上 下
18 / 39

その17

しおりを挟む



さえちゃん先生の視線が、こちらに向く。
「知ってる人に、似てるから。」
「どの辺が?」
「んー…」
じっと見つめるから、千歳の肌が粟立って熱くなる。
「我慢しがちなところ、かな。」
「そんなに我慢してますか。」
ふふっと微かに笑って、そっと額に手が乗った。髪を分けて、指先で撫でられる。
耳の下から首が、ざわざわ甘く震えた。
「ストーカーにつけられてるのに、ネカフェで生きてたって、よっぽどだと思うけど。」
それを言われると申し訳なくなる。
「美月に迷惑かけたくなくて…」
「我慢しすぎると、壊れる。」
髪の生え際を、指がなぞる。
気を抜くと、うっかり声を漏らしてしまいそうだ。
「今回は、優雅に相談して良かった。千歳の身の安全が確保できるまで、側にいるから。」
「…はい、ありがとうございます。」
目尻を人差し指の関節でそっと触れられた。
「女の子の泣き顔って、可愛いよね。」
「えっ?!サディストですか。」
「んー…そうじゃないけど。千歳はまだ子どもだから分からないかも。」
「はあ、でもさえちゃん先生の方がすっごくすっごく可愛いです。」
見ているだけで幸せな気持ちになれる。
「そ、ありがとう。」
目の上を手のひらで覆われて、視界が真っ暗になったを
「もう寝な。深呼吸するといいよ。」
言われるがまま深呼吸をしていたら、冷んやりした手が気持ちよくて、あっという間に眠りに落ちた。


翌朝リビングへ降りると、昨日の夕ご飯を綺麗に盛り付けられたお皿が置いてあった。
『あっためて食べてね 由美子』
ー由美子さん大好き!
千歳は優しさに感謝した。
この家に越して来てから1週間程、居心地が良過ぎて引きこもりになりそうだ。
「ご飯は美味しいし、お家は綺麗だし、みんな優しいし…」
さえちゃん先生がいる。
千歳の胸が高鳴った。
どうしようもなく、ドキドキしてしまう。
見えないのに、ちらりと階段上を覗く。
なぜか、溜息をついてしまう。
「どうしよう、どうしたらいいの。」
レンチンした美味しいご飯を食べながら、美月にメッセージを送る。

『さえちゃん先生に、めっちゃドキドキする。どうしよう。』
一瞬で既読がついて、猫がハート乱舞でもじもじするスタンプが送られてきた。
『それは恋ですな!あんなに可愛い子と一つ屋根の下にいたら、そうなりますわな。』
『でも、女の子だよ。』
『でもドキドキするんでしょ?』
『そうだけど…』
そうだけど、本当にそうだろうか。
『キスしたら分かるのでは?』
『は?無理!セクハラだよ。』
『嫌がられなければ良いの?』
千歳は口の中に入っていた肉巻きポテトを、うまく飲み込めず咳き込んだ。
慌てて水で流し込む。
『想像してみてよ。さえちゃん先生と、ちいがキスするとこ。』
美月の言葉に、カアアッと顔が熱くなる。
既に、想像してしまっていた。
『想像してどうするの。』
『想像できたら、恋愛対象ってことだよ。ストーカーとキスできる?』
『絶対に無理!!』
美味しい唐揚げが不味くなることを言わないで欲しい。
『でしょ?』
『でも、やっぱり女の子だし。』
『男が好きなんじゃない、お前だから好きになったんだ!という名言がありましてね。そういうことですわよ。』
バタン、とドアが閉まる音が聞こえた。
千歳はビクッと体が跳ね、お皿からミートボールが落ちた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

クラスの美少女風紀委員と偶然セフレになってしまった

徒花
恋愛
主人公の男子高校生である「倉部裕樹」が同じクラスの風紀委員である「白石碧」が裏垢を持っていることを偶然知ってしまい、流れでセフレになってそこから少しずつ二人の関係が進展していく話です ノクターンノベルズにも投下した作品となっております ※ この小説は私の調査不足で一部現実との整合性が取れていない設定、描写があります 追記をした時点では修正するのは読者に混乱させてしまう恐れがあり困難であり、また極端に物語が破綻するわけでは無いと判断したため修正を加えておりません 「この世界ではそういうことになっている」と認識して読んでいただけると幸いです

処理中です...