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38・そして来たる日
しおりを挟むガッチガチに緊張してる。
なんで誕生日を祝う方の私が緊張しなきゃいかんのだね。
おかしくない?
あれから2週間弱、私はただただ準備に追われた。
なんとかパーティー感を出すために、可愛い包装紙で飾りを作ったり、風船を膨らませてみたり、ランチョンマットを縫ってみたり、100円均一で揃いのカトラリーを買ったり、慣れないホスト役を頑張った。
料理のメニューも、専務に希望を聞いて好きなものをたくさん作ったし、ワインに果物を放り込んでみたり、ケーキを焼いたり、クッキーで飾り付けしてみたり、とにかく専務が喜びそうなことを手当たり次第やってみた。
あの人、何でも喜びそうだけどさ。せっかくだから、楽しんでもらいたいじゃん。プレゼントもね、一応ちゃんと考えたんだ。
だから専務とは昼休み以外、全く話してない。ここのところ不機嫌そうだった、仕事はちゃんとしてたけど。
後で報復されそうな気がしてる。
そんなこんなで、当日はやってきた。
玄関のチャイムが鳴り、鷹司一家がやってきた。
「ご招待いただき、ありがとうございます。こちら、よろしければどうぞ。」
専務が深々とお辞儀をしている。しかも菓子折りを私に捧げて。
お誕生日様なのに!
「今日の主役が何やってるんですか!もっとこう、自慢気な感じでいいんですよ!」
「そうですか?」
「そうです。とりあえず、お上りください。あれ、ご両親は?」
「渡辺家集合なので、そのうち来るでしょう。」
「分かりました。」
リビングに通して、ウェルカムドリンクでアイスティを渡し、ソファに座っていてもらう。
二階から足音がして、母と嵐が降りてきた。
「いらっしゃい、鷹司さん!」
嵐はキラキラと瞳を輝かせて、まるで兄かのように慕っている。姉さんは嬉しいような、ちょっとジェラシーのような。
「まあまあ、鷹司さん。お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
母と挨拶をしているので、そのままよろしくお願いして、私は準備を進める。
そろそろ料理を温め始めて、前菜をすぐ出せるようにしたいのだ。
ガチャン、と玄関の開く音がした。これはきっと波琉だな。
グラスと飲み物を取り出しておく。
「やっぴー!波琉様が来たぞーい!」
「おい、お前が主役じゃないぞ。」
後から聞こえた声に、ハッと顔を上げる。
ふかふかの毛並み、いつもの並び、変わらぬ二人。
「たーくん!!」
嵐が一目散に大きな猛獣へ飛びついた。
「おわっ、嵐…子どもか。」
「だって、たーくんが!ずっと来なかったのが悪いんだよ!」
「ほーら、私の言う通りじゃん。」
いたずらっぽい顔をした波琉と目が合う。
キッチンから二人の元へ向かうと、ぎこちなく口角を上げた大河がいた。
「…悪かったな。」
「ううん。」
スッと音もなく専務が隣に立っていて、ギョッとする。
「虎松くん、来てくれて嬉しいです。」
「お誕生日、おめでとうございます。」
まだ少し緊迫感を感じるけど、波琉が割って入ってきた。
「鷹司さん、これ。私と大河から。」
渡された紙袋を受け取り、頭を下げる。
「ありがとうございます。もうすぐ僕の両親も来ますので、是非お2人も紹介させてください。」
「分かった。」
「やった!お仕事に繋げるわよー!」
「なみちゃん、しっかりしてるね。」
来てくれると思ってなかったから、嬉しかった。また、いつもみたいに話せるようになるかな。
「ふふふ、みんな揃って楽しいわね。私も、鷹司さんのご両親にお会いできるの嬉しいわ。もう、結納?みたいな気分ね!」
「気が早い。」
母はワクワクしているが、私はソワソワしているよ。
そこへ、チャイムの音が響いた。
「両親ですね。」
慌てて玄関を開ければ、ニコニコの社長と、落ち着いた様子の美しい女性が並んで立っていた。
「こんにちは、渡辺さん!ご招待くださってありがとう。」
「いえいえ、どうぞお上りください。」
2人をリビングへ通すと、母がすぐに挨拶をしていた。私も、専務のお母様にちゃんと挨拶しないと。
「初めまして、渡辺楽と申します。よろしくお願いします。」
「初めまして、疾風の母でございます。本日は、私どものわがままでお邪魔させていただき、ありがとうございます。」
「こちらこそ、一緒に疾風さんの誕生日をお祝いすることができて、嬉しいです。ゆっくりしていってください。」
専務からももらったのに、ご両親からも手土産をいただいてしまい、大変申し訳ない気持ちだ。
「もう挨拶はいいですから、楽さんの作ってくれたご馳走が食べたいので、早く座ってください。」
「ちょっと、疾風さん!」
「む、僕は今日、お誕生日様ですよ。」
「あはは!そうだね、ごめんね!さ、座らせていただこうか。」
みんなそれぞれ好きな場所に座り、話し出した。
今日は本当に人数が多いなあ。
とっても賑やか。
嵐に飲み物の采配を頼んで、私は前菜をテーブルに運んだ。
「では、みなさんグラスをお持ちください。」
「疾風さん、お誕生日おめでとうございます。」
「おめでとうございます!」
口々にお祝いの言葉が発される。
「ありがとうございます。こんなにたくさんの人から一度に祝われたのは初めてです。」
専務はグラスの中身を一気に煽って、嘴をカタカタと鳴らした。
「前菜はタイのカルパッチョと、シーザーサラダと、シソのブルスケッタです。どうぞ。」
「へー!シソかあ、珍しいねえ!」
社長がひと齧りして、目を見開いた。
あれ?外した?ダメだった?
ハラハラと言葉を待っていると、二口、三口と全て平らげてしまった。
「わあ、初めて食べたけど、とても美味しいよ。疾風が言ってただけあるなあ。」
よ、良かったー!
心の中でホッとしつつ、周りを伺えば、みんなそれぞれ美味しいと言いながら食べ始めていた。
レシピサイト、ありがとう!
専務のお母様も、微笑みながら咀嚼している。うん、大丈夫っぽい。
「楽さん、楽さん。」
専務が私の腕を引く。
「何ですか?お口に合いませんでした?」
「とても美味しいです。楽さんは、座って食べないのですか?」
「あー、次の料理の準備があるので、まだゆっくり出来ないですね。」
この後、炭水化物と肉のオンパレードなのだ。
人数多いから、どんどん出さないと間に合わない。
「そうですか。」
なんだかションボリして見える。
「パーティーの後、ちょっとお時間いただけますか。」
本当はお開きになってから言おうと思ってたんだけど、可哀想に見えてつい言ってしまった。
「もちろん!楽さんの為ならいくらでも。」
途端にパッと顔が変わる。
「じゃ、後で。次は炭水化物とお肉祭りですからね、どんどん食べてくださいね。お誕生日様!」
「はい、楽しみです。」
専務の為に考えたメニューだから、喜んでもらいたい。
私は冷蔵庫から、作っておいたローストビーフを取り出した。
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