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14・高いご飯は最高
しおりを挟む私は子どもの頃からお金に困ることが多かった。働いている今も節約しているし、ちゃんと嵐を大学卒業させたいし、一般的な物欲もある。なんならお金は常に欲している。
だから、ディナーと言われて、やったあタダ飯だ…と内心喜んでしまった。
でもこれだけは分かって欲しい、私はケチでも守銭奴でもない。
ただ、お金持ちにご馳走してもらえる高級な食事にとても興味があった。
専務の話を聞くのと引き換えに、高級ディナーを食べられるなら、全然聞く。
できることなら、嵐とお母さんにも食べさせてあげたかった。お土産にちょっと持って帰ったりできないだろうか。
いや、できないな。知ってる。
専務の高級車で連れて来られたのは、名前は聞いたことがある外資系高級ホテル。きっと私の一生では来ることがないだろう場所。
専務から支給されたスーツで出社していて良かったと、心から思った。
煌びやかなロビーに目を奪われていると、専務に呼ばれる。
「渡辺さん、行きますよ。」
「あっはい。」
ゴージャスなエレベーターでたどり着いたのは、高層階。夜景の見えるレストランだろうか。現金でごめん、ワクワクしている。
専務の後ろをついて行くと、何メートルかおきにドアがある。
うむ、レストランはどこだ?
突き当たりまで来ると、カードキーでロック解除した専務がドアを開ける。
「どうぞ。」
「どうも。」
廊下の先には、大きな窓から夜景が煌めいている。
「わぁ…きれい。」
部屋には同じ色で統一された、テーブルとチェアの上にはクッションがあり、ゆったりと寛げるようになっている。
「座ってのんびりしていてください。もうすぐディナーが運ばれて来ますから。」
「はい。」
個室か何かかなぁと思って周りを見渡すと、部屋の向こうにベッドが見えてギョッとした。
座らずに固まっていたからか、専務がチェアを引いてくれる。
「…すみません。」
いや、そうだよね。レストランフロアじゃないなぁとは思ってたよ。
ここはもしや。
「専務、ここって…」
「レストランでも良かったんですけど、二人になりたかったのでスイートにしました。」
スイートルーム…やっぱり。
そりゃ、夜景の見えるリビングもあるよね。こういう部屋、テレビで見たことあるもん。
一泊何十万とかするんでしょ。やばすぎる。
チラチラとベッドのある部屋を見ていると、頭上でカタカタと音がした。
「そんなに気になるなら、ディナーの後で連れて行ってあげますよ。」
バッと見上げると、意地悪そうな三日月目がこちらを見ていた。
「…っ!結構です!」
自席のある部屋での事を思い出して、首筋がゾクゾクしてしまった。
部屋のインターホンが鳴り、専務が対応すると、料理の乗ったカートを押して給仕のスタッフさんがやってきた。
「鷹司様、いつもご利用ありがとうございます。」
専務は頷いて、引かれたチェアに座る。
待って、いつも?いつも誰かとここを使ってるの?他の女の人とも、こういうことしてるってことだよね。
うわぁ…お金持ちってすることが違うわ。ちょっと引く。
でも、目の前にどんどん用意される料理を見ていたら、どうでも良くなった。
色とりどりのキラキラした前菜、湯気の立つスープ、サクサクのバゲット、グラスに注がれたスパークリングワイン、高いお肉。
胸が高鳴る。
「渡辺さんのそんな顔、初めて見ました。」
「そうですね。」
「いつもそうやって笑ってたらいいのに。」
専務がイラつかせるからだと思いますよ。あと仕事中は感情に振り回されないように我慢してるし。
「まぁ、心踊ることがあれば、笑います。」
それよりも早く食べたい。
給仕さんが部屋を出て行くと、ウズウズしているのを見抜かれたのか、専務が笑って促した。
「どうぞ召し上がれ。」
「いただきます。」
前菜の生ハムとフレッシュトマトを口に入れると、ジュワッと美味しさが広がる。
ああ、幸せ。 こんなに美味しいもの食べたら、舌が贅沢になってしまう。
カタカタ音をさせながら、専務は優雅にワインを直接、嘴に傾けて飲んでいる。
っていうか、ストロー使わなくても飲めるんかい!
「スパークリングワイン、美味しいですか。」
「はい。渡辺さんもお酒が大丈夫なら、是非どうぞ。」
そっとグラスを持つと、専務がグラスを傾けてきた。乾杯ってこと?オシャレかよ。
同じように自分も傾けてから、口に含む。シュワっと泡が弾けて、トロピカルでスパイシーな香りと、少し苦味を感じた。
思わずため息が出る。
「初めて飲みました…。」
「ご満足いただけて良かったです。」
「何ていうワインですか。」
「ドンペリニヨンですよ。」
スパークリングワインじゃないじゃん!ホストクラブとかで頼むと異様に高いお酒じゃん!最高級シャンパンじゃん!
「急に怖くなってきました。」
「そうですね、渡辺さんの生活だと馴染みがないですよね。」
その言い方!ムカつくー!
本当にこの猛禽男は、私のことが好きなのか?
「たまに出るその言い方、イラッとします。」
「そうですね、知ってます。」
知ってるのに言うって、相当性格悪いぞ。
うっかり眉間にシワがよる。
またカタカタと笑って、お酒を煽る。
「渡辺さんの怒った顔が、好きなんですよね。」
「さっき、笑ってる方が良いって言ったじゃないですか。」
「言いましたね。」
カタカタ、カタカタ、ずっと鳴っている。
そんなに楽しいのだろうか。
私といるから?
「渡辺さん、自分の感情が顔に出てないと思っているでしょう。」
「出さないようにしてます。」
「分かりやすく出てますよ。それがね、良いんです。仕事上はきちんと振舞えてますから安心して下さい。」
ぐぬぬ、悔しい。
「冷めないうちに、お肉も食べてくださいね。」
「言われなくても食べます。」
柔らかいお肉を切って一切れ口に含むと、とろけるような食感、広がる肉汁、ああ美味しい。
イライラも一緒にとろけてどこかへ行ってしまった。
カタカタ、カタカタ。
グラスを傾けながら、ずっと私を見ている。
「僕の分も食べて良いですよ。」
「えっ!じゃあお言葉に甘えて。」
すっごく幸せ。美味しい食べ物って最高。
前菜もスープも平らげて、バゲットもお肉のソースをつけてペロリと食べてしまった。
後は艶やかなフルーツのデザートを残すのみ。
ああ、終わってしまう。
「そんなに喜んでもらえるなら、またご馳走しますから。」
「本当ですか?!」
「お約束しますよ。」
やったー!美味しくて高いご飯!
お酒も少し回って良い気分、幸せ。
というところで、専務の言葉が現実を突きつける。
「渡辺さん、僕と結婚してください。」
ふわふわの指が、私の頬と髪を撫でた。
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