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1章 東北編
第9話 正体
しおりを挟むアキタCN拠点 ロビー
「演説だって?」
「そうよ、今回の任務はアドルフ司令官の護衛。
また、市民の前で大声を出す発声練習をするつもりだって」
カレンに今日のラボリ内容を明かされる。
東北連合最高司令官アドルフによる演説が行われるという。
毎度の自己アピールよろしく、東北身を固め直し的な発言をして
威厳を示そうといつもやってるらしい。
俺達はその近辺警備にあたる任務をするとの事だ。
アキラは分隊長同士による打ち合わせで見張り場所確認などで、
もうイワテCN本部に向かっていた。
トモキも兵器に関することで用事があると同時刻に出発していて、
敵襲に備えるために配置しにいくようだ。
マイは後追いの鈍さを心配する。
「そんなイベントも月一でやるみたいな話よ。
どのみち行くならみんなで一緒に行けばよかったのにね」
「平隊員は開始まで邪魔だから、まだ来るなって事。
市民の人もまた集まって他CNは待機するキャンプの場所すら、
ろくに設置してくれてないんだって」
「他の東北CNも来るんだろ?
すぐに、すし詰めになるよな」
総司令官の采配は相変わらずだが、特に気にしない。
気付けば俺はもうすっかりここのCNに馴染んでしまった。
ここで骨を埋める覚悟もできている。
東北連合の強化には少し抵抗感もあったが、
そんなことよりも自分のやりがいが増していく感じが
より大きくなっていってる。
迷いはない、ある意味第2の人生としてやり直そうと
心から思うようになっていた。
そんな決意の表れである軍事物の1つだが、
そこがまだでカレンが続いて聞いてきた。
「そういえば、あんたのガントレットまだ造ってもらってないの?」
「ゲン爺さんの連絡じゃ、もう少しで完成するんだと。
いつまでかかるんだか・・・」
「職人は精巧さが命っていうし、よっぽど細かくこだわってるんだわね」
「どうだかな」
途中経過の連絡もなく、出来上がるまで待ってろと言うだけだ。
本人の要望もあって、早く造れなんて言えるわけがない。
東北人はやたら職人気質ばかりの様な感じで、気の短さの割に製造は長い。
こちらから催促しても小言が返るだけだろう。
ナントカは細部に宿るとどこかで聞いた気もするがどうでもいい。
持ち前はさておき、自分達の移動はまだかと待っていると
デイビッドが昨日の件について話があると言った。
「ちょっと伝えたい事がある。
前に隊長が助けた怪我人が逃げたらしい」
「逃げた?」
「ああ、医療記録も完治まで終えずに脱出されていた。
医療班が様子を見に来た時にはすでにもぬけの殻、
報告では拠点入口へ堂々と出ていったらしい」
「怪我人紛れに市民振っていたのか。まさか、そいつは・・・」
「よくは分からないが、スパイ活動の臭いがする。
ここ最近も似た感じで用心するに越したことはない。
時間がきたようだ、我々も出発しよう」
「準備完了、行くわよ!」
指示がきて俺達もイワテCNへと向かった。
そういえば、ここ最近何者かの視線をチラチラと感じている。
すぐ近くにいるのは仲間達だけなのに、鋭く異なる観られ方で
ハッキリとしてない中で思う事もあった。
敵のものか、味方のものか、俺でさえ何なのか決められずに。
今回もそんな違和感をぬぐえない。
ただのアドルフを警備する任務のはずなのに、
理由がない不安を感じているのはどうしてなのか。
イワテCN演説会場
「よって、国力の増強こそ唯一の標であり
より強固な団結力をもって、我が東北CNの列足を
一粋歪みなく行使すべきである!」
イワテCNでアドルフの演説は始まった。
けたたましいまでにアドルフの力強い言葉が会場に響く。
市民達も集う会場を警備しながらアンプの強声音に、
ロックは陰険な面をしつつも何気なく会場エリアを巡回している。
「「うるせえくらいにボリューム上げてんな」」
あたかも、俺が支配してやる感みたいな音で御託を並べている。
話では同盟という仕組みがあって東北を統一させたらしい。
ホッカイドウ以外をまとめた功績をここぞとばかりにアンプから発する。
こんな台詞の意味もろくに分かっていない中で、
時たま耳を塞いで精神まで入れ込まないように周囲を歩いてゆく。
一方で離れたビルの屋上に青銀のスナイパーライフルを構えた者が
しゃがみながらスコープを眺めていた。
いるのはレイヴンブリッツのリーダー。
誰にも見られていない位置より、先にはアドルフの姿が映し出されている。
青銀のバレルをブレずにしっかりと狙い定めていた。
「・・・・・・終わりだ」
何のためらいもなく引き金をひいた。
1発の銃声音が町に響き渡り、2秒も経たずに弾丸は
アドルフの頭へ一直線に飛んでいく。そして。
ドシュッ
「・・・・・・」
「!!!???」
ドサッ
一瞬の静寂の後、周辺の者達はすぐに状況を理解する。
東北総司令官は大勢の前で前触れもなく狙撃された。
「うわああああぁぁぁぁぁぁ!!」
アドルフ ロスト
彼の体が地面に接し、大量の赤い体液を流して絶命。
市民達がパニックを起こしている。
護衛及び他の司令官達も顔がひきつって動かない。
銃声音を聴いた周囲の兵達が一斉に警戒態勢に移す。
距離からしてすぐ近くで発砲したらしいが位置を探す途中、
ロックはすぐ後にカレンから連絡がきた。
「なんだ、今の銃声音は!? なにがあった!?」
「「大変よ、アドルフ司令官が!」」
「狙撃・・・このエリアか!!」
何者かに撃たれてロストされたらしい。
あれだけ騒がしかった声がプツッと消えたのはそのせいで、
市民が会場から一斉に逃げ出して人波が見え始める。
銃声音がしたと思われる方角に顔を向けた直後、
すぐ後ろから鉄道兵団のサーナがやってきていた。
こんな時すら状況に惑わされないよう原因特定を探って
銃声音の位置をすでに特定していたのだ。
「あなた達、こっちです!」
「あ、ああ・・・」
鉄道兵団と共にするのは気がすすまなかったが、
そんな身内事を悠長に気にしてる場合ではなかった。
胸騒ぎはいつも起きていたが、総司令官がロストされた事でなく
もっと何か大きな出来事が待ち受けている感じがして仕方ない。
“あってはならない”、会う、遭う、どちらも否応なく近づいて
嫌な、嫌な予感が次第に増大していく。
音がしたという目標の建造物に到着。
ロック達や鉄道兵団に取り囲む中、たった1人だけ残る
レイヴンブリッツのリーダーはまだ静かに佇んでいる。
「「これで1つの終わりをつげたな」」
小言を放つ矢先、サーナが銃を構えて警告。
さらに、横から飛び出した俺は容赦なく殴りかかった。
「そこを動くな!!」
「オラァ!」
ヒュッ ガシャン
リーダーのヘルメットの横をかすめた。
相変わらず身のこなしが速く、カラスの名に劣らずのスピードだ。
だが、それが壊れて破片がぼとぼと地面に落ちる。
サポートも完全に割れて、素性も割れる。
今まで知られていなかった彼の素顔がまざまざとあらわになった。
「あなたは!?」
「あんたが・・・あんたがレイヴンブリッツのリーダーだったの?」
正体はそこに居てはならない男。
だが、現に目の前にいる。
宿敵のカラスは身近にいる人物だったのだ。
認めたくなくも本当の姿で、その名前を無性の心で叫びあげる。
「アキラああああああああああ!」
アキラ「・・・・・・」
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