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その33
しおりを挟む心臓がドッドッドッと強く脈打っている。
原因は、隣に座っている首から下だけさえちゃん先生だ。
「がっかりした?」
千歳は首を勢いよく振った。
「あまりの自分の鈍感さに引いてます。」
「何度も本体の状態で会ってるから、ウィッグ外したら分かるかと思ったんだけど。」
「そうですよね、私もそう思います。」
思い込みとはすごい。微塵も気がつかなかった。
確かに、ちゃんと見れば顔の造形は一緒なのだ。キラキラした大きな目、すっとした鼻、薄い唇。
さっき、この唇とキスをしたのか…と思って顔が熱くなる。
「あっ!この手におっぱい揉まれてたんだ!」
「…その件に関しては、本当にすみませんでした。」
深々と頭を下げられると、罪悪感が生まれる。
「いえ、こちらこそ。わがままを聞いてもらってすみませんでした。」
「自分を律することが、どれだけ大切か気づきました。」
苦しそうに顔を歪めていて、相当キツかったんだなと察した。
「そうじゃなかったら、千歳のこと守れなかったし。やっぱり、そこが一番大切だから。」
千歳の胸がギュウっと掴まれた。
何にも考えずに、ただ好きな人といちゃいちゃしたいだけで、育乳なんて言っていた自分が恥ずかしい。
光大の横顔を見て、はっと気づく。
「さえちゃん先生…やっぱりかっこいい。」
「え?」
「なんか、違和感があったんです。光大さんがうちに来る時って、勝手に門が開くんですよね。由美子さんが不在でも。」
光大が手のひらを額に当てた。
「迂闊だった。」
「私も今気づいたんで、問題ないです。さえちゃん先生だったら、鍵持ってますもんね。」
家を入る時も出る時も、母屋からスイッチを押さない限り、鍵が無ければ門は開かない。
「さえちゃん先生と光大さん、二人で私のこと助けてくれてたんですね。ありがとうございます。」
泣きそうな顔で、光大が微笑んだ。
「無事で良かった。」
「そんなに表情豊かだと、さえちゃん先生の時が辛そう。」
「それは鍛錬でどうにかなる。」
「ふうん、そうですか。」
たまに崩れてるけどなぁ、と千歳は心で突っ込んでおいた。
光大に向き合って、じっと瞳を見つめる。真剣な顔をして見つめ返されると、やっぱりさえちゃん先生がそこにいるような気がした。
「私に嫌われた気がしますか。」
光大はフッと相好を崩し、首を振った。
「あまり変わらないみたい。」
「私、さえちゃん先生のことも、光大さんのことも、少しずつ知りたいです。今は、さえちゃん先生の方が大好きだけど、光大さんのことも…同じくらい好きになりそう…」
言っているうちに、顔が熱くなってきた。
つられて光大の顔も赤くなっていく。
「あんまり可愛いこと言うと、やばいから。」
「そうですか。」
「そうです…俺、着替えてくる。」
立ち上がって部屋を出ると、光大は自室に帰って行った。
「可愛いかよ。」
千歳は顔がにやけた。
中身が同じなんだから、外見が変わっても反応は大差ない。
光大の顔をした、さえちゃん先生そのものだった。いや、さえちゃん先生が光大そのものなのだ。
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