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1章 中部編

第2話  ナガノの彗少女

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 スティーブがロストした。
5年も共にしていた戦友が資源回収任務であっさりと。
クリア報告があまりにも早すぎて3Dモールの100m反応から
わずかにれて見逃してしまう。
索敵をおこたった故に指示できなかった。
自分の判断不足で彼を失ったのだ。


アイチCN拠点 ロビー

「そうか・・・残念だったな」
「すまなかった・・・」

 自分はジュウゾウ司令官に敵性の件を告げる。
採掘ラボリから帰還、資源を報告。
戦闘を終えたあの後、資源をある程度回収してきたが、
ライオットギア増産への達成はまだ程遠い位置に立たされていた。
ノルマ達成においてまだまだ足りないのが中部CNの現状だ。
必ず満足できる量をいつも確保できるわけではない。
さらに、現場へ採りに行くまでの負担に見合わず、
資源回収と人消費ロストの割が釣り合わないのが苦しい。

「これが歩兵の役割、最も外部に位置する末端としての現実。
 私はお前が戻ってこられただけでも十分だ。
 今日はもう休め、明日は例の所へ行くか」
「あそこか・・・」

爺ちゃんはなぐさめのつもりだろうか、気分晴らしに連れていくらしい。
例の所とは、ここ中部CN各地には模擬戦闘をする場所がある。
というのは、ライオットギアが性能の見込みまで達しているか
試験で戦う施設も造られている。
別に敵対しているわけでなく、中部地方はほぼ同盟国なので
シュミレーション訓練の一貫として行われているのだ。


ナガノCN拠点 工房広場

 当地に着いた2人は観戦席で対戦を眺めていた。
今はここの兵士が別のマニュピレータを装着して
肉弾戦とばかり殴り合っているのが見える。
片方の兵士はずいぶんと小柄な体格で、俊敏しゅんびんな動きだ。
円状に広がる0.046㎢の空間に金属衝突音が伝わってくる。

「ほとんどの闘技場は地下にあるんだね」
「地上だと敵兵に乱入されかねんしな。
 防音も地下の方がたやすく製造できるのだ」

ライオットギアもほとんど人型なので、まるで格闘技の様。
蹴りはおぼつかないが上半身は似た戦闘を繰り広げている。
さすがにタンクで撃ち合う事はできないが、
いずれも長期的な戦いは不可能に近い。

「瞬間決着か」
「・・・・・・」

祖父にスティーブの最後の言葉を教えたわけではなかった。
工作兵とはいえ、瞬間的な判断がこなせなかっただけに
戦況や友の生死が左右される事を隊長は責任がかかるもの。
偶然、彼が発したその台詞に身がよじる。
試合が終わったようだ。選手と関係者達がこちらにやって来た。

「ジュウゾウか、来るなら連絡くらい入れてほしいもんだ」
「そう言うなロビン、今日は一観戦者として見に来た。
 この子に事情があってな、悪く思わんでくれ」

非常に大柄でひげを生やした兵士、ロビン。
ジュウゾウとは古くからの同期で戦友らしい。
さらに横には小柄の少女がいる、さっき試合していた子だ。

「おやおや、お孫さんと一緒ですかい?」
「フィーネ、ちょっとジュウゾウと話があるから向こうで相手してくれ」
「アイアイサー」
「それで七ヶ岳に新たな工房を建設する予定で――」

ロビンとジュウゾウが続けて談話する中からやって来た
この子はヨゼフィーネという。
ロビンの娘であり、ナガノ筆頭の突撃兵でもある。
突撃兵では格闘技の必須項目による軍位扱いしているようで、
普段は内地を活かして輸送隊、ホワイトキャラバンという名の
組織が戦闘以外の時に運搬活動をしている。
機械工業に精通するアイチの物資もナガノCNにかかりつけで、
何度かラボリに共同した事があった。

「そうか、スティーブが・・・」

アルポス山脈での出来事を彼女に話した。
シズオカ兵との合同で起きた近況を報告。
自分の不慮ふりょで仲間をロストさせた事に不服を言われるかと思ったが、
ヨゼフィーネは意外な事を言ってきた。

「そんなに自分を責めても仕方ないぞ。
 完璧に指揮をとれる奴なんていない」
「・・・・・・」
「例えばだ、急に後ろから敵兵反応が3~4つ現れたとしたら、
 お前はなんて伝える?」
「敵数と出現位置」
「じゃあ、その1秒後にさらに5つの反応がバラバラな位置に現れたら?」
「無理、口調で伝えきれない」
「人間、モノには限度がある。
 あたしだって2人の敵兵をいっぺんに処理するのは難しい。
 しかも、そんな短時間の状況ならなおさらな」

彼女は対応する限度について話す。
3Dモールは全兵士に普及できる程の数はなく、
技術的に責任者だけが用いるのを許されている。
確かに例えは極端だが現実的ではある。

「まあ、それでも反射神経を鍛えることで
 そこそこの対応はできるんじゃないか?」
「自分にそれほどの反射神経はない、どうすれば?」
「そうだな、アイチであまりやってない訓練といえば・・・。
 よーし、じゃああたしとライオットギアで対戦しようか!」
「お前と対戦!?」

なんと、彼女が自分に対戦を申し入れてきた。
ルールは砲撃抜きのマニュピレータ戦、腕の操作だけの殴打で
至近距離の判断のみで勝負しろという。
中部CNで最も武闘派といえる相手にテコ入れしてもらう流れに変わった。

「クロムは機体性能に頼りすぎてるんじゃないか?
 確かに機械は強いし正確だけど、入力までには一瞬時間がかかる。
 人はいつも思いがけない動きをする時もある」
「それは否定しない、生身の弱さは当然だから」
「機体だから怪我の心配はないけど、遠慮はしないぞ。
 “お前のため”だからな! 二脚汎用型、2機出してくれ!」
「そ、そうか・・・」

生身でやり合っても分が悪く、男のメンツもある。
ここの機体もアイチ製造が同じだから操作も雑作ぞうさない。
だけど、彼女は自分のために策をつくろってくれた。
こんな心象で満足に動かせられるだろうか、
砲撃を使用しない試合は突然開始する事になる。


1分後

ドガッ

自分はあっさりと彼女にワンパンで倒された。
途中経過の様子などまったく描く間もなく、
同型で同じ性能のはずなのに1発も当てられなかった。

(速すぎて見えなかった・・・)

巨大な腕マニュピレーターという普通の人間よりも大振りの動きすら読めず、
視覚でとらえきれなかったのだ。文字通りまたたの決着。
機体の搭乗部が開いてヨゼフィーネは降りて話す。

「ハッハー、まあこんなもんだ。
 大型だから当然、スピードは落ちるけど、
 肉眼0コンマの世界は伊達ダテじゃないだろ?」
「・・・そうだな」

彼女は現場でナックル系の武器、KDDYを装備している。
ロビンも同様にそれを装備しているので、近接戦闘の親子として
中部CNでは有名だ。伊達に反射神経が良いわけじゃない。
ライオットギアでの対戦でも、同じ結果となる。
分かりきっていたが、自分は反応が遅すぎなのかもしれない。
だからといって突撃兵に変更するわけにはいかないが、
彼女の“対応速度のノウハウ”を少しは理解できた。

「お、お前今ので理解できたつもりか!?」
「そうでもない、ほんの一部だけだ」
「まあ、お前は昔から飲み込みは早いけどなー。
 そんな事で身についたら苦労するわけが――」

発言がてらジュウゾウとロビンが呼び掛けてきた。

「フィーネ、そろそろ御開きにするぞ。次の兵士達がここを使うからな」
「我々も拠点に戻るとしよう。任務予定表も出さねばならん」
「分かった」

自分も帰ったら鉱物解析をしなくてはならない。
今回来た理由はまるでかつ入れのようだ。
祖父がこのために連れてきた真意はよく理解できない。
意味はともかく、無言で入口へ向かおうとすると
別れ際に彼女が声を上げた。

「おい!」
「?」
「後悔は時に壁としてはばかれる事もある。
 精進あるのみ、それだけだぞー!」
「・・・・・・ああ」
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