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1章 四国編

第8話  水守の女神

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カガワCN きぬさエリア

「伝令、巨大な水柱が発生! 
 奇妙な事に一切形を崩さずに固定化しています!」
「恐れたのか、敵も撤退していく模様!
 ビーバーより、地下水域全ての兵を撤退完了しました!」
「「崩れない水だと!?」」

 地上に上がっていたコノエが状況を報告する。
カガワ司令官もそびえ立つ透明の柱に目を留まらせる。
エヒメ、コウチ、トクシマの司令官達も誰一人として
説明できる者などいない。敵も味方も目前の光景に、ただうろたえるのみ。

「・・・・・・」

ウィーン

カナは指令室を飛び出し、すぐにトミ隊の元へと向かう。
自分はミズキ本体に疑問と興味を持ち始めていた。
理由上、この形状記憶効果の水を開発していたが、
実はこの発見にはもう1つの秘密があったのだ。
カナは自分の力だけでこの技術を見つけたわけではなく、
彼女の細胞質から原理を技術と仮定付けさせた。
日に日にミズキに整備の手伝いをしてもらう度、
どさくさに紛れて体の一部を拝借して遺伝子を調べていたのである。
ミズキの出生があまりにも不明すぎていたからだ。


 一方、地上ではビーバー達が水柱をながめ続けていた。
コノエは側の水をすくい上げて疑問に感じる。

(これは普通の水じゃなかったの?)

外見は普通の水と変わらぬもので、成分も淡水湧き水と同じ。
いくら手ですくって眺めても、ここで答えは得られないのだ。
全ての根元事象は地下と彼女にある。


地下水路 一角

 トミ隊はミズキの後を赤外線センサー発信源より追跡していく。
そしてジェネレーター部屋の前までたどり着いた。

「ミズキ嬢ちゃんはここにいるはず」
「なんだ、このコード番号は?」
「!?」

トミは眼を大きく見開き、コード番号を確認する。
さらに確定して自然に震える老体がピタリと止まるほどに、
隊長にとって見覚えあるものだ。様子を見たクローバーが問う。

「隊長、どうした?」
「こ、この数字はワシが若いときの時代。
 四国共通で使用してた部屋の認証番号じゃった」
「え!?」
「本当ですかい!?」
「間違いない、東との大抗争、厳戒態勢時代に使われとった。
 当時の隊長に往復ビンタされるほど覚えるよう
 叩き込まれた数字じゃからの」
「といっても、誰かに教えられて入った可能性も・・・」
「それはありえん、当時に虹彩こうさい認証の施しもあったんじゃ。
 部外者は一切立ち入りできんはずじゃ」
「いつの話だ?」
「確か、エーデー60年そこいら・・・40年前じゃな」
「よんじゅうねんまえ!?」

目の認証は指の指紋と同じ様に個々唯一のあかしとなる。
つまり、親の遺伝子を継いでも中に入る事ができない。
しかも、10年前にパスワードが変更されたにもかかわらず
この部屋だけ使用されているのもおかしい。
人を待たない40の歳月を理解できる者はここにいなかった。


地下水路 未使用区画

 心配を秘めながら開いていた区画に踏み入れる。
部屋の中にはミズキがいた。
髪留めが取れて長い髪が水へと垂れている。
滑らかで緩やかになびいていた。

「ミズキ嬢ちゃん・・・」
「・・・・・・」

いつも頭の両脇に留めていた時と雰囲気が似てるようで違う。
タカは一目見た光景を頭の中で全て理解した。
彼女がこの部屋を知っていた事。
部屋の認証を越えて入れた事。
本人に向かって思い切って問いかける。




















「あんた・・・・・・・・スイレンさんか?」
スイレン「えへへ、バレちゃったみたいね」
「ああ・・・・・ああああ」

ミズキの正体はスイレン本人。
スイレン・アクエリアス。
ミズキも偽名、始めから娘など存在していなかった。
一同はその事実に驚愕きょうがくする。しかし、不明な点がある。
どうみても彼女の外見は20歳にしか見えないのだ。

「みんな、ここにいたのね。探したわよ!」
「みなさん、無事でしたか!?」

コノエとカナも場所を特定してやって来たようだ。
彼女達もミズキがスイレンだと知らされ、世代の異なる関係で
驚きの顔を隠しきれなかった。

「あんたが本物のスイレンさんなら・・・」
「もう60は越えてるはず・・・だよな」

スイレン自身も不思議に思う様な顔をする。
本人も意図的に若くなったわけではない様だ。

「うーん、あたしもそう思うけど、体感がつかめなくて。
 あれからなんだか全然体が変わらなくってさ」
「あれからというのは干害の時だよな?
 一体、ここで何があったんだ?」
「この地下水路は・・・再起した場所。
 あたし自身も、新しい人生を受けられた所なの」

私はここで起こった全てを打ち明けた。

40年前、東側との交戦で私は家族全てを失い、
さらなる干害で苦しみながら彷徨さまよい続けていた。
当時は亡命システムが通らず、共倒れを余儀なくされて
てもなくいっそのこと死に場所を求めて気が付いたら、
この地下水道にたどり着いていた。
人前で死に様を見られたくはなかったから、誰もいない所で
一生を終えようと思っていたけど、奥から不思議な音がして
行ってみたら、この場所を見つけた。
いきなり水がどんどん溢れだして自分は必死に水をすくって呑み込んだ。

「・・・・・・」
「その後は知っての通り、たまたま救世主みたいに思われただけ。
 貯水タンクを持ってきてみんなにも飲ませてあげたってこと」
「これが・・・水源」

カナはジェネレーターを見て驚きの色を隠せなかった。
四国どころか、この世界の技術ではありえない造りだったのだ。

「電子と水素原子を強力に結合操作して分子を自由自在に
 動かしてる仕組みのようね。
 マイナスの電子は常にプラスの周りにあるから。
 あんたの細胞もそれと相似していて、活性酸素も抑えられて
 テロメアが崩れにくくなってるし。
 形状記憶とは違う、電子すらも操作できるっていうの!?」
「ビーバー時代から時々ここにやって来てはこれを調べてたけどね。
 やっぱり詳しい仕組みは分かんないや。
 って、アンタいつの間にあたしの体を!?」
「こんな場所、光検知でも発見できなかった。
 分子操作で水を直立させてたのね・・・」
「なるほど、これを守るためにビーバーを設立したんだな」
「そう」

今まで黙り込んでたトミが怒鳴るくらいの声で叫びだした。
狭いゆえ、音響がするくらい声が跳ね返る。

「なんで、なんでワシらの前から去っていったんじゃ!?」
「・・・・・・」
「トミさん!」

トミの眼から涙がボロボロと流れる。
スイレンは申し訳なさそうに遠慮していた事情を語った。

「あたしの体は歳をとらないの。
 当時は少しでも異変があると警戒されちゃうし。
 そんな人がいたら疎まれるじゃない・・・」
「んなこた知ったこっちゃないわい!
 あんたはここの救世主じゃ!
 人外だろーが、ライオットセイギアだろうが、
 ワシらを救ったことに変わりはせん。
 ここにいてくれるだけで良かったんじゃ!」

やはり、うちの隊長はどこか抜けている人なんだ。
トミは自分の心境を吐き出しているが、タカは見えない所で
苦笑いをしてしまう。隊長の肩をポンポンと叩いてさとした。

「あートミさん、その年でボケるのはまだ早いですよ」
「なんじゃ、やぶからぼうに?」
「この子・・・いや、この御人おひとはすでに始めから
 俺達と一緒にいるじゃないですか?」
「・・・・・あー、そうじゃったな」
「ワハハハハハハハハハハハハ!」

トミ以外の一同が一斉にドッと笑い出した。
すでに共にいたはずが、40年ぶりの奇妙な再会である。


翌日

「ゴクッ、ゴクッ、プハーッ!」
「まーた今日も飲みますねえ」

 一同は休暇であり、ラボリ設定ではないものの
カガワのウォーターガーデンで野菜の採取を手伝っていた。
今は一段落していつもの飲食店で休憩中のところだ。

「ひー、ちょっと量が多すぎるわ」
「気合いが足らんぞ!」
「ゴク、ゴク」

タカも酒を飲んでいる。
一同の同窓会な感覚で、つい勢いであっけなく禁酒を破ってしまったのだ。

「タカさん、酒はやめたんじゃなかったの?」
「たまには良いと思っちゃってね、雰囲気飲みだ」
「スイレンさん、あんたは飲まないのかい?」
「い、いやあたしは元々お酒は・・・」
「スイレンさん、今年で60歳ですよね?
 その年でも苦手はあるんですか?」
「あたしの年を言うなああああああああ!」

自分は元からお酒が飲めないから、彼らの酌役しゃくやく
いつものにぎわい、いつもの生活。だが、どことなく新たな
風情を感じることができる。それはかつての旧友との交友のせいか。

ただ、私はこんな世界でも人々の良い笑顔さえ見られればそれで良かった。
あのときの苦悶くもんに満ちた顔なんて、もう見たくはない。
表情が変化するならば、形状記憶という“変化の力”で
苦痛から笑顔の顔へと戻してあげたい。この水の力で。

「ううっ、飲み過ぎたかな・・・み、水~」
「そんな飲めんのに、無理しおってからに」
「エヒメのミカンうめーい!」
「大丈夫か?」

タカがダウン。
勢いが過ぎて目が回りかける。トミ隊長のようにはいかず。
視界が天井を向く。そんな時、彼女に言われる。

「ほら、飲みなさい!」

スイレンはそう言って自分にコップ1杯の水を差しだした。
滑らかな流線を見た時、脳裏にあのときの光景がよみがえってきた。
暑い日、脱水症状しかけていた自分にくれた冷たい1杯の水。
あの透明な液体が光に反射フラッシュバックしているのがよみがえる。
生を与えられたどこにでもある物は機械でいう潤滑油と同様、
動的行為として欠かせない必需なのだ。
それ以上はよく分からない、ただ喉が乾いたから飲むという単純な動機。
一気にグイッと飲み干して彼女にお礼を言う。










「おいしい、ありがとうおねえちゃん!」



――――――――――――――――――――――――――――――――――
水、それは生物にとって欠かせないもの。
変形、擬態、浸透、あらゆる状態変化をもたらす
魔法の様な効果をもつ存在です。
形も色もなく、軟体表現はとても難しい分野だと思いますが、
水の様な変化を文でもっと活かせられれば良いですね。
では他編に移ります!
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