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1章 九州編

第8話  数m上の雲

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 オルンは生物ではなく、生物型のイヌだった。
皮膚の内側は表裏一体の様を真逆と言いたげな形で、
哺乳類の1つであるはずの四足動物は人々のすぐ側から予兆もなく
ここ九州に紛れ、ひっそりと今まで存在し続けていた。

(僕は・・・機械と一緒に暮らしていた)

すぐには理解できずに銀色の網目模様に惑まどう。
技術という世界の違いが突然目の前に表れて、常識という認識が
まとめられずにいた。

「とにかく、足を手当しましょう!」
「そ、そうだ!」

ミキの声に気を取り直す、いつまでも見入るわけにはいかない。
オルンの足から流れ出る青い電流を抑えてあげたいが、
こちらが感電してしまう。せめて機械用のリペアキットでそうと
ケンジは装備品の中にあったゴムの手袋を解体して足に巻き付けようとした。

ビリッ

「くっ!」

少し感電したようだ。
しかし、この子は自分のパートナーで任せっぱなしでは心象に悪く、
自分がなんとかしてやらないとブリーダーとして面目もない。

「僕がやる、どいてくれ」
「危ねえぞ!」

横に座り脚を追って見直す。
オルンの足の内部を改めて見直してみた。
カルシウム金属ではない別の金属製の骨。
筋肉は普通に見えるが、骨と接触するけんの部分が異質な色で
白や灰色の部品の様に構成している。
生物なのか機械なのか見当すらつけられない。
だが、そんな差別する気も起きなかった。
どんな理由であれ、この子を救うのが最優先だから。

ビリッ

「うぐっ!」
「ちょっと、感電死するわよ!!」
「「絶対に助けるんだ・・・絶対に」」

手が痺れようと、今は何も考えてはいない。
ただひたすらにこの子を運ぶ行動を起こすしかなかった。

「医療室にすぐに運んでやるからな・・・」


カゴシマCN拠点 医療室

「これは・・・なんというか、また異形ですねぇ」
「なんとかなりませんか?」

 それから自分は拠点の医務室に運ぶ。
どうみても運び先は工房だろと言われたが不意にここまで来てしまう。
まだ自分は生物という枠としてこの子を考えていたから。
周りも同感して、もちろん工作班も同席して治療に当たる。
一同はオルンの安否を気遣きづかっている。
さすがに衛生班、工作班達も前代未聞の光景に目を疑い眺めた。

「え~、傷・・・いや、破損箇所かしょはそれ程深くないようです。
 応急処置として、肉部にキュアリバーサーを注入して
 絶縁バンデージを巻いて漏電を止めておきます。
 ワンちゃん、痛くないかい?」
「ワンッ」

機械相手に治療などできないので、補修として施すのみ。
特に故障(?)も起こらずに異常もなく場は治まった。
オルンは相変わらずの顔だ。ミキの犬がこの子をめている。
彼女は自分に清涼な表情で話す。

「良かったじゃない!」
「ミキ・・・」
「こういう事だったのね、オルンはただの犬じゃなかった。
 だから、おかしな事ばかり起こるなんて」
「僕自身が一番驚いているよ。
 最も近くにいながら事実に気が付けないなんて」
「確かに、こんなに精巧せいこうな造りならなおさら・・・疑って悪かったわ。
 てっきり、あんたが変に仕込んだのかと思ってたから」
「こんなコウトウムケイな仕込みができると思ってたのか?」
「そうよねー」

談笑しつつ会話のやりとりをする、ミキへの誤解は解けたようだ。
味方モブ達も顔色が安定、穏やかに変わりつつある。
もう身内に対しての心配はないだろう。

しかし、ここで話が終わったわけじゃない。
技術者達の行方は未解決のままで、おざなりに残されている。
あの妙なヘビの機械、不知火の潜水艦が現れた事で人為的な行使に
関わる誘拐の件が濃厚になってきた。
側にいたメンバー達も次の任務を待って上の判断に委ねるだけ。

「ここにいたのね、あの子は大丈夫だった?」
「はい、指令部はこれからどう動くんですか?」

リョウコ司令が様子を見に来る。
オルンの事を話して予想外そうな顔をしていた。
あまりにも突拍子とっぴょうしな出来事ばかり続いて頭の整理も一苦労。
本部も一度、九州の位置取りを考え直そうと言う。
イイダ司令官もやって来てオキナワ方面の結果を教えてくれた。

「オキナワCNは白じゃ、誘拐行為には関わっておらん。
 あの妙な潜水艇を造っている痕跡すら見当たらなんだ」
「結局、黒幕はあの潜水艦ですか?」
「そう断定するのは早いわね。実際、拠点まで来たわけじゃないし。
 技術者達は部屋の中で消えたから、手口不明。
 あまりにも離れすぎて接点が見えなさすぎよ」
「ワシらはもうコスギ司令官を疑ってはおらん。
 もっと視点を明るくせねばな・・・」
「そうですか、良かった♪」
「コスギ司令官の疑いは晴れたけど、行方不明の件はまだ解決してないから、
 今後、九州はカメラ設置を増やし、偵察班増員案を立てる予定よ。
 見張られる雰囲気も強くなるから皆も気をつけてね」

というのが九州連合の対策となるようだ。
内と外の影響を改めて身内を固める方針をとると言う。
それでも自分は成さなければならない事が1つある。
何より聞かなければならない事があった。
コウシ先生にオルンの事を聞くために。
リョウコ司令に言おうとしたそのときであった。

「そうだ、あんた達コウシ先生がどこにいるか知らない?」
「僕もこれから会いにいこうとしたんですが、司令も探していたんですか?」
「もしかしてオルンの事で?」
「うん」

先生は何度も犬を検査してきたから、何か知ってそうだと思う。
多分、あの人も見逃していたとは思うけど、頼れる者が他にいない。
だけど、司令ですらどこにいるのか知らず。
司令連絡で放送しても反応なく迷いかけると、
たまたま横を通りかかったカゴシマ兵が居場所を教えてくれた。

「あの人なら、さっきここの研究室にいたぞ」
「そうですか、ありがとうございます!」

自分達は研究室へ足早に移動する。
今はオルンの解明を先にするべきだと出来る事から始めたい。
特別獣医室で作業しているはずの彼の元に、ドアを開けたときであった。

「コウシ先生・・・・・・・・・・・コ」










そこには誰もいなかった。
コウシ先生どころか、研究解析に携わる者すらもいない。
人の気配も微塵みじんも存在していなかった。
メンバー達は愕然がくぜんとする。

「コウシ先生・・・・・?」
「ちょっと・・・ウソでしょ!?」

不気味なほどに部屋は静まり返っていた。
今はラボリの最中だったはずが、作業している者が見当たらない。
端末の電源は普通に付いていて、今まで誰かいた状態そのものだ。
リョウコは机にあるはずの資料やデータを見回り、漁って観る。
彼女は顔を引きつらせて話した。

「データが入ってないわ、抜き取られている!」
「なんですって!?」

リョウコ司令はくまなくデータベースをチェックしてみる。
やはり、詳細に記された部分だけが消去されてるようだ。

「「なんで・・・なんでこういった人達ばかり・・・?」」
「「やっぱり神隠しはありえるのか・・・」」

九州各地で相次ぐ技術者失踪しっそう
亡命も逃走も誘拐の真意も定められない不明の間、
ついにコウシ先生もいなくなってしまった。
周囲から気配すら絶つ様に一同はなす術もなくただただ静寂せいじゃくの中、
部屋の光景を見続けるしかなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――
成り澄まし、それは眼を眩ますやり口の1つです。
側にいても(あっても)真実は中々気づかないときがあります。
というわけで他方編にいきます!
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