の活動を不服として
なまけている、とは言わないまでも冬期は兵を最も鍛えさせる機会として
今度はAクラス全員での軍事演習を行う計画を立てていた。
内容はホッカイドウCNでも特に歩行での移動が困難とされる
九勝連峰で行われる。


ホッカイドウCN拠点 ロビー

「200人合同訓練ってのも珍しいよな」
「基本は歩くだけだからな、まとめて動いた方が効率的で
 その間、B~Dクラスがホッカイドウ周辺警護をしてくれる。
 我々も負けてられん」

 部下の兵達も普段から行わない内容だけあって意味をまとめきれず。
地形の都合でフライングフィッシュばかり用いるのも足腰のためにならずと
兵士としての基本に戻るべきと念じられた。
もちろん、ホッカイドウ兵全て参加するわけにはいかない。
敵性からの安全面を考慮した上でエリートのみ行うという。
ただ、手ぬぐいだけ持参する様な出だし準備を怠るわけにはいかず、
司令不在の中行う心配の声も少なくなかった。ミロンは天候について話す。

「その日の天気は大丈夫ですかね?」
「気象予報によると問題はないそうだ。
 雲量も数日は北からさほど来ないだろうと予測している」

壁の大型モニター画面も雲が少なく確かに晴れのち曇りの予報。
ただ、風の強さが大きめで流れが速い様にも思える。
周囲にとってこれといった疑問視をもつ者はいない。
いつものありふれた天候に、誰もが自身の仕事に気を流してゆく。


エリザベート自室

 その頃、エリザベートは自室に待機していた。
体調もすっかり回復して長時間寝てなくても平気なほど、
意外にゆったりとした気分だった。
数年前からスコープ先の物体がとても良く見えるようになり、
反射で考える前にもう指が自然にトリガーを引いている。

(どこまで先が分かるのか・・・不思議)

研ぎ澄まされた感覚とはこういう事なのか。
もっと見据えたい気持ちも、1人の時によく思い浮かべてしまう。
明日は歩くだけのスタミナ強化という訓練らしい。
今回の演習にも当然参加するが、前回以上に好調な姿勢でのぞめそうだ。


20:00 食堂

 暖房の効いた室内のいこいの中、時刻は就寝前まで迫ってきた。
食事時間が終わっても、まだメンバー達がいる。
大掛かりなイベントで勢いづいたのか、景気づけとしてやたら飲み食いをし、
おかまいなしにドンチャン騒ぎをする。
ガブリエルですらキツく注意などはせず、ただ見守っているだけで
黙々もくもくと食事をしている。一部の兵士は酒を飲んでるくらいだ。
イゴール、ムスティスラフもお構いなしに本音をく。

「こんなに堂々と飲めるのも久しぶりだよな!」
「レイチェル司令がいないときくらいだよ。
 御上を気にしなく、こんなにはっちゃけられるのも」
「えーくらすだって、すとれすはっさんはひつようだってえの。
 今日は無礼講ぶれいこうだぶれいこお!
 どさくさまぎれでブレイクダンスだあ!」

レイチェルがいないのを良い事にメンバー達は本音をだす。
とてもAクラスとは思えない、はしゃぎ乱れっぷりだ。
そんな、若者みたいな悪ノリについていけない最年少のミロンは
ニコライが窓の外を見ている事に気がついた。

「なに見てるの?」
「明日の移動ルートの山際が気になってな。
 雪崩なだれが発生しないかと思うと心配だ・・・」
「でも、危険区域に近寄らないルートだから平気じゃない?」
「そうだが、万が一不備の場合ならな」

心配性だけあって問題ないとせる。
そんなメンバー達の様子はいつもながら性別だけ分かれて、
私もそっと窓の外を見る、わずかながら雪がしんしんと降っている。
深い意味はない、いつもの風景は暗くて外部ライトでせいぜい見えるだけ。
気にし過ぎても仕方ないので、今日は早めに寝ることにした。


翌日 ホッカイドウCN拠点 入口

 指令室に全員集合し、皆が集まっていた。
着ている兵装はいつもと同様、アーチャーフィッシュとハンドガン。
ルートはほとんど内地でも、武器はきちんと備えて携帯。
ガブリエルが指示を出して演習の内容を説明する。

「今回は100人ずつ2チームに分けて行動する。
 九勝山頂と山際の2ルートを行脚あんぎゃするぞ」

私は今回ガブリエルとは別行動で、ヨハンとヘルマン達と同じ
Aクラス10位メンバーとのチームだ。
一人前の兵士として扱われ、精鋭チームに入れてくれた。

「しっかり護衛してあげますよ、お嬢!」
「あ、ありがとう・・・」
「最初、我々は山際ルートからだ。
 隊長の山の端ルートと逆方向から歩いてゆく! 準備は良いな!?」

意気揚々ようようで周りは意気込んでいる。
普段と異なる訓練と珍しさも混ざって開始の号令が鳴ろうとした時、
1人の兵士に異常があったようだ。

「ううっ・・・ゲホッ、ゲホッ」
「ミロン、どうした?」

ミロンも風邪をひいてしまったようだ。
とても歩かせる体調ではなく、今回演習の参加を辞退させた。
ガブリエルチームは99人になり、引き続き訓練は続行。
大きな懸念けねんおくせずに2チームは同時刻に出発する。


九勝山周辺

 私達は少し降り積もった雪の上を歩いている。
というよりはただ歩くのみだが、数時間歩かなければならない。
下級兵が周辺を哨戒しょうかいしているので、敵兵士が来る心配はないが
ヨハンは少々不安そうに語る。

「この調子だと山頂到着時には18:00になる。
 時刻指定が少し遅いような気もするな」
「危なくなったらすぐに戻りゃいいだろ。
 ちょっとの雪に動じるなんざ、Aクラスの示しがつかねえしよ」

男兵達は皆、意気を高めて戻ろうと考える者はいない。
目的地をUターンするまでラボリを成し遂げるのが上位だと、
雪に足跡をそろえて着けて自然に証明させようとする。

「・・・・・・」

私は無言で空を見上げた。
いつものように雪が降っているだけで別所、異常はないのに。
だが、意味もなく気分は晴れない。
直接色が変わったわけでもない雪がどことなく濃くなったと思う。
もちろん確定情報ではないから周囲には言わない。
理由もないが、晴れていない。
フェリックス、ニコライ、イーゴルが以下の発言。

「ミロンの奴、大丈夫かよ」
「レイチェル司令も病にしてしまったな、油断ならん」
「あの人のことだから心配ねえだろ、行こうぜ」

メンバー達は相変わらず楽観している。
気を抜くなと発言しようとしたが、やめておいた。
ただ、ヨハンの言う通りで思ったよりペースが進んでおらず、
歩行速度は雪も相まってかなり遅くなっているが、
すぐに辿たどり着けるだろうと誰も気にせず登り続けていく。
しかし、この甘さがあの様な凄惨せいさんを極める光景を観る事になるなど
私達は予想の一片すらしてなかった。
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