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その17
しおりを挟むさえちゃん先生の視線が、こちらに向く。
「知ってる人に、似てるから。」
「どの辺が?」
「んー…」
じっと見つめるから、千歳の肌が粟立って熱くなる。
「我慢しがちなところ、かな。」
「そんなに我慢してますか。」
ふふっと微かに笑って、そっと額に手が乗った。髪を分けて、指先で撫でられる。
耳の下から首が、ざわざわ甘く震えた。
「ストーカーにつけられてるのに、ネカフェで生きてたって、よっぽどだと思うけど。」
それを言われると申し訳なくなる。
「美月に迷惑かけたくなくて…」
「我慢しすぎると、壊れる。」
髪の生え際を、指がなぞる。
気を抜くと、うっかり声を漏らしてしまいそうだ。
「今回は、優雅に相談して良かった。千歳の身の安全が確保できるまで、側にいるから。」
「…はい、ありがとうございます。」
目尻を人差し指の関節でそっと触れられた。
「女の子の泣き顔って、可愛いよね。」
「えっ?!サディストですか。」
「んー…そうじゃないけど。千歳はまだ子どもだから分からないかも。」
「はあ、でもさえちゃん先生の方がすっごくすっごく可愛いです。」
見ているだけで幸せな気持ちになれる。
「そ、ありがとう。」
目の上を手のひらで覆われて、視界が真っ暗になったを
「もう寝な。深呼吸するといいよ。」
言われるがまま深呼吸をしていたら、冷んやりした手が気持ちよくて、あっという間に眠りに落ちた。
翌朝リビングへ降りると、昨日の夕ご飯を綺麗に盛り付けられたお皿が置いてあった。
『あっためて食べてね 由美子』
ー由美子さん大好き!
千歳は優しさに感謝した。
この家に越して来てから1週間程、居心地が良過ぎて引きこもりになりそうだ。
「ご飯は美味しいし、お家は綺麗だし、みんな優しいし…」
さえちゃん先生がいる。
千歳の胸が高鳴った。
どうしようもなく、ドキドキしてしまう。
見えないのに、ちらりと階段上を覗く。
なぜか、溜息をついてしまう。
「どうしよう、どうしたらいいの。」
レンチンした美味しいご飯を食べながら、美月にメッセージを送る。
『さえちゃん先生に、めっちゃドキドキする。どうしよう。』
一瞬で既読がついて、猫がハート乱舞でもじもじするスタンプが送られてきた。
『それは恋ですな!あんなに可愛い子と一つ屋根の下にいたら、そうなりますわな。』
『でも、女の子だよ。』
『でもドキドキするんでしょ?』
『そうだけど…』
そうだけど、本当にそうだろうか。
『キスしたら分かるのでは?』
『は?無理!セクハラだよ。』
『嫌がられなければ良いの?』
千歳は口の中に入っていた肉巻きポテトを、うまく飲み込めず咳き込んだ。
慌てて水で流し込む。
『想像してみてよ。さえちゃん先生と、ちいがキスするとこ。』
美月の言葉に、カアアッと顔が熱くなる。
既に、想像してしまっていた。
『想像してどうするの。』
『想像できたら、恋愛対象ってことだよ。ストーカーとキスできる?』
『絶対に無理!!』
美味しい唐揚げが不味くなることを言わないで欲しい。
『でしょ?』
『でも、やっぱり女の子だし。』
『男が好きなんじゃない、お前だから好きになったんだ!という名言がありましてね。そういうことですわよ。』
バタン、とドアが閉まる音が聞こえた。
千歳はビクッと体が跳ね、お皿からミートボールが落ちた。
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