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1章 東北編

第8話  鴉は光物を好む

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アキタCN拠点 広場

 その後、衛生兵の治療を終えてサラ司令から事情聴取を受け、
第2部隊はアキタCNへ帰還することになった。
メイソンとイザベルはイワテの分隊が済んでいったん解散する。
あの戦闘で怪我をしたものの、十分動けるレベルだ。

「素手でやりあうなんて無茶するわね」
「あいつだけはぶん殴ってやらねーと気が済まない。
 俺だけの話じゃねえんだ・・・かつての」
「ガントレットもまだ作成完了していない。
 無謀なことはしすぎるなよ」
「しばらくは拠点で待機しろってよ、誰か来るらしいぞ」

早くやり返しに行きたいと迫るも足止め。
今は何すれば良いのかと聞くと、隊長はまだ待っていろと言う。
CNの役人関係者が来るらしく、こっちに用があるらしい。
アキラが応対した司令官がまた文句言いに来るかと思いながら、
入口手前で待っていたら、拠点前にに人だかりが見えた。
数人がこの基地に来たようで、皆はそっちの方へ観ている。

「おー、お客さんが来たか」
「!?」

集団はしっかりとこちらに向かって進んでくる。
捉えた視覚に顔が青ざめかけた。

















鉄道兵団だ。
どうして、ここに来たのか。俺を嗅ぎ付けてきたのか?
もしかしてテロリストの件で来たのか。
いずれも、奴らと顔を合わせるわけにはいかない。
リーダーと思われるポニーテールの女が話しかけてきた。

「イワテCN直属鉄道兵団Aチームの隊長を務める、
 サーナ・イングリッドです」
「サラ司令は今、イワテに行ってるっすよ」
「実は今回テロリストの件でうかがいに来ました。
 テロリスト“レイヴンブリッツ”の件でお時間を頂きます」
「昨日の件ですが?」
「ええ、リーダーらしき者と交戦したという方がここにいると聞きまして」
「ロックか」

最悪の状況だ、わざわざ俺を御指名とは。
逃げようと一瞬思ってしまう。
しかし、なぜか足が拒否して動けようともしない。

(なんで、なんで逃げようとしないんだ・・・?)
「・・・ロック、どうした?」
「あなたがロックさんですね?
 いくつかご質問にお答え願います」

サーナは俺の顔をジーッと見つめながら尋問じんもんしてくる。
自分の顔を真正面に向けられない。側にあったイスに座らされ、
身バレされないよう、細かい内容を伝えずに答えていく。

(・・・・・・)

「という事は、リーダーは顔を隠していたので確認できなかったと?」
「あ、ああそうだ・・・」

RBよりも自分の方が気掛かりになりすぎてまともに答えられず。
自分は疑われていない。
こんな状況で意気込みなんて意味もないが、身元がバレたら即捕縛。
余計な口を開かずに黙るしかなかった。
列車での件は一切聞かれずに済んだ。
その他諸々もろもろの質問に答え、サーナは切り上げようとする。

「そうですか・・・今日はこれでおいとまします。
 ありがとうございました」

汗がき出る、腕がふるえる。疑われているわけではないのに。
サーナ率いる鉄道兵団は帰っていった。
が、俺の体は地面にへたり込んでしまう。

ドサッ

「おい、どうした?」
「あんた大丈夫!?」
「怪我が悪化したのが?」

いっそのこと、ここで全てを話してしまうか。
そうしたら俺は即捕縛されてしまうかもしれない。
今、この瞬間何を言おうかと言葉すらもろくに思い浮かばずに
口を開けられない。
そこへマイが予想にもしない事を話し始めた。

「生い立ちはどうであれ、今はこうやって一緒に行動を共にしてるじゃない。
 なら、あたしももう洗いざらい全部話しちゃおうかね~」
「な、なんだよ急に?」









「わたしは元窃盗団だったのよー!」
「!!??」
「な、なんだってー!!??」

なんと、マイも盗賊をしていたのだ。
出生を自ら、しかも堂々と打ち明ける神経に皆は驚き、
周囲の兵達は彼女の顔をマジマジと注目する。

「いや~、最初はスパイで忍び込んだって言いたいけど、
 元のメンバーがみんないなくなっちゃって今に至るの、あははは」
「そんな、堂々と・・・」
「まあ、ヤマガタの司令官が嫌いってのもあるけど、結果オーライならね。
 ほら、あたしも正直に言えたんだから大丈夫よ。
 ロックだってなんか色々とあったんでしょ?
 言っちゃえば?」

彼女がこんな性格だとは思わなかった。
気を緩めたのか、不意をつかれたのか、言い訳も思いつけずに
俺はとうとう観念してしまった。
両手を地面につき、土下座の姿勢で静かに細い声で語る。

「俺も・・・盗賊をやっていた。
 親の顔すら知らずに生きていた。
 1日を食べていくのに精一杯で、故郷のフクシマを追われてから、
 各CNからの雑な扱いでたらい回しに嫌気がさして・・・」
「・・・・・・」

沈黙の空気が流れる、俺は下を向いたまま上は見れない。
こんな自分を許してくれるのだろうか。
そこへカレンがさらっとした声で話し始めた。

「訳ありでここに来ているのはあんただけじゃない。
 わたし達第2だけじゃなく、他の人達も」
「・・・・・・」

訳あり、という言葉は今の俺をつくろうありがたいものかもしれない。
確かに元はこいつらの敵。
そして、しれっと兵団から逃げてたまたま来て受け入れてくれた。
誰1人として自分を拒否する顔をしている者がいない。
他CNの詰まりがここにいるのは皆も同じだったのだ。

「あたしだって色々あったけど、ここに来てからは
 なんだか気心が妙に変わってきちゃって。
 ずっと居ても良いんじゃないかってさ」
「・・・・・・」
「だから、ロックだってきっと変われるはず。
 もうアキタの人間だから同じように馴染める。
 これからもよろしくね」
「・・・・・・」
「よろしく」
「よろしくさ」
「よろしくぅ!」

皆の手が伸びてくる。
これは魔の手ではなく、共にするという手。
俺は・・・そのまま伸ばし返した。1人1人ずつ交わしつつしっかりと。

「みんなで食べに行きましょ! アキラのオゴリでね」
「ちょ、俺のP負担かよ!?」


その後、俺達は近場の飲食店に出向き、今まで以上に飲み食いをした。
時間がどれほど過ぎていたのかすでに忘れているくらいに。
談笑、仕事の愚痴、今まで経験してきた事など様々な会話紛れに
アキラはロックにコップを突き付けて、言葉を発した。

「アキタをこれからもよろしくな」
「ああ」

リーダーのアキラからもよろしくと言われる。


 気がついたら深夜になっていた。
サラ司令はまだ帰ってきていなかったが、メンバー達はすでに就寝している。
俺もベッドに寝そべるが今日の意識は保つ。
時間は2:00くらい経ったか、こんなに布団があったかい
なんて今まで感じた事なんかなかった。
毛布にくるまって寒さをしのいでたあのときじゃない。

ここのCNだけは他と違った。
こんな俺でも親身に接してくれていて、
家族の意味もろくに知らなかったが、返って身に染みる。
今まで、こんな情をもたれた事なんてなかった。
感謝とは違うなにかの感情が。
俺は声がでないように泣き、枕をらしていた。

「・・・・・・」

ロックを見つめる1つの影がドアの隙間に立っていた。
山奥でヌエドリが不気味な声で鳴いている。


1ヶ月後 イワテCN 某所

 それから1ヵ月が過ぎようとしていた。
東北連合は兵力の増強が次第に増していく。
アドルフ司令官による演説がまた行われるらしい。
イワテの外れにあるビルの一室にレイヴンブリッツの
メンバー達が集まっている。

「ようやく完成ですか」
「トラツグミと名付ける、現東北の規格を上回る改良版だ。
 青鈍色に輝くこの光、上々だ」
「天青石とよばれる鉱物のようで、ストロンチウムの分子強度で
 バレルの強化が飛躍的に伸びました。
 サプレッサーは射程距離レンジが落ちるので、装着不可です」
「問題ない、始末後にすぐライオットギアに乗り込む。
 これにより2000mからの狙撃が可能となった。
 演説の時を狙う、お前達は別所で待機していろ」
「狙撃位置はどの辺で?」
「ここの屋上からだ、私の腕ならば十分だ」
「あの忌々しい奴とついにおさらばできますね」
「東北の自由を再び解き放つ時が来た。
 人の根源より、統合の鎖を断ち切る。
 あの忌々しき炎をこの網膜から消し伏せる時も」
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