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その1
しおりを挟む千歳は疲れていた。
目当ての代行サービスが、探しても見当たらないのだ。
大手SNSにも、口コミ掲載サービスにも、地域募集掲示板にも、どこにもない。今時、そんなことでやっていける事業所があるのだろうか。地元の商店街にある八百屋や魚屋だって、SNSアカウントがあるというのに。
「うう…時代はネット社会だぞ!」
学食で一番安いカレーを食べながら、落ち込む。
「ちい、大丈夫?」
隣に座ったのは、友人の美月である。気立てが良く、優しく、可愛い。
サラサラとした茶色い髪が動くと、シャンプーの香りがしてドキドキする。
「うん、大丈夫。ありがとう。」
「やっぱり、落ち着くまでうちに住みなよ。」
何度も誘ってくれるが、美月を危険には晒せない。
「ありがたいけど、ダメ。美月の家までつけて来たことあったじゃん。危な過ぎるよ…」
「でも、オートロックだし。ネカフェよりは安全だよ。」
そういう問題ではない。
「美月に何かあったら、私が耐えられない。」
「もう、頑固なんだから!私だってちいに何かあったら耐えられないんだからね!」
真剣に怒ってくれる顔が可愛すぎて、千歳の頬が緩む。
「ねえ、胡散臭い何でも屋探してるんだけど…美月知らない?」
「…この前、西くんが話してたやつ?」
「あれって西くんの話だったの?」
「そうだよー!ちい、興味なさそうだったのに、ちゃんと聞いてたんだね。」
聞いていないから困っているのだ。
「そうかー、西くんか。聞いてみるか…」
「えっ、何でも屋さんに頼むほど?!…そうだよね、困ってるよね。何でちいにばっかり酷いこと起きるの?って感じだもん。」
涙腺の弱い美月は、既に涙目になっている。
「おお、私のことで泣きなさんな。美月の清らかな体液がもったいない。」
「なんか言い方が嫌だ。」
—それにしても、西くんか…
「研究室にいるかな…」
「居ると思うよ、逆にいない時を教えて欲しい。」
カレーをかき込んで皿を片付ける。
「ちょっと行ってくる。」
「いってらっしゃーい。」
西くんとは、理系の院生である。なんとも言えない人物で、千歳や美月が所属している文芸サークルにおり、たまに顔を出しては小話を披露して帰っていく。足の速すぎるおばあさん、紫の鏡、のようなよく知られた都市伝説や、町の誰かが体験したような不思議なこと、人間同士の泥沼など。どこから仕入れてくるのか、変な話が多い。
趣味で文章や漫画を描いて同人誌を発行しているので、彼はきっとサークル仲間達のネタになると思って、話をしてくれているのだろう。
千歳は遠く離れた研究棟まで、えっちらおっちら歩いていた。
季節は秋。
学内に植えられた樹木は色づき、黄や赤の葉がゆっくりと舞う。中央の広場からは、あの秋独特の甘い香りが漂っており、千歳の鼻孔をくすぐった。
どうせ西は研究室にこもっているのだから、いつ行っても同じだろう。
千歳はときめく香りに誘われて、広場で少し食休みをすることにした。
サクサクと落ち葉を踏みながら、ちょうど良い位置にあるベンチに座り、空を眺める。真っ青と赤黄色のコントラストが美しく、千歳はうっとりとため息を吐いた。肺にある全てを出し切ると、体が勝手に酸素を取り込み始める。
最近、こんなにゆったりとした時間がなかった。安心してぼんやり出来ることが、とても幸せなことだと思える。
飛行機が細く白い模様を描き、後から柔らかく広がっていった。
一刻も早く、住む場所が見つかれば…
焦燥感に駆られるも、千歳のお腹がきゅるると音を立てた。
辛い思いをしていても、空腹はやってくる。
「はあ…焼き芋食べたいなあ。」
この散らばった落ち葉を集めて焚き火をし、銀紙に包んだサツマイモを焼くのだ。やったことはないが、イメージだけは出来ている。
想像して口が緩んだ瞬間。
「買ってきてあげようか。」
背後から、ゾワゾワと背筋を凍らせ逃げ出したくなる声がした。
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