Condense Nation

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1章 四国編

第1話  水の街

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A.D60年

 この年、四国全土は慢性的まんせいてきな干害にみまわれていた。
炎天下が続き、作物も育たず、干ばつ寸前の川が絶えない。
田園の地はヒビだらけ、蛇口をひねっても水一滴すらでずに
地獄の様な乾きに味わわされていた。

「のどが乾いた・・・」
「なにか飲みたいよぉ・・・」
「この国はもうおしまいじゃあ」

飢えに苦しむ人々が横たわっている。
海からの蒸留水の供給も著しく少なく、順番待ちも限界に近づく。
そんな中、1人の女性が少年にコップ1杯の水を差し出した。

「飲みなさい」

透き通った水で中には氷も入っている。
少年は力尽きかけそうな両手でつかみ取りゴクゴクと飲み干す。

「おいしいいいい、ありがとうおねえちゃん!」

女性は他の市民達にも分け与える。
どこからこんな水をもってきたのか、乗り物でやって来た
ビークルの後ろに貯水タンクが設置されてあり次々と配布する。
突然の出来事に市民達はこぞって湧き上がる。

「ありがたや、ありがたや」
「あんたが・・・女神か」

女性は次々と水を運び続け、次第には四国全土にまで及び
清らかなうるおいと延命をもたらした。
この1人の女性によって四国は救われたのだ。





そして現在、A.D100年 市民街飲食店

「ゴクッ、ゴクッ、プハーッ!」
「トミさん、飲み過ぎだぞ」
「今日の仕事は良い収穫があったわいや。
 仕事の苦労の見返り分、思いっきり飲んだるわ!」

数人のおっさん連中がラボリの後で食事の団らんを過ごしている。
トミとよばれる高齢の隊長の男はアルコール柚子茶を飲み干す。
任務を終えた後、市民街の一時を楽しんでいる。
さらに横にいたモブおっさんが語りかけた。

「タカさん、今日はあんまり飲まんの?」
「アルコールは控えることにしたんだ、最近調子がね」
「お前はまだ50やんか、遠慮すんなや」

光発酵こうはっこうで作られた酒でほろ酔いの一時を味わう。
周りで飲んでいるのは50~60歳ばかりのおっさん連中である。
はたから見ればただの飲んだくれ集団であり、兵隊の一員には見えない。
話の内容も老いを感じさせる事ばかりで哀愁あいしゅうも否定できないものばかりだ。

「ヒロとクローバーはもっと前衛に立てるやろ?
 腰もピンピンしとるがな」
「無茶言わんでくださいや、即ロストしちまいます」
「確かに年を取ったという実感は湧き心地しにくい。
 年をいうなら、あの子が一番だがな。20歳だしな」

ここは一分隊のようで最年少の兵士がいるようだが、
肝心の当人は何してるのかタカがメンバーに問いかける。

「あの子は今日来ないのか?」
「フライヤーの整備をまだやってるそうで。
 女性側が一部しくったとかなんとか」
「内職だけに、責任重視ですぐには逃げられん内輪じゃな。
 こんなじじいどものしゃくする女子おなごなんてあるめえ」

その時、廊下にドタドタと音がして、バンッと扉が開いた。

「おそくなっちゃったー、ごめん!」
「ミズキ、来たか!!」


コウチCN 市民街

ここは四国連合にあるコウチCNの街。
コウチ、エヒメ、カガワ、トクシマの4つの地域で構成され、
あたしたちは各CNの連合チームが複合して成り立っている。
他地方から囲まれるように位置する離れた島だけど、
色々な苦労も越えて今まで生活してこられた。
なんといっても、この四国の特徴は水に関する事ばかり。
水力兵器、水力エネルギー、ウォーターガーデン、水耕栽培など
エコチックでクリーンな物が随所ずいしょにある。
こんなにも水関連の物ばかり発展してきたのは理由があった。

「ミズキは前衛には出せん、唯一の女隊員じゃ!
 かの女神、唯一の救世主はワシらの側におるゥッ!!」
「あーっ、隊長えこひいきしてますわ・・・気持ちは分かりますけど」

トミ隊長が毎回同じ話でそう言う内容に訳がある。
ただ私が女だという事もあるけれど、理由は他にもある。

「お前は“あの人”の娘でもあるからな。
 世継ぎの支えとして俺達が守ってやらないといけない」
「スイレンさんの娘であるお前は、
 ある意味四国の後継ぎでもあるようだな」
「えへへ」

スイレン・アクエリアス。
その人物こそ大干ばつから人々を救った者。
四国の滅亡を克服した偉人であった。
しかし、ある日突然姿を消してしまったのである。

「そして、お前がイキナリここにやって来たから驚いたわ」
「お母さんは死んじゃってね、遺言の通りに
 私がなんとかしないと思って・・・・」

彼女はロストしてしまったという。
四国の地下水域で行方不明になったと報告を受けて、
当時は多くの男達が嘆いた。直前まで行動を共にしていた娘、
ミズキ・アクエリアスは悲しみを乗り越えて、
母の意思を受け入れて生きようと誓った。
雰囲気が重くなり始める・・・かと思いきや、
隊長の声でまた酒の匂いばかりな空気に戻った。

「かーっ、だからワシらが老体でやらなあかん。
 お前ら明日もラボリじゃぞ!」
「もっと若い子配置してくれえ」
のどの渇きも増すな、五万十水もってくる」

ついでに、ここ四国は若年層よりも老年層の割合が大きい。
おっさんばかりのチームはここだけではないのである。
特にトミ分隊は基本、エヒメに所属する古株のチームだが、
四国のあらゆるエリアに回っているちょっとした顔役だった。
ミーティングの終わりがてら、店で一杯やろうなんてのは
もはやどこも恒例となっているのだ。

「ところで、今日の支払いは誰でしたっけ?」
「3日前はヒロだったはずだ。
 順番的に言えば隊長、タカ、俺、ヒロ、ミズキだ」
「話の中心になった途端にこうなるか」
「あ、あたし・・・来たばっかで何も食べてないし」

人は内戦を課せられた。
真っ当に減らしても減らしきれない謎に満ちた法律である。
天主殻の支配以降、四国は真っ先に4つのCNをまとめて固め、
地理的に周囲の危険から守りながら体を存続していた。
干害対策も昔と異なり、すでに万全。
敵影の抗争がチラホラ発生するも、大きな被害には至らない。
ポケット端末の中に通貨を宿して資源を流通させて回す。
そして、度々起こる小さな侵攻から守る日々を続けてゆく。
一同はいつの間にかそんな話題に入っていた。

「それで、なぜか戦争やらされるんだから理不尽な法だな。
 ミズキ、お前は今いくらくらい貯まってるんだ?」
「あたしもほとんど確認してないからなんとも・・・」
「女は知られたくない事がいっぱいあるってモンでしょ!」
「あたしのセリフ、別に恥ずかしいことでもないでしょーよ!
 皆と違って、まだ若いんだから!」

ミズキが顔を赤くして答えた。
老兵は大半、60歳くらいで退役するとされている。
丁度この年を迎えるトミ隊長だが、辞める意思も気配もなし。
意味もない年数システムに誰も懸念けねんするほど思われていない。
仮に先に達したらどうなるのか説明も答えも示されず、
ただ、指示された事しかできない立場なのだ。

「CNっていうても、あんな円盤に従う道理がどこにあるんだか。
 下に降りてくるわけでもなく、ただてるだけだなんてな」
「ばあちゃんに聞いたんだけど、戦闘機ももっといっぱいあったらしく
 ほとんどが無くなっちゃったんだって」
「で、空の偵察を継いだのがミズキだけってのも情けないね」
「どれだけ年をとっても頑張ってるみんなも相当スゴイじゃない。
 兵役年数はある意味“貫禄を示す年数”でもあるでしょ!
 ねートミさん?」
「ズガガー ブモモモ」
「トミさん、もう寝ちゃってる」
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