Condense Nation

文字の大きさ
上 下
80 / 280
1章 ホッカイドウ編

第3話  止水の如く

しおりを挟む
ホッカイドウCN拠点 ロビー

「また、お嬢にあの訓練をさせるんですか?」
「そうだ、体調も万全にしてある。
 前回からもう5ヶ月経った、そろそろ次の段階に向かわせる」

 ヨハンはガブリエル隊長からメニューを知らされる。
聞けば、また例の過酷かこくな訓練をエリザベートにさせるらしい。
内容は1週間飲まず食わずで待ち伏せするもので、
彼女1人のみ行わせるという。

「前回の鍋会で栄養付けさせた理由がそれなんですね?」
「それもある、だが自身の能力向上のためでもある。
 司令にもすでに許可はとってある」

飲まず食わず、これはスナイパーとして至極かつ至難の業というべき
訓練法である。命の危険性も関わる行為でAチームの全員が行っておらず、
エリザベートだけが許された特訓だ。
はたから見れば、特別扱いと思われるような手法。
でも、防衛として環境と軍事を兼ねた仕方ない習慣である。
そこへミロンがやって来て、レイチェル司令について語る。

「そのレイチェル司令ですが、また“ままごとモード”に
 入っちゃってるようです・・・まともに話をしてくれそうになくって。
 マガジンのリソースの件で相談しにいったのに~」
「弾薬補給場所なら、すでに取り合ってもらえた。
 その件は私がなんとかする、戻っていいぞ」
「は、はい・・・お願いします」

指示を聞いたミロンはさっさと下がる。
ここはある意味、副司令的な不足をいつも変わり身にしてもらえて
ガブリエル隊長は細かな事もよく見てくれるからありがたい。
彼に視点が代わり、彼女達のいる部屋に向かう。


レイチェル自室

 その頃、エリザベートはレイチェルの個室にいた。
2人で座り込み、小さな道具で遊んでいる様に観えるが
なにやら“彼女の世話”の相手をしているようだ。

「ほら、よくかんで食べなさい。」

人形を抱えてレンゲで食事をさせている仕草をしている。
嬉しそうに彼女は笑って人形を赤ん坊の様にあやした。
私はただ座りながら様子を見て付き添う。

「エリさん、そこの本をとって」
「これですね、どうぞ」

真似事というシチュエーションを理解した上で応える。
同じ性別でどんな理解があるのか定かではないが、
私だけはレイチェル司令の個室でプライベートを
共にする事が許されているそうだ。
部屋の外からコッソリ見ているミロンとフェリックス。

「よくあんな人に司令官が務まるね?」
「指令の能力だけはズバ抜けてんだしな、人は見た目によらねーぜ」

レイチェルはホッカイドウCNでたった1人だけの司令官である。
指揮は的確に下し、能力分別管理も恐ろしいまでに徹底して、
外見と能力が見合わない人物は他にはいないくらいだ。
変わり者なのは島国ならではの習慣なのかもしれないけど、
閉じた要素から独自進化になると彼女から聞いた事もある。

という事情も兼ねてエリザベートに視点が戻る。
ドアからノックされて隊長から連絡がきたと言った。

コンコン

「司令、隊長から来るよう言われたので」
「そお? お仕事がんばってね」

私は部屋を後にした瞬間、視点と気を切り換えた。
連絡内容はもう数日前から直に聞いていたもの。
これから自分には過酷な訓練が待ち受けているのだから。

「来たな、準備はいいか?」
「はい」

これから父と共に強化練習を行う。
2人はホッカイドウCNにある山岳へと向かう。
そこは比較的高度が低い山で安全度が高い場所である。


札風エリア 三角山

「今回はここで行う、私も常時ここで待機する」
「了解です」

 指示でささやかに大した前触れもなく特殊訓練が始まる。
今回はアンブッシュ、いかにして長時間狙撃態勢をとれるかのラボリで
私は腰をゆっくりと下ろし、狙撃の構えをとる。
敵が来るわけではないが、この姿勢を保ち続けるのが訓練だ。
今までの最高記録は5日と12時間だった。
今度こそ目標の7日を取りたいものの、並大抵の精神力が必要だ。
今回は何日までもつのか。
一部の部下達が見守っている。

「「万が一のことがあったら・・・」」
「「ていうか、なんでお嬢だけこんな訓練やらせんだよ?」」

この訓練の発案者は実はレイチェルであった。
女性特有の忍耐力を活かした訓練法らしく、若い女性相手に
ガブリエルは最初これに反対したが、彼女の戦略的な論理に
よって決定せざるをえなかったようだ。

(エリザベート・・・)


1日経過

太陽が1周した。
まだ体は大丈夫だ。腕や足のしびれもそれほどない。
視界もくもりなく、ハッキリと見えている。
メンバー達は交代で見張ってくれて自分を気遣ってくれた。

2日経過

まだ大丈夫。姿勢もしっかりと保っていられる。
風もふいてたまに小雪がパシパシと顔に当たるが、
防寒服のおかげで、寒さは感じない。
敵が来るわけでもなく、同じ姿勢をとり続けるだけというのも
別の意味で大変だと思い知らされてきた。

3日経過

大丈夫。少し頭が垂れてしまうときがあるが、良好だ。
ヨハンとヘルマンが大声で話をしていて少し五月蠅うるさい。
その直後にしかられる声が聞こえたが、気にする余地もない。

4日経過

腕が少しずつ痺れてきた、感覚がだいぶ無くなって動かしにくい。
しかし、まだ意識はしっかりしているので大丈夫だ。
前回はこの時と同じくらいでかなり辛かったが、
限界を超えようとする意志ははるかに上回っている。 
気力も経験の内、以前よりも長くこなせると確信していた。

5日経過

視界がボヤけてきた。すでに空腹がしていたが、
無駄なモーションを一切とらなかったので、まだ意識はある。
この日を乗り切れれば記録は更新できるが、
体が固まるように動かせなくなってきた。

6日経過

意識がとびそうだ。
ついに記録は超えられたが、そんな事を考える余裕もなかった。
つい意識を失いそうになるが、まだ余力を残すところがある。
女はこういう時、腹部に意識を強めて自覚する強さをもっている。
“頭でなくお腹でこらえる”。男ではできないわざなのだ。










そして7日経過

 気が付いたら私は拠点の医務室にいた。
側にはガブリエルがいて、さらに部屋の外には部下達が
大勢様子を見に来てくれたようだ。やはり少しうるさい。

「「あ・・・」」
「まだ起きるな、安静にしていろ」

7日経った今、1週間の訓練が終了した。
私はあれから倒れてしまったようで、ここに運ばれたのだ。
目標日としてちょうど7日に意識を失ってしまったのは
達成に含まれるのか定かではないけど、
レイチェル司令もやって来てははげましの言葉ももらった。
CN創立以来、最高記録を更新。
ホッカイドウCN史上の快挙でもある。
ガブリエル隊長から必要な物があるか聞かれた。

「なにか欲しいものはあるか?」
「・・・お腹が空いてしまって」

メンバー達が安堵あんどの笑みを浮かべていた。
私が無事だった証明が分かったようで喜んでいる。
ヘルマンとミロンも顔をこわばらせる様に声をかけた。

「心配かけすぎっすよ」
「もう、こんな訓練は無謀ですよ~」
「・・・うん」

滅多に話さないマクシムも言葉をだした。
なぜか顔を赤くしているが、感動の熱さとしては他の皆も同様。
1人の女性の無事を願っていたのは当然だ。

「お前はしばらく休暇だ、しっかり休んでいろ」
「分かりました」

耳にして寝る。
狙撃手スナイパーとは時に忍び凌ぎ待つ事が任務であり、
ある意味ずっと耐え続けるラボリでもある。
受け身、静止、定点観測を静かにこなせるのは
ある意味、女が一番相応ふさわしいのかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】

一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。 しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。 ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。 以前投稿した短編 【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて の連載版です。 連載するにあたり、短編は削除しました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...