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二章・私は那月昴
二十五話「何回も告白してる」
しおりを挟む「完璧!」
先生にタトゥーを見られた衝撃ですっかり忘れてたものを書き終わって、窓の隣に貼り付ける。
壁に穴開けていいのかわからなくて、壁用の両面テープを使ったからちょっと心配だけど、まぁ良しとしよう。
実家にいた時も、慶壱の家にお世話になってた時も、一人暮らしをしてた時も。どこにいても貼り付けてた目標。
納得のいく仕上がりじゃないけど、とりあえずこれが暫定で一番上手く書けた。そのうちまた新しく書き直そ。
「先生、今日はそうめんしましょ。そうめん。流しそうめん」
「どうやって?」
「慶壱のくそったれが引越し祝いで流しそうめん機押し付けてきたので、それを使いたくて」
「さんせーい! 俺そうめん大好き」
東さんには聞いてない。私はちゃんと先生って言ったし、先生のこと見てるのになぜ東さんが答える?
「僕もそうめん好き」
「良かったです。じゃあ、材料買ってきますね」
「俺も行く」
東さんの一言であからさまに顔を歪めてしまった、とは思ってる。けど、悪いことをしたつもりはない。
だって、苦手なんだもん。
「美本嫌がってるから、お前は大人しくしてて」
「荷物持ちいた方が知世ちゃん楽でしょ! ほら、早く行こー」
「ちょ、東さん! 押さないでください!」
ほぼ、というか完全に無理矢理先生の部屋から出された。東さんに押されたら、女の私は為す術なんてない。
「そんなに嫌な顔しないでよ」
「別になんとも思ってないので、早く帰りましょう」
「ほら、早く帰りたいってことは嫌ってことじゃん」
初対面から東さんはずっと苦手。その第一印象はこれから先も変わることないんだろうな。
「知世ちゃんは、玄雅のこと好きなんだよね」
ほら、二人きりになったらこの話をされると思ってた。だから避けてたのに。
「だったらなんですか? 東さんに関係ありませんよね」
「口調きつくない? さすがの俺でも傷ついちゃうよ」
だったら、そのムカつく嘘泣きをやめてください。
「玄雅も気づいてると思うよ。知世ちゃんの態度はわかりやすいし」
「……別にいいです」
それは自覚してる。
歴代好きになった人はだいたい私の好意に気づいてた。慶壱も気づいたって言ってたし、先生といる時の私の態度を見た慶壱が相変わらずわかりやすいなんて言ってた。
好意に気づかれることで困ったことはないけど、隣に住んでる私に好かれてる先生ってどんな気持ちなんだろう。それを考えると、少し不安になる。
「もっと楽しく話そうよ。俺はただ知世ちゃんと恋バナしたいだけ」
「私はしたくありません」
東さんをあしらいながら、カゴの中にどんどん食材を入れる。
そうめんだけじゃバランスが良くない。野菜とお肉も食べてほしいから……なんて考えてるものだから、東さんの話なんてほぼ聞いてない。
「玄雅には恋バナできないし、俺、こう見えて担当してる作家さん多いから忙しくて友達にも会えないし、知世ちゃんしか話す人いないの! 俺を助けると思って恋バナしようよ」
「……じゃあ、東さんの恋バナどうぞ」
折れた私が話をふると、東さんはやっと話せると楽しそうに話し始める。やかましいからさっさと話し終わってほしい。
「俺ね、一目惚れした人のこと四年も好きなんだよね。今年で二十六の男が四年も好きって結構一途でしょ」
心の底から興味がなさすぎて、相槌すら打つ気がしない。
「それで、その人を好きになった時はその人他の人と付き合ってたんだよね。別れてからは猛アタックしてるのに、もうぜんっぜんなびいてくれないの。どうしたらいいと思う?」
「チャラいのをどうにかすればいいかと」
「知世ちゃんも茜さんと同じこと言うじゃん。俺のどこがチャラいの?」
茜……さん?
「今なんて……?」
「俺のどこが」
「それより前です」
「茜さんと同じこと言うじゃんってところかな?」
「茜さん?」
「そ、俺の四年間の片想い相手は茜さん。玄雅の元カノね」
驚いてるはずだけど、そんなに衝撃を覚えない。なんでだろうななんて考えてると、慶壱から彼女できたって話聞いた時の方が衝撃だったからという答えにたどり着く。
「茜さんは東さんの好きって気持ちには気づいてるんですか?」
「もちろん。玄雅と別れてから何回も告白してるから知ってる」
「何回……も、告白してるんですか?」
「してる。もう悲しいから回数は忘れることにしてる」
東さん可哀想、という気持ちよりも茜さん可哀想の気持ちの方が強い。
もし、また茜さんに会う機会があったら大変ですねって声をかけたい。
「すみません、買いすぎました」
「今日特売ってのぼり旗出てたから、俺来た方がいいなって思ってたの。知世ちゃんと二人にもなりたかったしね」
後半の話がなければただのいい人なのに。だから、チャラいって思われるんだよきっと。
「こっちは私の部屋に運んでもらっていいですか?」
「りょーかい! 任せてよ」
お客さんが来た時用のお茶と日持ちするお菓子も安かったから大量に買い込んでしまった。軽いけど、かさばるから不服ではあるけれど、東さんを部屋に入れる。
「そこの食器棚の一番下に全部入れてください。私は奥の部屋から先生に借りた資料持ってきます」
「はいはーい」
お願いしたことを文句一つ言わずに全部やってくれる東さん。今まで〇だった好感度が七ぐらいには上がった気がする。
「知世ちゃん、これ何?」
資料を持ってリビングに戻ると、東さんが壁に貼られたものをまじまじと見つめてる。
「目標です」
「ハリネズミが目標?」
私の目標は昔から変わらない。ハリネズミ、それが私の目標。
「なんでもいいじゃないですか、そこにある流しそうめん機持って来てください」
「えぇー気になるから教えてよ」
「早く行きますよ!」
目標はハリネズミ。色んな人に目標がハリネズミって何? って聞かれすぎてもう飽きた。
いいじゃん、私の目標がなんだって。
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