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23・嫉妬
しおりを挟む母と嵐の存在により、和やかに食事が終わって、食後の休憩にお茶を振る舞った。
母は最近調子が良いためパートの時間を増やしており、絶対に疲れているであろうに、好奇心が勝っているのか、専務を質問攻めにしていた。
「お母さん、また体調崩すからもう休みなよ。専務も帰るって。」
振り返った母が、少し残念そうな顔をしながらも頷く。
「そうね、分かったわ。鷹司さん、今日はお忙しいところありがとうございました。こんなところでよろしければ、またいらしてくださいね。」
いや、勝手に来てるだけだから、誘ってないから。
専務がカタカタと嘴を鳴らして、ソファから立ち上がる。
「ありがとうございます。今日は昨日のお詫びで来させていただいたので、今度はそういった理由なくお伺いさせてください。」
来る気満々だよ、こいつー!もう、こんな一般家庭でのんびりしてないで、婚約者のところに行きなさいよ。
私は無の表情で専務を追い立てた。
「ほら、行きますよ。もう夜遅いんですから、帰ってください。」
「僕は帰りますけど、彼等は帰らないのですか。」
ゆったりくつろいでいる虎二頭を見て、怪訝そうに言った。
「家族みたいなものですからね。別に帰っても帰らなくてもどっちでもいいです。」
いつも勝手に来て勝手に帰るから、気にしていない。
「そうですよ、専務はどうぞお気をつけて。」
大河が棘のある言い方で専務を帰らせようとする。
おいおいー、いくら怒ってるからって取引先の専務だよ。大丈夫かな、普通に心配。
「そうですか。じゃあ僕はこれで。あ、明日は直行直帰なので、先に渡辺さんに渡しておきたい書類を持って来たんです。車に忘れて来てしまったので、一緒に来てもらってもいいですか。」
「あーはい、分かりました。私も行ってくるね。」
「専務、お気をつけてー!」
嵐と波琉も手を振って送り出した。
うちに駐車場はないため、専務は近くのコインパーキングに停めて来たらしい。
月明かりの下、二人で歩く。
お腹いっぱい食べてしまったから、消化するのに丁度いい。
「渡辺さん、料理がお上手なんですね。」
ん?喧嘩売ってる?
「昨日食べたディナーの方が美味しかったですけど。」
カタ、カタカタ、愉快そうな音が今は嫌味に感じる。
でも、私を見下ろす目が柔らかく月の光を反射していた。
「あれも美味しいですけど、そういうことではないです。家にある食材で、急な増員に見合った料理を作れる臨機応変さと、そしてそれが美味しいこと、ですね。」
「…ありがとうございます。」
そんな褒められ方をしたことがないから、面映ゆい。
駐車場は近いからすぐに着いてしまった。
高級車のそばで専務が運転席を開けて探しているのを待つ。
「うーん…渡辺さん、後部座席を見てもらえますか。」
「ないんですか?」
「いえ、あります。見つからないだけで。」
「それって、ないってことですよね。」
後部座席に乗り込んでみたけれど、それらしきものがない。というか、後部座席には何もなかった。
「専務、何もないですけど。」
ドアが開いて、専務が隣に乗り込んで来た。
ガチャリと鍵が閉まる。
「えっ。」
「すみません、書類はありませんでした。」
「やっぱり、忘れて来たんですね。」
「いえ、最初からないです。」
暗闇の中で、ふわりとした何かが私の手を撫でる。
そして、昨日の夜を思い出す。
甘く痺れたあの感覚を、体の中を埋める質量を、抱きしめられたこの感触を。
「拒否しないんですね。」
パリッとしたスーツ越しに感じる温もりも、昨日と同じ。
「車内で暴れたら、私が怪我をします。」
「…そうですね。」
首に触れる羽毛が上下して、肌が粟立つ。
「んっ。」
思わず甘い吐息が漏れてしまった。
「今日は、渡辺さんのご家族にお会いできて嬉しかったです。手料理もいただいて、みなさんとお話して、楽しかった。」
柔らかな手のひらが、私の頬を撫でる。
「でもですね、虎松さん…大河さんの方ですが、彼は君の何なのですか。」
やわやわと摩る手のひらが少しずつ下がってくる。
体が快感を覚えているから、疼く。
「何って…家族みたいなものですけど。」
「本当にそうでしょうか。彼はそう思ってますか?」
「思ってますよ、ずっと子どもの頃から一緒に育って来たんです。」
「じゃあ、どうして彼は、僕と渡辺さんが一夜を共に過ごしたことを怒っていたんでしょうね。」
羽毛がゆるりと移動して、シャツの中へ入っていく。肌に触れる快感が、下腹部を刺激する。
「んっあ…。大河は、私が連絡しなかったから怒ってただけで…んっ、私と専務のことを怒ってたんじゃない…っあんっ。」
「そんな訳ないでしょう。渡辺さんは残酷ですね。まぁ、僕としてはライバルが減って助かりますが。」
シャツのボタンを外されて、下着の中を羽毛が弄る。
「やあっん…!どうして、残酷なんて…。」
「本当に分からないんですか。僕が今、どうして渡辺さんに触ってるんだと思いますか。」
「あっああっ……したくなったから?」
乳房を下から持ち上げられ、気持ちいいところを避けて揉まれる。
「彼と僕が言い争いをしていた時、渡辺さんが彼の腕を掴んでいたでしょう。すごく嫌でした。それだけじゃない、渡辺さんの家にいるのが当然、隣に立つのも当然、そんな顔してそばにいる彼に心底腹が立ちます。」
「…嫉妬?」
指が乳輪をゆるゆると縁を描くようになぞる。
「んっ…。」
「そうです、彼も僕に同じことを思っていますよ。」
「えっ、大河が?!私に?!」
乳首をぎゅっと強く摘まれて、体が跳ねる。
「ああっ!」
「ええ、そうです。だから僕は、渡辺さんが彼のことを考えるのすら、嫌です。だから、考えられなくさせたい。こうして、僕のことで頭をいっぱいにして欲しい。」
羽毛に刺激されながら、何度も乳首を摘まれ、引っ張られ、乳房を揉みしだかれて、甘美な愉悦が体を駆け巡る。
下着が濡れてしまっているのも、昨日のように快感を与えられて貫かれたいと思ってしまっているのも、止められない。
「ひゃあっ…ああんっ!」
体がガクガクと震えきた。もうすぐで、いける。
「僕に擦り寄ってくるなんて、可愛い人ですね。いいですよ、いって。可愛い声を聞かせて。」
捻るように乳首を引っ張られ、強い快感が頭の中で弾けた。
「あっあっ、いっくうっ…ああっ!」
涙が滲んでぽたりと垂れた。
気持ちのいい羽毛が体を覆い、背中をあやすように撫でる。
「可愛い、可愛い…。お願いだから、彼のところへ行かないで下さい。」
切なくなるような声で、懇願される。
だけど、あなたには婚約者がいるでしょう。
私にそんなことを言って懐柔して、心を委ねても、他へ行くのが決まっている人を、好きになんてならない。
そう思ったのに、言葉に出来なかった。
専務の体を押し返して、乱れた服を整える。
「帰ります。大河のところへ帰るんじゃないです、あそこは私の家ですから。」
「…そうでしたね。すみません、遅くなってしまったので玄関まで送ります。」
そう言うと、専務は運転席へ移動し、車を発進させた。
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