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1章 四国編

第6話  水は記憶する

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トクシマCN拠点 多目的室

 トクシマ司令官とカナが数人の若者兵に講義をしている。
カナの新技術説明会は終わり、司令官の四国警戒区域について
外周エリアの要注意ポイントを語っていた。

「というのが四国の防衛ライン配置だ。
 九州、中つ国、近江と隣接するここは常に狙われている。
 間には瀬戸内海で隔たる陸の境目でしのぎ、今をつないできた。
 いずれにしろ、我々は水の恩恵で守られている国なのだ」
「・・・・・・」
「そして、時代の流れで命をつなぐ術も変わってきた。
 この場にいるカナ君同様、技術進展と防衛は共に歩みを進める。
 しかし、現在では兵科の割合もへだたりが生じている。
 できれば、航空班への希望も推奨すいしょうしたいのだが」
「・・・・・・」

今、航空班で実際飛行機を操縦してるのはあたしだけ。
水にも劣らぬ慢性的不足で空にあこがれる人が少ない。
時たま若い子達にもやんわりと誘っても遠慮しがちばかりだ。
難しいとか、試験が厳しすぎるとか挑戦心をもたないのが目立ってきた。

「・・・まあ、話は以上。
 すぐに決めろとは言わないが、理系への向上心も必要だ。
 お前達は将来において大切な人材。
 必ず自身に返ってくると心掛けてゆくように、解散!」

そして講座は終わり、一同は解散した。
トクシマ司令官のほんの少し本音も交じった話に無心。
あたしは散々教わったから、これといって気にしていない。


トクシマCN拠点 ロビー

 そして、午後は上空哨戒しょうかいの時間で空港に行く。
カナがやってきて、また技術協力を申し出てきた。

「ミーズキ、またちょっと手伝ってくれない? 時間あるよね?」
「あれ、14:00からラボリがあるけど、S-001の整備?」
「それと後はキュー(トミ命名)の点検もね。オネガーイ!
 あ、枝毛があるわよ?」

スパッ

そう言ってあたしの頭に手を差し出す。
親切相まって髪の毛を1本切ってくれた。

「あ、ありがと」
「手伝いのお礼よ、チェック終わるまで出港ずらすように言っとくから」
「うわ、また精査時間を使って独自開発とかやってるんでしょ」
「いーの、あたしがいてこその技術班なんだから」

という、カナの技術特権を含めた上での頼み事。
この子のおじいちゃんも四国有数の科学者で色々発明してたらしい。
末裔まつえい的な立場はポイント階段みたいで一緒に引っ付いてくるものである。


エヒメCN 西矛エリア

 一方で、トミ一隊はエヒメCNに向かっていた。
今回は先の残存敵性がいないか見守り活動をする予定。
またミズキは上空偵察のラボリがあるので、
年老いた陸上班は地上防衛にあたるのが定積だ。
しかし、今日は雰囲気がいつもと比べて負の方向に向きがちとなる。

「隊長、エヒメ司令官が――」
「分かっとる・・・向こうはどうでもええ」

タカが司令部に西方面の防衛を出願していた。
東方面の敵性CNが関わると指揮が乱れやすくなる。
実はかなり前から同じ事をしていたが、いつも不意に東側がやってきて
出くわす羽目になっていた。

「今日の天気が晴れで良かったですねー」
「・・・そうじゃな」

しかし、西側は安全かといえばそうでもない。
今日は中つ国の侵攻が特に起こらなかった。
上空のミズキも異常はないとのことで、トミ分隊は早く引き上げた。
ヒロは物足りなかったのか、水圧カッターを海に向かって放出している。

「ガキじゃあるまいし、よさんかい」
「ははは」

タカは瀬戸内海を見回してつぶやいた。
こうやって何も起こらずに過ごせたら願ったりで平穏に済む。
ここら辺は潮の匂いが強く感じる。

「「水に守られてる国か・・・」」

ずっと住んでいる所なのに、なんだか違う様に感じる時もある。
故郷の変化は世代の波も押し寄せられる思いだ。
今の組はいつまで続けられるだろうか知る由もない。
ふっと見た丸門の渦潮うずしおが大きく円を描いてうねっている。


1:00 トクシマCN 研究室

 カナは夜遅くまで一人研究に没頭している。
電子顕微鏡で何かの解析をしているようだ。

「やっぱりそうだ、テロメアの分離速度が普通よりも遅すぎる・・・。
 どうなってるの?」

細胞分裂について調べてるようだ。
しかし、なぜそんな研究をしているのかは誰も理解できずに
CNと関係のない単独調査。彼女専用ルームの中で黙々と
独り言を交えながら細長い栗色に目を凝らしていった。


宿舎

 ミズキはトクシマの宿泊施設で個別部屋のベッドで横になる。
これから寝るつもりだったが、寝られなくてやる事もなく
ただ、自分はビーバーにいたときの光景を思い出していた。

(あそこが、私にとってのだった所・・・)

第2の始まりともいうべき再起がかつて自分にあった。
暗くて見えない地下水路、うねるような音、あふれだす水。
あの時、乾いた体はまだ抗うように欲しがって脚を動かす。
見えない、でも動かずにはいられない。
そこをひたすら歩き、まだ生きろと体が望むままにどこかへ行きついた。
その次は・・・・・・・・・・・。




















(朝)

気がついたら朝になっていた。
いつの間にか私は寝てしまっていたんだろう。
少し頭がボヤけているが、すぐに覚めるはず。
朝食をとるためにすぐに支度をして部屋からでていく。


トクシマCN 食堂

 拠点のダイニングルームにはすでにトミ分隊達がいた。
というより、朝方は初老の部隊しかほとんどいない。
エヒメから帰ってきて、ここで待機していたようだ。

「おっはよー、相変わらず早いんだね」
「この年になると朝が早いのは仕方なかろうて。
 気が早回りして、仕事やらんとあかんってなるわい」
「お、俺もなんだか最近早くなってる・・・ううっ」
「ミズキ、お前もずいぶん早く起きるじゃないか?」

クローバーの指摘に私的な理由で答える。
どのみち寝ていなかったのは当たってるから、
数少ない人材事情な出来事を答えるだけ。

「昨日はここで講習聞いて終わりだったからねー。
 後はカナのとこで手伝いしてた」
「何の講習だったんだ?」
「液体金属について、形状記憶合金による講習という名の
 カナの新作発表会だったね。後は司令官恒例の四国実情目録」
「それで、ワシの尿漏れも治るんかいな?」
「ハハハハハ!」

隊長の本音交じりの汚い冗談で、朝食も進んでいく。
最近はかなり暑い日が続いているが、朝方はまだまだ涼しい。
若年部隊はほとんど夜に回されるから、この時間はほとんどいない。
まるで老人のいこいの場みたいだ。

「長く生きれば、常に同じ生活を繰り返していくもんじゃ」
「トミさん、今年で60歳ですよね~」
「年をとると時が過ぎるのも早くなるな。
 あれ、あの子とアマゴ食べたのいつじゃったかいな?」
「その年で棺桶行きはダメですぞー、白飯も食べ続けて下さいや」
「たわけが、食っとるわいや!」
「・・・・・・」

老人特有の自虐じぎゃくギャグを聞かされる。
トミ隊長はいつも説法と冗談を交代で話すパターンがある。
で、冗談が終わったから次は人のなんたるかの回で重要であり、
ここで席を立つと感じが悪くなりそうで耳を立てるフリをすると
まったく違う方向から大きな声が上がる。
放送の緊急アナウンスが流れた。

「「朝時間の部隊はすぐに指令室まで集合して下さい!」」
「な、なんだ?」
「敵性の侵攻か!?」

突然の事に部隊達が唖然あぜんとしている。
どうやらパターンはここで崩れてしまったようで、
何事かと疑問をもちつつ一同はそこに向かっていった。
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